ノアの施設から脱出するために追っ手から逃げ続ける純平、幸実の二人。更にそれを護衛する正造。彼等はひとまず追っ手を撒くためにひとまず施設のある敷地から出るとノアの施設からそこまで離れてないが、人目に付きにくいような壊れかけた建物の中に入った。
「ここなら暫くは安全だ」
「ありがとうございます……あの……」
幸実は正造に例を言おうとするが彼の名前を知らないために少しだけ言葉が詰まる。そのため、彼が自ら名前を名乗る事に。
「伊良部だ。……レジスタンスの仲間からは“ぶーさん”って呼ばれてる」
どうやら後に幸せ湯の方で彼の事を呼ぶ際の愛称である“ぶーさん”という名前はこの時……正確にはレジスタンスにいた頃からあったらしい。
「すみません、ぶーさんまで追われる身にしてしまって」
「……気にする事は無い。遅かれ早かれこうなる予定だった。それが早まっただけの事だ」
正造はあまり気にしていない様子であった。ノアの研究に抵抗するレジスタンスである彼はいつノアに自分の素性がバレても大丈夫なような動き方をしていた。そのため、このくらいのイレギュラーで慌てる事は無い。
「……ちょっと、食料の調達に行ってくる」
ノアの施設は人目に付かないような僻地にひっそりと存在する。そのため、施設から出られても暫くは街中にはいけない。そのため。周囲が自然に囲まれてる事を利用して正造は当面の食料を確保するために建物から移動するのだった。
「すまない。俺のせいで。……ノアの実験に巻き込ませてしまった」
純平はそう言って幸実へと謝罪する。彼としては幸実にはノアの実験に巻き込まれてほしく無かった。だが、自分がいたせいで幸実を巻き込んだ挙げ句、彼女が実験の道具として使われてしまったのである。後悔しないわけがなかった。
「……気にしないで。アンタを放っておけるわけ無いじゃない」
幸実はそんな純平を安心させるかのような言葉をかけると彼はそんな幸実の対応に僅かに微笑んで返す。
「本当に、とんだお節介だな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
幸実が笑顔で彼へと言うと純平はふと、前にはぐらかされたある事をまた幸実へと問いかける事にした。
「……なぁ、元太の由来を聞かせてもらっても良いか?」
「ああ、小さい頃に親に内緒で野良犬に名前を付けて飼ったりしてたんだけどね。……その犬の名前が元太」
どうやら幸実は幼い頃に野良犬を助けた事があったらしい。そんな野良犬にも付けた名前を使われて純平は犬扱いされたのかと感じると彼女へと問い返す。
「俺は……犬か?」
「あ……いや、違う……その……ごめん」
「ぷっ……ははっ……」
幸実が慌てて訂正しようとするも上手い返しが浮かばずに結果的に彼へと謝罪。そんな彼女を見て純平は思わず吹き出してしまった。
「なんで笑うのよ」
「いや、アンタと家族になれたら幸せなんだろうなってさ」
その言葉を聞いた幸実は真剣に純平の顔を見ると彼女も純平と同じ気持ちなのか、彼の気持ちに同意の意思を示した。
「……私も」
それから二人の手は触れ合うと繋がれる。そのまま二人が徐々に顔を近づけると唇を重ね合わせようとした。それはこの短期間で二人の仲がそれだけ進展した事を示すのだが、そんなタイミングで慌てた様子の正造が駆け込むと二人へと話しかける。
「すまん!後を付けられた。二人共逃げろ!」
するとその瞬間、ノアの構成員達が武装した状態で襲ってくる。そのため、正造は相手が銃を構える前に先制攻撃で射撃を仕掛けて牽制。相手も流石にそこに突っ込むのは嫌なので一時的に足止めされる。
「……ここは俺が止める!」
