ヒロミと留美がオーバーデモンズの助けもあってユキオ、マリコのコンビの追っ手を巻いた頃。幸せ湯では一輝とさくらが目を見開いていた。
「「ヒロミさんが誘拐事件!?」」
『ああ。でも、私達はそんな事態にはなっていないと信じているからね。あの真面目なヒロミの事だ。恐らく、ヒロミに似ている誰かがやったに違い無いと見ている』
狩崎はヒロミが誘拐犯と世間に睨まれている事情を説明すると二人はそれを受けてヒロミの冤罪を晴らすために協力する事を約束した。
「……だったら俺達も捜索に協力します」
「うん。ヒロミさんのお陰で今の私達がいる訳だし。手伝いますよ」
『感謝するよ。二人共』
それから一輝、大二は幸せ湯から出るとヒロミ達の捜索を探す事にした。先程光がヒロミを一度見つけたという事もあって捜索する方角は大分絞られている。後は警察よりも先に見つけて保護するだけだ。
同時刻。森の中にある公園から離れたヒロミと留美は二人で物陰に隠れて話をする事に。
「ひとまず、追っ手からは逃げられたか。……なぁ、奴等は君達に何をしようとしていたんだ?」
「え?えぇっと……わかんないよ」
留美はかなり動揺した様子で答えを返す。ヒロミはそんな彼女を見て何かを知っていると感じるが、あまり無理に追求するのも酷なので一旦考えない事にした。
「あ、私……ラーメン食べたいな!」
そんな中、留美は話題を逸らすように近くにあったラーメン屋を指差す。ヒロミはどうすべきか考えるものの、今はお腹が空いている状態だ。そのため、これ以上何も食べずに動くのもリスクがあると考えて一度ご飯にする事にした。
「……腹が減っては……か。行こう」
それから二人はお店に入るとラーメンを注文。目の前に出されたラーメンを見て留美は興奮する。
「うわぁあ……美味しそう!」
「ああ。そうだな」
「いただきます!」
それから留美がラーメンを口にするとその美味しさに顔を綻ばせる。そひて彼女は気になる言葉を口にした。
「……お姉ちゃんも来たらもっと楽しかったんだろうなぁ……。こんな美味しい物、食べた事無かったよ」
「そういえば、さっきから言ってるお姉ちゃんってあの時留美を守ろうとしていた女の子の事か?」
「うん!あ、でも……お姉ちゃんとは本当の家族じゃ無いんだ」
「……え?」
「向こうの人達にそう教えられたって言えば良いのかな?とにかく、お姉ちゃんの方も私の事を可愛がってくれて」
留美の言葉にヒロミは考える。留美と千春の間には自分達にはわからない姉妹と言えるような何か深い関係があるのかと思考する。
「そうそう。おじちゃん。これ食べたら遊園地行こうね!」
「お、おう……あと良い加減。お兄さんと呼んでくれないか?」
「えー?わかった〜!」
留美は僅かに考えた後、不意打ちとばかりに自分のラーメンの中に入っていた熱々のメンマを掴むとそれをヒロミの口の中に放り込む。
「熱っ!?熱つっ!」
「ふふっ。おじちゃん、面白いね!」
そんな風に留美はヒロミの事を揶揄うとヒロミは何とか熱々のメンマを食べて飲み込む。その様子に留美はヒロミに反応が面白いと口にしていた。
「おじちゃんみたいな人が私の家族にいたらなぁ……」
「………」
留美は僅かに悲しそうな声色でそう言うと店の中にあるテレビから速報が聞こえて来る。
『ここで速報です。警察は少女誘拐事件の重要参考人として門田ヒロミ容疑者を指名手配しました』
その速報が裏付ける事はただ一つ。それはヒロミが完全に世間から誘拐事件の犯人として特定されたという事だ。
「指名手配……だと?そうか。アリコーンの狙いは俺なのか」
ヒロミがそう言う中、他のお店の客がヒロミの顔を見て目を見開くと声を上げる。今目の前で流れているニュースの指名手配犯が目の前にいれば騒ぎになるのも当然の事だ。
「おい、アンタ!!」
「ッ!」
ヒロミは慌てて片手で顔を隠すも、もう遅い。他の客達もヒロミに気がついて騒ぎ始める。するとそこに店の店主が駆け寄ってきた。
「お代は良いからこの子を連れて早く逃げな。……何か理由があるんだろ?」
店主は二人が仲良くしているのを見てヒロミが留美を無理矢理連れ去ったのでは無いと判断。ヒロミと留美に逃げるように促したのだ。
「すまない。行くぞ、留美」
「うん」
それからヒロミと留美は一目散に店を飛び出すと店主は他の客に同情する意思を見せて彼等が二人を追わないようにした。店主の気遣いに感謝し、店を後にする二人。だが、世間の目は完全に敵に回った今、このままでは大変な事態になるのも目に見えていた。
