ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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変わる瞬間が、必ずしも劇的なものとは限らんよ

 通話会を行った二日後、アルゴ仮面一行は迷宮(ダンジョン)を訪れていた。

 今日の予定は、いつも通り異端児(ゼノス)と慈善事業用資金集めに精を出しながらの映像配信だ。

 やはり、イメージ作りは少しずつ、そして確実にしていかなければならない。

 例え残された時間が少なくとも、出来る事をしていこう。

 

 それがベル達の方針であり、最善と信じる道であった。

 メンバーは、アルゴ仮面であるベル、専属鍛冶師のヴェルフ、助手(サポーター)のリリ、斥候&料理担当の命、配信上のヒロイン役である春姫、護衛のヘグニに加え、妖精の共宴隊(エルフフレンズ)のレフィーヤとフィルヴィス、戦闘と賑やかしのティオナ、そしてシルフ仮面となったアイズも加わっていた。

 ブラックマスクのオッタルを除き、主要活動メンバーはほぼ揃っているといって良い。因みにそのオッタルは、裏からフレイヤの指示で暗躍中である。何をやらせているのかは、まだベル達にも知らされていない。

 何はともあれ、中々に壮観な面々が集まっていた。

 そんなアルゴ仮面一行が、いざ迷宮(ダンジョン)へ赴かんという中、冷静ではいられぬ者達もいる。

 

((な、な……なんですかアレはぁああああああ!?))

 それはリリとレフィーヤである。二人が視線を向ける先にあるのは、ベルとアイズが身に付けている装飾だ。

 そう、先日アイズがベルに頼んでいたあの夫婦剣を模した装飾である。そんなものを見させられた二人が心中穏やかであるわけが無い。

 それぞれベルとアイズを慕う二人にとって、これ以上に無く衝撃的な光景であった。

 彼女たち程ではないが、春姫もソワソワしている。

 しかし、皆突撃したいという気持ちとは裏腹に、恐怖心もあるのだ。

 内容があまりに直接的すぎて、真実を知るのが怖い。

 一先ず、製作者に心当たりのある彼女たちは、そちらへと詰め寄ることにした。

 

「ヴェルフ様! 一体あれはどういう事ですか!? 何故ベル様と剣姫様がペアアクセサリーを身に付けてらっしゃるのですか!? 作られたのヴェルフ様ですよね!?」

 先陣を切ったのはリリだ。ベル愛用の剣を模した装飾など、ヴェルフ以外の者に頼むとは思えず、真っ先に彼へと質問した。それを受け、ヴェルフは頭を掻いて答えた。

 

「あー……その、なんだ? 作るの頼まれたんだよ、ベルに。

 元は剣姫からの要望らしいが、恐らく無自覚との事だ。正直あいつらの関係性はよくわからん。

 まあ……まだチャンスはあるんじゃないか?」

 何とも雑な回答だが、ヴェルフとしてもベルがこの先どうなるかわからないので、下手なことは言えない。

 彼女達の心情が解らなくも無いのものの、自分はベルの相棒として、彼が今後何を選ぼうと見守るばかりという思いだ。

 すると、今度はレフィーヤが口を開く。

 

「無自覚って……そんな訳ありません! 夫婦剣をペアだなんて、結婚指輪みたいなものじゃないですか!?

 幾らアイズさんでも、全く意識してないなんて……ありえ、ない……ですよ」

 言っているうちに、自信が無くなっていくレフィーヤ。長らくアイズのことを妄信してきた彼女としては、ベルとアイズが既に恋仲だと確定するのも癪だが、アイズの無頓着さが露呈するのもまた複雑だった。

 

 とは言え、どちらの感情にも諦念の様なものが芽生え始めているのも事実である。

 昔程盲目的ではいられない。先日ベルとアイズのやり取りで何があったかなど知らないが、あのスケコマシがスケコマシらしくアイズが抱えているものに向き合ったのであれば、心を惹かれても何ら不思議ではない。

 その上で、アイズが無頓着さを発揮して無自覚な求愛行動をとっていると考えれば、何処か納得出来てしまう自分がいるのだ。遺憾ではあるけれど。

 とまあ、レフィーヤが口を止めて考え込んでいるのを他所に、リリとヴェルフの会話は続いていた。

 

「適当なこと言わないでください! 無責任ですよ! そもそもヴェルフ様が作らなければ!」

「無茶苦茶言うな! 俺はベルの贈りもんを手伝っただけだ! 大体俺が断ったとして、あいつが作ることを諦める訳無いだろ!?」

 ……いつもの喧嘩へと発展しているようだ。

 春姫はと言えば、ヴェルフの語った内容に刺激され、妄想の世界へと旅立っている。

「そんな……ベル様と剣姫様がそのような……ふ、夫婦だなんて……ああ、春姫はどうすればよいのでしょう……」

 こんな感じだ。

 

