ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
「燃え盛る声に、熱き想い! 正義の心は、胸に! アルゴレッド、ただいま推参!!」
「今を生き、明日を紡ぐ! アルゴブラック、ただいま推参!!」
「知を探求し、我が刃と為す!! アルゴピンク、ただいま推参!!」
「疾く駆け抜け、風をも置き去りに! アルゴイエロー、ただいま推参!!」
「そぉーしぃーてぇー!」
四人の名乗りが終わったところで、レッドが何もない空間に手をかざす。
するとそこに、白い仮面の戦士が、虚空より現れた。
「悲劇を喜劇に、皆の笑顔は私が守る! アルゴホワイト、ただいま推参!!」
「「「「「アストレア戦隊、アルゴレンジャー、ここに参上!!」」」」」
全員で口上を述べ、ポーズを決める。
アストレア・カルテットと、アルゴ仮面のコラボ。
その記念すべき最初の活動は、住宅街における清掃活動だった。
「わあ! アルゴ仮面に仲間が!」
「本当にアルゴ仮面と一緒に活動してる!」
子供たちが笑顔で仮面の戦士達に駆け寄る。
「フフン、みんな私達の格好良さに惚れちゃったかしら?」
「ガキ共、騒ぐのはいいけど危ねぇから勝手に道具を触るなよ? 割れたら怪我するからな」
アリーゼが調子に乗っている横で、ライラが面倒臭がりつつ、しっかり子供達を注意する。
輝夜は早々に子どもたちの中を抜け、清掃作業に移っていた。その仮面の中は死んだ目になっているのだが、子供達にそれが分かるわけもない。
リューはと言うと、子ども相手と言えど触られれば叩いてしまう怒れがある為、輝夜と同様に上手く距離を保ち作業している。そして、複雑そうな表情を仮面の中に隠しながら、ホワイト、アルゴ仮面の方を時たま横目に見ている。
「良いかな? こう言う尖った形のゴミに触れるのは危険だ。
手袋をはめていれば手は守れるが、少しの油断で怪我をする事になる。
君達の肌はまだ柔らかい。無理はせず、安全なものから取り組んでいくと良い」
アルゴ仮面は優しく、しかしはっきりとした口調で子供達へ注意を促す。
何処から取り出したのか、実際にガラスの破片を目の前で持って見せることで、危険性を理解させる。
(子ども達への自然な態度、手慣れた説明……役としての演技はあれど、打算や嫌味は感じられない。
疑うべくもなく、彼は本気だ。遊びや気紛れではなく、本当に人々を守るために活動している。
あの言葉に、嘘偽りは無い)
仮面を被っていながら、いっそ無防備な位自然体なアルゴ仮面を見て、リューはそう確信する。
警戒するのが馬鹿らしくなる程、彼は真っ直ぐだった。
だからこそ、リューは考える。
誰かを救えなかった時、それでも彼は笑うのだろうかと。
きっと、笑うのだろう。
彼は言った。笑った結果何も変わらずとも、変わるまで笑い続けるのだと。
今こうしている間にも、何処かの誰かは必ず不幸にあっていて、それに耐えられず笑みを無くす瞬間が訪れる。
それでも彼は笑い続け、その歩みを止めないのだろう。
(無理だ、私には受け入れられない。
救いきれなかった結果を前に、笑うことなど私では……)
理想がある、正義がある。
全てを救いたい、救える自分で在りたい。
その願いからあまりに遠い現実を前にして、到底笑うことなど出来ない。
彼は、どう思うだろうか。
どのようにして、前に進むのか。
私では決して辿り着けない答えを、彼は知っているのだろうか。
子供たちと触れ合う彼を横目で見ながら、リューはそんなことばかり考えるのであった。
───
「わー、リオン達、本当に仮面被ってる!」
「あ、アーディ……その、これは……」
子どもたちと別れた後、
五人は今後の打ち合わせをするため、酒場へ移動を始めていた。
その途中、巡回中のガネーシャ・ファミリア団員、アーディ・ヴァルマに鉢合わせたのだ。
皆リバース・ヴェールで姿を隠してはいたものの、顔馴染みでかつ同じ第二級冒険者であるアーディには勘づかれてしまったようだ。
バレてしまったものは仕方ないと、皆リバース・ヴェールを解除したところ、アーディが目を輝かせて今に至る。
リューは気まずげに視線をそらし、アリーゼは自慢げに胸を張り、ライラと輝夜は目を瞑る。
「フフーン、格好良いでしょう? アルゴ仮面とも期間限定でチームを組んだの!
