そしてさらに5年が過ぎた、2017年の冬 11月初旬。
繁忙期というわけでもないのに、僕を筆頭とした高専の術師達は、例年にない高い頻度で任務に引っ張りだこになっていた。どうしてだか、ハロウィン関係の呪霊が例年に比べてかなり多く発生していて、あちらこちらでその被害が生まれているためだという。
「これ、僕が行かなくてもいいだろ。今日1日で7件ってなんだよ」
誰にも聞こえないひとりごとを、宙に浮いたまま呟く。
たった今、僕が赫で吹っ飛ばして一瞬で跋除した呪霊の等級は、目測で準一級くらいだった。
マンパワーが限られている以上、任務の数が多ければ多いほどに一件一件の呪霊への対応は雑にならざるを得ない。そんなクソのような理屈は分かっていても、特に酷い状態に愚痴を吐くぐらいは許されるだろう。等級判定のザル具合にも、詰め込まれる量の多さにも。
「こんな忙しいの、学生の頃、……以来……」
僕の頭に閃きが走った。夜空に浮いたままスマホを取り出して電話を掛ける。もう10年間教祖を務めている僕の親友に。
『もしもし、悟?』
あちらは、僕と同じように呪霊相手の任務真っ最中のようだ。応答の後ろ側で、どこかの滝壺か渓谷らしい激しい水音が漏れ聞こえてくる。
「傑、最近大丈夫か? きつい任務とか回されてないか? ……かなり嫌な予感がするんだ。一回どこかで会わないか?」
こういう直感をスルーしたらロクなことにならない。僕にとっては感じた不安を消し去るための提案だった。でも傑は小さく笑って、続けて、何てことないような口調で答える。
『大丈夫だよ、悟。そう、だね。確かに学生時代の忙しさを思い出すよ。でも、欲しい呪霊の依頼がいくつかあってね。それを片付けてから会おう』
――はあ!?
僕の背筋に怖気が走る。スマホに向けて思い切り声をぶつけた。
「!! ちょっと待て、怪しいだろ! 二舌はあれだけ情報を渋ってただろう!?」
『ようやく私達に懐柔されてくれたって事じゃないか? もう切るよ』
「傑!」
僕でも目が回るほど呪霊跋除任務に振り回される日々は、それから1月くらい続いた。
僕は何度か任務中に電話したけれど、傑の方も同じようにいつも任務中。そして、嫌な予感だけをひしひしと感じている僕とは対照的に、傑はかなり楽観的で僕をなだめるように笑っている。
そんな異例なほど多忙な時期が終わったあとも、直接会いたがる僕と、理由を付けてそれを断る傑、というやりとりを何回か繰り返した。
――僕と会うのを嫌がっている。
そんなことに僕が気が付いたのは、12月の下旬になってから。我ながら鈍すぎて嫌になる。
『来ないでくれ。探さないでくれ。私は大丈夫だから。……悟』
「はぁ!?」
『ごめん』
静かな声でそんな風に電話を切る傑の心境と状況を、僕は本当に把握しきれていなかった。
「来ないでくれ。探さないでくれ。私は大丈夫だから。……悟」
『はぁ!?』
「ごめん」
スピーカーモードの通話を、『俺の目の前で』夏油先輩がぶった切りました。
……そう、『俺の目の前』です。
俺は、少し前から、この先輩を罠にかけて誘拐して手元に置いていました。夏油先輩のスマホに掛かってきた電話に対しては、誘拐なんてされてないように振る舞うよう指示し、今に至ります。
俺からしてみると可愛らしいことですが、夏油先輩にも思惑はあるようです。
夏油先輩の目線だと、俺達が裏で具体的にどんな企みをしているか、さっぱり分からないようですから。――あえて誘拐されて罠にかかっている、という感じでしょうか。
ハッキリ言って、俺の罠は稚拙です。
五条先輩は、いつだって、無下限術式を応用して夏油先輩の所へワープが可能です。それでここに飛んで来れば、俺が五条先輩にボコられ、夏油先輩が助け出されて終わる訳です。
だから、単純に電話のやり取りだけで五条先輩が違和感なく踏み止まっている間、そんな期間にだけ通用する誘拐劇なのでした。
まあ、そんな期間だけで十分だったのですけれど。俺は苛立ちと共に言いました。
「夏油先輩。俺、言いましたよね。こういう時は、旅にでも出ろって。姿を消して、しっかり休んで、自分の軸を再確認しろって。自分だけで思い詰めるとか、罠に自ら掛かるとか、ほんっとう馬鹿なんですから」
夏油先輩は目を伏せます。
勝手なことだってわかってます。俺は罠にかける側なのに、罠に掛かるななんて。
俺の携帯には、利久達が誘導通りに救出に動いたという連絡が届いていました。
夏油先輩を呪霊の領域展開で隠して、廃墟で待っていると、来ましたよ。子供達が!
