ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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正義の味方の軌跡

「ベル殿、そろそろ泡立て速度を落とした方が宜しいでしょうか?」

「はい。そろそろ大きな泡が出来ちゃいそうですし、ここからは慎重にやった方が良さそうです」

 命さんの言葉に、僕は頷いで返事をした。

 活動休止期間三日目。

 僕は、命さんから頼まれ、ケーキの作り方を彼女に教えていた。

 タケミカヅチ様への神々降臨祝いで、毎年何かしらの贈り物をしている命さん。

 例年は懐事情の問題で、貝殻のネックレスなど、お金のかからない贈り物をしていたらしいが、今年は余裕があるのでもっと豪華で見栄えの良いものを贈りたいらしい。

 しかし、男性のタケミカヅチ様に対して、何を贈ったら良いのかと迷っていた。

 そこで、彼女が得意な料理で贈り物をしようということになり、パーティの主役にもなるケーキを選んだのだ。

 だがこの世界の極東に、ケーキなどという英雄エミヤの故郷で言う洋菓子、この世界で言うオラリオスイーツは存在していない。

 その為作りかたがわからず、僕にお鉢が回ってきたという訳だ。

 命さんとは仕事仲間だし、普段からお互いの得意料理を教え合っている仲だ。こういうことは日常茶飯事である。

 という訳で、僕は今命さんと一緒にケーキ作りに勤しんでいる。

 卵を泡立てる作業が終わり生地を焼き始めると、僕達は一息ついた。

 今日作るケーキは、一般的なスポンジケーキタイプのショートケーキだ。

 初めて作るには難易度高いかもしれないが、器用な命さんなら大丈夫だろう。

 実際、初めてやるであろう卵の共立ても、特に失敗することなく出来た。それも、しっかり湯煎に当てながら丁寧にやっていた。

 目に見えて大きな泡は無く、理想通りのきめ細かい泡が出来ている。

 うん、やっぱり命さんは凄い。

 何をやってもそつなくこなすし、流石だ。生クリームの扱いも恐らく問題ないだろう。

 

「ありがとうございます、ベル殿。甘い物をあまり好まない貴方に、このような事を手伝って貰うのも恐縮ですが」

「あはは、僕自身はあまり食べませんけど、誰かのために作るのは、僕も好きですから。

 それに、タケミカヅチ様には僕もお世話になってますし、贈り物のお手伝いなら喜んでやらせて貰いますよ」

 改めてお礼を言ってくる命さんに、僕は笑って言葉を返す。

 実際、タケミカヅチ様には色々とお世話になっている。

 興行時にの売り子のことは勿論、何より武術の稽古をしてくれるのは本当にありがたい。

 タケミカヅチ様はあらゆる武芸・戦技を極めている武神だ。

 英雄エミヤが扱う武術もまた多様で、どちらかというと東洋武術を基礎にしているため、彼を憧憬としている僕にとって、タケミカヅチ様は目指すべき手本であり、尊敬する師匠の一人だ。今も彼の助言を受けて、自分の剣術の最適化に励んでいる。

 そうして和気あいあいと話しながら、ケーキ作りは無事終わった。

 焼き上がり粗熱も取れたスポンジケーキに、命さんがクリームを塗る。

 やはりと言うべきか、命さん、初めてとは思えない手さばきだ。

 ムラもなく均一に塗られたクリームの上に、命さんは器用に苺を並べた。うん、完成だ。文句なしだ。

「本当にありがとうございます、ベル殿! 早速お届けに行ってきます!」

 出来たケーキを丁寧に箱に入れ、命さんは嬉しそうに頭を下げてから部屋を飛び出していった。

 良かった、きっとタケミカヅチ様、喜んでくれるだろう。

 何故か頭の中で、

「タケミカヅチ様の天然ジゴロー!」

 と叫ぶ命さんの姿が浮かんだが、きっと気のせいだろう。

「さて、僕は僕であれ作らなくちゃ」

 そう呟き、僕はこの後の予定のための調理を始めた。

 

 

