ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
ウラノス様が投票による方針決定を示した後、僕達は一旦ヘスティア・ファミリアの
通信魔道具を再び発動させ、リドさん達
「いやー、マジでびっくりしたぜ。開き直ってオレっち達の存在も、自分の想いも全部ぶちまけちまうなんてよ。
良かったのか? あれでベルっち達、同胞から随分嫌われたんじゃないか?」
リドさんが、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちの両方を顔に出しながら、僕に尋ねた。
いざというときは表立って
「あはは、確かに大多数から非難されてしまいましたけど、それでも僕たちの言葉に耳を動かしてくれる人は少なからずいましたから。
これからの頑張り次第で、きっと変わるはずですよ」
そう言って僕は、リドさん達に笑いかける。
上手く行かなかったとしても、あの行動を後悔する事は無いだろう。
だけど、ただの自己犠牲で終らせるつもりも毛頭ない。
それでは誰も笑顔になんかなれない、それでは憧憬に胸を張って顔向けできない。
結局こうなってしまった、だなんて思わせるものか。
折角一筋の希望の光をもぎ取ったんだ、あとはひたすら頑張るしかない。
僕が笑顔なのを見て、リドさんも目を細め、笑顔を見せる。
「ならオレっち達も頑張んなきゃな! オレっち達の人間からの評判が、これからはベルっち達の評判に直結するんだろ? お前ら、やってやろうぜ!!」
リドさんの言葉に、共にいた
通話越しでもビリビリと震えるその声に、自然と気分が高揚してくる。
新たな一歩を踏み出すのは、いつだって高揚感に満ちているものだ。
「
ヴェルフが苦笑を一つこぼし、そう言った。
そういえば、昼間彼らの住処に訪ねた時点では、
今ではすっかり気を許している気がする。
「同胞ト対立シテマデ庇ワレテシマッタンダ、一蓮托生ノ状況トナッタ以上警戒シタトコロデ意味ハナイダロウ」
「……って感じでこいつらもベルっちの行動が嬉しかったみたいだぜ」
「黙レ、誰ガ嬉シガッタ!」
「グロスはうれしくなかった……? ベルのこときらい?」
「ムッ、ソンナ事ハ無イガ……」
リドさんの言葉に、グロスさんが怒気をはらんだ声を出す。
ウィーネに悲しそうに尋ねられれば、途端にトーンダウンした。
なるほどツンデレなのか。
「あはは、
神様もしみじみとした様子で頷いている。
取り合えずウィーネが可愛がられているようで何よりだ。
話が脱線しかけたところで、リリがコホンと咳払いして注目を集めた。
「さて、具体的に何をしていくか、です。
ベル様が名声を投げ打ったことで生じる問題は多々あります。
今までのような興行収入が望めない。しかし、現在行っている貧困者への支援活動を急に縮小する訳にもいきません。
その不足分を、
真剣みを帯びたリリの言葉に、皆が一様に頷く。
地道ながら、これなくして最高の結果を得ようとするのは到底不可能だろう。
僕が
負債を最小限に抑えるためにも、
リドさん達も異論はないようで、皆協力的に頷いている。
「よし、その活動内容について、まず考えを纏めましょう!」
こうして、僕達は夜遅くまで話し合いを続けたのだった。
────────────ー
翌日、ロキ・ファミリアの
その食堂は、朝から喧噪に包まれていた。理由はやはり
人と手を取り合おうとする怪物など、そう簡単に受け入れられる話ではない。
団員たちの多くが、大小差はあれど怪物に恨みを抱いている。
怪物は敵、怪物は悪、怪物は災厄。
そんな世界で生きてきた彼等が、そう簡単に
如何に、彼等と親交のあるベル・クラネルが
寧ろ、「裏切られた」という憎悪を抱き始める者すら出ている程だった。
「俺の家族を奪った怪物どもに、協力なんて出来るわけがない!」
「私も……認めたくないわ。だけど、あんな悲痛とも言えるような叫びを聞かされては……」
しかし、揺れ動く者も少なくはなかった。
通信越しとはいえ、その耳で知性を持つ怪物達の声を聞いてしまった。
ベルが彼等を守りたいと思うのも、納得してしまった。