純平は正造だけに任せるのは申し訳ないとベルトを装着するとカブトバイスタンプをその手に構える。そんな時であった。
「がああっ!」
いきなり建物の入り口とは別の方向から轟音と共に壁が突き破られると実験の失敗によって生まれた悪魔が姿を現した。悪魔は純平達の驚きを他所にいきなりノアの構成員を襲い始めると彼等を次々に殺害していく。
「ぐあああっ!?」
「た、助けてくれーっ!」
「うわああっ!」
その時に構成員達は悲痛な叫びを上げながら倒れていく。純平達は今までノアにされてきた事を思い返すと複雑な心境ではあった。ただ、この構成員達は上の命によって動いているだけ。あくまで自分達を苦しめてきたのはここにはいないその上の人間だけなのだ。
「ッ……」
純平が彼等を助けるために動くか迷ったそんな中だった。悪魔が繰り出した腕による引っ掻き攻撃が命中して痛みに倒れ込んだ構成員の一人が銃を純平に向けた状態で乱射してしまう。
「危ない!」
幸実は慌てて純平を押し倒すと弾丸が一発腕を掠めてしまう。幸実は腕に痛みを走らせると血が流れてしまっていた。
「大丈夫か!?」
「ッ!」
正造は二人の命は一旦無事だと確認するといつでも迎撃できるように銃を構える。
「ぐおおーっ!」
悪魔はその場にいた構成員を一人残らず殺してしまうと唸り声を上げながら純平達の方を向く。
「こっちだ!」
純平は負傷した幸実をこの場に居させるのは危険と判断すると三人で揃って近くにあった古びたロッカーのような場所を影にする形で退避する。
「なんて事を……」
純平は自分の油断のせいで幸実が傷つけられてしまった事を悔やんでいた。そして自責の念に駆られてしまう。
『悪魔が憎いのでしょう?でしたら、私に身を委ねてください。……あの時と同じように』
それと同時に彼は悪魔への憎悪を募らせてしまった。そのため、彼の中から声をかけてきた悪魔……ベイルの言葉に耳を貸してしまう。
「あの時……」
純平は目の前で両親が殺された光景を思い出すと悪魔への憎悪を更に増大。それと同時にバイスタンプを手にする。
《カブト!》
《Deal……》
「うぁあああっ!」
《Bane Up!》
《破壊!(Break)世界!(Broke)奇々怪々!(Broken)仮面ライダーベイル!》
純平が怒りの声を上げると同時に悪魔へと突撃。その体に黒い霧とカブトムシのエネルギーを纏って仮面ライダーベイルとなる。
「うああっ!」
ベイルが二連撃の拳をぶつけてから悪魔への上段蹴りをぶつけると悪魔は火花を散らして吹き飛ばされる。更にベイルは悪魔へと掴み掛かると腹へと容赦無く全力の拳を叩きつけた。
「殺す、殺してやる!」
ベイルの言葉は完全に悪魔への憎しみに支配された上で出ており、その力は凄まじかったものの周りから見たらその異様さに恐怖も感じられる物であった。
《カブト!》
《Charge!》
《ベイリングインパクト!》
ベイルがスタンプをベルトに押印して両側からベルトを押し込むと向かってくる悪魔のブローを左腕で軽々防ぐ。その直後にカウンターとばかりにストレートパンチを繰り出すとそのエネルギーはカブトムシの頭部を模した物となり、悪魔を貫く事になる。
「がああっ!」
悪魔が赤い電流と共に粉々に爆散すると事態が収束したのを見て幸実と正造も出てきた。
「悪魔をあんなにアッサリと。……まるで彼自身も悪魔その物になったみたいだな」
すると戦闘が終了したにも関わらず、いつまでも変身解除しないベイル。そのタイミングでノアの構成員の増援が来るとベイルへと一斉射撃が放たれた。
「………」
その攻撃はまるでベイルにとってダメージにならなかったが、ベイルの装甲に阻まれて上に弾け飛んだ弾丸の一発が彼の上にある照明を割り砕いた。
「はあっ!」
