俺は、恐る恐るパパンの下に這いつくばります。
「五条悟に夏油傑を殺させることに失敗しました。……申し訳ありません」
どれほどの折檻を受けるのでしょうか、俺は戦々恐々としていて顔を上げられません。
でも、パパンは意外にも機嫌が良さそうに笑い声を上げているのです。
「顔を上げなさい誠司。きみが夏油傑を無力化した手腕は見事だったよ。おかげで縛りを結べた」
「!!」
俺は息を呑みます。
――一体、いつ縛りを結んだというのでしょう。
夏油先輩の誘拐中、俺はほとんど夏油先輩についていました。
でもすぐに俺はパパンの手法に思い当たります。何せ、俺も夏油先輩にやったことですから。
「忘却の縛りですか?」
「そうだよ」
「どのような縛りを結んだか、お伺いしてもよろしいでしょうか」
パパンは、それはそれは楽しそうに笑いました。
「時が来たら教えてあげるよ」
そう言って、笑いました。
「ああ、そうだ。来年、君の弟が、呪専に入学するんだ。そのつもりでね」
「っ お、とうと?」
なんでもないように付け加えられて、動揺します。
二舌家の人間を指しているわけではないのです。――弟って、まさか。
「君も知っているかな? 虎杖悠仁という少年だ。宿儺の受肉体にするから、そのつもりで」
「はっ」
その瞬間、いろんな選択肢が俺の中に渦巻き、……結局、俺は諦めて心の中で主人公くんに謝罪をするのでした。
硝子からの精密検査をみっちりと受けた結果、私は2ヶ月の入院措置となっていた。
「ごめんね、悟。心配かけちゃったね。まだ頭がぼーっとするよ。でもまあ、後遺症が残らなくてよかった。硝子に感謝だね」
「傑」
ベッドの横で椅子に座る悟は、真剣な顔で私に語り掛けてくる。
「悟?」
「……もう、やめようぜ。相手の土俵で戦うなんて馬鹿じゃん。もう、2人で上層部ぶっ潰そうぜ」
今回は本当に精神的に
「君ともあろうものが、弱音かい?」
「そうだよ。僕はもうお前から目を離すのが怖い。……僕、多少は上層部を切り崩せてたと思ったんだよ。でも全然ダメだった。傑の事情を知った上で1ヶ月も黙ってた奴がいるんだ。あるいは全部か。じゃあ、全員殺しても」
私は、悟の口に指を置いて微笑んだ。
「悟、私は大丈夫。君のおかげで、なんとか生還できたよ。約束の日まで、あと1年もないよ。もう少しで、二舌がどうにかしてくれる」
「何をしてくれるっていうんだよ。あいつ、お前のこと捕まえて洗脳してたんだぞ」
「悟。君は表から。二舌は裏から。私は外部から。後1年頑張って、その後の事は後で考えよう」
「あと1年だけだからな。その後は、もう我慢なんてしない。あと、2ヶ月はきちんと休めよ」
「わかったよ、悟」
「何もされてないよな、傑?」
「ああ、……大丈夫」
悟は、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。
――そして、時はすぎ、物語はあのプロローグの日へと戻る。
悠仁に重めの任務の経験をさせたくって、七海の仕事を手伝わせていた。
そうしたら、予想だにしなかった方向に話が転がった。
――二舌が未知の特級呪霊とつるんでいて、居場所のない中高生複数名を洗脳して呪詛師に変貌させていた、という……。
問題の中高生呪詛師達は全員確保され、呪専に連行されたが、尋問での供述内容が中々イカレている。例えば、悠仁と仲が良くなっていたという吉野順平という高校生は、僕とこういうやりとりを繰り広げたりしていた。
「二舌さんは言いました。マイゴッド五条悟の曇る姿は美しい……萌える! ということで、五条悟に足手纏いの守るべきものを設置する事で、たまに曇らせたり足を引っ張ったりもしくはてぇてぇしたりしたい。その為に、僕たちには五条悟の寵愛を得て欲しいと! 五条悟への貢物にもなり、人質にもなり、一石三鳥だと! 二舌さんの為に、僕たちは、五条悟に絶対服従を誓います!」
「それってさぁ。僕が死ねって言ったらどうすんの?」
