幸せ湯の中にある居住区。そこには五十嵐一家が団欒するためのテーブルがあってそれを囲んで家族でご飯を食べていた。ただ、前と比べて家族がかなり増えたので全員が揃うともう確実に定員オーバーになってしまう。そのため、隣の部屋も使っての二つのテーブルという方式を取っている。
『いただきます!』
食べ始めの挨拶を掛け声を済ませた五十嵐一家は楽しい家族の時間を過ごしていた。
「あ、それ私のお肉!」
「別に良いだろ?俺が食べてもよ」
「むぅ!」
さくらが食べようとしたお肉をカゲロウが横から掻っ攫ったのを見て彼女が文句を言う中、千春がさくらへと優しく話しかけた。
「うちのカゲロウがごめんなさい。私ので良かったら……」
「えっ!?千春さん、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「千春さん、カゲロウは家族の前だといつもこんな感じだから」
馬鹿正直に受け取った千春が自分の分を差し出そうとするのを見てさくらは慌て、大二が千春へと補足する。
「おい、何で千春の彼氏の俺が千春からダメな息子扱いされないとならないんだ」
「ふえっ!?」
「ラブラブ、カゲロウ……クズ!」
「お前も煩せぇよ」
ラブコフがカゲロウへの悪口を言うとラブコフがカゲロウに頭を叩かれる始末だ。
「痛てぇ!?」
「あっちは何やってるんだよ……」
「別に良いじゃねぇか。喧嘩してるよりもずーっと良いんだからよ」
大二、カゲロウ、千春、さくら、ラブコフの五人が隣のテーブルで食べる中、一輝、バイス、彩夏、元太、幸実の五人もこちらのテーブルで食卓を囲んでいる。
「一輝、そういえば大二と千春さんの方はどうなんだ?」
「父ちゃん、気にしすぎ」
「ふふっ。でも、自分の息子や娘だから心配なんですよね?」
「彩夏ちゃん、わかってるじゃん」
この期に及んで大二やさくらがいつ巣立つのかわからずに不安になる元太とそれを見て呆れる一輝、彼をフォローする彩夏と分かれていた。
「……でもよ、数年前までこの光景想像しろって言われてできるか?」
「それってバイスがまた出てくる前って事か?」
「そうそう」
それを聞いて四人は想像できないで答えは一致する。そりゃ当然だ。一輝がフェニックスの任命式で仮面ライダーとなってから五十嵐一家やその周りの多くの人間の運命が変わった。
こうして、一輝達五十嵐三兄妹は相手を見つけて一輝は結婚。大二、さくらもそれが近くなっている。
「本当に巣立つ時はあっという間だよなぁ」
元太の目にはこの家の長男である一輝が生まれたあの日の記憶が鮮明に残っていた。その一輝がこうして成長し、目の前で嫁と一緒にいるのだ。
「あ、そういえば子供はいつ作……」
「はーい、パパさんストップよ。ここから先は一輝達のプライバシーの話だから」
元太としては今の発言から察するに孫を見る日をもう楽しみにしているらしい。つい最近結婚したばかりなのに気が早い一家の大黒柱である。
「ま、安心しなってパパさん。一輝も彩夏もちゃんとやる事はやってるしよ」
「あ、バイス。折角良い雰囲気にしてたのにこの!」
一輝がバイスの頭を小突くと笑い合う。こうして、食事の時間が終わって片付けをしているとさくらが幸実の前にやってきていた。
「ママ」
「どうしたの?さくら」
「……その、ママに相談があるんだけど」
さくらの言葉に幸実は頷く。ただ、その話は片付けが終わってからという話になって後回しとなった。その後、一輝、大二、元太の三人は久しぶりに三人でお風呂に入っている。これは実家が銭湯だからこそできる行為だろう。
「「「はぁ……。癒される……」」」
更に彩夏、千春の二人も一緒に風呂に入り、想い人との思い出の会話に花を咲かせていた。ちなみにラブコフもこのタイミングで入っている。
