ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
軍事国家、ラキア王国。
軍神アレスを主神とした国家系ファミリアだ。
兵士、軍人は全て
緑豊かで肥沃な大地を有しているため、本来自ら戦争をする必要性は無いのだが、それでも神アレスは戦争を繰り返し、その敵国を蹂躙することで自らの力を示さんとしている。
正義の味方を志す僕としては、とてもじゃないが相容れない存在だ。
仮に世界が資源に満たされたとしても、この手の存在がいる限り、戦争は無くならないのだろう。
まあ、そもそも世界を資源で満たすというのがまず難しい話なのだが。
だからといって、理想を諦めるつもりも勿論ないけどね。
と、話が逸れてしまったが、何故今ラキア王国の話をしているかといえば、現在進行形で僕たちの住むオラリオに戦争を吹っかけてきているからに他ならない。
過去何度も返り討ちを受け、その度に痛い目に遭っているにもかかわらず、アレス様は全く懲りていないようだ。
「はあ……あの軍神は相変わらずだな。俺がいた頃と何も変わってねぇ」
遥か遠目に見えるラキアの軍勢を双眼鏡(投影品)で見ながら、ヴェルフが呆れきった様子で言う。
そう、何を隠そうあの国はヴェルフの故郷である。
かつてクロッゾ一族の打ち上げる魔剣を乱用し、何処もかしこも焼き付くした。街も村も、森も山も、構わず全て。
結果精霊の怒りを買い、クロッゾの一族はある日を境に魔剣を打てなくなり、貴族として没落した。
そんな中、ヴェルフだけが何故か魔剣を打つことが出来、家族から『魔剣を打て』と呪いのように言われ続けたという訳だ。
「ヴェルフ、ここに来て良かったの? 嫌なこと思い出しちゃうんじゃ……」
ふと心配になり、ヴェルフに尋ねる。ヴェルフ自身は特に気にした様子もなく、肩を竦めて答える。
「気にすんな。思う事が無いと言ったら嘘になるが、以前程じゃない。
それより、お前がひと仕事するってのに、街で大人しくしてられるか。
リリ助達だって同じだ」
と、こちらの仮拠点で各々働いている面子に目を向ける。
リリはフィンさんと指揮系統を回しながら、物資の調達と割り振り。
春姫さんはリリの手伝い。
命さんは、アイズさんやベートさん達と森林で、敵の別働隊を狩っている。
みんないつも、僕が仕事するなら自分もと、率先的に手伝ってくれる。ヴェルフもその筆頭だ。
勿論それは嬉しい事なのだが、僕が働きすぎると、必然的にブラックな勤務体制になってしまうのが悩みどころだ。
いや、解ってるなら抑えろって話なんだけどね。でも、うん……難しそうだ。英雄エミヤの生活スタイルに心底染まっている。待て待て、それにみんなを付き合わせて誰か倒れでもしたら、それこそ正義の味方失格だ。
……うん、ちょっと気をつけよう。エイナさんにも散々注意されてるし。
「うん、ありがとうヴェルフ。それじゃ、弓の邪魔してくる敵がいたら、お願い出来るかな?」
「おう、任せとけ。つっても、主戦場からここまでお前の矢を潜り抜けて来る奴が、あの軍勢にいるとも思えないけどな。如何に不殺縛りと言っても、お前なら殺さずに無力化することなんて造作もないだろ?」
ヴェルフはそう言って、苦笑する。確かにそれはその通りだ。と言うか、だからこそ僕が呼ばれたのだ。
この戦場には、オラリオ二大派閥のロキ・ファミリアもフレイヤ・ファミリアも来ているので、ぶっちゃけ単純な戦力はそれだけで過剰である。
そんな中、僕が呼ばれた理由は幾つかあるが、やはり最も大きな理由は、『殺すな』とのお達しが出ているからだろう。なんでも商人たちが稼ぎの種を減らすなと言っているらしい。
そこへいくと、僕は確かに打って付けだ。酒やら睡眠薬入りの矢を放って爆散させれば、ステイタス低めの相手ならそれで無力化できる。
おまけに【弓道】のアビリティによって、射程が驚異的に伸びている。
あらゆる戦場に、最大射程で矢をばら撒く事が可能だ。
無論、うっかり矢を直撃させて殺してしまうようなヘマなどしない。
「よーし、弓を使うからには、無様な姿なんて見せられないからね。
フッ、覚悟しろ! 私の矢からは誰も逃れられないと知るがいい!」
と、アルゴ仮面を被り、僕はキャラを切り替えていく。やっぱ弓兵と言えばこれだよね! えっ? 流石にその認識は偏りすぎ? いやいや、弓兵と言えばあの赤い外套の弓兵だって!
