「こいつらが怪異の原因なのです!」
檻の中で震えるボロボロの双子の子供を前に、村人達は訴えていた。
そこに、声が降ってくる。
【震える子供。勝ち誇った様子の村人達。夏油先輩の頭は真っ白になった。ついで、襲ったのは困惑と恐怖だった】
「な、なんだこの声は!?」
【そして、それを隠すかのような怒り。悲しみ。あまりにも強い過剰防衛の意思。猿である非術師を殺し尽くさないと、安全は得られないという危惧。夏油先輩は、気がつけば村人を皆殺しにしていた。そしてもう後戻りはできなかった】
村人は必死に周囲を見渡す。
ひょこっと普通に顔を出したのは、二舌だった。
「やっぱこの依頼だったな。で、お前の術式は洗脳系にも応用できたんだな」
「まあそうです。せっかく夏油先輩を洗脳する為に色々考えたのに。サプライズは失敗ですね。まさか貴方達が来るとは思いませんでしたよ、五条先輩、家入先輩」
「出たよクズ」
「さすが傑を可愛いっていうだけの腐った蜜柑だけあるね」
「術式:他人語り。ここの村人はその双子の両親を殺している」
そう二舌が指摘すると、村人達は倒れた。家入がすぐ調べる。眠っているだけのようだった。硝子は、次に双子の檻に手をかける。
硝子に視線をよこされ、僕は檻の破壊をする。すぐさま、硝子は双子を保護した。
「ごめんな。戻って記録とったらすぐに治療しような」
二舌の術式は応用が効き、とても強い。それをまざまざと見せつけられた。
「ここで夏油先輩を追い詰めて洗脳して、お迎えするつもりだったのに。なんで来ちゃったんですか?」
「この前、傑と色々話したそうじゃねぇか。僕とも話せよ。なーんにも言わずに退学しやがって」
「監視されてるんですけど。少しだけなら」
二舌は微笑んだ。
「お前さ、何が目的なんだよ。何をするにも中途半端なんだよ。傑の洗脳されてたらやばかったから、助かったけどさ。味方になるなら味方になるではっきりこっちの派閥に来いよ。今でも、お前一人なら抱えられる」
「それは無理なんですよ」
突き放すような言葉。それを言った二舌は少し苦しそうだった。
「なんで」
「それはわかっているでしょう? 五条先輩はまだ無力だし、五条家の力はまだ足りない。こう見えても、俺は呪術界の多数派の派閥所属です。先輩は親友すら守れないでいる。そんな貴方をどう頼れと?」
「っ」
事実を突きつけられる。二舌は加茂家の系列だからいうまでもなく五条家と敵対しているし、恵とのことで禪院家は五条家を恨んでいる。五条家は孤立していると言ってもいい。派閥力学に詳しくないのが悔しかった。避けていたことだった。そして、一番大事なことだった。
「10年は頑張ってから出直してください」
「10年後に何があんだよ」
「大戦争、ですかね? いくつもの計画が走っていて、10年後に収束します。そこで白黒つくでしょう。惨たらしい死か、華々しい勝利か。どちらにしろ、地獄からは解放される。選択権が欲しかったら、必死で頑張ってください」
「それまで、傑は無事なんだな」
「恐らく。収穫に備えての準備はされるでしょうが」
「傑は呪詛師にはさせない。でも潜入捜査ということには出来る」
これが俺が傑にできる精一杯。それすら二舌の家の策略かもしれないけれど。
「傑を預けるよ。10年後、利子付きで受け取りに行く。それまで丁重に扱っとけよ」
「利子?」
「お前」
二舌はきょとんとして、ついで笑った。
「なるほど。特級術師10年レンタルの代金としては破格ですね。ならば、俺も頑張って生き延びましょう。さて、あまり喋ると折檻を受けてしまいます。俺はもう行きましょう」
「二舌お兄ちゃん」
「!」
「おにぎりありがと」「ありがと!」
「……看守にいうことじゃないですね」
そうして、二舌は去っていく。
「さて、もう大丈夫だ。名前は? 私の名は硝子。そっちのお兄ちゃんは悟」
「美々子」
「菜々子」
保護した双子に、硝子は優しく語りかける。
「自分の名前言えて偉いぞ。さあ、新しいお家に帰ろう。お兄ちゃん達が増えるぞ。傷の治療をして、服をいっぱい買って、ぬいぐるみも必要だな。ああ、持っていきたいものはあるか?」
「はい、硝子様。菜々子、前のお家に行きたいです」