「それはそれで五条悟が曇って美しいので、その際の写真か動画を二舌さんに送らせてください。僕達は大丈夫。五条悟の処刑は優しいと聞いてます」
「それ、僕が大丈夫じゃないんだよなぁ」
この子に限らず、今回確保された中高生呪詛師達はみんな似たり寄ったりの供述だ。こんな風にガッツリ洗脳されている子達の処刑は回避したいし、とはいえ呪専でも(僕の本心としては)預かりたくはない。
学長と僕で扱いを協議している時、どこかで事情を聞きつけた傑が、僕に一報をくれた。
……中高生呪詛師達全員を、傑の潜入先の教団で預かってもらえることになり、懸案が1つ解決する。二舌はいかにも二舌らしく、傑に対する崇拝のような尊敬の念も、あの子達に植え付けるように洗脳していた。預けられる方が全員がノリノリだから、珍しく不満『は』残らない解決策ではあった。心から納得できるかは別だけど。
二舌さんが言っていた、教祖系アイドルの夏油さんが、僕達を引き取りに呪専にやって来た。
僕達が聞いていた通り、お坊さんみたいな恰好をしていて、背が高くて、カリスマがあって信頼できそうな男の人だ。
「みんなで8人か。全員揃っているね? みんなよろしくね」
笑いかけられて、みんながそれぞれにお辞儀したりする中、僕だけはみんなの代表みたいに一歩踏み出した。呪専に捕まった8人の中での最年長は、高2の僕、吉野順平で、だから自然と僕がみんなのまとめ役みたいになっている。
「よろしくお願いします。……僕達、必ず役に立てるので見ていてくださいね」
僕達は呪専には所属しないけれど、でも、呪専に所属する人たちのように、呪術を学んだり、任務を受けたりすることになる。……そして、いつか『あの人』のためにこの生命を燃やすんだ。
中高生呪詛師ーズの教祖様への献上というお仕事を完遂したら、その評価タイムが来るわけで。
屋敷の一室に、ゆったりとパパンは座っていた。
「大分楽しんだようだね、誠司」
「楽しんでいる風に見えましたでしょうか? 苦労を見せないように中々苦闘していたのですが」
俺はパパンに這いつくばる。段々茶番臭が凄くなってきた。
演技が雑だといかんよね。でも、たとえ俺の忠誠心がマックスだとしても、メロンパンが俺を生かしておく理由がない気がしてきたんだ。どうするかなー。
あ、平穏な生活と引き換えに結ばされた縛りだが、俺は守る気全然ない。
というか、不可能だからね。お互いそれはわかってるでしょ、多分。
「しばらく時間をおいて、今回盤星教に引き込んだ呪詛師集団と仲良くなった頃、……そうだね。呪戦の姉妹校交流戦に乗じて、宿儺の指と呪胎九相図を回収してもらおう、その任務で8人全員を使い潰してもらおうかな」
「っ、あの子達全員ですか?」
「そうだよ」
何でもないようにパパンは笑って、言葉を続けました。
「それと、……そろそろ、私は乗り移る身体を夏油傑のものに交換するつもりなんだ。ああ、乗り移る身体は君を経由するつもりだからね」
「お、俺!!?」
「おや、それは気づかなかったようだね」
俺なんか、……いえ。こいつに原作知識が渡ってバフデバフを使われたら怖いですね。
となると、適当なところで俺が死ぬべきですか。
やだなぁ。
やだ。
「話はまだ途中だよ」
俺は顔を上げます。
「君が望む、一般人としての生活。させてあげようじゃないか」
「俺を殺したらできないのでは?」
「うん。だから、私の依頼を達成できたら、数ヶ月だけ平穏な生活をさせてあげるよ」
俺は絶句して、――ふざけるな、と怒鳴ろうとして。
そのあまりの甘美に惹かれる浅ましい自分に声も出せないのでした。
次回、明日19時01分更新
「ミッション18:新米呪詛師を使い潰せ/俺から逃げてよ①」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
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