「……前から思ってたが、お前のそれ見てると謎の懐かしさがあるんだよな。あれか? 前世的なにかか?」
「多分そうじゃない? 前世から僕、割とこんなんだった気がするし」
うーん? とヴェルフと二人で頷きあう。まあこのキャラは前世とかじゃなくて、あくまで弓兵=赤い外套の弓兵っていう英雄エミヤへの妄信から来てるんだけどね。
でもそのキャラが謎にしっくりくるのは前世の名残っぽさ感じるよね。
そのお陰で憧れだった英雄エミヤとの共通点を持てるっていうのは、嬉しいやら恥ずかしいやらなんだけど。
まあいいや。取り敢えず射て、射て、射ちまくれ!
「
無数の矢が投影され、ラキアの軍勢に降り注ぐ。爆散、爆散、爆散!
周囲を満たす睡魔。ラキアの兵士たちはバタバタと、糸が切れたように倒れていく。
「ぐうっ、な、なんだこれは!? 矢から、眠気が……!」
「アレス様! 遥か西方の小丘に陣取る、一騎の弓兵によるものと思われます!」
「馬鹿な!? あの距離からこれほどの矢を!? くそ、対処は出来んのか!?」
「遠すぎます! 最低でも1
「ぐぬぅ! おのれ、おのれぇ……! おのれぇええええええ!」
何処かの英雄王が言ってそうな台詞を聞けた気がする。と、呑気な事を考えつつ、僕は弓を連射していく。
例え射程外へ逃げようとしても、そこは遥か彼方。
1
「こりゃまた、えげつねぇな。名付けて【
「やめて、気が抜けちゃうからやめて」
さりげなく妙な技名を付けようとするヴェルフに、僕は半眼になって呟く。
おかしいな、ヴェルフのネーミングセンスがちょっとあれなのは以前からだけど、こんなに変だったかな?
そんなこんなで、ラキアの軍勢はあっさり壊滅した。これ以上繰り返されても困るので、本隊全員眠らせてアレス様も捕縛。
リリから通信魔道具越しに終戦報告をされ、僕たちも陣取っていた丘から下りる。その際、オラリオ側の方角に何やら人影あり。
目を凝らして見てみると、ラキア軍が装着していた鎧と同じものを着用し、武装している。
「ヴェルフ、あっちに誰かいる。都市への潜入でも企てていたのかな?」
僕が声をかかると、ヴェルフは双眼鏡を取り出してその人影を見る。
「ん? あれは……!」
驚嘆したような声を出し、ヴェルフが双眼鏡を下ろす。
そして彼は、その人影が誰であるかを告げた。
「あれは……俺の親父だ」
───────
「馬鹿な……初日にして終戦だと!? 今までオラリオ側はこちらの撤退を誘うばかりで、まともに相手してはこなかったではないか……」
終戦の狼煙を見上げ、ヴェルフの父であるヴィル・クロッゾは絶望に襲われる。
外にオラリオの主力をおびき寄せ、その隙に別働隊で都市内部に潜入。そして、都市内にいると思わるヴェルフと接触、彼を国に連れて帰り、魔剣を打たせる。
それが、今回の戦争に於けるラキア側本命の目的だった。
しかし、いざ蓋を開けてみればどうだ。一騎の弓兵が殺生することなく、ラキア軍を壊滅に追いやったではないか。
これでは話が違う。時期にオラリオの冒険者達は都市に戻るだろう。
そうなれば、潜り込んだところでヴェルフを連れ出すことは叶わないし、まともに敗戦した以上もう軍事国家としてのラキアは終わりである。
そもそも、彼はまだ知らないがヴェルフは今都市内になどいない。
作戦が成功する可能性など、万が一にもありはしなかった。
「終わりだな。出来れば今のヴェルフの姿を一目だけでも見たかったが……」
そう呟いたのはヴェルフの祖父、ガロン・クロッゾ。彼もまた、ヴィルと同じ目的を持ってオラリオに侵入した。
だが、少々違う想いを抱き始めながら。かつて幼いヴェルフに魔剣を打つことを強要したことを、後悔していた。
自分達が教えた鍛冶師の誇りを、ヴェルフがどれだけ大事としていたか、彼は知っていた。どこまでも武具に対して誠実なヴェルフ。
そんな彼のことを好ましく思っていた。なのに、彼が魔剣を打てると知った途端、ヴィルもガロンも目の色を変えてそれを求めた。
