ベル君が錬鉄の英雄に憧れるのは間違いなんかじゃない   作:空豆熊

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剣は飛ぶものだ(前編)

 なんとかソーマ・ファミリアの方々を説得(料理提供)して、その場を収めた帰り道。何やら慌ただしい雰囲気を感じ取った。

 ロキ・ファミリアの団員達が、街のあちこちを走り回っているようだ。何事かと思い、近くを通りかかった男性に声をかける。

「すみません、何かあったんですか?」

「ああ、なんでも遠征部隊が 毒妖蛆 (ポイズン・ウェルミス)の猛毒を受けたらしくてね。あれの解毒には同 怪物 (モンスター) 体液 (ドロップアイテム)が必要なんだが、希少種で一店舗じゃ数がないんだ。

 それで、街中の店を探し回ってるってわけさ。そうだ、あんたなら作れたりするんじゃないのか?」

 男性に言われ、僕は一瞬思考する。確かに、その毒の解毒薬ならば、剣に塗り込んだものを最近剣の丘にストックしたばかりだ。しかも、その剣はヴェルフにより魔剣と化していた。

 非常事態に備え、あらゆる病人や怪我人に対応できるように市販の薬はある程度魔剣にしておいたのだ。

 安易に量産すると薬が値崩れを起こしてしまうため、なるべく控えるようにしているが、出し渋って死者が出ては正義の味方失格である。

 僕はすぐに行動に移った。

 

「教えてくれてありがとうございます! それでは!」

 僕はすぐさまロキ・ファミリアの拠点、黄昏の館へと走った。

 門番に実物を投影して見せ、そのまま中へ入らせてもらう。丁度幹部のベートさんが一旦戻ってきたところだったようで、彼にも投影した魔剣をみせたところ、

「兎野郎、今すぐ量産出来んだな!? そいつなら効くと俺の鼻も言ってんだ! 代金ならフィンの奴が正当な額を出すっ!」

 と、どうやらこの剣の解毒効果を認めてくれたようであった。

 ならば話は早い。

 そのまま大量に投影し、にベートさんは僕から魔剣を受け取れば、またすぐに迷宮(ダンジョン)へと向かっていった。後に遠征部隊はみんな無事に生還したことを聞いた。

 

「ほんま助かったで。ウチの子らが苦しむ時間を最小に抑えられたわ。ミノタウロスの件といい、少年には世話になりっぱなしや」

 ドチビんとこに借りを作るのはシャクやけどしゃーないなぁ、などと愚痴りながらも感謝の言葉を述べるロキ様。

「いえ、こちらも二つ名の件がありましたし……それに、正義の味方として当然のことをしたまでです」

 僕の言葉に相変わらずやなぁと苦笑しながら返す彼女だったが、次の瞬間表情を引き締めると、こう告げてきた。

「せやけど、有事の際に動いてくれんのはありがたい話や。最近はウチらも厄介な案件抱えとるさかいな。

 そこでや、恐らく今後も協力してもらう場面が出てくるであろう少年に一つ提案があんねん」

 そう言うと彼女は、ニヤッと笑いながら僕の方を見て言った。

「海に行かへん? 丁度港町に用事があったんよ」

 

──────

 港町メレン、オラリオから南西3K(キロル)程離れた場所にある街であり、海外との玄関口でもある。

 ニョルズ・ファミリアによる漁も盛んで、迷宮都市の食事事情を支えている場所でもあった。

 ロキ・ファミリアは、とある案件に関わる調査のために訪れることになった訳だが、親睦を深めるため(そしてあわよくば海鮮料理を振舞ってもらうため)、ベルとヘスティアを誘った訳だ。

「態々君が女の子ばかり選んだ旅にベル君を同行させるなんて、そこまでしてベル君の好感度稼いで、何を企んでるんだい君は」

 と、警戒心も露わなヘスティアが尋ねてくる。

 相変わらずしばきたくなるほどの豊満な胸をした女神だ。

「お前はウチのことなんやと思っとんねん、こんくらいの礼は別になんも企みなくともするわ。

 それにあの子の性格上、ウチの方から巻き込まんとも自分から首突っ込むやろ。

 ほんなら、最初から協力体制バッチリで挑んだ方が、まだ安全いうもんや」

 これはそのためや、と続けるロキ。

 ヘスティアは納得半分疑い半分といった様子だが、何もせずともベルが厄介事に自ら飛び込んでいくタチなのは身にしみていたようで、ロキ・ファミリアとの関係を深めること自体には反対はしなかった。それはそれとして喧嘩は売ったが。

 

「ふーん、そこまで言うならいいけどさぁ……ところで君、その貧相な身体で水着なんか着て、意味あるのかい? 誰に需要があるんだい、君みたいな身体付きに」

「よーし戦争や、その無駄肉削ぎ落として、水着たるんたるんにしたるわァ! このロリ巨乳女神が!」

 やはりいつまでも真面目な空気は続かず、結局いつものように喧嘩を始めてしまう二柱であった。

 