(これ以上私がここに居る意味は無さそうですね……聞けることは聞きましたし)

 レフィーヤはそう思い、ゆっくりとその場を離れる。第三者から引き抜ける情報はもう無い。後は自分の目で確かめるとしよう。

 何はともあれ、やがて迷宮(ダンジョン)に足を踏み入れたアルゴ仮面一行は、今日も異端児(ゼノス)達の元へと向かうのだった。

 

 

 ──────────

 そして、いつものように異端児(ゼノス)達の住処に辿り着くと、真っ先にウィーネがこちらに気付き、ベルの元へと駆けてくる。

「ベル! おはよう! みんなも……あっ」

 いつものようにベルへ抱きつこうとしたウィーネは、アイズの存在に気付き少し後ずさりした。ウィーネは既に新顔であるアイズやティオナとも顔を合わせているし、ティオナとはある程度打ち解けているのだが、アイズについてはそうもいかない。何故なら、

 

(竜……違う、あの子は黒竜じゃない……黒竜じゃない……)

 アイズ側が、ウィーネから憎き黒竜の面影を見てしまうからだ。他の種族に対してなら、まだたどたどしくも声を交わせることは出来るものの、竜種だけは別だ。

 下手に言葉を交わそうとすれば、目の前の幼い少女に殺気をぶつけ、傷付けてしまうかも分からない。そんな恐怖があった。

 更に言えば、引け目がある。ベルから助けられていた事に対して、怪物だからという理由で嫉妬の感情を抱いていた。

 

 そんな自分が、ウィーネを笑顔で迎え入れるなどおこがましいと思ってしまうのだ。

 ウィーネからしたらあずかり知らぬことではあるが、先にも述べた黒竜の面影も合わせ、今日までウィーネと友好的に話せていないのが現実だった。

 周りもその事を知っているため、無理に会話を勧めることも無い。

 一先ず、二人の距離を少し離すためベル達が動こうするが……

 アイズはそれを手で制して、自分からウィーネへと近づいていく。

 

「アイズさん……?」

「アイズさん……大丈夫ですか……?」

 ベルとレフィーヤが少し心配そうな顔をするが、アイズは大丈夫と示すように小さく頷いてウィーネの目の前までやってきた。

 どうしても、黒竜の姿が脳裏をチラつく。彼女という存在を正しく認識した時、自分がどうなるかが分からない。でも、何となく大丈夫だという確信がある。

 

 ベルから受け取った、彼との縁。それのおかげだろうか。例え今までの自分の全てが壊れても、確実に変わらないものがある。その証であるペンダントが、アイズの首元で光っていた。ならば、きっと大丈夫だ。

 少なくとも、殺気などという刃を、彼女へ向けることだけは無い。

 そう確信し、アイズはウィーネへと話しかける。

 

「初め、まして。わたしの名前はアイズ・ヴァレンシュタイン。

 えっと、よろ、しく?」

 あえて、初めましての部分を強調して言った。

 どうしても、怪物の一種としてしか見ることの出来なかったアイズが踏み出す、最初の一歩。

 発された言葉は、やはり少し硬くて、ぎこちなかった。

 しかし、ある意味それは彼女の通常運転でもある。 弱々しげなアイズの発言を受け、ウィーネもおずおずと口を開く。

 

「うん……始めまして、わたしはウィーネだよ。アイズ、よろしく」

 最初の方は恐る恐るといった感じだが、やがて屈託の無い笑顔でそう答えた。

 そうして、ぎこちなくも互いが手を差し出し握手を交わす。

 触れた瞬間、二人の手が僅かに震えたものの、すぐに震えは収まった。

 アイズは、思っていたよりずっと普通に接することが出来たウィーネのその幼い笑顔に、言いようのない心地良さを感じた。

 

(やっぱり、同じ……怪物(モンスター)だけど、人と変わらない。ベル達が、ずっと言っていた通り……)

 薄々そうなのだろうと理解しつつも、必死に否定していたその事実。それは、ベルと話し合って以降も中々拭えなかったが、最もわだかまりのあったウィーネと向き合って、ようやく受け入られた気がした。

 

 ───良いのか、受け入れてしまって。怪物は必ず殺すという誓いを、反故にしてしまって。

 