共存とまではいかなくても、態々殺さなくてもいいのではないか? そんな想いが芽生えるのも無理のない事。
様々な思いが錯綜する中、団長であるフィンが示した方針は……
「ファミリアとしては、殲滅派よりのスタンスを堅持する。
ただでさえ、ベル・クラネルが
そんな中、オラリオ二大派閥の一角とされる
フィンの言葉に、動揺は少なかった。
皆、自身が所属しているこのファミリアの立場を理解している。
【
故に民衆からの信望は厚く、それだけの権力を有している。
もう片方の二大派閥であるフレイヤ・ファミリアの団員たちがベル側、或いは静観の立場を示すことが予想される以上、せめて自分達は殲滅派の想いを代弁する存在でいなければならない。
それが、ロキ・ファミリアの団長として、【
故にその答えに異論を挟む者は無い。しかし、
そんな団員たちの複雑な想いのことも見越して、フィンは続ける。
「ただし、各々どちらに投票するかは自由だ。匿名だそうだし、立場に縛られず己が思う方に投票して欲しい。
また、共存派の活動への支援も、目立つ行動さえしなければ不問とする。
ファミリアとしては共存派を否定せざるを得ないが、君達の想いまで否定しようとは思わないからね」
意外とも言える、団長の言葉に団員達は目を丸くした。
投票の自由はまあ、そうでなければ匿名の意味が無くなってしまうので当然の措置だろう。
しかし、活動支援の不問には、彼等も驚いた。
目立たぬようにとは言っても、隠れてやれとは言っていない。
大々的にロキ・ファミリアの団員として共存派を謳うような真似さえしなければ、後は好きにしていいとの事。
ファミリアの立場を言及していた割には、随分緩い処置だ。
意外に思いながらも、
改めて自分はどうするか。そう、自問自答をする団員達。
結局のところ、皆まだ心の整理が終わっていないのだ。
ファミリア全体としての方針と、ある程度の自由。それらが示され、先の見えぬ話し合いは続いたのだった。
──────────ー
「良かったのか、フィン? あれで」
食堂を後にし、雑務をこなしている途中、リヴェリアがフィンに尋ねる。
フィンは作業する手を止めず、答える。
「うちほどの人数が居て、皆が皆殲滅派に偏るというのも、今や不自然と言える情勢になりつつあるからね。多少であれば問題は無いよ。
それに、然程うちから共存派は現れないだろう。
「そうではない。私が言いたいのはお前自身についてだ。少し迷いがあるように見えるぞ。
本当は、共存派に傾きかけているのではないか? ベルの言葉に、揺れ動かされているのではないか?」
その言葉に、フィンの手がピタリと止まる。
否定したい。しかし、心の奥底にそうした感情があるのもまた事実だった。
駄目だ、
両親を殺されたあの時から、自分は勇者になると決めた。
非力な
一族の勇気を取り戻す、そのために、勇者として名を上げていった。
だから、今更ベルのように嫌われる道など選べる筈がない。
何より、今の自分を形作った憎悪を捨て去れば、今までの人生の否定になる。
それでも、いや、だからこそ、自分には選べない道を容易く選び取れるベルが、とても眩しい。
知っている、理解している、自分と彼ではそもそも目指すものが違う。
野望のため最善を尽くす自分と、理想のため最高を求める彼とでは、そもそも見ている世界が違う。
なのに……何故だろう? どうしてこうもあの少年の在り方が羨ましく、そして眩しさを覚えるのだろうか。
「確かに、惹かれるものがあるのは事実だ。彼にはいつも目を引かれている。
でも、駄目だ。僕がそっち側につけば、このファミリアもオラリオも回らなくなる」
フィンは頭に浮かびかけた感情を押し殺し、そう答える。
そうだ、フィン・ディムナは常に大衆の味方でなければ。
故に、
「随分疲れておるの、フィン。お主らしくもなく、思考が狭窄しておるぞ? 決断を見直せとは言わんが、少し頭を冷やしてみるのもいいのではないか?」
不意に、扉からガレスが顔をのぞかせる。
フィンはガレスの言葉を聞き、少し黙り込むと……やがて軽く肩を竦めた。
「そうだね。君の言う通りだ。休む暇はないけど、気分転換も必要かもしれない」
フィンがそう言うと、リヴェリアとガレスが僅かに微笑んだ。