「美々子、ぬいぐるみ持ってく!」
「硝子ママでいいよ。ママが嫌なら硝子母でもいい」
「ううん、硝子ママ!」
「ママ? ママぁ!」
抱きつく二人を受け止める硝子は、まさしくお母さんの顔をしていた。
恵は目を見開いていた。
ボロ雑巾のような可愛い女の子達が来たのだ。
あんなに怪我でいっぱいで、汚れていて、怯えている。
恵と同い年くらいの子供達である。まだ小さいのに。信じられない。
「利久。恵。手伝ってくれるか」
「「はい」」
「それ、親にやられたのか」
「パパとママは殺されちゃった」
「殺されちゃった」
思わず問うた恵は絶句する。
「美々子と菜々子は私が預かる。お前らの妹だ。優しくしてやれ」
「妹」
恵は寄るべのない女の子二人に思う。
津美紀はいつも自分を可愛がってくれた。姉だから。
自分も二人を兄として可愛がらなければならない。守らなければならない。
……そして、自分は決して捨てる側にはならない。
綺麗にされて、記録と調書を取られ、疲れた様子の二人に恵はお菓子を献上する。その後、硝子が治療してくれる。恵は、硝子がたまには役立つと認めた。
甲斐甲斐しく世話を焼く利久と恵に、硝子は内心ほっとした。
この出会いが、いいように転がればいいのだが。
「いいか、この世で一番尊いのは夏油様なんだ」
「「げとーさま」」
「利久、やめなさい」
夏油傑当人がそれにストップをかけてやんわりと利久の口を塞いだ。
それから一ヶ月後。
夏油と利久は盤星教に出立する事になった。
夏油は呪専に置いておきたがったが、利久のたっての希望が通った形だ。
「恵。美々子と菜々子を頼むよ」
「俺の妹だ。俺が守る」
「そうだね。恵がしっかりしていてとても嬉しいよ」
恵と視線を合わせるためにしゃがんでいた夏油は、立ち上がった。
「夏油様、いっちゃいやー」
「夏油様ー」
「これ、利久が仕込んだろ」
足に縋り付く美々子と菜々子を撫でながら、苦笑い。
そうして、夏油は五条に向き直った。
「悟。君は教師として味方を増やせ」
「傑。お前は教団を乗っ取り返してやれ」
「俺たちは」「私たちは」
「「最強だって示してやる」」
二人の手はキツく組まれる。
その友情が眩しいと思い、ほんの少しだけ羨ましくなる硝子だった。
夜蛾はそんな一足飛びに大人になってしまった3人を見て寂しく思っていた。
ほんの少し前まで子供だったのに、子供が子供でいる、そんな当たり前のことさえ許されなかった。
だからこそ、教師となる悟のサポートをしようと強く心に誓う。
手始めに全力で動いて、用意できたたった半日の全員休みの瞬間。
これが最期の集まりになるかも知れないのだ。
本来は絶対に許さない酒タバコもほんの少しだけ見逃そうという気になるもの。
会の最初だけ出席した夜蛾は、後は学生達で水入らずにと退出した。
翌朝。
あんなに距離が縮まっていた悟と硝子(夏油は昨日出立しているのでいない)の心の距離が10000メートルぐらい増えていた。
教室の端と端に机がくっついている。これは異常事態である。
悟は顔を赤くして何かとても後悔しているようだった。さらに言えば、悟の頬に紅葉があった。反転術式で治さないのであろうか。
わかるのは硝子がドン引している事ぐらいだ。
そして、真ん中の席にはちょこんと美々子と菜々子、恵が座っている。
「何があったんだ」
「あのね! 悟パパがね! もぐもぐ……おいしー!」
「そのね! 夏油様にね! もぐもぐ……おいしー!」
恵はお菓子で美々子と菜々子の発言を封じる。ナイスアシストである。
夜蛾は何も聞かなかったことにした。君子、危うきに近寄らずである。
「俺、酒もう絶対に飲まねぇ……」
「「そうしろ」」
硝子と恵の二重奏に、絶対に何も聞くものかと決意する夜蛾だった。
ミッション15で一旦更新停止します。
次回、明日19時01分更新
「ミッション14:夏油の強化を阻止せよ/夏油先輩を強化せよ ①」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
ここ好き、匿名感想等もお待ちしてます!
本日のLiveNovelは時村ニレが開きます。内容は16話の内容打ち合わせです。