腐った蜜柑の二枚舌   作:かりん2022

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ミッション11:夏油を削れ/夏油先輩を守れ ①

先生に、これからグレるので依頼をしばらく休みますと伝える。

観光地で取った宿でベッドに横になると、もう夢の中だった。

私は相当ぐっすり眠っていたらしく、気がつけばいつまでも起きてこない事を心配されたホテルの人に救急車を呼ばれて、重度の過労判定と一ヶ月の入院を病院から義務付けられた。

 

「でも先生、私のやるべき事は自分探しの旅を」

「それもいいですね。でもまず寝なさい」

 

 そして、先生から容赦無く睡眠薬を点滴に投入された。

 

 目が覚めると、呪専の医務室で、首を横に向けると悟が椅子に座っていた。

 

「……心配した」

「悟」

「七海が怪我したって聞いて。灰原が意識不明で。お前が失踪したって聞いて」

「……え」

「二舌の事、殴った」

「……悟」

 

 悟を責めることはできなかった。悟が悔いている事は明らかだったからだ。七海や灰原の事も気にかかる。

 たっぷり睡眠をとって、私の頭は随分とスッキリしていて、泡のように今までの事が思い出されては弾けていく。そうだ、二舌はいつだって教えてくれていた。

 

【お二人が最強で珍しい術式だから、殺し合わせて共倒れして標本になってくんないかなって】

 

 

 

【多分盤星教とか上層部とか知らない呪詛師その他諸々が、夏油先輩に無理やり言う事聞かせようとしてくるし命も狙ってくると思われます。頑張って逃げてください】【術師をやれなくなった場合には、確実に死ぬよりもえげつない目に合う家の生まれなので】【腐った蜜柑のさらに腐った部分を担ってるって事ですよ】

【会える日減らしたり】【俺のことを助けられる人なんていないんで】

【迫害された幼子を庇って勢いのままに村人皆殺しにしちゃって、自分を騙す為に呪霊の見えない人間は猿なので滅ぶべきとか言い出す胡散臭い笑顔が素敵な自分洗脳系チョロイン教祖でしょうか】【五条先輩の気を任務で逸らしたり】

【自分の家が嫌になった】【夏油様は呪霊操術の使い手であらせられます】【五条先輩に死ぬより酷いことになれって言えます?】【進化するとどうなるのか? そう、高次元存在、すなわち神様! つまり、呪霊操術の対象となるのです!!】

【うちの家が貴方と五条さんを仲違いさせようと頑張ってるの気づいてます?】【夏油先輩に悪口吹き込もうとしたり】

 

 ああ、私。洗脳する為に、弱らされてたんだ。

 

【夏油先輩、かーわいい♡】

 

 

 走馬灯のように二舌の言葉が頭を巡る。

 悟が弱々しい声で言った。

 

「悪ぃ、傑。巻き込んだ」

 

 私は、起き上がると悟にぎゅっと抱きついていた。

 

「君は何も悪くない。私が悪いんだ。二舌に警告されてたのに」

「二舌がなんて?」

 

 

【これを機に酷使することで思考能力奪って刷り込みの準備ですね】

【術師の家の義務として、少しだけ手助けです】

 

 

【あなたのすべき事はなんですか?】

 

 二舌。二舌は、私の為に一度だけ選択の機会を作ってくれた。

 ただ洗脳されるんじゃなくて、一度だけ自分で選ぶ猶予をくれた。

 そう言うことだよね?

 

「言えよ、傑」

 

【2017年12月24日。2018年10月31日】

 

【約束します。そこまで耐えてくれたなら、地獄はそこで終わりです。終わらせます。俺の事を、信じてくれますか?】

 

 逆に言えば、10年はこれが続くと言うこと。

 考えなくちゃいけない。考えないと。

 

 まず。

 

 優先順位をはっきりさせよう。

 

 

「お前もダンマリかよ、傑!」

「違うよ、悟。考えてたんだ。何を優先すべきかって。私を弱らせて、刷り込みしたいんだって。君と仲違いするように」

「向こうがそこまで仕掛けてくるなら、もう戦争「悟」」

 

 悟の顔を包み、じっとサングラスの向こうの目を見る。

 

「君は私を信じてくれるかい?」

「当たり前だろ」

「なら、決まりだ。私は二舌の手に堕ちてみるよ」

「はぁ!?」

 

 私の優先順位は悟。そこはぶれさせてはならない。

 

