あれから5年が過ぎた、2012年の6月28日。呪専の一室で。
「何これ」
僕は、『七夕盤星教プレゼンツ討伐ツアー』と書いてあるパンフレットをヒラヒラさせながら、傑に質問した。
向かい合う傑の教祖歴はもう5年。五条袈裟が板についた親友の姿はまさに『似非坊主』だ。
「君、今年度は呪専で初担任だろ。教え子にいいところを見せたくはないかい?」
僕は手を止めて、パンフレットに視線を落としながら答える。
傑から渡されたパンフレットは、タイトルだけはツアー旅行そのものだけど、中身をよく読んでみると、大半は雑魚呪霊討伐に日程を割いているという代物だった。期間は7月1日から7日まで。
更によくよく読み込んでみると、初日の7月1日に討伐する呪霊だけは、一切の情報が『???』になっていた。ついでに最終日の7月7日の最終盤は呪霊討伐じゃなくて『呪専で七夕祭り』になっている。
「まぁ、載っているのはほとんど雑魚ばっかだし。……雑魚じゃなくても、僕と傑が揃っているなら何の問題も起きっこないから、いいけどさぁ。1日から7日までなんて、結構な長期任務じゃん」
「まあまあ、七夕祭りの参加も入れてあるし、楽しそうだろ?」
「まあね」
それはそう。僕が初めて担任として受け持っている1年生の子、……猪野琢真も、こういう旅行はノリノリで参加したがるタイプだ。僕も好きだし、何なら、恵もさほど嫌がりはしないだろう。保護者の硝子の考え方次第だけど、美々子・菜々子にも声を掛けてみていいかもしれない。
だけど、それはそれとしてツッコミどころは別にある。
「――それで、本当の狙いは? この程度の打ち合わせなんかで僕を3日も拘束しないだろう? 初日の呪霊が詳細不明なのにも訳があるな?」
傑はにやりと笑った。
「御明察。盤星教は今、呪霊の情報を大量に集めてるんだ。でも、本当に有益な呪霊の情報は私の所までは流れてこないんだよね。二舌の所に行ってるらしいんだ」
「へぇ」
「だから、明日から明後日にかけて私達で二舌を襲撃して、2番目に重要な呪霊の情報を手に入れるんだ。7月1日には、その呪霊のところに悟と突撃しようかなと」
なるほど。筋は通るけれど、確認しなきゃいけない部分は残る。
「それ、二舌が家の人間にボコられない?」
「一番重要な呪霊には触らないから、殺されるまではいかないよ。そもそも、このプランを考えたのも二舌自身だし」
「……あいつ。本っ当にお前には甘いよな」
僕の人生で一番大事な親友を、あいつも別の方向から大事に扱って、情報を寄こしてくれる。
……『今のところは』『表向き』の但し書きが付くけれど。
6月30日、盤星教本部『星の子の家』の廊下にて。
それは全くの不意打ちでした。
「……!! むぐぅ!!」
何もない場所から突然『生えてきた』腕に、俺は後ろから羽交い絞めにされたのです。
全身を強く抑えつけられ、更に俺が声を出す前にちゃちゃっと猿ぐつわを噛まされます。片腕でも五条袈裟着用と分かる上、この身近な呪力。……正体は一目瞭然なのですが、このような、酷く乱暴な手口には術師として断固抵抗せざるを得ません、っつ!!
――痛い痛い痛い! あ、はい、「暴れるな」と言いたいのですね、でも痛たたたたた……
「落ち着きなよ、二舌」
姿を隠す系と思われる術式持ちの呪霊から、夏油先輩が全身を露わにします。先輩は、たった今ぐるぐる巻きにした俺を優しく担ぎ上げて、俺の耳元で囁くのです。
――ふえぇ。
今度は五条先輩が呪霊から出てきました。一転して脱力した俺に苦笑を向けてきます。
「相変わらず変わらねぇんだな、お前」
変わる訳がありませんとも!!
夏油先輩への敬愛の念! 崇拝の情! こうしたものは、俺の魂に埋め込まれているような観念なのです! 前世での一番の推しキャラ! そして呪術廻戦での一番のキーキャラ!! そして噂に聞いてて実際に会って実感した人たらしカリスマ教祖! ちょっぴりえっち!
