ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
今のところ、「暗黒期」>「第五次聖杯戦争」>「オリオンの矢」の順で票数が多いので、暗黒期の話から書いていくことにしました。
アストレア戦隊アルゴレンジャー(1)
『前提』の話をしよう。
えっ、何処かの俺と同じ話をしていないかって? 何の事か知らないが、多分それとは少し違うものだ。
まず、ベル君の憧憬の世界と、俺たちの世界では、時空の仕組みが明確に異なる。
そもそも世界の成り立ちが違うのだから、当然だ。
それは、二つの世界を知るベル君が一番よく分かっているだろう。
だからこそ、いざカオスのくしゃみに巻き込まれ、奇跡的に時を渡れた時、彼は自身の立ち位置をどうするべきか一瞬悩んだ。
この世界に、もしもの時間軸、平行世界は存在するのか。もし存在しないとした場合、歴史を変えてしまえば元の世界にどのような影響が出るのか。
今までの事を、無かったことになどしたくは無い。けれど、目の前の人々が危機に晒されている中動かないなど、正義の味方として出来よう筈もない。
だから、彼は直感に従い動いた。
大丈夫、平行世界は存在する。
歴史が変われば、新たな世界に分岐するだけだ。
時折夢にだって見るのだから。
どの道答えなど出やしないんだ。悩むだけ無駄というものだ。
そう結論付けたベル君は、自分の意志に従い行動することを選んだ。
さてさて、そのベル君はどのような行動を取るのか───
「アストレア戦隊、アルゴレンジャー参上!!」
……うん、いつも通りだな。
ベル君らしい、実に彼らしい選択だ。
───────────
七年前、暗黒期。
それは、目の前にいる人を助けると同時、その時代に自身が居られる時間を延ばすためでもある。
日頃から
世界は、時代の異物として、今正に自身の存在を追い出さんとしていると。
自身を強く保ち続けなければ、すぐにでも元の世界に返されてしまう。
睡眠でも取ろうものなら、即アウトだ。
だが、今のベルでも、それを続けるのは精々一週間が限界。
だから、彼はこの世界でも笑顔を集めることにした。
投影により聖剣の鞘を形作り、そこに神秘を溜め込む。
それは不完全ながら、確かに彼の理想郷としてベルを包み込んだ。
所詮はハリボテ、不老不死とは程遠い。
だが、眠らず活動出来る時間は数倍にも伸びよう。
元の時代なら、あらゆる所から説教を食らいそうな行いだが、この時代へ降り立ったからには出来る限りの事をしたい。
それがベルの偽らざる本音だ。
そうして、突如オラリオに現れた謎多き正義の味方アルゴ仮面。
短期間の内に、彼は多くの人間に希望を与え続けた。
「ハッハッハ! このアルゴ仮面に射抜けぬ的はないのだ!」
「私は正義の味方だ! 何故なら、アルゴ仮面なのだから!!」
犯罪が起きれば、必ず何処かの高台に現れ、恐るべき精度の狙撃で犯人の捕縛を手助けし、華麗に去る。
またある時は、お腹を空かせた子供達に、腹を満たさない程度ではあるが、無償で食事を振る舞い。
更には、それを真似した冒険者が、自主的に人助けを行う光景も見かけた。
オラリオは、空前のヒーローブームを迎えたのだ。
「アルゴ仮面に助けられました!」と、その言葉に勇気付けられた冒険者が活躍し、更なる恩恵を齎す。
まさに好循環と言えるだろう。
そして、そのような流れの中で、黙っているわけが無い者達がいた。
それは、正義を司る女神、アストレア。その眷属達だ。
「みんな、私たちも仮面を被るわよっ!」
「「「…………は?」」」
アストレア・ファミリアの本拠にて、そう声高に叫ぶ団長アリーゼに、団員の輝夜とライラ、そしてリューは何言ってんだコイツ、とばかりに微妙そうな表情をする。
「いえ、流石に意味が分かりません」
そんなリューの言葉に、他二人もこくこくと頷く。
アリーゼはそんな様子に、バァンと机を叩きながら身を乗り出した。
「じゃあリオンに質問よ! 正義の味方、アルゴ仮面。彼の活動は、オラリオに何をもたらしたと思う?」
「え、えっと……治安の向上? 彼の狙撃は、確実に犯人を無力化して捕縛しています。犯罪の抑止力としては、これ以上無いくらいの……」
急に振られた問いに、戸惑いながら答えるリュー。
アリーゼはそれに大きく頷き、ビシッと指を突き出した。
「そう! 治安の向上よ! だけど、それを成しているのは狙撃の腕前だけかしら? ───答えは否! アルゴ仮面は、それだけに留まらず、人助けという行いの尊さ、それによる恩恵の受け方を正しく示したわ!
