さて、灰原と共に派遣されました、対産土神戦。
補助監督に帳を降ろされてから、人気のない山奥の神社跡を2人でずんずんと進んでいきます。こんな場所に強い呪霊なんていないって思いますよね。違うんだよなぁ。
「この呪霊っ、……一級クラス!?」
灰原が息を呑みます。
見た目を一言で言えば『汚泥の巨人』でした。高さは3mくらいのデカさで、四肢があります。顔はどちらかと言えばババアっぽいですね。流石に原作の自然呪霊組のような人語を操る知能までは無さそうですが、明らかにヤバそうな泥っぽいものを全身に纏った呪いです。
二級術師2名で楽に倒せる相手ではありません。一方の殉職という筋書きには程よい強さです。
……おや、デカい泥団子を投げる感じの術式です? 見るからに凶悪そうな投擲ポーズですね。
「術式使いまーす! 俺の術式は『秘密の暴露』! 術式順転の名前は『自分語り』で、術式反転だと『他人語り』! 秘密を暴露した対象へのバフやデバフが効果です!! 同じ秘密は同じ相手には二度と使えず、他者に使い回した場合は、威力は減衰します! 減衰は言い回しを変えることにより軽減する事ができます。そういうわけだから、基本的に秘密は使い捨て!」
自らに掛けたバフの恩恵を受け、攻撃を避ける。避ける。灰原も何とか回避できています。
「例えば! テメーは元々この土地を守る神様でした! 呪いに成ってしまったのは、信仰の減少と祟り神への恐怖から! この辺の人口が減ったことへの地元民の憂い! それと、お社があった場所を壊した後で立て続けに不幸が起きたことによる恐怖の蓄積! そうしてこう成ってしまったのがお前です!」
灰原は気付くでしょうか。相手の正体について補助監督から貰った情報が、俺が話している暴露と全く異なっているということに。それとも、回避に手一杯だと、そうしたことを考える余裕さえもない感じでしょうか。
「俺は五条先輩曰く、腐った蜜柑の子飼いのスパイ部門のお家の生まれ!」
今だ。上がる身体能力のままに攻撃に転じます。
灰原が驚いた顔でこちらを見ています。おかしさにやっと気づきましたか。
――そうだよ。そうなんだよ、灰原!
「任務! 五条先輩の監視! 夏油先輩の離反を促す事! その為に、灰原を殺す事! 補助監督は二舌家の手の者です! 帳を強固に掛けているので、逃げられませんよ、灰原!」
ググッと俺の身体能力が上がる。いつになく体が強化され、動く。動く。
黒閃。1回。2回。3回。相手は一級呪霊。出し惜しみはしませんよ!
「この産土神の跋除任務は、灰原、貴方の抹殺のために用意されたものです!」
言った途端、あれほどデカかった呪霊が赤ちゃんサイズにまで縮小して、四級呪霊並みに弱まりました。
――今です!
俺は、もう大したことのないこの呪霊を引っ掴んで、表情を強張らせる灰原へと投げ付けます。残穢を誤魔化す為です。殉職者の遺体に呪霊の残穢が全く残っていないのは流石に変ですからね。
呪力強化している灰原に叩きつけられた衝撃からでしょう、呪霊は散るように完全消失します。都合の良い展開です。
「さて! 『他人語り』、灰原編いきましょうか! 灰原の術式はなし! コーラや米が好きで、趣味は……」
俺はゲラゲラと笑いながら、殴りながら、今まで見てきた灰原を語っていきます。
灰原は、一切反撃せずに防御のみで俺の攻撃を受け続けます。あっという間に立てなくなって、その場に尻餅をつきました。
「……とどめ、刺さないの? 僕、もうボロボロだよ。君は涙がボロボロだけどね」
俺を見上げて笑います。
――分かってますよ、くそ!!!
「五条先輩に相談しよう。きっと助けてくれるよ。あの2人は、最強だから」
灰原が手を伸ばします。仕方ないなぁって顔で。
「……!!」
鋭敏に感覚が強化されていたから、気づけました。俺の身体が勝手に動きます。片腕で無理矢理に灰原を立たせる方向で。
「痛っ……!!」
狙撃です。灰原の脇腹から血が噴き出しました。
頭を狙っていたのですね。俺が立たせなければ即死していた。
――くそ。くそ。くそっ!!!