 ────────ー

 二時間後。

 僕は、出来上がったそれを持って、ロキ・ファミリアのホームである黄昏の館を訪れていた。

 都市の破壊者(エニュオ)や、ラキア王国との闘いなど、ロキ・ファミリアが手を付けなければならない案件が概ね片付いたため、また近い内に遠征を行う予定のようだ。

 その遠征に、僕も参加して欲しいとフィンさんに言われたのだ。

 理由は三つ。

 一つは、投影により武器を初めとした様々な物資を現場供給出来ること。

 二つは、一つ目と関係があるが、迷宮(ダンジョン)内でもある程度しっかりした調理場を用意して、美味しいご飯を作れること。

 そして三つ目は、弓と飛び道具特効盾(アイアス)で、超長距離戦に対応可能なこと。

 五十層以降には、遥か遠方から砲撃をしてくる、大型のモンスターが出現するらしい。だから、それを何発か防げるだけでも、戦線の維持が随分楽になるとの事だ。

 とまあ、色々な面で能力が遠征向きだから、結構前々から打診されていたのだ。

 前回は、まだ興行を始めたばかりということもあり、事前に特殊な道具だけ用意して、長期的な遠征には参加していなかった。

 しかし今なら二三週間程度の遠征なら、問題なく参加出来る。寧ろ場数を踏むチャンスなので、非常にありがたい。

 そんな訳で、今日は遠征のための打ち合わせと、交流も兼ねて訪れたのだ。門番さんに一礼してから、僕は黄昏の館へと入った。

 応接室でフィンさん達幹部の皆さんと顔合わせを行い、遠征について話を詰める。

 

「ふむ、なるほど。ヘグニ・ラグナールも、君と共に参加してくれるんだね。それは心強い」

「はい。ただ、ヘグニさんの人見知りは酷いので、皆さんと意思の疎通がどれだけ出来るかは分かりませんけど……」

「ンー、確かに戦闘時まで君の通訳が必要では困るが、恐らく問題ないだろう。彼の口調は独特だけど、簡素な内容のやり取りなら、流石に出来るからね」

 そんな事を交わしつつ、打ち合わせはどんどんと進んでいく。打ち合わせとは言っても、基本は情報共有と、参加団員の配置などの確認だ。

 深層への遠征経験がない僕が意見出来る部分も少ないしね。

 概ね一段落した所で、アイズさんが僕の持ってきていた袋に気付いた。

 

「ベル。もしかしてその袋の中、ジャガ丸くん?」

「あっ、はい。ミニサイズで大量に作ってきたので、団員さんたちみんなで分けられると思います。一応、味も幾つか種類ありますけど……」

 アイズさんのジャガ丸くんへの嗅覚に苦笑しながら、僕はそう返した。

 リヴェリアさんが頭を抑え、ガレスさんが呵々と笑う。

「アルゴノゥト君の手作り! やったねアイズ! レフィーヤにも声かけよう!」

「おい、少しは遠慮というものを覚えろティオナ。すまないな、ベル」

 ティオナさんまでテンションを上げ、リヴェリアさんは更に頭痛が増したように頭を抑える。

 無表情でそわそわしているアイズさんと、全力ではしゃぐティオナさんの対比が面白い。

 ベートさんはうるさそうな表情でティオナさんを睨み、ティオネさんは呆れきった表情だ。

 都市最大派閥の一角とはいえ、しっかり家族(ファミリア)っぽさが滲み出ていて、微笑ましくなってくる。

「ハハハ、話は大体終わったしね。中庭で訓練ついでに食べるとしようか。折角だし君もどうだい?」

「訓練……良いんですか?」

「君にはよく助けられているし、差し入れまで貰っているからね。

 それに君が参加してくれれば、団員達にとって良い刺激になるだろう」

 フィンさんの提案に、僕は一も二もなく頷いた。

 オッタルさんやヘグニさんにはよく鍛錬をしてもらっているが、ロキ・ファミリアの人達と訓練をするのは、実の所これが初めてだ。

 是非とも経験しておきたい。

 フィンさんに案内され、中庭で訓練中の団員さんたちに差し入れを配る。

 

「あっ、ベル・クラネル! うう、ぐぬぬ。あ、ありがとうございます……」

「あはは……ゆっくり食べてくださいね?」

 僕の姿を見て真っ先に反応したのは、フィルヴィスさんと訓練していたレフィーヤさんだ。

 悔やむような表情でジャガ丸くんを受け取り、顔を赤くしながらぎこちなくお礼の言葉を言う。

 都市の破壊者(エニュオ)の一件以来、顔を合わせる度にこんな感じだ。以前は対抗心剥き出しで接してくることが多かったのだが、今は思うところがあるようだ。

 あの時僕とレフィーヤさんはそれ程関わらなかったと思うけれど、フィルヴィスさんを救った時、何らかの変化があったのかもしれない。

 そんな事を考えていると、フィルヴィスさんが声をかけてきた。

「【正義の味方】……差し入れ感謝する。レフィーヤも、お前の料理が好きらしいからな」

「へぅ!? そ、そんなことは……い、いえ! その、ありますけど!」

 レフィーヤさんが顔を真っ赤にしてあたふたとし始める。よく分からないけど、好きなら良かった。

 この態度も、何処か安心感がある。

 僕は苦笑しながら、フィルヴィスさんにも差し入れを手渡した。

 

