ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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誰がなんと言おうと、私たちは正義の味方だ

 アポロン様のファミリアを崩壊させてからまた数日、色々ごたごたしたものの、僕達は何とか平穏を取り戻し、神様とお茶を飲みながら談笑をしていた。

「まさか、アポロンの拠点(ホーム)を買い取って、スタッフ君達の職場兼宿舎にするとはねぇ。

 確かに、そろそろ関係者の子たちを集められる場所が欲しかった所だけど、こんな形になるとは予想外だったよ」

 苦笑しながら、神様は言う。

 そう、僕はあの後、アポロン様のファミリアの本拠地を買い取り、アルゴ仮面興行の拠点にしたのだ。

 まさかファミリアを崩壊させた張本人に売ってくれるとは思わなかったけれど、元々幾ら神様からぞんざいに扱われても懲りなかったというだけあり、一度気に入った相手を嫌う事も特に無かったようだ。

 それに、殆どの眷属を失った以上、大きな館など最早維持費の無駄でしか無く、更にはヒュアキントスさんの治療費も必要だった為、さっさと売ってしまった方が良いと判断したらしい。

『僕も反省したから今度また付き合ってくれないかい? 次はお互い裏切りの無い関係を築きたいものだね』

 との事だ。本当に、良くも悪くも懲りるという言葉を知らない(ひと)だと思う。

 反省したなどと口では言っているが、どう考えてもアポロン様はまた何か仕掛けてくるだろう。まあ、恨まれるよりはマシだし、対策も立てやすい。今はそれで良しとしておこう。

 それに、近頃は興行の規模もヘルメス・ファミリアの参戦もあって、随分と大きくなっていて、それに伴いスタッフさん達も増えているため、巨大な館を得られたのは大きい。

 

「イシュタル様とアポロン様のところを、僕が崩壊させた以上、路頭に迷う人を迎え入れる為の場所も必要でしたし、丁度良かったんです」

 僕はそう答え、紅茶を飲む。

 そう、崩壊したのはアポロン様のファミリアだけではない。

 先日捕らえたイシュタル様から、色々情報を聞き出したところ、彼女は長いこと闇派閥(イヴィルス)と繋がっていた事が分かり、情状酌量の余地も無しと判断され、最終的には天界送還されることが決まった。

 しかし、団員達は一部を除きほぼ無関係だったので、罪には問われず、普通にファミリアから解放される事になった。

 とまあ、二つのファミリアを潰しておいて、責任を取らないというのは、正義の味方以前に人としてどうかと思うので、望む人はスタッフとして受け入れているのだ。

 尤も、問題を起こされても困るので、神様と軽く面接して貰いつつ、難ありの人に関しては、専用の部屋で隔離して働かせるという形にしている。そこには取り締まり役をガネーシャファミリアなどから都度派遣して貰っているので、大きな問題は起きていない。

 この辺りはリリが色々考えてくれたお陰だ。

「くだらない事で、ベル様の心象を悪くする訳にはいきませんからね」

 とにっこり笑っている。流石頼りになる。

 

「短期間で大事件が重なり自分の頭は少々混乱気味ですが、お陰で春姫殿と再会してご一緒に働けているのは嬉しい限りです。ベル殿、改めて感謝を」

 と、命さんは嬉しそうに微笑みながら、金髪の狐人(ルナール)の女性に目を向ける。彼女こそ、命さんと同郷で幼馴染みのサンジョウノ・春姫さんだ。

 春姫さんは、イシュタルファミリアの元娼婦であり、レベルブーストの効果を持つ特殊な魔法を使うことが出来るため、近いうちに殺生石という禁忌アイテムに魂を入れられ、魔道具にされてしまうところだったらしい。しかもそれは、次の満月の夜に決行される予定だったという。