 未だそんな声が聞こえなくも無いが、既に決めたことだ。

 全てが変わっても構わない。そう、心に決めたのだ。

 何より、今握手を交わしたこの少女を、怪物だと思うことも出来そうになかった。

 異端児(ゼノス)は、決してヒトではないかもしれない。でも、人なのだ。

 種族としてのヒトでなくとも、目の前にいる少女に人の心があるのなら、人なのだ。

 怪物だけど、厄災じゃない。かつて自分が定義した怪物とは別物だ。

 ならば、もう気にする必要はない。

 誓いが変わるわけでは無い、ただ少し、見方が変わっただけだ。

 だからもう迷わないと、アイズはウィーネへ微笑み返すのだった。

 

 

 ────────────

 それから活動が始まり、時折配信を挟みながら探索が行われる。

 ウィーネと触れ合ったことで、抵抗感の薄れたアイズは、他の異端児(ゼノス)とも少しずつ交流を深めていった。

 特にコミュニケーション能力の高いリドやレイなどは、アイズへ積極的に話しかけ、その距離を縮めていった。

 

「すげぇ、やっぱアイズっち滅茶苦茶強ぇな! そんな綺麗な剣捌き見たことねえぜ!」

「ええ、凄いです。まるで舞のように美しい剣技です」

「あっ、えっと……ありがとうございます?」

 アイズっち呼びやら勢いに戸惑いながらも、褒められたことを素直に受けとるアイズ。

 感覚としては、ティオナが増えたような心地だろうか。アイドル的な目で見られがちなアイズに対し、ここまでぐいぐい距離を詰めてくる存在は中々珍しい。

 

 ある意味、人間とはコミュニティが異なる彼らだからこそ出来る芸当と言えるかもしれない。悪い気はせず、少しずつではあるが異端児(ゼノス)達と打ち解けていく。

 限りなく友好的に接してくる彼らの姿を、しっかり認識出来るようになってきた。

 そんなアイズの様子を観察しながら、レフィーヤはずっと思案を続けていた。

 

異端児(ゼノス)達と距離を詰める度、ベル・クラネルのアクセサリーに視線を向けている……お守りのように、心の支えにしているように……

 はあ、幾ら自覚が無くとも、これはもうそうとしか考えられません)

 癪ではあるが、最早認めざるを得なかった。

 あれだけの憎悪を全身から放っていたとアイズが、そこそこ自然に異端児(ゼノス)達と話せる様に変化する程の影響を、ベルが与えた。

 そんなの、もう答えが出ているようなものだ。

 腹立つ。本当に腹立つ。

 何が腹立つって、相手がベルなら仕方ないと、少し納得してしまう自分がいることが、一番腹立たしい。

 

(あああもう、何なんですか! こんなにアイズさんの特別になって! ベル・クラネル……許すまじっ!!)

 納得はしても、ムカつくものはムカつく。

 近頃は随分ベルへの態度が軟化していたレフィーヤだが、この日からしばらく少しだけ拗ねることになるのだった。

 とは言え、感謝している部分もあるので、完全には拗らせないのだが。

 

 

 ───────

 一方その頃、深層にて。

 オッタルと、一頭の猛牛が対峙していた。

 猛牛は身体中を朱色に染め上げながらも、それを意に介すこともなく、その瞳に激しい闘気を宿している。

「ほう、まだやるか」

 猛牛の姿を見て、オッタルが僅かに笑んだ。

「勿論だ。リドが見せてくれたエイゾウとやらには、確かに夢で見た戦士の姿があった。

 あの者と今一度会い見える時、悔いなきよう鍛錬せねばならん」

 猛牛は、闘気を発散させながら、静かにそう言った。

 そして、次の瞬間にはオッタルへ向けて突進する。

「フッ、そうか。奴とお前が戦えば、俺より興味深いものが見れるかもな」

 猛牛の突進をいなし、オッタルは不敵に笑う。この先に待つ展開は、間違いなく我が主神を喜ばせるであろうと。

 物語は、やがて加速する。




 ︎︎結局宣言した日日に更新できず申し訳ございません!

 ︎︎書いている間にFate20周年がすぎてしまいました。
 ︎︎一応、FGOではもう暫く祝われているので、私も遅ればせながら祝いたいと思います。Fateシリーズ20周年、おめでとうございます!

 ︎︎そして、今日が何の日かと言えば……SNにおける作中最初の夜、でしょうか。日付跨いでしまったので初日とも言えないのが何とも微妙ですね。

 ︎︎さて、ここの所中々守れていない更新予告ですが、目安無しというのも怖いので、次は来週の金曜に更新することを目指します。それではまた!


─追記─
あれ、今日ってアーチャーの召喚日ですか!?
この作品にとっても大事な日なのに、完全に頭から抜け落ちていました。
ごめん、アーチャー。そしておめでとう!
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