するとベイルから発生した赤黒いエネルギーの衝撃波が構成員達に命中。彼らはなす術なく吹き飛ばされると叩きつけられる。
「ッ!?」
「うああっ!」
そのままベイルは倒れ伏した構成員を必要以上に痛めつけ始めた。そこにはベイルの変身者、純平が憎悪に身を委ねた事で気持ちの暴走をおこしているのである。
「消えろ、消えろよ!」
構成員達は何とか抵抗するが、ベイル相手に敵うはずもなくあっという間に倒されては攻撃を受ける。その際、あまりのベイルの暴走具合に構成員達の骨が砕ける音も聞こえていた。
「止めて!」
その凄惨な光景に幸実は耐えきれずにベイルに止めるように言う。するとベイルは構成員の胸ぐらを掴んでから殴ろうとした寸前で止まる。
「ッ……」
「その人達は人間よ!悪魔にならないで!」
幸実の身を挺した言葉にベイルは何とか暴走から立ち直ると恐る恐る呟く形で疑問を返す。
「俺が……悪魔?」
「あなたはとっても優しい人……悪魔なんかじゃない!」
「あ……あぁ……」
だが、ベイルは……心の優しい純平は暴走したせいで無関係な人々を必要以上に痛めつけた事に頭が真っ白に染まっていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……俺が、アイツらを殺したのか?」
ベイルがそう言う中、構成員達はほぼ虫の息だったがまだ生きてはいた。するとそのタイミングで心の中にいる声の方のベイルが言葉をかける。
『彼等を救う方法があります。ドライバーを両サイドから強く押し込んでください』
「あああっ!」
ベイルはその言葉に耳を傾けるとドライバーを言われた通りに両サイドから押し込んでしまった。……これから彼はその行為をした事を後悔するとも知らずに。
「うわぁああっ!あああっ!」
その瞬間、ドライバーの画面に悪魔のような目が宿ると自身から黒い霧が分離。それと同時にその姿は純平へと戻るとドライバーから飛び出した赤い魂は黒い霧と合わさって実体化。そこに人型のような何かとして顕現する。
「はぁ……はぁ……お前は……?」
その姿は黒を基調として赤いラインが縦に入り、手足には赤い爪。顔をは紫の瞳に剥き出しとなった鋭い赤い牙。耳は尖っており、その悪魔のよくな姿に純平は見覚えがあった。
「ふっ……」
次の瞬間、悪魔のような怪人は次々と虫の息になっていた構成員達へと高速移動してはトドメを刺していく。
「ああっ……止めろ、止めてくれ……」
しかし、その怪人は殺戮行為を止める事なく完遂。そんな姿を見て幸実は小さく呟いた。
「酷い……」
「お初にお目にかかります。これが私の真の姿……。あなたから生み出された悪魔、ベイル」
悪魔は純平の前に立つと自己紹介をする。その声は自分の中から聞こえていた声と全く同じ物だった。悪魔ベイルは外に出られたのが嬉しいのか、気分良さそうに話しかける。
逆に純平からしたら絶望ものだった。構成員達を救うという話の上で呼び出したのにやったのは真逆のトドメを刺すことである。それに加えて、自分の両親を殺した悪魔がまさか自分から生まれた悪魔だと知らなかったためにその衝撃は余計に大きかった。
「お前が……父さんや母さんを殺した……悪魔」
「はははははは!そうだ!お前の家族を殺したのは……お前から生まれたこの俺だ!」
悪魔ベイルは先程までの丁寧な口調はどこへやらと言わんばかりの高圧的な口調で純平へと絶望的な真実を告げる。純平はまさか、自分の両親を殺したのが他でも無い自分の悪魔だと知って困惑する事になった。
同時刻ノアの内部では。純平を殺し、幸実を連れ戻すように部下に命令して自分は一人司令室で構えている東山と自分のしてきた事に後悔の念がある真澄はベイルドライバーと悪魔ベイルについて語る。
