腐った蜜柑の二枚舌   作:かりん2022

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ミッション12:夏油を削れ/夏油先輩を守れ ②

 家の人間の重めの折檻でボロボロにされた俺は、パパンの前でひたすら畳に頭を擦り付けます。

 

「醜態を晒したね」

「返す言葉もありません」

 

 ねちっこい声ですね。表面上静かに笑っていますが、本当の意味で笑っていない声です。顔もきっと笑ってはいないのでしょう。俺は土下座してるので、顔を見上げることなどできませんが。

 必死に自分に言い聞かせます。俺は、今、尊敬する最推しにガチ責めされて恐縮している、と。俺が腹に抱えているものを悟られてはいけないのです。

 

「何故灰原がああなった」

「……申し訳ありません、俺にも詳細は分かりません。俺の術式の暴走かもしれません。それでうっかり」

 

 嘘ではありません。暴走かもしれません、拡張術式かもしれませんし、極ノ番かもしれません。

 一番あり得るのは極ノ番だし、ただ『そうかもしれない』と漠然と思っていますが、俺の内心の解釈が誤っているだけで、実は拡張術式かもしれないという説も残ります。俺の術式であっても、術式と性能を言い当てる神の眼でも持たない限り、確実に極ノ番であると『断定は不可能』です。

 

「解呪方法は」

「分かりません」

 

 これも、嘘ではありません。

 灰原は、家の人間でも、高専の人間でも、誰がどう頑張っても解呪できない呪いで『固まって』しまってます。……原作知識を用いた極ノ番ならば解呪できるかもしれませんが、『実際にやってみないと分かりません』。

 

「今の言葉を、私との縛りでもって真実であると証明しなさい。そうだな、【私も君も今から30秒以内に嘘を吐くと死ぬ】。この縛りを結んでから30秒以内に今の言葉を復唱しなさい」

「はい。【俺もとうさまも30秒以内に嘘を吐くと死ぬ】。分かりました」

 

 かちりと脳内で音がしました。

 縛りが結ばれたのを感じます。俺は頭を下げたまま、パパンの指示通りに言いました。

 ここからはちょっとした賭けです。……脳内で情報を補足しながら意識的に言葉足らずで喋った内容が、この縛りに抵触しないのかどうか。

 

「灰原がああなった理由は俺には分かりません。俺の、術式の暴走かもしれません。解呪方法も、分かりません」

 

 そして俺は黙ります。パパンは一切発言せず、俺も死ぬことなく、……たっぷり30秒過ぎた頃、パパンが指示しました。

 

「いいだろう誠司。頭を上げなさい」

「はい」

 

 パパンは、予想通りの目が笑っていない顔で笑っていました。俺の目の奥を覗きながら。

 

「どんなからくりなのか分からないが、君が嘘を吐いていないことは認めよう。……だが、失態は失態だ。『殺せ』と指示された標的を殺せなかった上に、君は七海にも余計な情報を吹き込んでいるのだからね。今日付で呪専を退学してもらうよ」

「はい」

 

 パパン目線では当然の処置のはずです。情報を漏らす俺と学生の皆さん方は物理的に引き離すという対応。いつか来るとは思っていましたが、今でしたか。

 

「とうさま。1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「何かい?」

「七海に等級詐欺の依頼を出した、根本的な理由についてお伺いしたいです。……俺は、七海や、ひいては学生陣の信頼を得る振る舞いのために、あの場でああ話すのがいいのだと思ってました。そうするための踏み台が等級詐欺依頼だ、と。……でも、俺は根本的に理解と解釈を間違っていたのでしょうから」

 

 本心そのままの不安そうな顔、今の俺ならば作れます。パパンはにんまりと笑いました。

 

「それは根本的に間違っているね。君の心を削っておこうと思ったのが、依頼を出した理由だよ。今回の君の未熟さに対する罰として、君がさっきまで受けてた折檻をもう一周受けてもらおうか。私との話はその後でまだ続くよ。君が生きているならね」

「……分かりました。謹んでお受けいたします」

 

 再び頭を下げた俺を、パパンの合図を受けた家の人間が取り囲みました。そしてパパンは、彼らに何でもないように指示を出します。

 

「ああ、死んだら死んだでそれでいいから。別に、こいつの命がある前提で私が計画を組んでいるわけじゃあないし」

 

 ――マジですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうさま。……お話の続きを、お伺いに、参上しました」

 

 重めの折檻2周目の後です。反転術式どころか傷の手当ては一切無しで引きずり出されました。家の人間の手で頭を抑えつけられて、無理に畳の上に土下座します。これで折檻の3周目があれば俺が持たないでしょうね。

 パパンの合図で家の人間が退去します。

 

「誠司。何年か振りの父子での実地稽古だ。課題を1つ出そう。今襲ってくる呪霊を倒しなさい」

 

 ブン!