「ねぇ、戻ろうよ、やっぱり。まずいよ」
乙骨の気弱そうな声が聞こえます。
「夏油様、あえて罠に掛かると言って、もう一ヶ月も連絡が取れないなんて、今ごろ殺されてたらって思うと、やっぱり戻れない。それに特級の憂太さんに来てもらったし、大丈夫。問題ない」
「問題ありまくりだと思うけどなぁ……」
押し切られた乙骨は、利久の言葉に困ったようにいうけれど、無理に五条さんに電話しようとはしません。押しが弱いのです。彼は。
「ねぇ、やっぱり悟パパに言った方がいいんじゃない?」
「それはダメだって夏油様が言ってた。夏油様に逆らうことはできない」
菜々子も言うのですが、利久は首を振ります。
「二舌お兄ちゃんだから、悪いようにはしないよ」
「どうだかな」
美々子がいい、懐疑的な声を恵が出します。
でも、ちゃんと相談しない時点で君も同罪ですよ、恵。
射程距離に全員入ったので、颯爽と俺は飛び出します。
「やあ、ボーイズ&ガールズ! 相変わらずのベイビーズっぷりに笑ってしまうね! 罠にかかりにくてくれてありがとう!」
スポットライトを浴び、紙吹雪を吹かせながら登場して言います。
「二舌お兄ちゃん。罠って?」
「二舌お兄ちゃん?」
「下がれ、美々子、菜々子!」
恵は二人を庇って後ろに下がり、利久は前にでます。
「はっはっは! 罠は罠だとも! カモーン! 二級呪霊、蝗GUYくん!」
「いやっふー! 罠に掛かったお前らは賢くない! そして……俺は賢い!」
原作キャラさんいらっしゃーい! たかだか二級という勿れ。彼は術式がないだけで、力量は準一級なのです。さらに、バフを用意してあります。
「困るなぁ。二舌さん、祓っても?」
「はっはっは! さすが特級、小揺るぎもしないね! そんな乙骨くんに朗報だ! 祈本里香の解呪のヒントを教えてあげよう! こちらのいうことを聞いてくれるならね!」
「あ、二舌さんをボコって聞き出すので大丈夫です」
「はぁーっ はっはっは! 良いね良いね! 怖くて泣いちゃいそう! そこで宿儺の指だ!」
俺は宿儺の指を蝗GUYくんのお口目がけてシュート!
「この蝗GUYくんはバッタの大発生に伴う恐れから生まれた呪霊でね。術式は持たないから安心してね。まあ、その分単純に強くて人を貪りくらう事が大好きだけど」
ダメ押しで他人語りです。
蝗GUYくんの力が増大します。特級レベルです。
「僕たちを殺すのが目的ですか? 違うでしょう?」
「うん。夏油先輩には、百鬼夜行を行えって命じてある。君達が死んじゃう前にね」
「そんなの、夏油様が聞くはずないでしょ!」
「そのままならね。だから洗脳してある」
「「「「「!!!」」」」」
俺はモニターを作動させました。
そこには渋谷が映ります。
「さあ、クリスマスの渋谷が血に染まるのをそこで指を咥えてみているのだね! はぁーはっはっはっは!」
子供達は震える指で、俺を指差します。
「そこに傑がいるのな」
背後から聞こえた声と殺気。
そう、子供達は背後に現れた五条先輩に怯えていたのです。
それを理解する間も無く、すっと背後から左手が伸びてきて抱き抱えられ、右手は蝗GUYへ。瞬殺でした。
そのまま景色は変わり、モニターで映し出した場所へ。そうです、渋谷の上空です。
「傑の居場所へ案内しろ。あ、いいわ見つけた」
べきべきっと足を折られ、ビルの屋上に放り出されます。
紐なしバンジーさせられないだけ有情と見ましょう。ですがやっぱり。
「ああっ ゴミみたいな扱い!」
その間に、領域を外から破壊して中にいた夏油先輩を保護します。
「悟。私は、猿を、猿を殺さないといけないんだ。大事な子供達を助ける為に、猿を」
「はいはい。子供達は助けたから今度はお前を助けるばーん。二舌。説明」
「薬物術式催眠フルコンボです!」
「遺言それでいいの?」
「ちゃんとヒントは渡してたじゃないですか! さっさと来ればいいのに、夏油先輩を探さなかったのはそちらの落ち度ですよね! こっちだって命がけなんですよ!」
その言葉に、五条先輩はグッと黙りました。
「わかってるけど、それはそれでムカつくんだよ」
そしてげしっと足を踏まれます。ああっ!!
「ほんっと殺していいかどうか悩むわ、お前。最近派手にやってるみたいじゃん」
「おかげさまで、元気に呪詛師させていただいてます」
「褒めてねーし。いくらスパイの為って言ってもそのうち庇える限界超えるぞ」
「そんなの今更ですね」
「お前も利子で貰うんだから、そこはきちんとしとけ」
グリグリと踏み躙られます。痛い、痛いですって!
「で、このまま確保しようか、どうしようか」
「俺はまだまだやるべきことがあるので捕まるわけにはいきませんね!」
ガッと五条さんが踏みます。痛いです!
「はぁ。死ぬなよ」
そうして、五条先輩が蹴りを入れます。吹き飛ばされて、俺は這々の体で逃げ帰りました。見逃してもらったのです。
これから、メロンパンのお仕置きタイムの始まりですね。
次回、明日19時01分更新
「ミッション17:一級術師を誘い込め!/新米呪詛師を教祖に献上せよ!②」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
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