 危ないところだった。

 港町(メレン)でイシュタル・ファミリアと対面した時、捕らえておいて正解だった。

(わたくし)も、まさか自由になれるとは思いませんでした。

 娼婦へと身を落とした私に、助けられる資格は無いと思っていたのですが……」

 春姫さんは、少し寂しげに呟く。

 彼女は、幼少期より英雄譚を愛読しており、その主人公達に憧れていたのだという。

 しかし、そこに英雄が娼婦を助ける物語はない。英雄譚が好きだからこそ、娼婦たる自分には、救われる価値が無いと考えていたそうだ。

 僕も英雄譚は好きだから、彼女が言う事はよく分かる。

 英雄とは常に綺麗である事を求められるが故に、その物語に汚されたヒロインが登場する事は稀有なのだ。

 少なくとも、童話の類いではほぼ無いと言って良い。しかし、例えそうだとしても、彼女を助けない理由にはならないだろう。

 

「僕は正義の味方ですから。娼婦だとかそんなの関係ありません。苦しんでいる人を見捨てる事なんて出来ませんよ」

 僕は、はっきりと言う。

 僕が志すのは、【正義の味方】であって、【英雄】じゃない。

 仮に誰かを助けることで英雄の資格を失うと言うならば、それならそれで構わない。

 確かに英雄になりたい気持ちはあるけれど、最優先は人々の笑顔を守ることだ。ならば、最初から誰かを切り捨てるような真似を、僕がする訳にはいかない。それだけの話だった。僕の言葉に、春姫さんは涙を流しながら、深く頭を下げた。

「ありがとうございます。こんな私でも、貴方様のお役に立てるよう、誠心誠意お仕えさせて頂きます!」

 と、力強く宣言してくれた。

 彼女はこう言うけど、既にもう十分過ぎる程力になってくれている。

 あらゆる英雄譚を読み込んでいる春姫さんは、脚本作りにとても役立っているのだ。お決まりの展開や台詞回しも熟知していて、僕の演出意図を理解した上で、話の構成を組み立ててくれる。加えて、攫われ役としても適任だ。そして、何よりも彼女の持つ魔法は、非常時において、大きな戦力となるだろう。

 

「最近はオラリオも平和とは言えないみたいだしな。イシュタル様から情報を聞き出したことで、随分闇派閥(イヴィルス)の連中を追い詰めちまったんだろ? いつ、自暴自棄になった奴らが暴れだすかも分からねぇし、戦力はいくらあっても足りねえくらいだな」

 と、ヴェルフは苦笑しながら言った。

 彼が言う通り、今オラリオは安全とは言い切れない状況にある。

 まず、ロキ様いわくオラリオは二つの勢力から脅威に晒されているという。

 一つは、暗黒期と呼ばれる時期にオラリオを恐怖のどん底に陥れたという闇派閥(イヴィルス)の残党達。

 もう一つは、身体に魔石を埋め込まれ、人間と怪物の混合種となった存在、 怪人 (クリーチャー)達。

 更に、彼らと協力しオラリオを破壊せんとする謎の神物、都市の破壊者(エニュオ)なる存在も居るとのことだが、こちらはまだ実在するかも定かでは無い。

 これらの一つである、闇派閥(イヴィルス)の拠点が、イシュタル様から情報や鍵を入手したことで、丸裸同然になってしまった。

 その為、後がなくなった彼らが捨て身で何かしてくる可能性が無いとは断言できない。

 

「街中で事を起こせばベル様の固有結界の餌食ですし、まずあちらからは仕掛けてこないと思いますけどね。先にベル様の暗殺を企てる可能性もありますが、オッタル様やヘグニ様がいらっしゃいますし」

「我が漆黒の刃は、決して友を狩る者を許さぬ。問題ない」

 リリの言葉に、ヘグニさんは力強く答える。

 人見知りの厨二モードでありながら、そう言ってくれるのは嬉しい。

 オッタルさんや、ヘグニさん以外のフレイヤ・ファミリア幹部達も、渋々ながら僕達が不利にならぬように動いてくれている。

 フレイヤ様には振り回される事も多いが、一貫して正義の味方としての僕を応援してくれているのは有り難い。お陰様で、こうして僕達は活動できているのだから。

 

「さて、都市の破壊神(エニュオ)探しは、ロキ様達とこそっと進めておくとして、拠点叩きはもう少し先になりそうなので、僕達は僕達の仕事を続けていきましょう! ふっふっふ……今回はこれです!」

 僕は、じゃじゃーんと効果音を口に出しつつ、投影で衣装チェンジしてみせる。

 