 

 パパンの言葉を食うタイミングで、デカい『何か』が俺の背を叩きます。反応しきれない一瞬で俺の全身を掴み上げて圧迫し、俺は襲ってきた呪霊の正体を把握します。

 蛇の見た目の呪霊です。この呪力の感じだと、二級相当と見て良いでしょうか。何かの手法で飼い馴らしていたのでしょうね。俺の実力だと術式を使わないと倒せないタイプです。

 

「この課題に条件を付けよう。『自分語り』で君の一番の望みを言って倒すこと。果たせないのであれば、また折檻だ」

「……は、い」

 

 ――俺の術式を逆手に取りましたか。

 実際の意味で『真実』を言わなければ、俺はここで死んでいくしかありません。おまけに、呪霊とは別口で自白系か思考誘導系の術式を掛けられている感じの、ひどい違和感もあります。

 つまりパパンは『俺が心の底から望んでいること』を知りたがっている。

 

「術式、『秘密の暴露』、俺の、二舌誠司の、一番の望みは、……」

 

 脳がこじ開けられていく感じの術式ですね。実に不愉快です。誘導させられて、視野狭窄に無理矢理持って行こうとする強引さ。ただ、抗うことはできずに俺の口から言葉が飛び出しました。

 

「呪術師を止めて普通に生きること、です」

 

 俺自身に強いバフが掛かります。強化された腕力と脚力に任せて、蛇型の胴体を引き裂き、頭を蹴り飛ばして核を踏み潰し、一瞬で跋除を達成しました。

 ――嘘でしょう!?

 パパンは、爆笑してます。俺は茫然とせざるを得ません。俺はそんなことを一度も思ったことも口に出したこともなく、しかしバフが掛かったと言うことはそれは真実で、つまり無意識にでも『それが叶うこと』を望んでいるということで、それはつまりつまりつまり……

 パパンは爆笑してます。涙が出るほどの爆笑です。そして、面白そうに涙を拭って言うのです。

 

「……いいだろう、叶えよう。君のこれまでの働きを見て、そろそろ君と私の間で『縛り』を結ぶ必要があると思ったからね。……とはいえ、一方的に何かを命じるだけの『縛り』は成立しない。私の方も、何かしらを負担しなければいけないのが『縛り』というものだろう? だから、私は、君にとって魅力的なメリットとは何であるのか、つまり、君の一番の望みが何かを知りたかった」

 

 確かに、二者間で結ぶ呪術的な『縛り』は、双方にメリットがないと成立しません。無茶苦茶な行動ですが理屈は通ります。

 

「そういうことでしたか……。とうさまは何を望まれているのですか?」

「それはね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかんともしがたい状況になったのだな。五条悟は」

「全く、嘆かわしい。変な状況を招いた二舌家もです」

 

 ひとりの老人が嘆きと共に吐き出した言葉に、また別のひとりが同調する。口を開いていない者も、同感だという風に頷いた。……表向きは。

 

 京都の、とある呪術の名家の一室。

 複数名の和装の老人達が顔を突き合わせていた。この場に集っている全員が、呪術総監部に所属している上層部の一員。五条悟の評価を引用するならば『腐った蜜柑』達。今回の集まり自体も、いわゆる『秘密の相談事』のためだった。……今回の議題は、『五条悟について』。

 

 かつて、『六眼と無下限の抱き合わせ』の存在が呪術界に知れ渡った時。呪術界の誰もが、己に都合の良い夢を見た。

 総監部の老人達だって、(当たり前だが)同様の夢を見た。『六眼と無下限の抱き合わせ』が、老人達の手綱の下で、老人達の都合のいいように呪霊を祓い、当人たちの都合のいいように呪詛師を殺す存在に育つ、……という夢だ。

 老人達にとって、その『叶うべき夢』が大きく潰れようとしていた。

 他でもない五条悟が、自らの意思で老人達への悪感情を隠さなくなったのだ。二舌誠司の下手な立ち回りと、要らない知恵の流入を誘因として!

 

 こうして生まれた呪術総監部vs五条家の係争は、表面化して以来今に至るまで、専ら激化の一途を辿っていた。『六眼と無下限の抱き合わせ』の誕生以来、密かに恐れていた事が、遂に起きてしまったのだ。誰ともなくそのように噂する事態となったのだ。

 どれだけきつい仕事を大量に押し付けても、もはや五条悟は抑えられなかった。名実ともに最強に成って、老人達のどんな手綱も振り切り、己の好きに権勢を振る舞うだけの存在になろうとしている。……老人達は、そのように事態を捉えていた。

 ついに数日前、業を煮やした呪術総監部に呼び出され、顔を隠した老人達に詰問された五条悟は、とてつもなくふてぶてしい口調で言い捨てたのだった。

 ――「あのさ。俺はいつまでも子どもじゃねーし、やられた事は覚えてっから」

 

 恐ろしい事だった。五条悟が着実に力をつけている事実。老人達にとって非常にゆゆしく恐ろしい事だった。この場には居ないが、総監部を構成する老人達の中には、日和るように、今更の手の平返しで五条家にいい顔をする者さえ出ている。五条家に同情的な者さえいるのだ! 「表立って周囲の人間を始末したら、反発するのも当然だろう」などという反応で!

 

 この密談の参加者は、『今』五条に反発を示している者に限った集まりだが、お互いの内心ではどう裏切るか分かったものではないと疑っている。

 ある意味で呪術界の日常茶飯事を象徴しているかのような会合であった。




ミッション15で一旦更新停止します。

次回、明日19時01分更新
「ミッション13:夏油を削れ/夏油先輩を守れ③」

本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。

ここ好き、匿名感想等もお待ちしてます!

本日のLiveNovelは時村ニレが開きます。内容は16話の内容打ち合わせです。
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