「やっぱり監視されてるんだね。……ごめんね。いいよ、殺して。撃たれるよりも君がいい……」
俺の手を振りほどいて、灰原は脇腹を押さえながらうずくまり、いえ、座る力も残っていないのでしょう、地面にあおむけに倒れます。
「灰原!!!!!」
「うん。何?」
――クソクソクソッ
「お前は、呪霊の前に妹を置いて逃げた事がある!!!」
「うん、そうだよ。秘密、バレちゃってたね」
盤星教本部で知った秘密で術式は発動します、でも足りない。絶対的に力が足りない。
考えなさい! 五条先輩に薨星宮を丸々吹っ飛ばさせたほどのバフ! 一級の呪霊をああいう風に四級クラスまでデバフできる俺の力は、こんなものじゃあないはずです。
強大な力を使えた時の共通点は……!!!
――原作、知識!?
そうです、原作の知識を『秘密の暴露』に使った時、俺の力は爆発的に上がっていました。俺は腰を落として灰原の腕を掴みます。
「灰原。【お前がこのタイミングで殺されることは決まってた。俺は知っててそれを黙ってた】。君は、自分がいつか死ぬのではないかと思っていただろう? 【お前の妹は呪いが見える】けど、【その妹には呪専には行くなと言っていた】のも、きっとそう考えたからだ」
「……。そんなことも知ってるんだ。監視してた?」
「まあな」
「僕の負けだね」
俺が願った通りでした。足元から、灰原の足元から、固まっていきます。
「……二舌。絶対誰にも負けちゃダメだよ。こっちきたら、現世に蹴落としてやるから」
「そのまま地獄まで落ちてきそう」
……このやりとりを最後に、灰原は完全に固まってしまいました。
これで確信できたことがあります。俺の術式の、極ノ番についてです。
極ノ番は、『原作の知識』を使って秘密の暴露をした時のみ引き起こせるのです。これで生じるのは、究極のバフ、または究極のデバフ。……いや、引き起こすのはバフやデバフというものではなくて、ある種の『奇跡』と言って良いのかもしれません。
灰原の時を止めるという究極のデバフを、俺はたった今成し遂げたのですから。
声には決して出さずに思考します。
この極ノ番に名前を付けるとしたら、きっと相応しいのは、……『
――脳内でかちりと嵌った感じがしました。解釈が固定化されたためか、それしかないであろう名前を見つけたことによる快感か、判別はつきませんが。名称はこれで良いのだと確信します。
灰原の手のひらを握ります。何者にも干渉されないよう、俺が強く『そうあれ』と呪った同期の身体は、ヒトの遺体と同じような冷たさでも、ヒトの身体にはありえないほどの硬さです。
横たわる身体を、俺は慌てながら揺すりまくります。呪術的に『固まって』しまっている灰原を確認してから、俺は狙撃手がいたであろう方角を見て絶叫しました。
「監視役さーん! 監視役さーん! どうかこちらに来て頂けませんかー!? 今回のターゲットが、どうしてだか呪術的に殺せないっぽい状態で凍り付いちゃったんですー!! 監視役さんにも確認していただけませんかー!?」
遠隔で監視しているはずのメロンパンは、今どんな顔をしているのでしょうか。俺の術式のせいで灰原が『固まった』ことは明確に理解するでしょう。その発動要件には見当がつくでしょうか。俺が、極ノ番の発動要件を確信してしまっていることまで勘付くでしょうか。
今の俺には分かりません。はっきりしているのは、ずっと前から詰みまくって綱渡りだった俺の道化のような人生が、これからも楽になるということなど絶対にない、ということでした。
灰原は、『一級呪霊だった産土神の、最後っ屁のような術式を被弾したため植物状態になった』ことになりました。奇跡的に俺は無傷。
二級術師1名の損耗で一級呪霊を跋除できたのです。業界的に特に不自然な事ではありません。
次回、更新日未定
「ミッション11:夏油を削れ/夏油先輩を守れ①」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
ここ好き、匿名感想等もお待ちしてます!
ストック切れたので、しばらく更新お休みです。
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