ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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 遅くなってしまい申し訳ございません!
 粗方締め切りのある作業を終えたので、次からはもう少し間隔が縮む見積もりです!


理想への通過点

 アイズさんとの一件で、僕は改めて自分の理想の在り方を実感した。

 何かが大きく変わった訳では無い。自分がやること、大事にすること、目指すもの。

 全て心に刻み込んだままだ。

 救うものを選ばず、何もかも掬い上げること。その為に笑い続け、人々と笑顔を共有すること。根本は何も変わっていない。

 ただ、大切なもの、守りたいものが少し増えただけだ。だけど、それこそが憧憬と約束した、僕という一を切り捨てないことに繫がる。

 前にしか見るものが無ければ、僕が僕を守る理由も曖昧になってしまう。それでは憧憬が呪った結末を繰り返すだけだろう。

 だから、定期的に大切だと思うものを再認識していかないと。僕の正義は、身近の笑顔から始まるのだから。

 そんなことを想いながら、僕は今の活動に集中する。

 

「皆の者! 通話室は十部屋用意した! 受付や他の希望者と相談をし、グループを組んだら指定の部屋へ行ってくれ!」

 ヒーロースイッチがオンになった僕は、声を大に部屋中へ響かせる。

 今日は、「異端児(ゼノス)と話してみたいが、怪物(モンスター)と直に会うのは気後れする」という層に向けて、通話の場を設けていた。思いの外希望者も増え、みんな大忙だ。

 異端児(ゼノス)相手に話そうなどと思える程彼等に粋された人達は、まだ割合的に見れば多くないものの、都市中から集まれば相当数になる。みんながここで異端児(ゼノス)と繋がりを持つ事で、みんなの知人も異端児(ゼノス)と関わるハードルが下がれば幸いだ。

 しかしまあ、どのような活動にも問題や弊害は付き物で、今もそれにぶつかっている。それは……

 

「ふざけたイベント開いてんじゃねーぞ!」

 希望者に紛れ込み、文句を言うために乗り込む人がいる事だ。

 うん、未だ殲滅派の方が圧倒的に多数である情勢の中、誰でも参加出来るオープンな場を作ればこういう事も起きるよね。

 予想出来ていたことではあるので、それに対応するチームも控えていた。

 

「はいはーい、言いたい事があるなら別室で聞くよー。アルゴノゥト君は忙しいから邪魔しないでねー」

 フード姿のティオナさんが現れ、喧嘩腰な人を押していく。そう、アイズさんと話をして以来、ティオナさんもレフィーヤさんやフィルヴィスさんと同じように、僕たちの活動を手伝ってくれていた。

 

 元々異端児(ゼノス)との共存には前向きな考えを持ってくれていたこともあり、アイズさんが異端児(ゼノス)への考えを改めようとしている今なら、何も気兼ねする事は無いと快く協力してくれているのだ。正直、非常に心強い。共存派寄りの人も増えてきたけれど、何の嫌悪感も持たずに異端児(かれら)と普通に接してくれる人はまだまだ少ない。それは、僕の仲間達とて同じだ。最初に比べれば慣れてきてはいるが、緊張感が抜けきっていない。

 それ故、ティオナさんのような存在は有難かった。

 ただ、「ねえねえ、最後にアイズとした約束って何!? ねえ、教えてよー」と興味深々で聞いてくるのはやめてください。恥ずか死にます。

 因みに件のアイズさんはというと、本人たっての希望により、僕ら恒例であるあの役目をしていた。

 

「おー、われこそはアルゴ仮面(あるごかめん)妖精の共宴隊(えるふふれんず)につづく『和』へのちょうせんしゃ、シルフ仮面(しるふかめん)である! われとともにきょうふをこえ、異端児(ぜのす)たちとなかよくなろう! さあ、いざゆかん!」

 緑と黄を基調にした仮面や衣装を身につけ、凄まじく棒読み口調でそんな事を言っているアイズさん。

 ……うん、ノリノリだと伝わって来るのにここまで棒読みなのは、最早芸術的な域に達していないか? と思ってしまう。

 

 周囲の人も微笑ましげで、「これから怪物と話すんだ」という緊張がほぐれているように感じられた。

 何とも不思議、というか可愛い。結果的に良い効果をもたらしている。

 しかし、アイズさん自身まだ異端児(ゼノス)に対して割り切れていない中、よく自らこのような役をしようと思えたものだ。

 実際、誰より怪物に対して強い悪感情を持つ人が自主的に変わろうする姿を見せていくことで、周囲もまた勇気が持てるのでありがたいけどね。

 本人曰く、「一回ベル達みたいに変身ごっこしてみたかった」のだそうだ。

 そう言われると何とも形容しがたい嬉しさと、少しの照れ臭さがこみ上げる。

 

 拙い、仕事中にこんな事じゃダメだ。そろそろ他の協力者を紹介するとしよう。

 えっ? まだ他にいるのって? 勿論いるよ。クレーム付けにくる人はさっきの人以外にもまだまだいるし、ティオナさんだけじゃ捌ききれないからね。

 何より、新しく誰かと友好を築く場を作るにあたって、必要なものがある。

 それはそう、食だ! 一つ竈で食を共にし、親睦を深め合う。英雄エミヤも大事にした、人間関係を円滑に進めるため、非常に重要なイベントだ! 通話越しだから一つ竈じゃないとかいうツッコミはナシで。