エンターテイメントの側面を取り入れることで、より広い層に助け合いの精神、概念を説いた!
即ち、正義の味方にはキャラ付けが必要! だから私たちも仮面を被りましょうって!」
「そ、そう……なんでしょうか……」
リューはアリーゼの勢いに押され気味だが、他の二人は割と冷ややかな目を向ける。
理屈はまあ、分からないでもない。
思想を広めるにあたって、エンターテイメント性は非常に重要だ。
だが、仮面を被ることは必要なのか?
そも、キャラ付けなら普段からお前が勝手にやっているではないか、と。
「……で、本音は?」
輝夜が単刀直入に問う。
それに対して、アリーゼはフッとクールな笑みを浮かべて言った。
「恰好いいじゃない! あのマントと仮面!!」
「「……ですよねー」」
輝夜もライラも、揃って溜息をつきつつ肩を落とす。
この団長、根っこは冷静で思慮深いのに、表に出力される言動はノリと勢いが多分に反映される。長々語ったのもポーズという訳ではないのだろうが、恐らく後付けだ。
最後に言ったのが全てだろう。
「ということで、ほら! 早速特注で作って貰ったわ! 防具としての性能もバッチリよ!」
そう言いながら、四セット色違いの仮面とマントを取り出す。
第二級冒険者が実用に耐え得るレベルの
「一応聞いとくが、これ用意するのに幾ら使いやがった?」
ライラが顔を引きつらせながら問うと、アリーゼは胸を張って言った。
「フッフーン、ワンセット百万ヴァリスよ!」
「「「…………ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
それほどの大金を使ったとなれば、もう後戻りは出来ない。
三人の怒声が響く中、正義の味方アルゴ仮面と、新たな仮面の戦士達による喜劇が幕を開けたのだった。
─────────
「フッフーン、
正義の使者、アストレアレッド参上!」
「ハア……アストレアブラック、参上」
「アストレアピンク……だりぃ……」
「アストレアイエロー……さ、参上……」
アリーゼ、輝夜、ライラ、リューの順でポーズを決め、捕縛した
場所はオラリオ西部のメインストリート。一般住民が多く住み魔石製品の流通も盛んなため、比較的治安も良く栄えている場所だ。
しかし暗黒期において、安全な場所など存在しない。
住民が多ければ、当然テロが派生した時の被害は甚大となる。
今日この場所でも、
「く、クソがぁぁぁぁぁっ! アルゴ仮面の野郎は反対側の地区にいるはずだったのに、こっちにもふざけた格好した冒険者がいやがrぐぺっ!?」
「うるせぇ、アタシだって好きでこんな格好してるわけじゃねぇんだ」
ライラの蹴りが、最後まで言わせず構成員の一人を吹っ飛ばす。
あれやこれやと言う間にとんだ茶番に巻き込まれ、団長の暴走に付き合わされている鬱憤が、爆発したようだ。
輝夜もリューも、仮面の奥で死んだ目をしている。
「団長、いつまで続けるつもりでございます?」
「勿論、オラリオが平和になるまでよ!」
「それはいつですか? 出来る算段があると?」
「無いわね! だから、少しでも多くの味方を増やすのよ! オラリオは今、大きく変わろうとしている! その中で、一人でも多くの善意ある人が増えれば、きっと未来は明るいものとなるわ!」
「……もう勝手にしろ」
輝夜は投げやり気味に返し、リューとライラは溜息と共に頷く。
元より止められるとは思っていないが、せめてもの抵抗だ。
「そのためにも、一度本家アルゴ仮面と接触を図りたいわね。可能であれば、協力を取り付けましょう。彼とは、きっと気が合うと思うの」
「アリーゼみたいな奴が二人とか……カオスだな」
げっそりと呟くライラ。
この団長の直感は、わりと馬鹿にならないものだと思っている故の感想だ。
というか、二人ともノリノリでこのようなことをしている時点で、まあ、そういうことなのだろう。
「しかしアリーゼ、危険では? 如何に善行を積む者とはいえ、素性も分からぬ相手だ。
何より、彼はあの
どのような手品を以て姿を隠しているにせよ、第一級冒険者相当の力はあると見るべきでは?」
リューの真っ当な疑問に、輝夜とライラも頷く。
「未熟者にしては良い意見だ。確かに、敵対した場合、我々では太刀打ちできぬかもしれぬな」
「そもそも、どうやって接触を図るんだ?
各々が、アルゴ仮面へ警戒を促す中、アリーゼはフッと笑みを浮かべ告げる。
「彼は正義の味方、助けを求める人の下へは必ず馳せ参じる! ならば、私たちも助けを求めれば、自ずと接触の機会は訪れるわ!
