ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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来るものは拒まんよ

「ああぁぁぁぁ!! ベル、オッタル、貴方達本当に最高だわ!!」

 ある日の早朝、いつものように盛大な寸劇をくり広げているベルとオッタルを、バベルから鑑賞しながら美の女神フレイヤは大興奮していた。

「なんて魂の輝きなの! もっと見せなさい、私に見せつけなさい! 私は貴方達の虜なの! 愛してるの! 私の全てを捧げたいのぉおおお!!!」

 彼女の頭の中には、もはやベルとオッタルのことしか無かった。

「ああ、こんな場面に巡り会えるなんて……神はいたのね。いえ、私が神なのだけれども」

 興奮のあまり思わずベタなボケをかましてしまうほど、今の彼女のテンションは高かった。

「ああ、ベル……! やっぱり貴方が欲しい、欲しくてたまらないの……っ! でも、強引に手に入れても、貴方はきっと今ほど輝いてくれない。実力行使で攫っても、魅了で籠絡しても、貴方の正義はきっと霞んでしまう。そんなの嫌なの! そんなの認めないの! 貴方はもっともっと美しくなるべきだから! 正義の味方ベル・クラネルは、常に笑っているべきなのだから! だから、その笑顔を曇らせるような真似をしてはいけない。でも、でも、でも、やっぱり貴方が欲しぃいいいっ!!!」

 そう言って悶え苦しむ女神の姿は、最早美の体現者ではなくただの変態であった。

「ああ、ベルぅうううううううううううううううううううううううう!!!」

 そして、ついに我慢の限界に達したのか、フレイヤは立ち上がり、天に向かって叫んだ。

「こうなったら正面突破よ! ただの町娘(シル)として、いつか貴方と結ばれて見せるんだからぁあああっ!!!」

 こうして、フレイヤは一つの決意を固めた。勝算は決して高くない。

 自身が彼のタイプではないことを、彼女はよく理解していた。

 何度か酒場の店員としてアプローチをかけたこともあったが、彼は少し顔を赤くするだけで全く靡く気配はなかった。しかし、それでも今回ばかりは正攻法しかない。

 縛られた正義の味方など、誰が望むだろうか? いや、誰も望まない。彼の輝きは、誰よりも自由でなければならないのだ。

 例えライバルが多くとも、どんな障害が待ち受けていようとも、どれだけ時間がかかったとしても、必ず彼を手に入れてみせる。

 それが、正義の味方としてのベル・クラネルに初恋をした美の女神の、新しき戦いの始まりだった。

 実際にそれが叶うかはまた別の話だが。

 

 

──────────

(フレイヤ様が、あの兎相手に本格的アプローチに出たか)

 フレイヤの様子を見て、幹部の一人たる白妖精(ホワイトエルフ)のヘディンは考える。

 彼は、自身が崇拝する主神が一人の少年にご執心であることについて、思うところがないわけではなかった。

 少年の姿は、彼の目にはあまりに滑稽に映ったからだ。先天的な才などなく、正義の味方への憧れだけを武器に、馬鹿げた力を手にするに至り、ごっこ遊びに興じる子ども。

 端的に言えば、『愚者』以外の何者でもない。

 だが、同時に興味もあった。そのごっこ遊びは、奇しくも彼自身がかつて人々にやらされ、くだらないと思いながらも最後までやり抜いたものと同じだからだ。

(あえて担がれることで、有象無象の人間共を纏め上げ、世界を変えようと奮闘する愚兎……例え、どれほどの責を負うことになろうと、決して折れぬその存り方は、王と正義の味方という違和を除けば、かつての私を彷彿させる)

 そう考えれば、多少なりとも彼に親近感を覚えてもおかしくは無い。

 決して認めきってはいないものの、確かにベル・クラネルは彼が評価するに値するだけの器の持ち主ではあった。それに、ベルが関わるようになってからというもの、自分達の拠点が便利になりつつあることも事実だった。団長が仲良くなったことで、通信機や電卓などの便益をもたらす投影品を、時々融通してくれるようになったからだ。

