純平と幸実の二人が一緒にいる所をノアに連れ去られて拘束された。そして、純平が一人牢屋の中にいるとそこに隣の部屋の鍵が開錠される音が聞こえてくるとその後何人もの構成員達が去っていくのが見える。
「……また新しい被験体か」
純平がそんな風に言うとノアによって罪の無い若者達が次々と犠牲になる現実を見て苛立つ。
『このままではあの女性は殺されてしまいますよ?』
そんな純平の心理を知ってか知らずか、体内にいる声。ベイルが話しかけてきた。
「煩せぇ……お前に何がわかるんだよ」
『……あなたの家族のようにねぇ』
「黙れぇええっ!」
純平は思わず叫び声を上げた。そうしないと今にも心が壊れてしまいそうなのだ。純平は確かに幸実によって救われた。そんな彼女もノアの手によってボロボロにされて殺されると考えると怒りが湧いてくるのである。
「……元……太?そこにいるのは元太なの?」
すると純平の隣の部屋から彼にとって聞き覚えのある声……幸実の声が聞こえてきたのだ。
「その声……アンタか!?」
純平も幸実の声を聞いて彼女が生きている事実を知ると声を上げて彼女に自分がここにいると伝えた。
「ここはどこなの?……私、何で元太みたいな服着てるの?……私達を襲った人達は誰?」
「……どういう事だ、幸実!?」
「それが、元太と会った時のこととか一晩過ごした事は覚えてるんだけど……それからここにいるまでの記憶が無くて……」
幸実は記憶が一部抜け落ちてしまっているようだった。そして、彼女もまた元太のように服が囚人用のボロボロの服にさせられてしまったのである。
「ッ……まさかアイツら、幸実の体で……実験しやがったのか」
その事実を純平は飲み込みきれなかった。いきなり連れ去られて牢屋に放り込まれて……。その後再会した幸実はノアの実験のせいで記憶が一部欠けているときた。そうなれば彼が困惑するのも当然である。
ただ、実験を生き抜いた……という事は幸実にやったと思われるリリスの力を降臨するための依代とするための実験は成功したという事だろう。
「……ひとまず、ここの事から説明する。ここは俺のいた研究施設だ。奴等はここで様々な実験をしてる。生きて出るのは……難しいかもしれない」
純平からの言葉に幸実の脳裏には絶望感が浮かぶ。無理もない。見ず知らずの人達に拉致され、知らない施設で得体の知れない実験の道具として扱われるのだ。そこで希望を持つ方が難しいだろう。
「そんな……」
「……済まない。俺のせいだ」
「……そっか。私の人生……こんな所で終わっちゃうのか」
幸実が弱々しくそんな風に言うと脳裏にかつて亡くなってしまった父や母との思い出が走馬灯として流れていく。
「思ったより早く、お父さんとお母さんに会えるんだね……」
「……」
「寂しかったんだ……。一人で生きていくのに疲れちゃって」
人間、誰しも一人で生きていくのは不可能だ。子供の頃は親や周りの大人が手を貸さないと生きていけない。大人になっても孤独に暮らすのと家族や友人と言った他の人と何かしらをしなから過ごすのでは精神的な負担が段違いである。
幸実は実家の銭湯を両親から残されていたためにお金を稼ぐ手段は持っていたものの、それでも一人で全てを回すのは難しい。稼働日は両親が生きていた頃よりも下がっており、さほど有名では無い幸せ湯の客の入りはそこまで良いとは言えなかった。
「……俺もだ」
幸実の言葉を聞いていた純平は一人呟くように幸実へと自分の身の上を語り始める。
「え?」
「家族を悪魔に殺されて、その復讐のために生きてきた。だが、来る日も来る日も悪魔を殺すだけの日々。もう生きてる意味がわからなくなった」
「……私達似た者同士ね」
「アンタと一緒にいた時間は悪く無かった」
「元太」
「あんな風に生きる事を幸せって言うんだろうな」
昨日、初めて二人が出会ったあの時。最初こそ冷たい態度を見せていた純平だったものの、そんな彼の凍りついた時を温かく溶かして元に戻したのは間違い無く幸実であった。彼は幸実の優しさに心を惹かれていたのである。
純平と幸実が牢屋の壁の同じ場所に手を置くとその瞬間、幸実の胸の中から優しかったものの、まるで人間で無い何かの鳴き声が聞こえた。
「えっ……」
「どうした?幸実……ッ!?」