「このままだと、周囲が攻撃され続けるのは変わらないと思うんだ。多分、二舌の家の人達の考え的には、私を君から引き離して呪霊操術が欲しいんだと思う。大人しくいう事を聞いて、時を待つよ。君や二舌が力を手に入れて、私が帰って来れるようにしてくれる時を」

「傑。わかってんのか。すげー危険だぞ」

 

 悟は震える手で私を抱き返した。私も怖いよ、悟。

 

「それは今でも変わらないって思い知らされたじゃないか」

「それは……」

「私の優先順位は、君だよ悟。それは決めた。そこだけは譲らない。でも、やっぱり恵や利久、灰原や七海は私よりも上に来るんだよ。自分が良ければ他はどれだけ犠牲になってもいいなんて思えない。だから、今は大人しく策に乗るよ。近々、子供を人質に私にいう事を聞かせようとする策略があるらしいんだ。向こうの目的は私を呪詛師にする事だろうけど、なんとかそれだけは回避出来るよう、頑張るよ」

「傑。俺の優先順位もお前だよ。お前がいいようにされるのを黙ってみてるなんて俺は」

 

 苦しそうな顔で悟は言う。回された腕に力が込められる。

 

「10年後に、何かあるみたいなんだ。それまで、私は止めを刺されないと思う。二舌も、その時に終わらせるって言ってた。でも、二舌だけに任せるわけにはいかないよ。私達も準備をしなきゃ」

「何かってなんだよ」

「多分、その日に私や君を殺せないとダメなんだと思う。何か、特別な儀式とかが呪霊操術関連であるんじゃないかな」

 

 悟は、ぎゅうっと腕に力を入れて、緩ませた。

 

「ぜってー上の奴らぶっ飛ばすから。10年後だな」

「うん」

「迎えに行くよ傑。だから、その時までちゃんと生き延びろよ」

「うん」

 

 約束だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 等級詐欺案件からなんとか帰ってくれば、灰原が植物状態になっていた。

 夏油先輩は失踪先で入院して連れ戻された。

 

 灰原の手を握り、私は心の中で吹き荒れる嵐に耐えていた。

 背後に人の気配がする。

 

「なんですか、二舌」

 

 何も聞きたくなかった。いい知らせであるはずがなかった。

 

「七海」

「なんですか」

「卒業したら、術師辞めてくれるかな」

 

 振り返る。

 

 無事だという話だったのに。二舌はとてもボロボロだった。

 思わず息を呑む。

 

「すごく勝手だけどさ。五条先輩が味方を守れるようになったら戻ってきてほしい」

「もう沢山だ」

 

 吐き捨てる。

 

「術師は辞めます。でも、もう戻ってきませんから」

「あー、それがいいかもね。七海いないとすごく大変だけど」

 

 俺、七海のこと捨て石にしそうだし。

 

 ポツリとつぶやかれた言葉。

 

 もう沢山だ。もう沢山だ。もう沢山だ。

 

 灰原が倒れた事が偶然でないことなど自明だった。

 二舌の傷が任務によるものではないことなど自明だった。

 

 聞きたくないのに、二舌は言葉を繋げていく。

 

「戻ってくるなら、俺らとは適度に距離を取った方がいい。五条先輩も、夏油先輩も、俺も、敵とは思ってないけれど、毛嫌いしてるくらいの立ち位置で。上を嫌ってもいいけれど、指示には従う、くらいの感じで。でも派閥は五条派閥から出るな。敵対させられる」

 

 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。

 

「七海が自然にきらえるように、頑張るよ、俺」

 

 ああ、灰原。

 

『呪霊を倒すだけじゃ、ダメなのかな』

 

 灰原。どうやら、それだけでは駄目なようです。

 ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 上層部から、殺しましょうか。

 

 自分を偽っても。

 

 苦しい嵐を耐える事となっても。

 

 何を犠牲にしてでも。

 

 ただ、術師が呪霊さえ祓っていればそれでいいように。

 

 大丈夫ですよ、二舌。私は間違えない。

 五条先輩や夏油先輩、二舌が悪いわけではない。

 

 それはね、彼らの気持ちも分かりますよ。多少はね。

 お二人はあんなクズな性格だし、それがあれだけ強いんですから、腹立たしいでしょう。怖いでしょう。でも、これは。これはやりすぎだ。

 

 呪い返しはそれ相応のものになると、覚悟しておくがいい。




ミッション15で一旦更新停止します。

次回、明日19時01分更新
「ミッション12:夏油を削れ/夏油先輩を守れ②」

本日夜、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。

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