 だからといって、別に団員達がベルに好印象を抱いているわけでもないのだが、悪感情ばかり抱いている訳でも無い。

(まあ、態々介入する必要もない。何処で覚えたか知らないが、田舎者の癖に紳士を演ずることも出来るようだしな。貴様がフレイヤ(シル)様の想いを弄ぶようであれば、その時こそ我が手で始末してくれる)

 そう思いながら、ヘディンは思考を切り替える。先程から何やら残念な同胞の声が聞えてくるので、そろそろそちらへ意識を向けることにした。

「……くくく、正義の味方アルゴ仮面よ……この俺の右手に宿りし暗黒の力を見たまえ……」

(あの愚兎と波長が合いそうなこの阿呆の尻を、蹴飛ばしてやるとするか)

 コミュ障を拗らせるあまり、一人で中二病ごっこを始めた同僚に、全力で無の視線を浴びせかけるヘディンであった。

 

 

───────

「ベル・クラネル、こちらは入隅まで貼り付けたぞ」

「ベル、こっちも終わったぜ!」

「了解です! それじゃあ、今日のところは切り上げということで。お疲れ様でした!!」

 いつもの寸劇を終えたあと、僕はヘスティア・ファミリアの拠点にしている廃教会にて、ヴェルフやゴブニュファミリアの人達と改修作業を行っていた。

 金に不自由しなくなってきた今、何時までも住処をボロボロのままにはしておけないと思ったからだ。

 日々忙しくしているため、大半の時間ゴブニュファミリアにお任せしているが、今日のように手が空けば僕も手伝うようにしている。

 何故ヴェルフがここいるかといえば、今日はこの後アルゴ仮面の活動に関わる打ち合わせがあり、どうせうちにくるなら手伝いたいと言われたため、お願いすることにしたのだ。

「しかし、態々ここを改築するより、新拠点を作ってそちらに引っ越した方が効率が良かったのではないか?」

「それはそうなんですけど……僕と神様が過ごしてきた思い出の場所なので、どうしても離れたくないというか……それに、この教会は凄く落ち着くんですよね」

「ほう、随分入れ込んでいるようだな」

 僕の言葉を聞いた団員さんが感心するように呟いた。ヴェルフもお前はそういう奴だよと言わんばかりの表情を浮かべている。

 実際、自分でもよく分からないのだが、この教会からは自分と近しい誰かの想念のようなものを感じるのだ。剣ではないため、詳しいことはわからないが、確かに何かがある。それが誰のものなのかまでは分からないが……。

 まあ、別に悪いものでもないみたいだし、深く考えなくてもいいだろう。神様も賛成してくれたことだし。そんな事を考えながらゴブニュ・ファミリアの人達を見送ると、僕達は台所に移動した。

 

「そろそろみんなが打ち合わせに来る頃だね。お茶の準備でもしようかな」

「そうだな。俺は食器とか用意しておくぜ」

「ありがとう! よろしくね!」

 そう言って、二人はそれぞれの仕事に取り掛かった。時刻は夕方に差し掛かっており、神様も神会(デナトゥス)から帰ってくる時間だ。

 年四度行われる、神々の集会。通称、神会(デナトゥス)

 主にランクアップを果たした冒険者の二つ名を決したり、情報交換を行ったりする場であるらしい。

 オラリオに来てからの一月半の間、僕はミノタウロスとオッタルさんとの死闘で二度、ヴェルフも宝具を打ち直した件でランクアップの条件を満たしたため、今回二つ名が決まる対象となっていた。