「ベル君!?」

「ベル様!? その格好は……!」

「ベ、べべ、ベル様!? ああ、なんということでしょう……コン……」

 

 皆の反応が凄い。

 春姫さんに至っては顔を真っ赤にして目を逸している。

「あー……まあ、それすりゃファンの奴等は喜ぶだろうが、お前、それでいいのか?」

「幾らベル殿でもそれは相当恥ずかしいと愚考しますが……」

 ヴェルフと命さんが若干引き気味に聞いてくる。

 今の僕の姿は、所謂メイド服と呼ばれるものを身に纏っている。

 フリルのついたスカートに、可愛らしいヘッドドレス。

 ニーソックスにガーターベルト。

 極めつけは、頭に装着したホワイトブリム。……うん、自分でやっておいてなんだけれど、滅茶苦茶恥ずい。

 先日、アイズさんの戦闘衣(バトルクロス)に着替えた時とは比べものにならない羞恥が僕を襲う。

 だけど、やりたいことがあるのだ。大丈夫、多分前世の僕なら悲鳴をあげながらも喜んでいた筈だ。きっと、恐らく、メイビー。

 さあ、行くぞ!

 

 

────────

「さあ、今日は存分に美味しい物を食べてくださいね♪」

 時は過ぎ、とある日の昼下がり。

 オラリオ全体で、正義の味方主導の炊き出しが行われていた。

 メイド姿の少年が、笑顔であちこちを歩き回り、困った顔の人々に料理を配って回っている。

 元より中性的な顔立ちで、兎のような雰囲気を持つ彼に、その衣装が似合わぬ筈もなく、普段の彼を知るオラリオの民達は、そのあまりの可憐さに目を奪われていた。

 

「そんな……私達の妄想が現実に……!」

「嘘だろおい。あの野郎、何考えてんだ!」

「くそっ! 俺達はまたアイツに翻弄させられるのかよ!」

 一部の者達は悔しげに歯噛みしていたが、大半の者は、眼福だと言わんばかりに彼の姿を眺めている。

 中には、鼻血を出して倒れる者もいた。

 奇行とも言えるこの行動は、しかし、多くの人々の心を掴んでいった。

 この頃、ファミリア間の抗争など不安な出来事が続いたこともあり、こういった催しは、人々にとって癒しとなったのだ。

 既に恒例行事となっているヒーローショーではなく、もっと刺激的なことをした方が曇りがかった人々の心には響くのでは? と考えた結果がコレである。

 来る所まで来てしまった感はあるが、これも全ては人々の笑顔の為。

 例えそれが、新たな黒歴史を生み出し続けようとも、ベル・クラネルは歩みを止めないのだ。

 

 そんな彼の姿を、どこか懐かしむような表情を浮かべながら見つめる人物が居た。

 酒場の店員、リュー・リオンだ。

 彼女は、かつてオラリオに存在した正義のファミリアに所属していた団員だった。そして、目の前にいる少年の在り方は、彼女がかつて憧れた団長と酷似していた。

 真っ直ぐな瞳で、己が正義を貫くその姿。淀んだ空気を嫌い、自ら滑稽な道化を演じてでも、人々を笑わせようとするその姿勢。どこまでも純粋な想いを胸に抱いたまま突き進む、その姿。何もかもが、かつての彼女の憧れを体現したもの。

 だからこそ、彼女にはこの光景が眩しく見えた。

 

(何度振り払っても、アリーゼの姿が脳裏に浮かぶ。私にはもう正義を名乗る資格はない。それでも、私は……)

 ベルの行いを目にする度に、彼女の胸は締め付けられるように痛んだ。

 今でも、彼女は何かに駆り立てられるように人助けをする事がある。

 それは、決して正義の行いではない。ただ、自分の中に残る何かを消化しようとする為の、自己満足に過ぎない行為。その筈なのに、ベルを通して彼女の憧憬が垣間みえることで、彼女の中で何かが疼きだす。

 今も誰かを救おうとしてしまう自分に対し、苛立つこともある。

 だが、それ以上に、ベルの姿を見て救われてしまう自分が居ることも確かで……

 