「フィルヴィスさんも、訓練お疲れ様です。身体の調子はどうですか?」

「ああ。特に問題は無い。お前が用意したという鞘は、異常を起こすことなく私の身体に定着している。

 尤もあの馬鹿げた自己修復能力だけは、レフィーヤの魔力無しでは本領を発揮しないようだが」

 自身の胸に手を当てながら、フィルヴィスさんはそう言ってきた。

 レフィーヤさんとフィルヴィスさんの心が真に通じ合ったことで、光を灯した聖剣の鞘。

 元が僕の投影物故に、鞘という形を失っても存在し続けられるかという懸念があったけど、問題なく機能しているようで安心した。

 もしかしたら、世界が、神々がその鞘の存在を認めたから、ということなのかもしれない。

 何はともあれ、彼女達が上手くやっているようでなによりだ。

 フィルヴィスさんは犯した罪が罪なので、本来であればシャバで普通に生きていくことは許されない。

 けれど、デュオニュソス様が都市の破壊者(エニュオ)である事を世間に隠した以上、その眷属とされていた彼女に目に見える形での処罰を与えることは出来なくなった。

 なので、彼女の中に埋まっている鞘が、レフィーヤさんと繋がっているという特性を使い魔的状態とみなし、ギルドの書類上ロキ・ファミリアの所有物とした。

 正直強引すぎる処理だが、彼女に罪を償う意識があることを、複数柱の神が確認しているので、オラリオの安全という観点では、特に反発も起きなかった。

 元々ギルド自体そんなに公平な組織でもないしね……

 正義の味方としては思うところも多々あるけど、取り敢えずそれは置いておこう。

 訓練中の人達にじゃが丸くんを配り終わり、僕も稽古を始める。

 ロキ・ファミリアには、僕と同じLv.4の人達が何人か居る。

 ステイタスのレベルが同じで、僕よりずっと経験を積み重ねている人達に、スキルや魔法無しでどこまで通用出来るか、非常に興味がある。

 模造武器を構えながら、タケミカヅチ様から学んでいる事を思い出す。

 

『ベル、お前は二刀の利点を活かした守りの剣を得意としているな。

 確かに、魔法の特性や弓を駆使し、中・遠の間合いを主体とする者が、自衛のため二刀流を選ぶのはおかしくない。正義の味方として考えても、守りが上手いのは歓迎すべきだろう』

 手合わせをしつつ、タケミカヅチ様はそう語ってくれた。

『だがベル。今のお前の動きは、少々能力適正に合っていない。

 上手く()()()()ことばかりに力を入れ、()()を疎かにしている。持ち前の敏捷(あし)があるというのに、それでは勿体ない。

受けと回避を両立し、時にどちらか片方では捌ききれない攻撃にも、柔軟に対処する。

 それが出来れば、お前の生存力は飛躍的に上がるだろう』

 

