ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
「……何だこのグループは」
ギルド地下のとある一室で、ローブを羽織った
彼、又は彼女の名前は
自身の主神に賢者の石を破壊され失意に沈んだ彼は、その後不死の秘宝を編み出したが、その結果肉と皮が腐り落ち、骸骨姿となってしまった。
そんな彼(彼女)は今、ギルドの主神であるウラノスに仕え、表沙汰には出来ない仕事を受け持っている。
今回も、ウラノスから密命を受けベル達の様子を使い魔を通して監視していたのだが、直前に立てた予定ガン無視で茶番を始めたにも関わらず、誰も文句一つ言わずに参加している光景に、思わず驚嘆していた。
理由は解る。ウィーネの心を慮っての行動で、そんな心優しい少年を皆慕って集まっているのだろう。
正義の味方などという馬鹿げたものを志す位だ。相当なお人好しか、あるいは心底愚かなのは確かなようだが。それにしても、当然のように
この光景だけ見ていると、人間と
しかし、早朝にベルが発した言葉からは、確かな信念が感じられた。
自分がどれだけ大きな爆弾を抱えているか理解した上で、それでも守りたい。否、
理想への執心とも言える位、頑なな意思だ。不安が無い訳では無いはず。その危険を全て受け入れている訳でもない。それでも、己が理想に反する選択は最初から思い浮かばない。
矛盾の塊だ。危ういが、酷く純粋で一途な信念だ。
きっと、最後まで見捨てるという選択を取ることはできないのだろう。
……決め付けるにはまだ早いか。
「まだ初日だ。彼が真に怪物達のために動けるか、しばらく様子を見てからでも遅くはない」
そう結論付け、引き続き長期的に監視するべく、使い魔と通信中の
数時間後、見られている事に気付いたベルがフレイヤに連絡を取った事で、眼晶越しに魅了される事を彼(彼女)はまだ知らない。
「ふふ、あの子ったら私を動かそうだなんて意外といじわるな子ね。まあ、代わりに私の手料理を食べてくれるみたいだから良いけれど」
そう、いい笑顔で言い放ったフレイヤに戦慄したのは別の話だ。
何故手料理を食べる事が対価になるのか、コレガワカラナイ。
ただ確かなのは、この場にいない少年を憐れむような様子で顔をしかめる
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午後、僕とヘグニさんは予定通り……と言うには遅くなってしまったが、
ヘグニさんは勿論の事、ぶっちゃけ僕一人でも問題は無かった。
しかし、未知を探るのなら、出来る限り安全マージンを取っておいて損はない。
それに、懸念もあった。
「ベル……少し剣が鈍ってるな……やっぱり、ウィーネのことが気になる……?」
アルミラージの群れを屠りながらボソッと呟くヘグニさんに、僕は苦笑気味に頷いた。
僅かに、自分でも自覚はあった。
目の前の
本当はウィーネのように知性があるのではないか。
その認識が、一瞬の
……実際の所、仮にそうだとしたら対面した時点で恐らく判別はつく。
ウィーネからは、普通の
まだ他の例を知らないから断言は出来ないが、それでも本能のままに襲いかかる者と、知性をもって理知的に振る舞う者の違いを間違えるようでは、冒険者も正義の味方もやっていけないだろう。
ただ、絶対とは断言できない故の不安、躊躇いが僕の剣の冴えを曇らせていた。
「迷っていると言うよりは、間違いが無いか都度確認してるから、攻撃に入るのがワンテンポ遅れる感じか……
俺はフレイヤ様の為だったら、例え相手が何者だろうと殺すけど、ベルはそうじゃないもんな……正義の味方っていうのも難しいな……」
外套のフードからちょこんっと顔を出しながら、ヘグニさんが呟く。
いや、何十年も生きている男の人にこの表現はおかしいのかもしれないけど、でもなんかそういう表現が一番しっくりくる……
アイズさん以上に人見知りだからか、どうしても可愛い感じが先に立っちゃうんだよね。
何処かからお前が言うなとか聞こえそうだけど、今はそれは置いておく。
「はい、でも大丈夫です。正義の味方を張る以上、何が敵かすら分からない中での戦いなんて幾らでも起こっちゃいますから。
間違える可能性なんて最初から考えてたら、何も行動できなくなる。
いざって時には躊躇いません」
そうだ、何も変わっちゃいない。
敵とか味方とか、善とか悪とか、元々ふわふわした概念だ。
そんなもので戦う相手が決まるなら、誰も苦労なんてしない。
英雄譚のように単純明快な正義なんて存在しない。