それから少し後。そのラーメン店にもテレビの取材班が来るとそこからの速報がブルーバード本部にも流れた。
『門田ヒロミの新たな目撃情報です。このラーメン店に少女と立ち寄ったという情報が寄せられました』
それから取材班が居合わせた客に取材する中、ブルーバード本部では狩崎が悪化し続ける状況に頭を悩ませる。
「……ふーむ。やはり状況は悪化の一途か」
「……苦戦しているようだな。狩崎」
ブルーバード本部に姿を現したのは引退したフェニックスの元総司令官、若林だった。
「おかげさまでね」
「……ヒロミが罠に嵌って容疑者扱い……か。それで、どうする?」
「どうするも何も警察よりも早くヒロミと少女を保護するしか無いだろうねぇ。五十嵐三兄妹と光の腕の見せ所さ」
若林はその現状を見守るのだった。自分が介入する手もあるが、今はフェニックスの総司令官を引退した身。また、自分の持っていた権限は全てブルーバードに移している。自分にできる事は少ないだろう。そのため、彼は自分の出るべきタイミングを見計らう事になる。
再び場面は変わって大二と千春の方に移る。怒って留美を探そうとする彼女の元に大二が止めに入った。
「落ち着いてください、千春さん」
「煩い!アンタに何がわかるの!留美が、留美が危険な目に遭ってるのに……どうして!」
「……それは俺も一緒ですよ!」
大二は千春の前に立ちはだかると悔しそうな顔つきを彼女に向ける。千春はそんな大二を見て唇を噛み締めた。
「……やっぱり、私はどこまで行っても出来損ないってわけね」
千春が拳を握り締める中、その顔つきの中に僅かに諦めのような物が入っていた。そんな彼女を見て大二は手を差し出す。
「……俺やヒロミさん。他の皆だってあなたの家族の留美ちゃんを助けたいって思ってます。例え、あなたがどんなに綺麗事だと言って罵ってもそれは変わらない。だから、俺達は諦めません。千春さん、一緒に留美ちゃんを救いましょう」
その言葉を聞いて千春は深呼吸をすると大二の手を取った。そして、大二へと自分の意思を示す。
「……わかったわ。でも、留美に危険な真似をさせたら私はアンタ達を許さない」
「はい!」
「さて、仲直りをした所でこれからどうする?大二」
大二の内部からのカゲロウの問い。それは千春にも話が届くようにしていためか、彼女が声を上げる。
「……私なら何度かあの施設で実験に使われた事があるわ。私が囚われていたアリコーンのアジトにある実験場に行けば何か掴めるはずよ」
千春の言葉に大二は頷くと二人でバイクに跨り、移動を開始。そんな中、大二の脳裏にはヒロミを助ける事でいっぱいだった。
「(ヒロミさんは俺達で助ける……。ヒロミさんの疑いを晴らせる何かがあれば……)」
「……おいおい大二。集中できて無いなぁ。今はアリコーンのアジトに向かうのが先だろう?」
カゲロウは今度は大二にだけ聞こえるように話しかける。大二は移動を続けながら内部通話という形でカゲロウへと返した。
「……幸せ湯に現れて留美ちゃんを連れ去ったのはヒロミさんだった。兄ちゃんとさくらが見間違えるはずもない。……それに、二人の中にはバイスやラブコフもいたはずだからな」
「じゃあ同じ顔をした別人とでも言いたいのか?」
カゲロウからの返しに大二はある可能性を思いつく。それは、今自分と対話しているカゲロウの存在をヒントに得た答えだった。
「同じ顔の別人……だとしたらヒロミさんの悪魔か?」
「それが前にお前が感じた違和感の正体か……。だが、俺は違うと思うぞ」
カゲロウは大二の意見に対して異を唱える。しかし、大二には確証があった。それはあの時染井から飛び出したバイスタンプである。
「いや、あの時バイスタンプが押収された。もし他にも彼等がバイスタンプを持っていたら、十分呼び出せる」
「……確かに、あの時出てきたオラウータンのデッドマンはヒロミの悪魔では無かったしなぁ」
カゲロウは同じ悪魔であるため、襲ってきたデッドマンがヒロミの悪魔で無いことは既に見抜いている。
「ただ、忘れたのか?ヒロミの悪魔はあの時既に倒されて消滅しただろ」
そう。ヒロミの悪魔はリバイスが初陣を果たした際に出てきたレックスデッドマンとして具現化しており、それはリバイスによって倒されている。
「でも、人間である以上は再び生まれてくる可能性がある」
「……それはあくまでよっぽど捻くれた奴の話だろ。あの真面目な野郎に限ってそれは有り得ない」
「……そろそろ着くわよ」
そんな事を話している内に二人の乗ったバイクはアリコーンのアジトの場所に到着。大二を先頭に二人で内部へと入り込む事になる。