「リューさん、どうしましたか?」

 いつの間にか近くに来ていたベルが、心配そうに声を掛けてくる。

 経験上、彼に負の感情は見抜かれやすい。下手な誤魔化しは通用しないだろう。しかし、この気持ちを言葉にするのは難しい。

 だから、リューは別の言葉を口にすることにした。今自分の頭を悩ませている別件について、話を切り出すことにした。

「ご心配おかけして申し訳ありません。実は今、グランカジノへの潜入を企てているのですが……」

 最近店で自分に相談を持ち掛けてきた夫婦のために、今現在動いている案件。

 本当は、常に忙しくしているベルの力を借りるつもりはなかったのだが、変に心配させてしまったお詫びとして、少しだけ相談してみることにした。

 

「なるほど。まず入場する切符が無いこと、それから上客を演じる為の予算がないんですね?」

「はい、その通りです」

 真剣な面持ちで問いかけるベルに対して、リューはこくりと首肯する。

 本当に、お人好しというべきか、なんと言うべきなのか。

 彼は誰からどのような悩み事を聞かされても、真摯に向き合ってくれる。

 あえて自分の事は棚上げして言うが、ベルの優しさは美徳であると同時に欠点でもあると思う。

 いつか、その優しさが彼を追い詰めないか、とリューは密かに案じていた。

 尤も、彼は人を頼ることも知っているので、抱え込みがちな自分よりは安心して良いのかもしれないが……

 

「それなら、以前救助の依頼で出会った冒険者の方が、賭博エリアのゴールドカードを持っていた筈なので、ちょっとお願いすればなんとかなりますよ。後は、お金の問題ですか……」

「はい、それについては現地で勝ち続けて調達するつもりです」

 そんな知り合いが居るのか、と内心驚きつつも、彼なら誰とでも仲良くなれそうだし、不思議ではないかと思い直して話を進める。

 こうは言えど、実際にそこまで上手くいくとは思っていない。

 賭博とは基本大元が儲かる仕組みになっている。幾ら上手く立ち回って勝とうとしても、限界はあるだろう。

 だが、それを正直に答えてしまうと、彼のポケットマネーが飛び出しかねなかったので、敢えてこう言っておいた。

 

「それなら、僕も連れて行ってください。ステイタスに丁度良い能力があるので、多分負けることはありません」

「……賭博に有利な能力ですか? 聞いた事ありませんが……いえ、失礼。詮索するつもりはありませんでした。しかし、宜しいのですか? このような事に時間を使ってしまって」

 なんと、この少年は自分も付いて行くと言い出したのだ。

 正直この純粋無垢な少年を賭博場に連れて行くのは気が引ける。

 だが、同時に彼の能力とやらに興味も湧いた。

 それに、彼の性格を考えれば、無理矢理止めるよりも一緒に行った方が安全かもしれなかった。

 

「大丈夫ですよ。リューさんの事ですから、きっと誰かの為に行動してるんですよね? 

 でしたら、正義の味方である僕の出番だと思います!」

 ベルの言葉に、リューは思わず苦笑する。

 この少年は、どうしてこうも簡単に人の心を見透かすのだろうか。

 彼にこう言われては、本当に自分にはまだ正義の心が残っているのではないかと錯覚してしまいそうになる。

 そして、それを何処か心地良く感じている自分がいるのもまた事実だった。

 

(不思議だ。彼と話をすると、まるであの頃の私に戻ったかのような気分になる)

 

 この気持ちは、何なのだろうか。

 自分でも分からない。だが、決して悪い気はしない。今はこの奇妙な感覚に身を委ねるのも悪くないのかもしれない。

「分かりました。では、よろしくお願いします」

 もし、自分達の時代に彼が居れば、結末は違ったものになっていたのかもしれない……そんな柄にもないことを考えながら、リューはベルの手を取るのだった。

 




今更ながら、このベル君に発現した発展アビリティ紹介

幸運
 原作通り。全てのご都合展開の元凶。
 これがある限り彼が運ゲーに負けることはない。
投影
 錬鉄可能条件上昇。
 ランクが上がれば、彼の騎士王が振るいし聖剣すらも完璧に投影出来るかもしれない。
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