「二舌。有益な呪霊の情報をこれまで私にも隠し通してきたらしいね? 情報の保管場所を教えてくれるかい」
夏油先輩は俺の耳元で優しくかつ色っぽく囁きます。
ふおおおおおこれに勝てる人はいるのでしょうか!? いや、いようはずもありません!!! ご案内いたしますとも!!
いっちばん重要な呪霊(漏瑚とか)の情報は、用心のためこの建物自体に置いていません。
ここの金庫に保管しているのは、それよりは格落ちする呪霊の情報です。俺が先輩方に漏らしてもギリギリ殺されないレベル、のはずなのです!
猿ぐつわを噛まされて喋ることはできませんが、それでも音としてはうめき声を出すことはできます。あと、微妙な身振りというかほとんど首振りですねっ。非常に分かりにくいはずの俺の案内を、特に夏油先輩の方が的確に読み取って頂いて、目的の金庫のある部屋にごあんなーい、となるのです。
五条先輩の術式であれば、金庫を無理矢理壊す事なんてごく簡単にできてしまいます。
……俺の予想通り、あっという間にスクラップになった金庫の中には、目的の紙が1枚だけ入れてありました。『あの』呪霊の跋除依頼です。
「特級呪霊、黒沐死。ゴキブリへの恐怖から生まれた呪霊、ねぇ……」
「登録済の特級呪霊だね。どこに居るのか二舌家は掴んでいたんだね?」
ええ、そうです。
原作の死滅回游編の仙台
今この世界では、以前は殺虫剤の開発工場だったという廃墟で、存在が確認されています。が、この呪霊の跋除依頼は、今まで高専の方には斡旋されていませんでした。
現状は、非術師が現地に立ち入ることがないように、特殊な結界で封印しただけ。以後、二舌家限りの極秘情報としてそのままになっていました。……たぶん結界をいじれば、コイツはいじった呪術師を狙って嬉々として襲ってきます。
「……おい、二舌。この跋除依頼には呪霊の名前と等級しか書いてないけど、それ以外の情報もお前は持ってるよな?」
――はい。
俺は首を縦に振ります。原作でコイツが乙骨君達とどんな戦い方をしたのか、知ってますから。
「じゃあお前も明日からツアー参加っていうことにするぞ。コイツを琢真と戦わせる。最初からお前の『他人語り』で弱らせないとしんどいだろうから」
マジですか!?
7月1日。集合場所(廃工場の結界前)にて。
「枷場美々子です。よろしくお願いします」
「枷場菜々子です! よろしくお願いしまーす!」
「伏黒恵です。よろしくお願いします……」
「祢木利久です。初めまして。夏油様の弟子です! よろしくお願いします」
「猪野琢真デスヨロシク。……五条先生、今から始まるのは呪霊討伐ツアーっすよね? 子ども達のお守りじゃなくて? あと夏油さんが担いでるその方って何者なんです? 縛られてますけど」
僕は、琢真の質問に笑って答えた。
「こう見えて子ども達はみんな術式持ちだし、見方によっては琢真よりも強い面が無いわけじゃないよ。特に菜々子の術式は反転術式の代用になるからねー。怪我した時は頭を下げるように」
「へ!?」
琢真はこれまで利久以外との交流はあったけれど、単に『高専に保護されている子ども』としか認識していなかったらしい。入学3ヶ月ならそんなもんだろうか。
「俺は、二舌誠司。術式は語りによるバフとデバフ。君達の旅行にこうして連行サレマシタ……。君達が危ない時には敵を弱らせたりするんので、よろしくな」
「色々込み入った事情があって、二舌は長い間潜入任務に従事しているんだ。この旅行に同行していることは、誰にも他言しないようにお願いするよ」
縛り上げられた二舌を片手で担いだまま、傑が『ナイショ』のポーズをして微笑んだ。
「……分かりました。夏油さん」
琢真も自分なりに事情を呑み込んだらしい。やや引いているけれど、了解だけはしてくれた。
ミッション15で一旦更新停止します。
次回、明日19時01分更新
「ミッション15:夏油の強化を阻止せよ/夏油先輩を強化せよ ②」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
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