 どのような名前になるのかドキワクである……と言いたいところだけど、実はもう神様とロキ様に付ける名前は頼んであるので、特に楽しみでもない。

 と言うのも、最近巷で呼ばれている僕の異名がとっ散らかっていて、これ以上混乱するような名前が付けられてしまうと困るからだ。

白兎の家事妖精(ラビット ブラウニー)】だの、【仮面の弓兵(マスク アーチャー)】やら、【錬鉄の白兎騎士(ロートアイアン ホワイティ ラビットナイト)】だったり……果ては、【兎の皮を被った怪物】なんていう、酷いあだ名まであったりと、最早自分が何者なのかすら分からなくなってきていた。

 格好良い二つ名には勿論憧れる。でも、僕が何者であるかが、一発で分かってもらえるように、シンプルかつ分かりやすいものがいいのだ。

 結局のところ、僕が名乗るなら【正義の味方】しかありえない。

『分かったで。ウチの権力でゴリ押したるから、安心してええよ!』

 と、ロキ様が言っていたので、多分大丈夫な筈。もし気が変わって変な名前を付けられたらその時はその時。ロキ様に料理を振る舞うことなど二度と無いと思えばいいだけの話だ。

 

「俺としては、【兎鎧(ピョンキチ)】が良いと思うんだがなぁ……」

「嫌だよ!?」

 ヴェルフがぼそりと漏らした言葉に、僕は全力で拒否を示す。

 流石にその名は勘弁願いたかった。防具にその銘が刻まれているだけでも発狂しそうになるのに、それを自分自身の名にされるなどあまりに酷すぎる。

 ほんと、ヴェルフのネーミングセンスだけはどうにかして欲しいものだ。明らかに異世界の知識を持っている神様達以上に、前衛的なのだから。

 悪気ないとはいえ、少しくらい仕返ししてもいいよね? 

「ヴェルフは何だろうね。やっぱ【不冷(イグニス)】かな?」

「おいやめろ、思い出させんな! 只でさえあちこちで揶揄われてんだぞ!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶヴェルフ。

 先日、僕と共に作り上げた至高の双剣を、ヘファイストス様に評価してもらった時、色々あってヴェルフは彼女に格好いいことを口にしてしまったのだ。

 そして、その台詞は一瞬にして都市中に広まり、暫くの間は彼に対する称賛と冷やかしの声が止まなかった。あの時は本当に大変だったのだ。ヴェルフは恥ずかしすぎて死にそうになっていたし、神様は神様で、そんなヴェルフを見てはニヤニヤしていたし。凄く格好いい台詞なんだけどね。

 そんな風にじゃれ合っていると、不意に入口の方からガチャァンッと大きめの音が響いてきた。神様かな? と思ったけど、次に聞こえてきた声は神様のものではなかった。

 

「ベル殿ぉおおおっ!!!」

「おわあああっ!?」

 突然、凄まじい勢いで扉が開け放たれたかと思えば、慌てた様子の命さんが飛び込んできた。

 彼女も打ち合わせメンバーの一人なので、ここに来るのは当然なのだが、随分な形相をしている。一体どうしたというのだろうか。

 命さんはそのまま僕達に駆け寄ると、息を整えることもせず、捲し立てるようにしてこう言った。

「大変です! 拠点(ホーム)の前で【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】が不審な挙動を取っています!」

「……はい?」

 僕は彼女の言っていることが理解できず、思わず聞き返してしまう。

黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】と言えば、フレイヤ・ファミリアの幹部の一人、ヘグニ・ラグナールさんの二つ名だ。

 フレイヤ・ファミリアとは最近特にいざこざはなく、良好な関係を築いていたはずなのだが、何故そのような怪しまれる行動を取っているのだろうか。

 一先ず、詳しい事情を聞くため、僕達は命さんに連れられ、拠点の外に出た訳だが……そこで見た光景は、僕の予想の斜め上を行っていた

 