「ふうーん。大二君に水族館にも連れて行って貰ったんだね」
「はい。その、彩夏さんも映画館にこの前行ったと聞いて……。羨ましいです」
「ラブラブ〜。二人共愛ラブラブ〜コブ!」
流石にバイスとカゲロウの二人は先程二人で我慢対決という形で入っていたので入らないとロビーで戯れているが。
「「最初はグー!じゃんけんポン!」」
するとカゲロウが勝ったためにカゲロウがピコピコハンマーを持って攻撃、バイスが桶を持って防御をした。要するに叩いて被ってじゃんけんポンである。
「チッ……反応早いな」
「へーん、俺っちを倒せる物ならやってみろよ」
「その言葉、後悔すんなよ?」
そんな風に家族が思い思いの時間を過ごす中、幸実とさくらは向き合っていた。
「それで、相談というのが?」
「……その、ママの結婚式ってどんな感じだったのかなって」
さくらからの話を聞いて幸実は元太との結婚式を思い出す。それと並行してさくらへと聞き返した。
「その感じだとまだ迷ってるって感じ?」
「うん。……私、まだ自分にとって理想の結婚式が掴めなくて。光さんと恋人関係になってそれなりに経つし、向こうも私もその気になってて……」
「そろそろ理想の式のプランが欲しい……そんな所ね」
幸実の言葉にさくらは頷く。すると幸実は自分の過去にあった結婚式の事を話し始めた。
「そうね、私とパパさんが結婚式を挙げたのはもう20年以上前になるけど……私は最初、理想の結婚式の構図なんて浮かばなかったわ」
「えっ!?」
さくらが驚きの声を上げる。確かに当時はノアを脱出したてて顔も変えたりなんだり色々していた時期だからこそそこまで余裕は無かったのかもしれないが、それでも何かしらの理想はあったはずだと考えていた。
「私にとっては忙しい中でもパパさんが用意してくれた結婚式が、今でも私にとっての理想的な結婚式よ」
さくらは前提条件を間違えていたのかもしれないと思い至る。結婚式に理想を求めるとはあまり良くない事なのか……と。
「でも、理想の結婚式の形を探すのを否定するつもりは無いわ。むしろ、私は少しその事で後悔してくるぐらいだし。……さくら。今すぐに決めなくても良いわ。ゆっくりでも良い。今はまだ思いつかなくても最悪その話になるまで考えなくても良い。でも、光君との結婚式は一生に一度きりなんだから。後悔の無いようにね」
幸実からそう言われて彼女は確かにそうだと思い至る。結婚式自体は離婚とか死別とかの関係で一生に一度きりにならないケースもある。ただ、その相手との結婚式というのは……一生に一度きりにしかならないのだ。
それから彼女は部屋に戻ると手で頬を二回叩くと今は焦る必要は無いと彼女は自分のやるべき事に集中する事になる。
「「じゃんけん……ポン!」」
「あ痛ぁっ!?」
「っしゃ!やっと当たったぞ……バイス」
尚、この勝負はカゲロウの勝利で幕を閉じた。決着までにかなり時間がかかったのか、二人共疲れた様子だったが……。
翌日の朝、幸せ湯で一晩を過ごした大二、カゲロウ、千春の三人はまたブルーバードの勤務のために戻っていく事に。
「それじゃあ、兄ちゃん。俺達はブルーバードに戻るから」
「おう。……今日の結婚式も守り切って、犯人を探し出すぞ」
一輝と大二が拳を合わせる中、ガンデフォンが鳴り響く。一輝がそれを出してスピーカーにすると狩崎が話し始めた。
『おはよう諸君』
「狩崎さん?」
『……今回の事件の犯人にあらかた目星は付いたよ。ただ厄介な事にその犯人の拠点がわからなくてね』
「「え?」」
今回の事件の犯人はごく普通の一般人であった。どうやら彼はかつて付き合っていた彼女に改めて結婚指輪を見せた告白をしたものの、付き合う中で相手の男にあった浮気性とかで不満を持っていた彼女に男はフラれてしまったらしい。
