ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない 作:空豆熊
イメージするのは常に最強の自分だ。神酒など恐れるに足らん
(不味い……想像以上に
とある日の昼下がり。
美の女神の派閥の団長を勤める、オラリオ最強の冒険者ことオッタル。彼は今、非常に頭を抱えていた。というのも、先日ベル・クラネルに試練を与えるため起こした騒動の後始末に追われていたからだ。
あれだけ派手に立ち回ってしまった以上、騒動の元凶がフレイヤ・ファミリアであることは、最早隠しようがない。だが、普段忖度の激しいギルドならば、それ程厳しい処罰にはならないだろうと踏んでいたのだ。
しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。何せ一般市民を危険に晒してしまったのだから。
敵対派閥を潰す程度ならまだしも、街自体を混乱に陥れた派閥を許そうものならば、ギルドの面子に関わる。そのため、莫大な額の罰金がフレイヤ・ファミリアへと課せられたのである。
その額は、団員総出で
当然、このような事態を引き起こした団長に対する風当たりは強い。
元々無に近かった団長としての威厳は完全に地に落ちたと言っていいだろう。
(何とかならないか……このままでは幹部連中が何をしでかすか分かったものではない……)
オッタルは焦っていた。不満が溜まった団員達が、いつ爆発するか分からないからだ。もしそんなことにでもなれば、最悪オラリオが割れかねない。それだけは何としてでも避けねばならない。
(しかし、俺に出来ることなど戦うこと以外無い。どうすれば……)
苦悩する彼の麓に、一本の吹き矢が飛来した。
それを咄嵯に掴むと、鏃に紙切れが括り付けられているのが見える。
「これは、ベル・クラネルからの手紙……?」
疑問に思いながらも、封を切り中身を確認する。
そこにはこう書かれていた。
『オッタルさん、また僕と茶番を演じてくれませんか?』
その手紙こそが、オッタルの窮地を救うことになるとは、この時の彼は知る由もなかった。
────────
「フッ、出たな。悪の怪人ブラックマスク!」
「待っていたぞ、正義の味方アルゴ仮面!!」
あの盛大な茶番を演じてからおよそ三週間後。僕は今、新たな茶番に興じている真っ最中だ。
舞台はいつもの路地裏。そして、僕と相対するのは、全身黒ずくめの覆面男ブラックマスク。その中の人は、言わずと知れたオラリオ最強の冒険者オッタルさんだ。
この間の一件は、それはもうオラリオ中を騒がせた。
ノリノリで悪を演じる最強の男と、皆の笑顔を集めながら正義を成す謎のヒーロー。おまけに固有結界などという未知なる力まで使いこなす始末だ。それはもう街は大騒ぎだった。
ならば、それを利用しない手はない。身も蓋もないが、正義の味方が正義を成すためには金が要るのだ。そこで、僕はこの機会にオッタルさんとの寸劇をオラリオの恒例行事にしようと画策したのである。
正義活動のための資金集め。所謂、
今、フレイヤ・ファミリアが金を必要としていることは知っていたため、オッタルさんも断りはしないだろうと踏んだわけだ。
このショーが盛り上がれば盛り上がるほど、アルゴ仮面とブラックマスクのグッズ販売は儲かるという寸法だ。今や、街中の子ども達が僕らの仮面を被ってごっこ遊びに興じるほどの人気っぷり。
これをオラリオのみならず、役者を増やし世界に広めてしまえば、世界中の人々にご飯と娯楽を届けることが出来るかもしれない。
そう考えると、俄然やる気が出てくるというものだ。
因みに、この興行を実施するに辺り、神様の盟友であるタケミカヅチ様の派閥の協力も得ている。
なんでも、彼らは故郷に仕送りをするためにオラリオへ出稼ぎに来ているらしく、お金が必要なのだという。なので、手伝って貰う代わりに彼等の故郷への支援をある程度優先すると約束したのだ。
正直、人手は幾らあっても足りないくらいだから助かった。特に、料理上手なヤマト・命さんの存在は非常に大きい。流石に僕だけだと手が回らないからね。
「みんなー! アルゴ仮面君特製ドリンク、まだまだいっぱいあるよ! しっかり水分を取りながら応援するんだ!」
「アルゴ仮面印のポテトフライもあるぜ! 塩加減抜群だぞ!!」
売り場担当の神様やタケミカヅチ様の声が響く。じゃが丸くんの売り子で培ったスキルを活かして、ざわめく観客達の間を駆け回りながら商品を売り捌いていく。
飲み物各種、お弁当、タオル、その他諸々の小道具に至るまで、僕とヴェルフが丹精込めて作った品々である。
「どうした正義の味方! お前の力はこんなものではないだろう!?」
「くっ、流石は悪の怪人ブラックマスク。やはり私一人の力では勝てんか……頼むぞ、皆の者! 私に力を貸してくれ! 私は皆の笑顔を守りたい! だから、どうか私を笑ってくれ!! アハハハッハァッ!!!」
すっかり決まり文句となった口上を叫びながら、双剣の片割を天にかざす。すると、観客達の笑い声が広場中に響き渡った。
「お前ら声が小せぇぞ! もっと腹の底から叫べ! さぁ、行くぜ野郎ども! 我らがヒーローの勝利を信じろぉおおおっ!!」
ヴェルフが更に煽り立てれば、それに応えるように観客達のボルテージは天井知らずに上昇していく。
流石は僕の相棒にして、仮面を作った張本人だ。その手腕には感服せざるを得ない。
「力が増したな、正義の味方! 面白い! お前の馬鹿げた夢物語、この俺が打ち砕いてやる!」
オッタルさんの演技も絶好調だ。普段とはかけ離れた熱演ぶりに、思わず仮面の裏で苦笑してしまう。
「皆がいる限り、私の正義は決して砕けぬ! 覚悟しろ、悪の怪人ブラックマスク! 貴様を倒し、必ずや平和を取り戻す!」
あははははっ、楽しいなぁ! 全力で茶番を演じきるのって、本当に気持ちいい! いやー、もう恥ずかしいとか言ってられないよね。だってこれ、マジで資金稼ぎになるし? オッタルさんと戦うことで修行にもなって一石二鳥だし? それに何より、オラリオの人達も楽しんでくれてるみたいだしね。うん、これは続けるしかないでしょう!