「くく……正義に生けし兎よ、我が身と共に踊ろうではないか。共にこの世を混沌へと導いていこう」

「……はあ? お前は何を言ってるんだ」

 ヴェルフが心底意味が分からないといった表情を浮かべている。無理もない。

 これはあれだ。英雄エミヤの故郷で言うところの、中二病という奴だ。

 神々ならともかく、下界に住む人間に理解しろというのは、あまりにも無茶な話だ。いやうん、この人も下界の住民なんだけど……

 まあいいや、特に敵意があるわけじゃないみたいだし、普通に挨拶すればいいだけだ。そう思い、僕は元気よく声を掛けることにした。

「こんにちは、ヘグニさん。僕たちと遊びたいなら、中に入りませんか? 丁度お茶を入れていたところなので」

「「「!?」」」

 僕が笑顔で放った一言で、場に居た全員の顔が驚愕に染まった。

 ヴェルフと命さんはともかく、何故ヘグニさんまで驚かれているのだろう。解釈間違ってたかな? 一緒に遊ぼうって意味だと思ったんけど。

「い、いいい、良いのか!?」

 あっ、合ってるっぽい。

 僕としては別に構わないので、二人にも目配せをしてみる。すると、二人は肩透かしを食らったかのように、呆然としながらも首を縦に振ってくれた。それを見たヘグニさんは、目を輝かしながら僕達の方へ近付いてくるのだった。

 

 そして現在、

「我が漆黒の大剣は、数多の敵を屠り、大地を穿つ。その一撃は、星すらも砕かん。

『判定:失敗』なんでだよぉっ!!」

「フッ……その程度では私を倒すことは出来んな。いくぞ、暗黒の妖精達よ! 我が正義の刃を受けよ!! 『判定:クリティカル』これで終わりだぁああっ!!」

「ふざけろっ! お前さっきからクリティカルばっかじゃねぇか!!」

「ぬおおおおっ!? 自分のキャラクターが早くも瀕死です!? ああ、タケミカヅチ様……自分はどうしたら……」

 テーブルの上で繰り広げられる熱い戦い。僕達四人はすっかりゲームに熱中してしまっていた。

 ヘグニさんが持ってきたのは、近頃のアルゴ仮面ブームを受けて神々により作られた、RPG(ロールプレイングゲーム)と呼ばれる卓上遊戯のルールブックだ。

 簡単に言えば、ルールを定めて行うごっこ遊びみたいなもので、サイコロを転がしてキャラクターを操作し、演技をしながら物語を進めていく。

 今回は長編シナリオをやる時間が無かったので、プレイヤー同士で戦うバトルパートのみで遊んでいるわけだが、随分と盛り上がっていた。因みに、照明は無し。暗い方がヘグニさんの人見知りが発動しないのだ。余計イタい集団に見える気がするけど、そこは気にしないことにしている。今更だしね。

「なんということだ……我ら漆黒の騎士隊がここまで追い詰められるとは……だが、負けられない。この身朽ち果てようと、貴様に一矢報いるまでは!! 喰らえっ、これが私の最後の力だぁっ!! うおおおおおおおっ!!」

「正義の盾は無敵なり! 何者も我が正義を貫くこと能わず!!」

 僕達のテンションは最高潮に達していた。

 最初は戸惑っていたヴェルフと命さんも、今はノリノリである。仲良くなって良かった良かった。

「ベル君ただいまー! 君が望んだ遠り二つ名は……って、えぇっ!? なにこれどういう状況!?」

「……一体何がどうしたらこんなことになるんですか」

 と、神様とリリが到着してもなお、しばらくこの茶番は続いたのであった。

 

─────────

RPG(ロールプレイングゲーム)

 直訳すると、「役割を演じる遊戯」という意味になる、異世界のとある米国で生まれた文化。

 英雄エミヤの故郷(現代日本)においては、CRPG(コンピューター ロールプレイングゲーム)と区別するため、TRPG(テーブルトーク ロールプレイングゲーム)と呼ぶのが一般的だが、こちらの世界にコンピューターなどというものは存在しないため、区別用の呼称は無い。

 

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