それから彼は何度も女性を探したものの、殆ど上手く行かず。お付き合いはできても彼の性格の悪さのせいで愛想を尽かされる始末だった。そのため、上手く行っている自分以外の他のカップルへの恨みを募らせたようだ。
「完全な逆恨みじゃねーかよそれ!」
『ああ、完全なくだらない逆恨みだね。……ただ、彼はちょこちょこ拠点を移動してしまうんだ。だから固定した拠点を持たないんだよ』
一応周辺カメラへのアクセスやブルーバード情報部による情報網のお陰で大体の位置は把握しているが、まだ細かい場所は特定していない。
『……だからね、私に一つ作戦がある。君達二人が揃っている今だからこそできる手だ』
「あれ?そういえば光は……」
「光は別任務に出かけている。何やら厄介な事に別の場所でもデッドマンの目撃情報があったみたいでね。……私が以前作ったエアバイクで直行中だ」
つまり、今回の作戦で光の助けは得られない。するとその話を聞いたのかさくらがやってきた。
「じゃあ、光さんの代わりに私がやる」
『だが、空手ガール。君には普通の生活を……』
「……嫌よ。今回だけはこっちも譲れない。……結婚式をぶち壊そうとするそんなクソ野郎は私がとっちめないと気が済まない」
さくらの決意は固い。そう考えた狩崎は仕方ないとばかりに彼女が参加する事を承認した。今日この日がさくらの専門学校の無い休みの日だという事も込みにはなるが。
『なら空手ガール。君には一番大事な所を担ってもらうよ』
「……勿論。私、無敵だから!」
そんな風に久々の五十嵐三兄妹のみでの作戦が決行される事になった。ちなみにヒロミだが彼は基本的に前線に出張る事は無い。総司令官としてブルーバードを率いる立場として彼は忙しいからだ。ただし、アリコーンでの事件等緊急性の高い物に関しては自ら出張って対応する形を取る。
同時刻。結婚式場を襲おうと目論む男の隠れ家では。彼が次の襲撃計画の準備が最終段階に達していた。
「おい、デッドマン。今度お前が狙うのはここだ」
男がデッドマンに襲撃地点を指示するとそのタイミングで何者かがフードを被ったローブ姿で現れる。
「苦戦しているようだな」
「煩い……。お前らこそ、このバイスタンプ使えば上手く行くって言っただろ。俺に嘘吐いているんじゃねーよな?」
どうやらコアラデッドマンを生むためのコアラプロトバイスタンプを彼に渡したのはこの人間らしい。
「まさか。……そのスタンプは特殊な機構を入れたと言っただろう?自分の悪魔の契約する事で君の悪意が続く限り一体のデッドマンから何体でも他の種類のデッドマンをノーリスクで出せると」
今回のコアラデッドマンがポケットから大量にフェーズ1のデッドマンを呼べるのはプロトバイスタンプにこの人物の背景にいる組織が仕込みをしたかららしい。
「チッ……」
「まぁ、そんな君に朗報だ。……あと一人お前の作戦への助っ人を付けてやろう」
「……あ?」
するとローブの人物が指を鳴らすと彼の後ろに昆虫型の下半身に赤いボタンを着けた白いジャケットを羽織っている。
鬼のような真っ赤な人面と斑点模様のある黄色い頭部、複数の赤いドリル状の突起を生やした両腕。両肩には緑色の仮面が装着。また、首元に生やした赤い毛をマフラーのように垂らしている。
「チーターデッドマン。おまけにフェーズ2だ。……お前の作戦が上手く行く事を願うよ」
そう言ってローブの人物は姿を消してしまう。そんな言葉を聞いて男はニヤリとほくそ笑む。これなら確実に上手く行く。そんな嬉しさを滲ませて、ようやくカップルを絶望のドン底に落とせると考える。
「チーター君、君にはこの任務を与えようか」
それから男はチーターデッドマンにも指示を出すとコアラ、チーター共に襲撃地点に向けて移動を開始するのだった。
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