 一方、件の少年は、

「フィッシュ、フィーッシュ! これで18匹目です!」

 と、彼の憧憬が見れば共にはしゃげそうなほどのテンションで、釣りを楽しんでいた。

 他の者が水着を着ている中、一人だけ白シャツに長ズボンという、この空間では異彩を放つ服装だが、本人は全く気にする様子がない。

「あーっ! 一匹分遅れてるぅ!」

「気張んなさいバカティオナ! 【潜水】アビリティ持ちとして、魚の捕縛量で負けるわけにはいかないのよ!!」

 と、騒いでいるのはロキファミリア幹部、ティオネとティオナのアマゾネス姉妹。

 海に着くなりノリノリで釣りを始めた正義の味方(?)に対抗意識を燃やして、魚突きに精を出している。

 ちなみにその隣には、

「三人とも、ちょっと怖い……」

 と、若干引いているアイズの姿もあった。その更に隣で、彼女を慕うエルフの少女レフィーヤが、

「アイズさん、あんな野蛮なヒューマンに付き合う必要ありません! あちらで私と泳ぎましょう!」

 と、必死に説得している。

 しかし、その言葉はアイズにとって受け容れがたいものであった。

(うっ……レフィーヤの誘いは嬉しいけど、行ったら泳げないことがバレちゃう……)

 出来ればそれは避けたかった。

 自身を尊敬してくれる後輩の前で無様な姿を見せるなど、僅かでも抵抗がある。故に、彼女はこう答えた。

「わ、わたしは釣りしてみたくて……ごめんね?」

 その返答に、ガーン! とショックを受けるレフィーヤ。

(ぐぬぬぬ、このままでは私のアイズさんがあのちょっと勇気があって、強くて、料理も出来るだけのスケコマシに取られてしまいます!! こうなったら、非常に癪ですが私も……!)

 意を決したように、彼女はベルの元へ歩み寄る。

「ベル・クラネル! 私とアイズさんにも釣竿を貸してください! 

 あと、あとぉ……! 使い方を教えてくれませんかぁ!?」

 屈辱に耐えながら顔真っ赤にしてお願してくる彼女に、ベルは快く応じた。

「はい! もちろんですよ!」

 すぐさま二人分の道具を投影すると、丁寧に使いかたを教える。

「動力源は繋いであるので、早速ゼロセットです。道糸と仕掛けの繋ぎ目を海面につけて、リセットボタンをポチっと押したら、後は待つだけです! 魚がかかったら、ダイヤルを回せば勝手に巻き上がりますので! 回し具合で速度調整も出来ます!」

「勝手に巻き上がるって……一体何処でこんなアイテム見付けたんですか貴方は……」

 と、呆れた様子で呟きながらも、言われた通りに操作するレフィーヤ。

 その様子を見て、アイズは微笑ましく思いながらも、少々苦戦していた。

(少し扱い方間違えたら、壊しちゃうかも……)

 渡された道具のその繊細な造りに、思わず躊躇してしまう。そんな彼女の様子に気付いたのか、二人は、

「アイズさん、どうせ投影品なので気にせず使ってください」

「差し支え無ければお手伝いしますよ? 大体勝手は分かりましたし」

 と言ってくれた。

 自身を慕ってくれる可愛い後輩冒険者二人に、気を遣わせてしまったことを申し訳なく思うも、ここは素直に甘えることにした。脳内の幼いアイズが、「わーいっ」と両手を挙げて喜んでいる。

 そうして三人は仲良く並んで釣りを始めた。

 

 「フィィッシュ!! 見ましたかベル・クラネル! 私にかかれば釣りなど造作もありません!」

「凄いですレフィーヤさん! そんなに早くコツをつかめるなんて!おっと僕も大物フィィッシュ!」

 お互いに自身が釣った魚を自慢しあう二人。

 その光景に、アイズは自然と頰を緩めていた。

(二人とも、楽しそう)

 初めての釣りは、アイズにとっても楽しい時間となった。戦いしか知らない自分には新鮮な体験であり、何より、自身の隣ではしゃげる後輩の笑顔に、アイズは嬉しさを隠せない。

 ダイヤルの調整は思っていたより難しく、中々上手くいかないが、それすらもなんだか楽しく感じる。

 そんな時だった。

「っ! かかった!!」

 アイズの竿に、確かな重みがかかる。今度こそは逃がさないとばかりに、神経を集中させ、ダイヤルを調整する。

(ルアーの動きに合うように巻き取り速度を調整しないと……!)