正義の味方は、今日も元気です。
────────
「はぁ……本当に真っ直ぐな人ですね……リリには少々眩しいです……」
正義の味方と怪人の戦いを遠巻きに見つめながら、お金を数えていた
彼女もまた、ベル・クラネルという男に救われた一人である。
彼女は幼少期より、ソーマ・ファミリアという名の派閥に所属している
その派閥は、オラリオの中でも最大規模の団員数を誇るが、冒険者達のLvはあまり高くない、いわゆる中堅派閥である。
しかし、その実態は酒造りにしか興味のない主神によって運営されている、ゴロツキ達の溜まり場のような場所であった。
誰もが主神の作る
特に、直接戦闘する訳では無い
そのような環境で生きていくためには、盗みや詐欺などのような悪事にも手を染めなければ、到底やっていけなかっただろう。当然心は荒んでいき、彼女の人生観は歪みに歪んでいた。
しかし、一人の正義の味方との出会いが、そんな彼女を救ってくれたのである。
ある日、とある
だが、食い下がる事の無い正義の味方に彼はこう言ったのだ。
『容易に酒に狂う人間の言葉は浅い。これを飲んでなお正気を保てたら話を聞こう』
その言葉と共に差し出された
それは、
元来、彼の心はどこまでも真っ直ぐなのだ。別の世界線では、ある人物への憧憬が美神の魅了をも打ち破ったほどだ。ならば、彼の正義が
そして、彼は言った。
『ソーマ様! これ程の酒を造れる貴方が、何故楽しく飲んでもらう努力をしないんですか!? 酒とは、人を笑顔にする素晴らしい飲み物だ! 料理にだって使える! それなのに、貴方はそれを自ら捨てている! 一人の料理人として、正義の味方として、僕はそれが許せない!!』
決して折れない正義の味方の姿に、場の空気は完全に変わってしまった。無関心を貫いていたはずのソーマまでもが、彼に興味を持ち始めたのだ。
そこから先は早かった。ソーマ・ファミリアは、たった一晩にして生まれ変わった。主神は積極的に運営を見直し、人々を惑わす
ベル・クラネルは、まさにソーマファミリアを救った救世主となったのである。しかし、この物語はここで終わらなかった。
「リリが正義の味方の補佐だなんて……今でも信じられません……」
そう、なんとあの正義の味方は、
確かに、自分は頭が回る方だと自負しているし、金勘定も得意だ。しかし、この身は幾つもの悪事に手を染めてきた小悪党である。そんな自分が正義の味方のそばにいることなど許されるはずがない。そう思い断ろうと思ったのだが、ベル・クラネルは首を縦には振らなかった。
『君は悪党ではあっても、悪人ではない。その目とボウガンを見れば分かるよ。惨めさ、辛さ、怒り、苦しみ、そして寂しさ。その全てを知っているからこそ、君に頼んでいるんだ』
その言葉を聞いた瞬間、少女は泣き崩れてしまった。今まで、誰にも見抜かれたことが無かった、自分の本心を暴かれてしまったからだ。
『君の知恵が必要なんだ。僕と一緒に、この世界に笑顔を増やしていこう!』
その日、小人族の少女は心に誓った。いつか、必ず恩返しをしてみせる、と。だから、今日も彼女は、ベル・クラネルという男についていく。彼が歩む道は、どこまでも真っ直ぐで、輝いている。その隣に並べるよう、今日も彼女は頑張るのだ。
「正直荷が重いですが……あそこまで言われては引き下がれません。このリリルカ・アーデが、ベル様を世界で一番のヒーローに仕立て上げてみせます!」
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アルゴ仮面グッズ売り上げランキング(第1回)
1位:スポンジ製干将・莫耶
2位:アルゴ仮面タオル
3位:アルゴ仮面変身セット
4位:ブラックマスク変身セット
5位:ブラックマスクタオル
6位:アルゴ仮面フィギュア
7位:ブラックマスクフィギュア
8位:アルゴ仮面Tシャツ
9位:アルゴ仮面マグカップ
10位:ブラックマスクTシャツ