 ともあれ、食べものの提供は譲れない。僕や命さんだけでも勿論用意出来るが、どの道人員はもっと必要になる。

 という訳で、料理提供に荒くれ者の対応、その両方の面で頼れるあの人たちの協力をお願いした。

 以前お世話になったあの酒場の皆さんだ。

 

「【豊穣の女主人】出張ニャ! 語り合うなら何とやら、美味い料理と酒で存分に語らうニャ!」

「皆さーん、今日は特別メニューで、料理も酒も量が一割増しでーす! アルゴ仮面さんご考案のメニューもありますよ!」

 従業員のアーニャさんとシルさんが声出しを始めると、場は一気に騒がしさを増す。

【豊穣の女主人】、女将のミアさんを中心に、リューさんやシルさん、アーニャさんにクロエさん、ルノアさんといった従業員達が勤めている酒場だ。

 シルさんを除き、皆第二級冒険者クラスの戦闘力を誇る猛者揃いで、特にミアさんは第一級冒険者相当のステイタスを持っている……と思う。

 今の僕でも、まともにやりあって勝てる気しないし。

 そんな皆さんなら、荒くれ者の対応など造作もあるまい。

 

 因みに全員がここにいる訳ではなく、リューさんやルノアさんは命さんと共に異端児(ゼノス)側の方で働いてくれている。

 こうして二ヶ所に店を開き、通話越しで食を共にし合おうという訳である。

 うん、ありがたいことこの上ない。

 飲食店、というか信用商売をしている人たち全般そうだけど、異端児(ゼノス)共存派の協力をすることによる営業面での危険(リスク)は計り知れない。

 他の飲食店では、まずこのような仕事など引き受けてもらえないだろう。

 しかし、そのリスクを理解しつつも尚協力して貰えている。本当に頭が上がらない思いだ。

 

 ミアさん曰く、

「うちの常連は変わらずあんたを支持してる奴ばっかだし、他んとこほど被害ないさね。

 怪物と手を繋ごうなんて酔狂なこと言い出した時は驚いたもんさ。だけど、金さえ落とせば客を選ぶ必要もない。

 あたしゃあんたの奇行は嫌いじゃないよ」

 とのこと。そう考えれば確かに合理的かもしれないが、迷わず言ってしまうところがミアさんらしい。

 他のメンバーも異論は無いようで、特にリューさんに至っては、

「それが貴方の正義なのでしたら、私もその先を見届けたい。きっと、アリーゼも」

 とまで言ってくれた。アリーゼさんという人のことはまだ殆ど知らないが、その名前を口にしている時のリューさんの表情が、僕の心に安心感を抱かせてくれた。

 とても優しく、見ているだけで心が温かくなる顔だった。

 それはそうと、シルさんはどこか不機嫌だったな。何故だろ。

 

 何はともあれ、そうして僕らの努力が結実し、今日のイベントを開催するに至った。

 当初やむなく異端児(ゼノス)のことを公表した時は、どうなることかと思ったものだけど、蓋をあけてみれば意外な人たちまで協力的な姿勢を示してくれた。

 体感だが、目標の三割もあと一歩といったところだろうか。

 投票日までに残された時間は、あと一週間を切っている。

 いけるか? いや、いくしかない。これは理想への通過点だ。

 兎にも角にも、僕は僕に出来ることを精一杯やるだけ。そう決心して、イベントは開始したのだった。

 

 

────────────────────────

「どうにか【正義の味方】の人気が回復してきたか……全く、勝手なことしおって! 黒竜討伐にはお前の魔法が要だというのに! その力の源たる名声を捨て去るとは! どういうつもりだ!?」

 そう言うのは、翡翠色の眼を持つ男。ギルドにおいて、主神ウラノスを除き最高権力を持つ、白髪の老エルフ。

 ロイマン・マルディールだ。

 彼は、ベルのスキャンダルに一番頭を抱える羽目になった男と言えよう。

 彼は、ベルの固有結界を当てにしていたのだ。

 何せ、オラリオ市民の笑顔だけで、最強の冒険者たるオッタルと押し合いが出来たのだ。もっと多く、都市外からも人の笑顔を集めることが出来たのなら、黒龍をも倒せるかもしれない希みが持てる。

 なのに、ここで自ら名声を捨てた。ロイマンからすれば、何をやっているのだとしか言いようがない。

 

「幸い、奴自身のレベルが当時から異常なまでに上がっている分、魔法の出力は相応に期待できるが……それで黒竜を倒せるかは別問題だ」

 歯を食いしばりながら苦々しげに口にするロイマン。

 この世代で黒竜討伐に失敗したら後がない。当分英雄候補と呼ばれる者たちが現れることはないだろう。

 だから、少しでも勝利の可能性を引き上げていかなければばならない。

 正義の味方を名乗るのなら、まずそれを最優先にしろと言いたいものだ。

 

「ままならんものだ。奴が目標とする共存派三割では足りん。奴自身の名声を大きく押し上げるための施策が必要だ。

 何か良い手はないものか……」

 ロイマンは嘆息しながらも、ベルを援助するための手を考えていた。

 正直言って思想は全く相容れないが、何としてでも黒竜討伐を成してもらわねばならない。

 何か、何か……ロイマンが必死に思案を巡らせている中、事態は別の場所で進もうとしていた。

 

 あと一歩。ベル・クラネルがあと一歩そこに至るためのピースは、すぐそこまで迫ってきていた。

 

 




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