ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
「しつこいドチビやなー! せやから何度も謝罪しとるやんけ! 金だって払っとる! それにこんな美味いもんまで奢ったんやぞ! どうせ普段はロクなモン食うとらんのやろ!? 感謝こそされど、文句言われる筋合いはないわい!」
「
ミノタウロスを倒した翌日の事である。僕と神様はオラリオ二大派閥の一つ、ロキ・ファミリアの宴に招かれていた。
なんでも、あのミノタウロスはロキ・ファミリアから逃げて上層まで突入してきたらしい。もしあのミノタウロスが被害を出していれば、ロキ・ファミリアの心象にも影響が出ていたことだろう。それを未然に防いだとして、たんまり謝礼金を貰い、遠征の打ち上げにも是非参加して欲しいという誘いを受けたのだ。
そして現在、宴会もたけなわとなり、僕も酒場の料理に舌鼓を打ちながら、ロキ・ファミリア幹部のティオナさんと、英雄譚について語って盛り上がったり、アイズさんに見惚れつつ質問に答えたりしていたのだが、見ないうちに神様とロキ様の喧嘩が始まっていた。
店主のミアさんの視線が鋭くなり始めているため、慌てて止めに入る。
「神様! 迷惑になってますから落ち着いてください!」
「ロキもいい加減にしろ。今回の件は全面的にこちらが悪いと言っただろう」
ロキ・ファミリア副団長のリヴェリアさんも呆れ顔で二人を止める。しかし、神様の怒りは収まらないようで、僕にとんでもないことを言ってきた。
「そうだベル君! ロキに君の料理を見せつけてやってよ! この貧相なマナ板女神に、自分が誰を危険に晒したのか思い知らせてやるんだ!」
「はいぃ!?」
何を言っているんですか神様ぁああ!!?? ここはお店ですよ!? そんなことしたら大変なことに……!! 案の定、ミアさんの目がつり上がる。
「面白いじゃないかい。ボウズ、厨房に立ちな。このあたしを認めさせたら、そこの駄女神達の暴走には目を瞑ってやるよ」
ええぇええっ!!!? 本気ですかミアさん!? どこの馬の骨とも知れぬ男に厨房を任せちゃうんですか!?
「男なら自分の腕で黙らせてみな。見ればわかるさ。あんた、さっきからウチの料理を吟味するように食べているけど、大方技術を盗もうとか思ってるんだろう?」
…………ばれてた。
僕は観念して立ち上がり、調理着を投影して身に纏う。人々が静まり返り、期待に満ちた目線が突き刺さる中、厨房へと立つ。
「あのミア母ちゃんが初対面の客を厨房に入れるなんてなぁ。おもろい坊主やないか」
「よく分かんないけど、兎くんが料理するんだったらあたしも食べるー!」
いつの間にか機嫌が良くなっていたロキ様と、マイペースなティオナさんが楽しげに言う。
他の面々は、興味深そうに僕の一挙手一投足に注目していた。
神様の方を見ると、
「やっちゃえベル君! 君の力を見せてあげるんだ!!」
ウィンクしながら親指を立ててきた。ふっ、任せてください神様! 貴方の眷属が最強でない筈がないでしょう! 正義の味方たるもの、いついかなる時も人々に笑顔を届けなくてはならない。料理もまた同じだ。美味しいものを食べれば人は幸せになる。その幸せを届けるために、僕はここに立っている。だから、ここで退くわけにはいかない。さあ、始めよう。
まずは食材の確認からだ。
野菜類を中心に、肉は牛と豚の赤身と霜降りがある。魚介はエビとホタテ、イカにタコ、貝類も豊富。海鮮丼も作れるくらいの量はある。
調味料も各種取り揃えられており、さすがは大手ファミリアも御用達といったところだろうか。よし、これなら問題ない。
イメージしろ。この場において最も適している最強メニューを。既にこの店『豊穣の女主人』の理念は理解できている。どれだけ残酷でどれだけ醜い世界であろうと、笑顔で酒と食事を楽しむ。それこそが、この店の真髄なのだ。ならば僕もそれに応えよう。
「――――
包丁を投影し、精神統一。
手を抜くな、気を抜くな、元よりベル・クラネルに才などないのだ。全力を以て挑め。全ての食材に感謝せよ。そして敬意を持て。さあ、ここからは時間との勝負だ。
素早く、それでいて丁寧に。決して焦らず、だが迅速に。最高の味を引き出すための最適解を見つけ出せ。さすれば、至高の一品が出来上がるだろう。
そして、数十分後。
テーブルの上に並べられたのは、数々の料理。色とりどりの海鮮と野菜のサラダ。魚介類のダシがよく出たスープ。そしてメインディッシュは、じゃが丸くんに着想を得たジャガバターパスタ。これは、アイズさんに是非食べて欲しかった。
実はこっそり彼女の持つ剣から好みを読み取っていたのだ。彼女は大のじゃが丸くんファンであり、レアな限定フレーバーが出た時は真っ先に買いに行くほどだと、彼女の剣『デスぺレート』が教えてくれた。
まあ、少々そのような私情も混じっているが、それでも、目の前にある料理は全て、最高に美味しく仕上がっているはずだ。
「さあ皆さん! 冷めない内にどうぞ召し上がってください! 僕の作り得る最高の料理です!」
微笑みながら、僕は言った。
皆が料理を口に運び始める。
すると、
「こりゃたまげたわ! なんやこれ!? ホンマにミア母ちゃんが作るものと遜色あらへんやんけ! 一体どうやってんねん!?」
ロキ様が興奮気味に叫ぶ。
「すごい! すごくおいしいよ兎くん!」
ティオナさんは勢いよく口にかきこみ、 アイズさんは無言のまま、しかし目を見開いて感動に打ち震えている。良かった、喜んでもらえたようだ。
「うぅ……ぐすっ……ベル君は最高だよぉ……!」
隣では、神様が感極まって泣き出していた。
「驚いたな。彼は只者ではないとは思っていたが、まさかこれ程の腕を持っていたとは……」
「ああ、私も驚いた。あの若さでこれほどのものを作り上げるとは、末恐ろしい少年だ」
「むぅ……ウチの食堂にもスカウトしたいくらいじゃの」
ロキファミリア三首領が口々に称賛の言葉を投げかけてくる。
他団員からも賞賛の声が上がり、皆が満足してくれたようでホッとする。
「やるじゃないかいボウズ。気に入ったよ。あんた、名前は?」
ミアさんの問いに対し、
「ベル・クラネルといいます。いつか正義の味方になる男です」
堂々と胸を張って答える。僕らは笑顔で握手を交わした。
「いいじゃないか、ベル・クラネル! あんたのその腕で世界でもなんでも救っちまいな!」
こうして、僕の正義の味方への道はまた一歩前進したのだった。