すると純平が手を退けるとそこには二人が手を置いていた場所に風穴が開くとそこから相手の牢屋の中が見えるようになっていたのだ。
「これは……」
それと同時に純平のいる牢屋の方に白く優しい波動が駆け抜けていく。それは紛れもなく幸実から発せられてる物だった。
「幸実、まさか……」
「うん。……やっぱり私も被験体として改造されちゃったみたい。私達、これでお揃いだね」
ただ、幸実の声色は先程までの絶望感から少しだけ希望を持てたような優しい物になっていたのだ。それは恐らく、幸実の中に入っている何か……リリスが彼女に安心感を与えているからだろう。純平もそんな幸実を見て安心したのか微笑むことになる。
そんな中、その様子を監視カメラを介してモニターから見る男……真澄がいた。彼は二人の様子を見て一つの安心感を感じる。それは幸実が無事に純平と再会出来たことだ。
先程終了した幸実が被験体となった実験で彼女の体に宿っていた悪魔の上からリリスが降臨。元々いた悪魔を転生させる形で彼女の中に定着したのだ。ちなみに、普段ならここにいる東山はリリスの器となる人間がこんなにも簡単に見つかったために上機嫌となってこの場を離れたからだ。
「……例の件、考えていただけましたか?」
そこに正造が入ってくると真澄へと前々から話していたと思われる件について彼へと問いかける。
「……研究を途中で放り出すわけにはいかない」
「狩崎博士、あなたは苦しんでいるのでは無いですか?あなたの天才的な頭脳は……悪魔の研究に使うべき物では無い。それに、東山社長は一線を超えた。被験体071を操るために、悪魔に彼の家族を殺させたんですよ!」
その言葉を聞いて真澄は目を見開く。……そう、純平が探している両親を殺した悪魔。それを純平の両親へとけしかけたのは他の誰でも無い東山であるのだ。
「その頭脳を、人類の平和のために使ってください」
そう言う正造の言葉に真澄は一瞬笑みを浮かべるが首を横に振る。そして、彼は淡々と返した。
「……私にはもうその資格は無いよ。彼の命令とは言え、彼の体を改造したのは私だ」
そんな風に話していると突如としてモニター越しに純平が苦しむのが見える。
『うっ!?ぐぁあああっ!』
そしてその様子は牢屋越しに見える幸実にもわかるわけで。彼女は純平を心配する言葉をかけた。
「元太、大丈夫!?誰か!誰か来て!」
すると程なくして苦しむ彼の元にノアの構成員の面々が牢屋の戸を開けると中へと入り、純平の手錠をしたまま部屋に付けた拘束を外すとそのまま外に連れ出す。
「元太!元太!」
幸実はそう何度も声をかけるが、無情にも純平は連れ出されてしまう。そして連れて行かれた先はノアの実験の拘束台の上であり、彼は拘束されると事態を聞きつけてやってきた東山が椅子から立ち上がる。
「ゔぁああっ……ああっ!」
「ギフの細胞の拒否反応です」
「……結局、コイツもコイツで失敗作だったというわけか。出来損ないの悪魔となる前に処分しろ。それと、あの女だが。もう一度連れ出して記憶の完全消去だ。彼の事を思い出されて暴れられては困る。彼女にはまだ利用価値があるからな」
東山はまるで二人に対する情など感じないように。使えなくなった道具を切り捨てるように淡々と話す。そんな彼の指示を聞いた真澄は純平の方を向く。
『はぁ……。やれやれですね。こんな所で勝手に死んでもらっては……困ります。あなたには生きなければならない理由が……あるはずですよ?』
構成員達が拘束台へと完全に拘束する直前、純平の体の中にいるベイルの声が響き渡ると彼はその脳裏にまた両親が殺されるビジョンを見る。
「うっ……ううっ……」
『私が……あなたへと力を貸して差し上げましょう!』
その瞬間、突如として純平から赤黒い波動が駆け抜けると彼を拘束しようとした構成員達を一瞬で吹き飛ばす。そのまま彼は既に付けられていた手錠等の拘束用具を全て破壊。ゆっくり立ち上がると彼は小さく言葉を発する。
「俺の……生きる理由?」
それから純平の元に異変を聞きつけた構成員達が次々と襲いかかるものの、彼は一人ずつ各個撃破。あっという間に何人もの構成員を倒すとその中の一人が持っている牢屋の鍵を強奪。そのまま逃げてしまう。
「うああっ!」
そして、それを見た東山がただ黙っている訳がない。すぐさま彼は構成員達に指示を出す。