「ああ、たまには身体を休ませると良い」
「お主がそんな様子じゃと、こっちも調子が出んわい」
そうして彼等は連れだって部屋を出て行った。
後に残されたフィンは一人、天井を仰ぎ見る。
「やれやれ、思っていた以上に彼の光にあてられてしまったようだ。指ではなく、身体が疼いている」
自傷めいた笑みを浮かべてそう呟くと、フィンは目を閉じた。
(立ち回りを大きく変えるつもりはないが……もう一つ、試して見るのもいいかもしれないな)
フィンはそんな事を考えながら、束の間の休息に身を委ねたのだった。
──────────ー
「レフィーヤとフィルヴィスは、どうするか決めた? アルゴノゥト君達に協力する?」
フィンが休息を取り始めた頃、ホームの中庭でティオナが二人に問いかける。
レフィーヤは覚悟を決めた目で、真っ直ぐにティオナを見た。
「正直、初めて聞く
でも、あの男の正義に負けないって、私は決めたんです。ですから、私も
フィルヴィスさんの時と同じように」
そう言ってレフィーヤはフィルヴィスの手を握る。
フィルヴィスは微笑と共に握り返し、自身の胸の内を語った。
「私も、お前と【正義の味方】に協力させて欲しい。
元より一度は怪物になった身、
そこから救い出してくれたお前達の助けになりたい」
二人の想いはかたかった。どちらも思い浮かべるは、フィルヴィスが光に包まれ、人へと戻った時のこと。
あの奇跡は、ベルがきっかけを用意してくれたからこそ起こせたもの。
返すべきものがあれば、返さねばなるまい。
二人の決意を聞き、ティオナは笑顔を向ける。
「やっぱり二人はそうだよねー。あたしも本当ならそうしたいんだけど……」
しかし、ティオナはそこで少し表情を曇らせた。
「アイズを独りにしたくないんだよね。いや、殲滅派はアイズ以外にも
ティオナはベルと出会ってから、少し明るくなったアイズを思い出す。
怪物に笑顔を奪われた少女は、人々に笑顔をもたらそうとするベルの事を、密かに気に入っている。
それは誰の目から見ても明らかで、本人もそれを自覚している。
しかし、そのベルが堂々と異端児《ゼノス》の味方についた今、彼女は独りぼっちになってしまっている。
ティオナは、そんなアイズを放っておくことなど出来なかった。
「だからあたしは……えっと……」
ティオナが何を言いたいのか察したレフィーヤは、微笑んだ。
「いえ、私からもお願いします。今の私じゃ、アイズさんの味方になれませんから」
言いながら、まさか自分がこのような事を言の葉に乗せる日が来るとは思わなかったと、レフィーヤは内心苦笑した。
自分がアイズの味方になれない? そんな馬鹿な話はない。
あの妄信的にアイズを慕っていた自分が、どうしてそんな事を思えよう。今でもアイズは憧れの先輩だ。
しかし、それでも今の自分には譲れないものができてしまった。
だから、今だけは彼女の味方に付くことはできない。
レフィーヤの言葉を聞いたティオナは、強く頷いた。
「ありがと、レフィーヤ! アルゴノゥト君にはよろしく伝えといてね!」
「はい、勿論です」
笑顔でそう言うティオナに、レフィーヤも笑顔で応える。
どちらもお互いがこれからすることを、自分もしたいと思っている。しかし、それは出来ない。
共存派に加担している者がアイズの傍にいたところで、今はなんの慰めにもならないから。
こうして三人は、各々の意思に従い、道を分けたのだった。
ベルの行動に揺さぶられる者達、想いを確固たるものへと変える者達、そして……
「駄目……モンスターが喋らないで……全部、まやかし。そうじゃないと、私は……ううん、私は間違ってない」
自問自答を繰り返し、迷子になった少女……
無論、ロキ・ファミリアに限った話ではない。
どこもかしこも、ベル・クラネルの行為に揺さぶられる。
これからも続く彼の行動、その行く末を見極めようと、多くの者達が注目するのだった。
間が開いてしまい申し訳ございません!
これから新しい仕事に挑戦することになり、恐らく更にペースが落ちるので、年内にあと二回更新することをノルマとしたいと思います!
随分ゆったりしてきてしまいましたが、完結は絶対にさせる所存ですので、気長にお付き合い頂けると幸いです!