僕が憧れた英雄は、善も悪もない。複雑怪奇な人々の思惑が絡まり合う中で、それでも正義の味方を張り続ける人だった。
そうでなければ、僕はここまで憧憬を抱かなかったかもしれない。
だから、この程度の事で立ち止る訳には行かない。
不安で多少剣が鈍っていようと関係ない。それ以上の力を振り絞るだけなのだから。
「そうだな……何も分らなくても、何かに迷っても、身体だけは動くのがベルだからな……その点は特に心配してないよ。
でも、考えることが多い中での戦闘は純粋に危険だ。早めに情報を得たいところだけど……特に異常は無いんだよな……」
ヘグニさんが顎に手を当てながらそう呟く。
何の変哲もありはしない。
「うーん、そろそろここは引き返しますか」
「でも、他に当てもないしな……フレイヤ様達に対応をお願いしてたストーカーが何か情報を持っているのを期待して手ぶらで帰るのも何だし……何か、見落としてるものがあるかな……」
当て……見落とし……か。
「「あ」」
同時に気付いた。何故忘れてしまっていたのか。
実は少し前、ロキ・ファミリアの遠征に参加した時、不思議な出来事に遭遇したのだ。
それは帰り際、階層が浅くなって来て、あまり厳格な集団行動がいらなくなった辺りでの出来事だ。
水の迷都と呼ばれる階層、二十五階層を歩んでいた時、その綺麗な景色に心を癒されながら歩いていると、僕はとち狂ったことを考えてしまう。
こんな綺麗な場所で釣りなんかしたら、絶対楽しいだろうなぁ……と。
全くもって意味不明である。そこは
およそ正気とは思えない思考だが、実際出来なくはない。
LV.4の僕が、投影した釣り竿に全力で魔力を込めれば、下層の
釣り上げた
フィンさんも苦笑しつつ許可を出してくれたので、一度試してみたのだが……これが想像以上に楽しかった。
「レイダ―フィッシュ、フィーッシュ!! フィッシュ!! フィ──―ッシュ!!!」
憧憬になりきり、僕はロッドを振る。
次々釣り上げられる、様々な種類の
冒険者の手により、それらは即座に斬り裂かれ魔石を残して消えていく。
酷い絵面だ。しかし、ある意味効率のいい狩りなので、止められはしなかった。
やがて、一頻り楽しんだ後……事が起こった。
目に映ったのは、遥か先から拍手している
目が合った途端、ハッとしたように水中へと潜る。
あの時は何かの間違いかと思ったが、今思えばあの
もう一度彼女に会えば、何か情報を引き出せるかもしれない。
「でも、どうやって接触するんだ……? この前の様子だと、あの
「これを使います」
僕は、とある
「それは……確か映像通信ってやつの
僕が取り出したのは、英雄エミヤの故郷の技術を参考にアスフィさんが作った
音声だけでなく、映像も送受信できる優れたマジックアイテムで、小型化にも成功している。
これをバカ長いロッドに取り付け、水中を捜索しようと言うわけだ。
二十五階層も広く、水辺は滝を通して二十七階層まで繋がっているため、今日中に見られる可能性は低い。
だが、当てもなく探すよりは、遥かにマシだろう。
「試運転した限りだと、上手くいきました。流石アスフィさんですよね。
……という訳で、早速行きましょう」
今から二十五階層へ向かっていたら、本当に少し試す位の時間しか無い。
でも思い立ったが吉日、やるだけやってしまおう。
そう上手く行くとは思えないけど、試すだけならタダだし。
と、そんな風に考えている時こそ、僕の
二十五階層に到着し、軽い気持ちで
そう、あの時僕たちに向かって拍手し、顔を少し覗かせた
思わず僕は目を見開き、ヘグニさんと顔を見合わせる。
あはは、凄いな……ここまでドンピシャだ。
普通ならあり得ない偶然だろう。ある意味、運命的な何かすら感じる。
実際、この時の僕は確かに、それを感じずにはいられなかった。
どうしたって、知性を持つ
そうを感じずにはいられなかったのだ。後から知った話だが、ほぼ同時刻に地上組も僕たちを使い魔越しに監視していた存在から、情報を聞き出していたと言うのだから尚更だ。
まあ、何はともあれ……これが僕の宿命だと言うのなら、応えるのみである。
「もしもし、
笑顔を作り、鏡に向かって話しかける僕。
相手も一瞬驚嘆に目を見開いていたが、すぐにその相好を崩した。
好意的に接してくれるようであり、内心僕は安堵する。
いよいよ本格的に始まる、ウィーネ達知性を持つ怪物との物語。
それは理想への道か、地獄への切符か。
ただ一つ間違いなく言えるのは、僕が諦めることなど無いという事。
笑いながら
さあ、いつか僕が叫んだ答えが、僕に貫けるか確かめよう。