楽しく活動すれば、きっと、みんなに希望を届けられるってね!」
アリーゼが高らかにそう告げると、アーディも嬉しそうに同調した。
「アリーゼらしいね。うん、良いと思う!
私もアルゴ仮面と一度話してみたかったんだよね。
その名前、【アルゴノゥト】から取ってるでしょ?
私、英雄譚の中でもあの童話が大好きだからさー!」
笑顔のまま、アーディはアルゴ仮面を見つめる。
その期待に応えるように、彼は一歩前に出た。
「ああ、彼の在り方、悲劇を喜劇に変えようという意思、それは私の正義にも通ずるところがある。
それ故か、仮面を被った時、自然とその名が口をついて出たのだ」
後からそれが前世であることに気付き、苦笑いを浮かべたものだけど。
アルゴ仮面は心の中でそう補足しつつ、アーディに応じる。
その言葉に、アーディは更に顔を輝かせた。
「凄い! アルゴノゥトにリスペクトを感じられる人が居たんだ!
みんなただの童話でしょって取り合わないのに!」
それまでとは一線を画したテンションの上がり方に、アストレア・ファミリアの面々は面を食らう。
特にリューは、親しき友人の見た事ない一面を目の当たりにし、動揺を隠せない。
アーディはいつも明るい。強き正義感を持ち、常に周囲を照らすような笑みで人々と接している。
だが、玩具を貰った子どもの様に、ここまで目を輝かせている姿など、見た事がなかった。
盛り上がる話を聞いていくうちに、彼女の正義がその童話に端を発している事が分かる。
分かるが故、リューは更に思考の沼へとハマっていまう。
同じものが、見えている。
笑顔を巡った戦い、その最前線で、彼女も戦っている。
知っている。彼女が、自身と違う何かを見て、実践していることをなんとなく知っている。
誰より、彼女は真摯に正義と向き合っている。
見たい。彼女や、アルゴ仮面の見ている景色を。
「アルゴノゥトって素敵な物語なのね! 私も読んでみようかしら」
だから、アリーゼがそう口にした時、リューも自然と物語について詳しく知りたいと思った。
彼女達の見ている景色を、見てみたいと。
上手く言葉にできないながらも、何とか自身の想いを言語化するリュー。
それを聞き、アーディも喜色満面になる。
「本当に!? やった、まさかリオンやアリーゼにまでアルゴノゥトの魅力を伝えられる日が来るなんて!
今度貸すから、是非読んでみてよ! さて、じゃあそろそろ私は巡回に戻るねー。みんなも新活動頑張って! それじゃ、またね!」
アーディは激励を残し、上機嫌で巡回に戻って行く。その姿を見ながら、リューは少しだけ、笑みを作っていた。
───
活動を始めてから数日。
リューは徐々にアルゴノゥト的在り方に染まりつつあった。
最初はただただ眩しかった。
しかし、彼等が悩むリューを放っておく訳もなく、リューを笑顔にしようと、彼等は奔走する。
気が付けば、リューも自然とまではいかないものの、肩の力を抜いて笑うことができる様になっていた。
辛い時、自身が真っ先に笑うことは、正直難しい。
彼らのように、上手くは笑えない。
そんなリューに、彼等はただ笑うことを求めない。
笑顔でないことを責めるでもなく、ただただ一緒に笑おうとするのだ。
ならば、せめて。
彼らのような者がそう在れるよう、自分は努力したいと、リューは思い始めていた。
「ライラ、お前はどう思う? 団長の悪ノリについてはもう諦めているが、あの青二才まで
輝夜がライラに話を振る。
リューの変化自体は良いことだ。
迷いばかり、己の正義に苦悩し下を向く位なら、指標が何であれ前を向く方が何億倍もマシだと輝夜は思っている。
だが、素性も知れぬ男の色に、まだ未熟な少女を染めさせるのは、楽観視出来ない。
どこかで、アルゴ仮面が裏切る可能性だってまだある。