「そいつを始末しろ!生きて出られたら面倒だ。さっさと殺せ!」
東山は純平を生かす選択肢をこれで完全に捨てると構成員達は純平の抹殺のために動き出す。その様子を見た真澄はただ俯いていた。
同時刻。いきなり牢屋のある空間に鳴り響く警報音を聞いて不安な気持ちになっていた。
「元太……」
そんな時だった。牢屋の鍵が開錠されると純平が幸実を迎えにやってくる。
「元太、どうして……」
「話は後だ。逃げるぞ」
純平は幸実の手を引くとそのまま二人はノアから脱出を図る。まずはここから出ない事にはどうする事もできないからだ。二人がノアの施設の廊下を走る中、突如として銃を構えた正造率いる小隊に正面から出くわしてしまう。
「ッ!?」
「そんな……」
「被験体071、072を捕捉。……ただ、所長の命令だ。072は気絶させて生け捕りとする。ここで銃を使うのは禁止だ」
正造の指示を聞いて構成員は素早く手にしていた銃からスタンガンに切り替えようと手を動かした瞬間。突如として正造のみは腰に下げていたスタンガンでは無く小回りの効く小銃を手にすると後ろにいた構成員をあっという間に四人制圧。全滅させてしまう。
「お前は……」
「安心したまえ。君達の味方だ」
「ノアの人間じゃ無いのか?」
「ああ。私はノアに潜り込んだレジスタンスの人間だ。アンタらみたいな犠牲者をこれ以上増やさないためのな」
正造の正体。それはノアに対抗するための組織の人間であったのだ。そんな彼はこの土壇場でノアへの見切りを付けると彼らを裏切って純平と幸実を助けるために動いたのである。
「さぁ、ここから出るぞ。ついて来い」
それから純平と幸実の二人は正造を信じると彼の後ろについて行く形で移動。施設からの脱出を試みた。正造がこの直前にノアへの反抗心を抱いていた若林を事前に遠い部署へと配置替えしておいたのは、いつか起きるであろうノアへの反抗の際に巻き添えを喰らわせないようにするためである。
そんな余談はさておき、三人は施設の外に出ると一旦敷地内にある建物の陰で一息入れつつ隠れる。ここで一度態勢を立て直すつもりのようだ。ただ、やはりと言うべきか追っ手は迫っている現状で正造一人で丸腰の純平と幸実を守るのは非現実的である。
「……仕方ない」
すると正造はショルダーバッグを開けるとこうなる事を予知して予め純平が牢屋から出される時点でどさくさに紛れて持ち出したベイルドライバーとカブトバイスタンプを取り出す。
「これを拝借してきた。君にとっては嫌な物かもしれないが……今はそんな事言ってられないからな」
「……ああ。済まない」
純平はベイルドライバーを装着するとカブトバイスタンプを起動してベルトへと押印する。
《カブト!》
「変身!」
《Deal……》
その瞬間、ベルトから飛び出したカブトムシのエネルギーが先行して飛び出すとそれを見た構成員達は銃を撃つ。だが、当然それ相手にただの銃で通用するはずが無い。それに守られる形で純平も飛び出すと走りながら液晶部に押印する。
《Bane Up!》
《破壊!(Break)世界!(Broke)奇々怪々!(Broken)仮面ライダーベイル!》
それから純平はその体に黒い霧が被さると仮面ライダーとしての素体が装着。すかさず先行して構成員を何人か倒したカブトムシが右側から突進する事で仮面ライダーベイルとなる。
「はあっ!」
そのままベイルとなった純平が迎え撃ちに来た構成員を圧倒。この辺りは武装済みとはいえ、敵が生身であるのが大きいだろう。しかも相手は制御が効きにくいからか、悪魔をけしかけて来なかったために比較的楽に制圧に成功する。
「だあっ!うらっ!」
構成員達は増援を呼ぶが、まるで相手にすらならない。どれだけ銃撃を仕掛けてもベイルの体には傷一つすら入れられないのだから。
「ううう……ああっ!」
それからベイルは自身を迎撃しに現れた敵が全て倒された上で増援が途切れた時を見計らって変身解除。そのタイミングで正造に守られた幸実も出てくる。
「はぁ……はぁ……」
純平は変身の負担で体力を消耗したが、立ち止まってはいられない。こうして、純平達はノアから脱出して普通の日常に戻るための逃避行は続く事になるのだった。
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