その頃、再び逃亡する事になったヒロミと留美は人気の無い倉庫の中へと逃げ込んでいた。
「……ラーメン全然食べられなかったなぁ」
留美はそう言って嘆く。あの時、タイミング悪くニュース報道がされたために全くと言って良いほどラーメンを食べられていなかったのだ。
「……なぁ、留美。あの時、君を銭湯から連れ出したのは誰だ?」
「おじちゃんだよ?でも、私……すぐにおじちゃんじゃ無いってわかったよ」
その言葉を聞いてヒロミは困惑する。それが事実なら自分そっくりな人物がもう一人いるという事だ。そう考えた場合、自分が狙われるようになった理由も説明が付く。すると二人の前に一人の青年が納刀された刀を手に姿を現した。
「彼女を銭湯から連れ出したのは僕だ」
その声を聞き、ヒロミが顔を出すと目を見開く。何しろその姿は自分そっくりだったのだから。
「……俺と同じ顔?」
ただし彼の髪は青みがかかっており、ヒロミとは別人であるという事が見分けられた。
「ふふっ。もう一人の自分に会って驚いた?」
「もう一人の自分……どういう事だ!?」
「僕は君の中に潜んでいた悪魔……そうだな、ムラマサとでも呼んでよ」
するとヒロミの悪魔を名乗ったムラマサは手にした刀を抜き放つと目を紫に発光させると自身が紫のオーラに包まれると共に抜き放った刀が変化。黒を基調としつつ紫のラインに紋章が入った剣へと変化した。
この能力はユキオとマリコがやった際はチョーカーを押しての発動であったが、ムラマサは自身の力のみでの発動である。加えて染井が武器の生成、形状変化を発動しなかった事からオーラを流し込む事による武器の生成及び形状変化はチョーカーの能力とは別個の能力と見て良いだろう。
「その少女を渡しな。それとも誘拐ごっこを続けるかい?」
「誘拐したのは貴様だ!」
ムラマサに対してヒロミは徹底抗戦の意を示す。そのため、ムラマサは仕方ないと笑みを浮かべると剣の先端をヒロミへと向ける。
「そうだよ。君と同じ顔をした僕がやった」
その瞬間、ムラマサはヒロミへと襲いかかる。ヒロミは前に出て剣が振り下ろされる前にムラマサの腕を抑える形で受け止める。
「へぇ。やるね?でも、剛力の僕の力を生身で止められるかな?」
その瞬間、いきなりヒロミの体に重い力がかかるとヒロミは上から抑えつけられてしまう。
「ッ!?お前、普通の悪魔じゃないのか!?」
「そうだよ。僕はあの人に選ばれた悪魔さ」
それからムラマサはヒロミを蹴り飛ばすとすかさず追撃とばかりに剣を振る。ただ、その動きは凄まじく速いと言える程ではない。そのため、生身のヒロミでも見切って回避はできた。
「思ったより太刀筋は遅いな。この程度なら!」
ヒロミがムラマサからの攻撃を回避しながら反撃の飛び蹴りをムラマサの腕に命中させる。しかし、それはまるで効いておらず。易々と跳ね返された。
「馬鹿な……攻撃を受けて微動だにしないだと」
同じ悪魔でも同じく死戦を潜り抜けてきたカゲロウと比べると素のパワー及び耐久性が段違いだ。
「やっとわかった?僕の力はパワーと耐久性に厚く振られている。生身の君に勝ち目なんて無いよ」
ヒロミが悔しそうにする中、ムラマサはゆっくりと歩いていく。ヒロミはそれでも退くわけにはいかないと真っ向から立ち向かうが、まるで通用せずに剣の峰で殴られてから剣でヒロミは斬りつけられる。彼は咄嗟に後ろに跳ぶことで直撃は避けたものの、頬に剣先が掠って血が流れ落ちた。
「ッ……」
更に衝撃波で吹き飛んだヒロミが壁に激突して崩れ落ちると心配した留美が駆け寄ってくる。
「おじちゃん!おじちゃん!」
「留美、お前だけでも逃げろ!」
「……そんな事をしても無駄無駄」
するとその時、ヒロミを捜索していた一輝、さくら、そして二人に合流していた光も到着する。
「ッ!いた!」
「ヒロミさん!」
「って……なっ!?ヒロミさんが……二人」
その瞬間、三人は状況を見て混乱する。ヒロミが目の前に二人もいるのだ。しかも容姿は全く同じ。ヒロミはムラマサを見るといつの間にか髪が自分と同じように黒く変わると武器も元の刀に戻っていた。そして、ヒロミが何かを言う前にムラマサが声を上げる。
「一輝、さくら、光!目の前にいる男は俺の悪魔だ!コイツはあの少女を攫おうとしている!」
そしてムラマサは本物である自分を犯人として一輝達に売ったのである。それを聞いてヒロミは唖然とした。それと同時に三人の目線は自分を向く事になる。
今回は若干キリが悪いですが、ここまでです。感想、評価、お気に入りをしてもらえると執筆の励みになります。それではまた次回もお楽しみに。