さあ、みんな! 正義の味方、アルゴ仮面に助けを求めましょう!! 勿論、安全は考慮して強い人が付近に沢山いる場所でね!!」
力強く拳を握るアリーゼ。
そんな彼女に、三人はもうどうにでもなれと、ヤケクソ気味に頷いたのだった。
────────────
「アルゴ仮面さん、ありがとう!」
「何、礼には及ばないさ。私は正義の味方、当然のことをしたまでだ」
一人の男の子が僕にお礼を告げる。その手には、もやし栽培キットが抱えられている。
それがあれば、貧民街でも多少栄養のあるものを食べられるようになるだろう。
僕がこの時代の人々へ支援できる時間にも限りがあるため、直接的な食糧の供給はあまり意味が無い。
だから、少しでもこの先を生き抜く助けになれればと、そういった援助しか出来ないのだ。
「母さんの病気もみてくれたし、野菜の育て方も教えてくれた! アルゴ仮面さんがしてくれたことは、絶対に忘れないよ!」
「そうか、そう言って貰えると、私も嬉しい。君のような子ばかりなら、未来は明るいのだが……」
僕は男の子の頭を撫でながら、笑顔を作る。
こういったささやかな幸せも、容易く壊されるのが世界だ。
特に、この暗黒期という時代では、それが顕著に表れる。
助けた相手が明日には死んでいるかも、そんな過酷な時代だ。
だからこそ、僕は出来る限り笑顔を増やしたい。
明日死んでも後悔のない生き方をして欲しい。
地獄のような時代に降り立ったからこそ、僕はそれを出来る限り実現させていきたいのだ。
「さて、あまり同じ場所に長居するわけにもいかないのでね。私はこれで失礼する」
「うん、アルゴ仮面さん! またね!」
男の子が手を振るのに応え、僕はその場を後にする。
カッコ付けてフェルズさん作の
うん、虚空に消えるヒーローって良いよね。
などとアホな事を考えながら移動していると、オラリオの北西側から、大声が響いてくる。
「アルゴ仮面ー! 私達を助けてぇぇぇ!! 私達は貴方の真似をして始めた仮面の戦士、アストレア・カルテットよ! どうか私達に貴方の正義の志を分けてくれないかしら!」
…………ん? 僕の真似? アストレア・カルテット? アストレアって、あの神アストレア?
アストレア・ファミリアの方々が、僕の真似をしている? そして僕を呼び、何かを求めている?
……えっ、マジで? そんな馬鹿な。
いやでも、以前リューさんが何か言っていた気がする。
アストレア・ファミリアの団長を務めていたアリーゼさんと言う人は、とにかく自由奔放で、思い立ったら即行動に移すような、そんな人だったと。
誰よりも明るく周囲を照らし、皆を笑顔にしていたと。
その彼女なら、僕に触発されて仮面を被ったとしてもおかしくはない……のか?
なんとも信じ難い状況ではあるが、もしそうだとすれば、無視するわけにもいくまい。
少々、いやかなりカオスの匂いがプンプンするけれど、元凶として責任を持って対処せねば。
それにまあ、カオスは笑顔の素でもあるからね。
僕は早速、声のした方へ向かうことにした。
────────────
「私を呼んでいるのは君達かな?」
そう声をかけるも、リューさんらしき人を始め、仮面の戦士達は茫然自失と言ったご様子。
あれ、違った? 僕呼ばれたよね? 少し困惑しつつ、もう一度声をかけようと近寄ると、赤髪で赤い仮面の女性が我に返った。
「あ、ああ……貴方がアルゴ仮面ね! まさか本当に来てくれるとは思わなかったけれど、よく来てくれたわ!」
「おい、来ると思わなかったってどういうことだ。あんだけ恥を偲んで叫んだのにか、アリーゼ」
桃髪
なるほど、ダメ元だったと。
あれだけ寸劇っぽくノリノリで呼んでおいて、誰も来なかったら相当気まずかっただろうに。
アリーゼさん、リューさんから聞いていた通り、かなり肝が据わってらっしゃる。
「ええ、だって助けを求めれば来ると言っても別に命の危機でもないし、他に助けるべき人が居たらそっちに行くじゃない。だから、たまたま都合がいいタイミングを引くまで、何日でも叫び続けるつもりだったわ!」
「……勘弁しろよ。あんな恥晒し、もうやりたかねぇぞ」
ライラさんは遠い目をしている、ように感じる。
うん、なんかごめんなさい。
いや、別に僕がやらせた訳では無いんだけどね?
僕もよく仲間達に恥ずかしい企画へと巻き込むから、なんとなく申し訳ない。
「それで、用件は何かね? 志を分けて欲しいと言っていたが」
僕が問うと、アリーゼさんがビシッとポーズを決め、高らかに宣言する。
「そう! 私は貴方の活動に感銘を受けたわ! 大々的にヒーローを演じ、人々の光となるべく笑む!