「あの神器。ベイルドライバーを使いこなし、バイスタンプの力を最大限に制御、活かすにはドライバーに悪魔を常駐させるしか無かった。……そのために被験体071を憎悪で縛り付け、復讐の権化とする事で運用した」
だが、そのせいで純平の心はグチャグチャに踏み躙られて壊される事になると彼は一度廃人となって完全に人として生きる力を無くす所だった。ノアは純平を使うために彼の心を弄んだのだ。
「……その通りだ。奴の憎悪を永久に絶やさないようにするため、自ら生まれた悪魔。ベイルに家族を殺させた」
「あなたは悪魔と契約し……魂を売ったんだ!」
「ふっ……。確かにそうかもしれないな。だが、何度も言うだろう?嫌なら従わなければ良かったんだ。実験に加担したお前も同類だという事を忘れるな?」
真澄の指摘に東山は冷静に、的確に言い返すと真澄はそれ以上何も言えなくなってしまう。
「……実験は失敗だ。やはり、悪魔をコントロールする事など不可能だったんだ!」
「人類の進歩に失敗は付き物だ。何を悔やむ必要がある?……あんな男の代わりなんてそこら中にいる。たかだか一人の人生が壊れただけの事。それ以外の大多数の人の力になれるのなら本望だろ。……もう一度言う。被験体071は破棄だ」
そう無責任に告げる東山。そんな彼の心は腐り切っていた。自分は安全圏から見ているだけで彼は実際の作業はやっていない。もしこれが見つかって罪に問われた場合、彼は責任を取るつもりなど毛頭無いだろう。部下である真澄達が勝手にやったと擦りつけて終わりだ。
「クソッ……」
真澄は悔しそうにそう聞こえないよう呟く。ただそれは東山の言葉にでは無く自分のやってきた事の愚かさに対してだが。
場面は戻ると純平達の方へ。純平は両親が死んだ理由を思い出すと我に帰る。
「そうだ……。俺が生み出した悪魔が、俺の家族を殺した」
「ふははっ!最高だなぁ。お前のその顔、その絶望を見るのが!」
「貴様ぁああっ!」
純平は両親を殺した悪魔ベイルへの怒りをそのまま彼へとぶつけるべく掴み掛かる。
「おいおい、折角相棒が出てきてやったんだ。そんなつれない事すんなよ」
次の瞬間、悪魔ベイルは純平を投げ飛ばすと倒れ伏す彼の前にしゃがみ込んで問いかける。
「……次は奴等の番だと思わないか?」
「奴等の番だと?」
「ああ。ノアの連中に決まってんだろ?憎く無いのか?」
その問いは文字通り悪魔の囁きであった。だが、純平の心には自分をあれだけ好き放題弄った挙げ句このような目に遭わせたノアの連中への憎しみが確かに膨れ上がっていくのを感じる。
「お前からこの俺を生み出して、実験のために家族を殺させたんだぞ?」
「……憎い、憎い」
「ダメ!そんな奴に耳を貸さないで!」
幸実がそう言って悪魔の囁きに乗りかけた純平を止めようとする。しかし、もう純平の心は悪魔ベイルの思い通りに操られていた。
「憎い……奴等が……憎いぃいいっ!」
「だろ?一緒に暴れようぜ……相棒」
悪魔ベイルは自分の意見に賛同した純平へと笑みを浮かべると彼の体内に再度侵入。一体化すると目が赤黒く変わる。
「元太!?……止めて!」
幸実は何とか止めようと彼へと抱きつくが、純平は一度彼女を見てから目障りとばかりに退かしてしまう。
「きゃっ!?」
「ふん。もう遅い。コイツの体は俺が使わせてもらう。なぁに、コイツの望みを叶えてやるだけだ」
その声色は純平の物では無く、悪魔ベイルの物に変わっていた。完全に彼に乗っ取られたと言う事だろう。
《カブト!》
《Deal……》
《Bane Up!》
《仮面ライダーベイル!》
純平は邪悪な笑みを浮かべると直接悪魔の黒い霧を纏って仮面ライダーベイルへと変貌を遂げるのであった。
また次回もお楽しみに。