故に輝夜は、ライラに探りを入れる。
ただの正義バカか、それとも狡猾な悪党なのかと。
「……ここんとこずっと目ぇ凝らして見てっけど、あれは本物の馬鹿だな。
仮面被って恰好付けちゃいるが、アタシ達に対して随分無防備だ。
まっ、不意付かれた所でどうにでもなると踏んでんのかもしんねぇけどな。
どちらにせよ、腹芸を上手くやれるタイプには見えねぇ。
アストレア様も問題視してねぇし、それはお前も感じてるだろ?」
肩の力を抜き、ライラも続ける。
警戒するのも馬鹿馬鹿しい、そう言いたいようだ。
彼女のいう通り、輝夜も今更アルゴ仮面が腹に一物あるタイプだとは思っていない。
損得はあまり考えず、ひたすら自身の正義を遂行しているタイプ。
真性のお人好し。
それが、輝夜から見たアルゴ仮面の評価だ。
なら何故警戒するのかと問われれば、彼が自身の情報をほぼ開示していないことにある。
能力やそれで作れる主な武具や道具については聞けど、出自や真名、素顔すら明かそうとしない。
現実主義な輝夜にとって、そのような不確定要素は、警戒すべき対象だ。
本人に悪意がなくとも、裏にいる誰かによって嵌められる可能性は捨象できない。
何より怪しいのが、あの【
アスフィが知らないならば、およそ真っ当な手段で手に入れた技術とは思えない。
何処かで禁忌に手を出している可能性は、絶対にないと言いきれないだろう。
それをライラに聞いてみれば、
「まあ、信用出来るかと言や出来ねぇな。
とは言え、アストレア様も何も言わないし、あいつらの空気に水を差すほどの事じゃねぇ。
関わってリスクのない奴なんか居ねぇし、アタシ達さえ警戒を続けりゃいいこったろ」
そう、彼女は言った。
概ね予想した通りの答えに、輝夜は軽く首を鳴らす。
異論はない。
怪しさは感じていながらも、他にこれといった悪感情も浮かばない。
時折綺麗事が目について癪に障る程度か。
後は……
「ならばこの巫山戯た格好も当分このままか……
勘弁願いたいな、気色悪い」
「……ハァ、アタシもだよ。
輝夜の言葉に、ライラも同意する。
悪ふざけが始まった元凶としての恨みも、若干ある二人であった。
────
「そう……いよいよ『大抗争』の日が近づいているのね」
「はい。元の歴史より多少敵の数を減らしてありますが、然程計画に変化はないと思います」
この時代に来て、そろそろ一月近く。
僕は、正義の女神アストレア様と密会を重ねていた。
彼女にだけは、僕の素性を明かしてある。
というか、神様相手に隠し事など出来るはずもない。
最初から関わらないという策を執るならまだしも、ファミリアのメンバーとがっつり合同活動している以上、どうしたって彼女と直接面会するのは避けられない。
なら、腹を割って話すのが一番だろう。
神酒で自身を魅了し誤魔化す、という手もなくはないけどね。
なるべく真っ当な相手には使いたくない手だ。
正義を名乗る者同士なら尚のこと。
それに、事情を知る協力者が居た方が、未来の情報を有効活用しやすい。いっそ、アルゴレンジャーを結成したみんなにも明かしてしまおうかと思ったが、アストレア様がストップをかけた。
流石に、下界の子どもが僕を未来から来た存在と認識するのは世界の秩序的にまずい、と。
折角素顔も真名も伏せて活動しているのだから、その認識は保っておいた方が、この世界に居られる期間にも余裕ができる、と。
うん、何となく分かっていたけれど、改めて神様に断言して貰えると諦めも付く。
「未来のヘルメス様から以前雑談感覚で聞かされた事件の詳細を元に、必要となるであろう
抗争中確実に不足する物資も、折を見て都市外から仕入れたものを街中の貸倉庫にストック済み。
これがその鍵です。
必要となるころ、恐らくもうこの世界に僕自身は居ないでしょうから、アストレア様にお預けしておきます」