ヴィルから魔剣を求められたヴェルフが、縋るような視線をこちらに送ってきた事を今でも鮮明に思い出せる。そして、自分にまで強請られた際に見せた、ヴェルフの絶望の表情も。
今ならば、ヴェルフが国から抜け出した理由が良く解る。あの時から、自分達はヴェルフの家族であることを放棄したのだ。
せめて、今ヴェルフがどのよう暮らしているのか、一目だけでも見たかった。
だが、最早それは叶わぬ願いだ。ラキアもクロッゾ家ももう終わりだ。
これからの事を考え、ガロンが溜め息を吐いたその時。
「よう、久しぶりだな。親父に
突如背後から声がかかり振り向くと、そこには二人の人物が居た。
一人は白髪の少年、もう一人は赤髪の青年。
忘れようもない、ヴェルフの姿だった。
「ヴェルフ!? お前、何故ここに!?」
予想だにしなかった息子の登場に、ヴィルは思わず叫んでしまう。ガロンも驚愕の表情を露にする。
彼が都市内に居ること前提に計画を進めていたのだから、当然の反応だろう。
ヴェルフは肩を竦め、答える。
「俺の相棒がこの戦争に招集されたんでな。その手伝いさ。
そしたらその相棒が、あんたらの姿見かけたもんだからよ、一応拘束しに来たんだ。万が一オラリオに何かされちゃ困るからな」
隣に立つ白髪の少年を指して、ヴェルフが言う。その声色からは、『俺の相棒すげぇだろ?』という感情が滲みでているように、ガロンには感じられた。良い出会いをしたようだ。少し肩の力が抜ける。
しかし、ヴェルフのこの物言いに、ヴィルが冷静でいられるはずがない。
「ヴェルフ……お前、親に対して何だその口の利き方は! お前が国を抜けたせいで、ラキアでの立場がどれだけ悪くなったか解っているのか!?
いや、最早敗北したラキアなどどうでも良い! 今からでも一族のために魔剣を打て! お前の魔剣さえあれば、何処の国にも売り込める! 一族の栄誉は取り戻せるんだ!」
ヴィルがヴェルフに掴みかかり、唾が飛ぶほどの剣幕で捲し立てる。
そんな父の言葉を聞き、ヴェルフは呆れと怒りを滲ませながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「変わんねぇな、親父。仮にあんたの言う通り、俺が打った魔剣で名を馳せたとしても、そりゃ一過性のものに過ぎないだろ。
クロッゾが何故魔剣を打てなくなったか忘れたのか。無闇に量産して、また自然が焼かれるような事がありゃあ、今度こそ精霊は俺達を見限る。
鍛冶師としてじゃなくて、
あんたのやり方は、もう限界だ」
ヴェルフの言葉に、ヴィルは動揺を隠せない。元よりヴェルフが素直に頷くなどとは思っていないが、語り口がかつてのそれとまるで違う。
ただ鍛冶師としての矜恃や意地で反抗するのではなく、冷静にヴィルの考えが甘いと断じている。
『正義の味方の相棒として』だと? ヴェルフ、お前は一体隣に立つその少年と、どのような経緯で出会ったというのだ? ヴィルの動揺を他所に、白髪の少年がヴェルフの言葉を引き継ぎ、口を開く。
「ヴェルフの言う通りです。クロッゾの魔剣の力は危険すぎる。私利私欲のために量産すれば、必ず何処かでまた精霊の怒りを買うでしょう。
強大な力には、責任が伴う。それを蔑ろにしたらどうなるか、歴史が証明しています。
正義の味方として、ヴェルフという一人の鍛冶師の相棒として、そのような行いを看過するわけにはいきません」
静かに、しかし堂々とそう告げる正義の味方を名乗る少年。
そのあまりにも堂々とした態度に、ヴィルは気圧されてしまう。
彼等の言うことを否定する材料が、何も出てこない。
それでも、認める事など出来はしない。
ヴィルは、最後の悪足掻きとばかりにヴェルフに告げる。
「例えそうだとしても、一時だけでも栄誉は得られる! 先祖代々築いてきた魔剣鍛冶貴族の地位を失えば、クロッゾには何も残らん!