 ──敏捷を活かす。その事を指摘されて、僕ははっとさせられた。

 どうやら、僕はまだまだ自分と英雄エミヤの違いを意識しきれていないようだ。

 僕とあの人は違うと、理解はしているし、実際これまでにも色々別のアプローチで僕の戦い方を編み出してきた。

 けれど、細部で彼の真似をしている。決して悪い事ではないだろう。その真似事のお陰で、僕は強くなれたのだから。

 けれど、今ならもう少し自分向きに戦い方を最適化出来る気がする。

 その切っ掛けをくれたタケミカヅチ様に感謝しつつ、僕は訓練に集中した。

 目の前、ロキ・ファミリア幹部候補であるアナキティ・オータムさんが襲いかかってくる。

 彼女は猫人(キャット・ピープル)、僕と同じように敏捷が高い。

 経験豊富で頭も切れ、視野も広い。かけひきで上回るのは難しそうだ。

 だからこそ、今の僕を最適化するにうってつけの相手だろう。

 初撃の突きを、ギリギリで躱し、側面から右側の剣で斬りつける。

 無論、アナキティさんは即座に身体を捻って躱し、そのまま二撃三撃と手首を翻しながら剣を繰り出してくる。

 その動きに一切の無駄はなく、そして速く鋭い。

 二刀を以って守勢に回っても、余裕などはなく、ジリ貧になるだけだ。

 もっと脚を動かせ。受けに甘えるな。受けるのは必要最低限だ。

 今ここで、成長しろ。

 何合も続く剣戟。

 徐々にだが、僕の動きが変わっていく。脚を止めず、縦横無尽に動きつつ、剣を振るう。

 その変化に、アナキティさんは一瞬目を見開くが、即座に対応して自身も更に速く鋭く動き始める。

 互いに一歩も引かず、ひたすらに剣戟が続く。

 長い打ち合いの中、お互いの太刀筋も大方把握し、対応出来てきている。

 これ以上長引けば経験の差が如実に現れ、僕の方が不利になるだろう。

 ならば、勝負をかけるのは今だ。

 そう決意し、僕は行動を開始する。

 

「────ッ!」

 縮地と呼ばれる、古武術の歩法がある。重心移動を効率よく行い、前進する歩法だ。

 一瞬にして最高速に達するその歩法は、実速度以上の体感速度を敵に植え付ける。英雄エミヤも時折使っていた歩法である。

 それを用い、僕は急激に加速する。新しい戦い方も良いが、最後はやはり幼少期より身体に慣れさせてきた技術を使うべきだろう。

 感覚の乖離に一瞬アナキティさんの動きが止まるが、咄嗟に反応した彼女は、僕の攻撃を防ごうと剣を動かす。

 しかし、既に余裕は奪っている。

 剣戟が受け止められた直後、蹴りを繰り出した。

 今の彼女には、これだけでも虚を突かれた一撃となる。

 獣人らしい反応で、アナキティさんは反撃しようとするが、蹴りはフェイクだ。

 彼女が寸止めした脚に気を取られている内に、僕は二刀による同時攻撃を叩み、彼女が握る剣を吹き飛ばした。

 

「────負けたか。Lv.4になったばかりの子に押されてしまうなんてね」

「いえ、初見殺しみたいなものでしたし、基本的な技術は負けていましたよ。凄く良い訓練になりました」

 お互いに礼をし、健闘を称え合う。

 周りで見ていた団員の人達も、どこか熱に浮かされたような様子で、僕らの戦いを眺めていた。

 どうやら、彼等の何かに火をつけてしまったようだ。

 僕の剣も、全てを出せばここまで戦えるという事が解って、僕自身少し驚いている。

 ステイタスとか魔法とか、そういう要素とは関係なく、僕自身の実力はまだまだ伸ばしていけるのだと、少し嬉しくなった。

 正義の味方として、もっと先へと、僕は思いを馳せる。

 

 ──────

 二人の模擬戦を見ていたロキ・ファミリア幹部達は、一様に感嘆の息を吐いた。

 実力自体は、前から認めていた。

 成長速度も解っていたつもりである。

 だが、剣技一つ取っても、ここまで変化しているとは。強力な魔法やスキルを持つ理由が、少し理解できた。

 短期間で剣の型を改造できるほどの努力と研鑽。それを厭わぬ理想への執念。それは、上に行けるものならば少なからず持っている。

 彼等とて、そうして力を手に入れたのだから。

 けれど、そんな彼等からしても、ベル・クラネルのそれは、異常に思えた。

 概念にも近い理想を追い求めてなお、愚直なまでに真っ直ぐ走り続ける。

 それがどれだけ難しいことか、彼等は知っている。そのような道を走りながら笑顔であり続けるのが、どれだけ苦しいことかも。

 

(ベル……君は、どうしてそこまで進み続けられるの?)

 アイズは、ベル・クラネルという少年の理想を想い、そう思わずにはいられなかった。

 自身も復讐のため狂ったように戦い続けてきたが、復讐のために戦うより、理想のために戦い続ける方が難しいのでは、と思わずにはいられない。

 理想を追い求める目の前の少年が見ているもの、見てみたいと思うものを、アイズは知りたかった。

 知っているようで、全く知らない。

 ベル・クラネルという正義の味方を志す少年のことが、以前より解らなくなった気がしたロキ・ファミリア幹部達であった。

 




 随分遅くなってしまい申し訳ございません!
 お読みいただきありがとうございます!
 
 ロキ・ファミリア遠征云々の話を出しましたが、戦力的に原作でまだ情報未開の階層まで行ってしまいそうなので、割愛いたします。
 異端児(ゼノス)編に入ってからでは書きづらい話も、ある程度消化出来たので、次回からいよいよ第三部を始めていこうと思います。
 この第三部を以って、本編完結の予定なので、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
 それではまた!
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