 何度も隣の二人が教えてくれた手順を思い出しながら慎重に操作していく。

「アイズさん、ファイトです!」

「頑張ってくださーい!」

 二人の応援を受け、ついに獲物が海面へと姿を現した。

 アイズは、ここぞとばかりに力一杯に引っ張った。バシャンッと勢いよく飛び出してきた魚影は、そのまま宙を舞うと砂浜の上に落下する。

「アイズさん、やりましたね!!」

「すごいです! 大物じゃないですか!!」

 と、ベルとレフィーヤが歓声を上げる。二人とも自身が釣った時よりも嬉しそうだ。この反応にアイズは何だかくすぐったく感じつつも、喜びを抑えきれない。

 初めての釣りは、アイズにとって忘れられない思い出になった。

 

─────

 翌日、平和だった港町(メレン)が混沌に包まれようとしていた。あの後、この地にカーリー・ファミリアが現れた。

 アマゾネスの聖地たるテルスキュラにて運営される国家系ファミリアで、そこでは毎日のように“儀式”と称したアマゾネス同士による殺し合いが行われているらしい。

 今でこそ、ロキ・ファミリアに所属しているティオネとティオナも、かつてはその国で何人もの同胞を殺すことを強いられていた。

 久々に彼女達と再会を果たしたカーリーは、彼女らに再び“儀式”させるため、あろうことかレフィーヤを攫って連れ去り、お前たち二人だけで来いと手紙を送ってきたのだ。

 大切な後輩を餌にされたことで激昂しながらも、ティオネとティオナは指示通り、指定された場所へと向かったのだった。

 当然、ロキ・ファミリアのメンバー達が黙っている訳がないため、カーリーはとあるファミリアと共に、足止めを差し向けることにした。そのファミリアとは、オラリオ歓楽街にある娼館を束ねる組織、イシュタル・ファミリアである。

 当初、イシュタルはこの要求に難色を示していた。ロキ・ファミリアの冒険者達は、常識外れの強さを誇る猛者が揃っている。おまけに今この港町には、近頃話題である【正義の味方】まで居る始末なのだ。戦えば間違いなく大損害を被るだろう。

 しかし、カーリーにとある依頼を出している手前、断ることは許されない。故に、イシュタルは渋々とだが了承した。危なくなれば即撤退することを条件として。

(あの結界魔法を使われたら逃げるのも不可能だが……あれはオラリオの総人口と、奴自身の名声と実力があって初めて成立するものだ。人口に劣るこの都市では使えないはず。弓で追撃されれば面倒ではあるが……まぁ、振り切るくらいなら何とかなるか)

 と、彼女は高を括っていた。

 結果から言えば、それは間違いであった。

 彼女は知らなかったのだ。件の少年が、また新たな力を手に入れていたことに。

 彼女は知らなかった。ベル・クラネルが今まで見せてきた芸当は、彼の手の内の一端に過ぎなかったことを。

 敗走する敵を捕縛するための手段など、いくらでも持ち合わせていることを、彼女は知る由もなかった。

 故に、彼女がこの先味わうのは、絶望以外の何物でもない。彼女が長年に渡って組み上げてきた計画も、一夜にして全否定されてしまうのだから。

 ──────

「ふむ、いつぞやの食人花か。行け、ロキ・ファミリアの冒険者達よ。

 共に釣りを楽しんだ私の友人を餌にする者達を許すな。

 何、心配はいらないさ。私は死なん。街の皆もだ」

 夕暮れ時。大量発生した怪物(モンスター)達を前に、仮面を被り武装した正義の味方はそう言った。

 その言葉に、アイズは少々不安げな表情を浮かべるも、自身の仲間達と共にその地を後にする。

 

「行ったか、さて──ー」

 アイズ達の背中を見送った彼は、無色の魔剣を一閃した。

 味方がいる場所で、これを撃つ訳にはいかなかないのだ。

 その刃から放たれるは、魅惑の酒霧。

 酒の神により創られし神酒は、精霊の血を持つ鍛冶師により、

 その魅了性を凝縮し、魔剣へと昇華した。

 その無色透明な魔剣は、神をも酔わす魔性の美酒。

 決して人に向けてはならぬ、破滅の魅了。

 食人花達は、辛うじてその誘惑を跳ね除けるも、 身体が、随分自由を失っていることに気付く。

 こなくそ、と食人花達は正義の味方に襲いかかるが、大して余裕を奪うことも出来ない。

 むしろ、双剣をもってあしらいながら、とどめの準備を始る始末だった。

 

「───投影、開始(トレース オン)

 その呪文を口に出すのは、いつ以来だろうか。

 思えば、最近省略してばかりいた気がする。

 

「───憑依経験、共感終了」

 あらゆる武器の基本理念がその身に刻まれる。同時に、脳裏に浮かび上がる無数の剣。丁寧にそれらを一つずつ完成させていく。

 全て、第一等級武装に匹敵する切れ味を持つ業物だ。

 

「───工程完了。全投影、待機(ロールアウト バレット  クリア)

 準備は整った。後は実行に移すのみ。今まで固有結界を展開した時くらいにしか使わなかった物量攻撃が、今こぞって解き放たれようとしていた。

 

「───停止解除、全投影連続層写( フリーズアウト ソードバレルフルオープン)!」

 瞬間、膨大な数の刀剣が順次射出され、食人花に降り注ぐ。

 賽は投げられた。彼はもう止まらない。

 

─────

酒流

 神酒(ソーマ)とクロッゾの魔剣のハイブリッド。

 その魅了性は、あまりに凶悪だった。

 もし人の身で原本(オリジナル)の酒霧を浴びたら、果たしてどうなるのだろうか。

 想像するだけで、怖気がする。

 正義の味方は、贋作しか対人で使わない。

 それこそ、生かすか殺すかすら選ばねばならない時を除いて。

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