最早長くは続かない栄光だとしても、守らん理由にはならん!」
最早ヤケクソ気味に、ヴィルは叫ぶ。その言葉に、ヴェルフは堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減目を覚ませ! 親父。あんたが求めてたものは、本当に名誉なのか!? 鍛冶師の本腰と真摯な誇りを語ってたのは全部嘘だったのか!?」
「栄誉の前には、鍛冶師の矜恃などなんの価値もない! 所詮武具は消耗品にすぎん! どれだけ誇りを持って剣を打っても、富と地位を得られなければ意味などない!」
「富と地位なんて場所と時代で簡単に変わっちまうだろ! その場その場で最も大事なのは、何かを守りてぇって想いだ! それを、あんたが解らねえ筈はねぇだろ!」
互いに譲らず、睨み合いが続く。先程まで冷静に正論を述べていたヴェルフも、今ではただただ本音をぶつけるのみ。
しかし、最早どちらが正しいかなど関係は無い。ヴェルフ達がヴィル達を拘束しに来ていて、ヴィル達に対抗し得る力は無い。要するに、ヴィルの言い分はもうヴェルフ達には通らない。
「あんたが何を言おうと、俺が何のために剣を打つかはもう決めてんだ! 友のため、ベル・クラネルという正義の味方に対して、相応しき武具を打つ!
魔剣を打ちたくねえとか、成り上がるために打ちたくねぇとか、そんな話じゃねぇ。ただ俺は、ベルの力になりてぇんだ! あんたらの為には打たねぇ! 俺は、俺の友のために打つんだ!」
最後に、彼にとって一番大事なことを告げ、ヴェルフは隣に立つ少年、ベルの肩に手を置く。
それが全て。ヴィルがどれだけ一族の立場や名誉を説いたところで、決してヴェルフが耳を貸すことはない。ヴェルフはもう決めてしまっているのだから。
ベルのために剣を打つ。彼は、生まれて初めて、ヴェルフという一人の鍛冶師を認めてくれた。自分の矜恃や意地を否定せず、真正面から向き合い、ぶつかってきてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか、ヴェルフは言い表せない。
故に、ベルの願いを、正義を貫くために剣を打とうと誓った。それだけは、絶対に譲れない。
決してヴェルフが折れないことをようやく悟ったヴィルは、力無くその場に膝をつく。
「親父、爺、悪いが大人しく拘束されてくれ。何、命まで取られることはないだろうよ。
アレス様は天界送りかもしれねぇが、あんたらはそうはならない。
一人の鍛冶師として、やり直せ。
あんたらには、その力がまだ残ってる筈だ」
ヴェルフのその言葉に、今まで黙っていたガロンがゆっくりと頷きながら口を開く。
「ああ、我々は負けた身だ。大人しく従おう。
だが、これだけは言わせて欲しい。立派になったな、ヴェルフ。
そしてすまなかった。あの時お前の味方をしてやれなかったこと、今更ではあるが謝らせてくれ」
祖父の言葉に、ヴェルフは少し驚いた。今になって、祖父から謝罪などされるとは思っていなかったから。
裏切られたという思いは、決して消えてはいない。
しかし、まだ祖父が自らのことを孫として見てくれていた。それが僅かでも嬉しかったから。ヴェルフがもう良いと告げると、ガロンは立ち上がり、ベルにも頭を下げた。
「ベルと言ったな。ヴェルフに君のような友が出来たこと、嬉しく思う。
これからのもヴェルフのこと、よろしく頼む」
そう言って、ガロンは一礼する。
ベルもまた、祖父の言葉に頷く。
「さあヴィル、気を落としている暇は無いぞ。ヴェルフの言う通り、我々はやり直さねばならない。
お前とて、ヴェルフの言うことに思う事があるのだろう?」
ヴィルは、ガロンの言葉に俯きながら答える。
「父上……はい、決してヴェルフが正しいとまでは言いません。ですが、何処か羨ましく思う自分もあります。
すべて失ったなりに、かつて掲げたものをまた求めてみるのも、良いかもしれません」
そう言って、ヴィルも頭を下げた。
他の兵士達も、Lv.4として知られるベルがいて逆らう気はなく、大人しく拘束を受け入れていた。
わだかまりが消えることなど、決してありはしないだろう。
それでも、一つのケジメは付けられた。ならば、各々自分の人生を歩めるだろう。
こうして、ラキア王国によるヴェルフ奪還作戦は、失敗という形で幕を下ろした。
ベルとヴェルフが、ヴィル達に気付かれずに近寄れた理由
アスフィ作の
他にも、ベルはアスフィと一緒に仕事をする流れで、幾つか彼女作の
因みに、ベルが瞬時に