鬱屈とした暗黒期において、貴方の行動が人々に与えた希望は計り知れない! その光をより強くしたい、その一心で私達も仮面の戦士、アストレア・カルテットを結成したわ!」
「あまりに強引でしたけどねぇ。巻き込まれた身としては、未だに理不尽を感じる程」
黒髪の女性、恐らく輝夜さんだろう、が溜息をつく。
しかし、アリーゼさんは全く意に介さず、話を進ませる。
「でも、正直見切り発車なのは否めないわ。現状今まで通り活動している中に、ちょっとしたスパイスを加えただけの感覚でしかない。
勿論それだって意義のある事だけど、もっと大きな可能性を感じるの! オラリオを、世界を震撼させる程の光を、貴方は見せた!
アルゴ仮面、貴方は現状をどう感じているの? これからの世界をより良くするためには、何が必要なのかしら!?」
凄い前のめりだ。こんなに人からグイグイ来られたのは、ヴェルフ以来かも?
本気で、人々が笑いあえる世界を求め、行動する。
そんなアリーゼさんの情熱が、ひしと伝わってくる。
全てリューさんから聞いた通りだ。
彼女は、軽そうな言動とは裏腹に、誰よりも真摯に正義を貫かんとする。
僕自身も、そう在りたい。同じなのだ、この人は。
その思考に行き着いた過程は、きっと違うのだろうけれど。
だけど、同じものを求め、同じものを体現しようとしている。その事実が、どうしようもなく嬉しい。
だからこそ、僕は答えた。
彼女の期待に、少しでも応えられるように。
精一杯の笑顔を向けながら。
「私はまだまだ経験の足りない若輩者だが、それでも、笑顔は伝染するものだと知っている。
それは、いつどこでも成り立つ訳では無い。時に非難され、時に冷たくあしらわれる。
その中で、自分達だけでも、と。誰かが笑顔を作り続けなければ、永久に失われてしまう。
特別な何かは必要ない。ただ、続ける姿勢を示すことこそが、君の言う大きな可能性に繋がると、私は思う」
思い出されるのは、
多くの者が、怪物を庇う裏切り者と僕を糾弾した。
それでも僕は、自分の信じた正義を曲げず、貫き通した。
変えられると信じ、笑い続けた。
だから、チャンスを掴めた。
この時代に来てやったことも、その延長に過ぎない。
慣れてきた分、然程運が向かずとも早く人の心を動かせるようになったけど。
根本は変わっていない。
暗暗とした場所で最初に笑顔を作り、それを続ける。
そうだ、それだけなのだ。
見切り発車上等。今の活動にスパイス、充分じゃないか。
辞めさえしなければ、きっと何かが変わる。
「要するに、『空気を読まずに全部笑い飛ばし続けろ』って事か。
……ならこれまでと何も変わらねぇな、アリーゼの十八番じゃねぇか」
ライラさんが呆れたように言う。
アリーゼさんはそれを受けて、顔を明るくする。
「ええ! でも、また一つの希望が生まれたわ!
貴方のお陰で、私も自分の考えに更なる自信を持てた!
ありがとう、アルゴ仮面!
良かったら、私達と一緒に活動してみない? きっと楽しいわ!」
アリーゼさんが手を差し出す。
僕の言葉に、満足してくれたのだろうか。
そうなら、とても嬉しい。
この時代に、僕自身がずっと居ることは出来ないけれど、笑顔の火種を繋げられるなら、こんなに喜ばしいことは無い。
「ああ、喜んで。生憎、オラリオに私が滞在出来る時間はそう長くない。それでも良ければ、共に活動させて欲しい」
僕も手を出し、握手をする。
するとアリーゼさんは、掴んだ手を両手で握り返し、ブンブンと上下に振った。
「勿論よ! これからよろしくね!」
僕もそれに合わせ、笑顔で腕を振り返す。
他のメンバーは、少々警戒していながらも、そう悪い印象も持っていないようだ。
ただ一人リューさんだけが、何処か複雑そうな顔をしているが……
うん、まあ。原因は分からないけど、とにかく頑張ろう!
リューさんはリューさんだ、きっと仲良くなれる。
そう信じながら、僕はこれからの活動に思いを馳せるのだった。
「私たちはまだ登り始めたばかりだ。この果てしなく遠い
はい嘘です。これを言うためだけに今日更新しました。
なんなら今回の内容そのものがちょっとエイプリルフールネタ臭いですが、ベル君もアリーゼさんも本気です。
この作品自体、本編からずっとエイプリルフールしているような気もしますしまあ今更というやつですね。
次も恐らく一月後位に更新します。
気長にお待ち頂けると幸いです!