僕はそう言って、アストレア様に鍵束を渡す。
何も今までアルゴ仮面としての活動ばかりしていた訳ではない。
大抗争、別名【死の七日間】は都市中を文字通り地獄に染め上げる、大戦だ。
多少敵の数を減らしたところで、多少現時点で市民の笑顔を増やした所で、雀の涙ほどにしかならない。
だから、他の部分でも極力当日有利になるよう、四六時中動き回っている。
どうせ寝たら元の時代に追い返されるのだから仕方ない、という口実で。
働きっぱなしの僕に、アストレア様は少々複雑そうながらも、鍵を受けとる。
「……分かったわ、ベル。貴方の協力、本当に感謝している。
これを使うとき居ないということは、決めているのね? 貴方の能力を使うタイミングを」
アストレア様の問いに、僕は頷く。
僕の能力というのは、勿論固有結界のことだ。
恐らく、それを展開したら最後、世界は今度こそ全力で僕を追い返す。
僕自身がこの時代の異物なのに、その心象風景を世界に上書きなどしたら、警戒度は跳ね上がるだろう。
どれだけ笑顔を集めても、本来の規模や効力には遠く及ばない上、力尽きたらその時点で僕はこの時代から退場する。
だとしても、使うタイミングなど、一つしかない。
「はい。大抗争当日、都市が地獄と化す前。
後の悪夢を少しでも、いえ、そんなものを残させないために。
様子見無し、全力で敵の計画を食い止めに動きます。
最終的な勝率を踏まえたら、あまり良い手ではないのですが……」
敵の計画は、街での大規模テロや神の送還を陽動に、神が
正直、固有結界を展開したとして、どれだけ敵の計画を邪魔できるかなど分からない。
確実性を取るなら、最終手段まで取っておくべきだろう。
だけど……
「目の前の犠牲を無視するようなやり方は、選べません。
僕がその道を選ぶ訳にはいかないんです。
ある人の理想が、僕の理想。誰かを見捨てた瞬間、僕の理想は破城する。
それだけは、出来ない。だから、全力で立ち向かいます」
今までにも何度か繰り返した覚悟を、アストレア様に伝える。
僕はこの生き方しか選べない。
多くを救える可能性より、全てを救える道を切り拓く。
フィルヴィスさんの時、
何度繰り返しても、僕は同じ選択をするだろう。
運良くそれらは上手く行ったけれど、上手く行かずとも、僕は同じことをする。
僕自身が、笑顔を作り続けるため。
なら、その意志がたとえこの時代に似つかわしくないとしても。
譲るつもりはない。
するとアストレア様は、優しげな微笑みを浮かべ、
「不思議ね。正義を体現する為に生きていながら、ある種利己的でもある。
誰より多くを救おうとしている子が、誰より我儘にさえ見える。
きっと、それが理想というものなのでしょうね、ベル。
貴方が残してくれたもの、必ず繋げるわ。
だから、私からは貴方に何も望まない。
貴方の心に従って、最後まで思うままに動いて頂戴。
どのような結末を迎えても、貴方は笑うのでしょう?」
そう、僕へ応援の言葉をくれるのだった。
この
否定せず、ただ肯定し、前を進む子を見守る。
だから、正義の派閥、アストレア・ファミリアは成り立つのだろう。
星の数ほどある正義、どれだけ相反しようとも、共存し得るのだと。
ヘスティア様が仲良くする理由、よく分かる。
そして、応援してくれるなら、是非応えなければならない。
僕は笑顔で頷き、
「はい! 必ず!!」
そう、力強く返事をした。
お読みいただきありがとうございます!
中々、アストレア・ファミリアの面々はエミュが難しいですね。
内心が表に出やすい人、リューさん位しかいませんし。
でも、このネタはベル君に仮面被らせたころから書きたいと思っていたやつなので、ちゃんと盛り上がるように頑張りたいと思います!
それではまた来月に!