交流戦、団体戦の当日。
戦いは俺達のチームから始まった。そう、昨日の乱闘の続きだ。
――もう駄目だこいつら。
俺は、他のまともな面々とともにバラバラに動いて少しでも呪霊を倒す事にした。
まあ、チームメンバーは順当にどんどん捕捉され倒されていく。
「ああっ、各個撃破されてる!」
「まあ順当よね! あれ、順平どこ?」
「あれ?」
「ちょっと、一応監視しないとでしょ? どうすんのよ」
釘崎と思わず立ち止まって話していると、伏黒と加茂先輩がやってきた。
「見つけた!」
「ここであったが百年目!」
ほっとした顔の伏黒と、やる気満々な加茂先輩。やばっ……!
「足掻くわよ! 虎杖!」
「おう!」
「諦めろ! 玉犬!」
必死に加茂先輩の撃ち出す血を避け、玉犬を相手にしつつ、釘崎と2人で足掻いて頑張っていると、呪霊が乱入してきた。
――えっ これ特級!?
「特級が混じってるなんて聞いてないわよ!」
「混ぜるか馬鹿、侵入者だ!」
伏黒がツッコミを入れたその時、幾重にも帳が降りた。
僕達の目の前で、明らかに異常な事が起きていた。
学長は天元様の所へ行った。
冥さんは待機して、学生達の位置を特定するよう指示を受けている。……何せ、途中で盤星教の中高生達だけが、ワープらしき術式で団体戦の会場から全員消えたのだ。
それで、僕を含めた残りの大人が、会場に残された教え子達を保護するという分担。
傑はというと、何も知らず、中高生呪術師達の動きも本当に訳が分からないようだ。
でも、僕達の監視が要る状況なのは理解しているから着いてきた。呪霊を援護に出すのも我慢している。現状で呪霊を出すのは、『自分が犯人だ』と言っているようにしか見えないからね。
「五条!! 帳が下り切る前にアンタだけ先行け!!」
「いや無理」
「はぁ!?」
帳の中に入ろうとして、僕とお爺ちゃんが弾かれた。
「よほど腕が立つ呪詛師が手引きしているようだね。僕でも簡単に破れないように、帳が8枚も重ね掛けされてる」
「!! 何じゃと!?」
「一番外側と一番内側は、五条悟だけを拒んで他の全てを通す結界だね。2枚目と7枚目が同じく夜蛾学長だけ拒絶、3枚目と6枚目で冥さんだけ拒絶、4枚目と5枚目はお爺ちゃんだけを拒絶。つまり襲撃犯は、大人4人を中に入れたくない訳だ」
結界の足し引きの辻褄は合う。とはいえ、こんな特定の個人に作用する結界なんてもの、結界術の造詣が相当に深くないと無理だ。しかも、襲撃犯はこちらの情報をある程度把握してやがる。
「!! つまり、ここの面子だと、私と夏油は入れるってことね?」
「そういうこと。歌姫は弱いから無視されたとしても、傑はあえて中に入ってくるよう襲撃犯に誘われているとも言えるね。……ふざけた帳だ」
本当にふざけてやがる。
わざわざ、この交流戦を狙ってこんなことを仕掛けてきたのが『誰か』は知らないが。
――子ども達の動きといい、これは二舌達が噛んでいるんだろうか。決めつけたくないけど。
「歌姫。子ども達に電話しながら退避を呼び掛けて中で走り回るの、行けそう?」
「行けるわよ!! それくらい!!」
「では歌姫すぐに行け。儂も入れるようになったら追いかける。学生の保護優先、極力戦うな」
歌姫はお爺ちゃんに頷き、帳の中に1人で飛び込んで行った。
さて、僕は傑とお爺ちゃんに向き合う。
「一応だけど2人に質問。この騒ぎに盤星教や京都校が噛んでるセンは無いよね? 傑とお爺ちゃんの間で『30秒以内に嘘ついたら死ぬ』って縛って、『自分は帳を降ろした者の正体を知らない。帳を降ろす行為に関与もしていない』って言って見せてよ。2人同時に」
呪術界では割と多用される、かなりベーシックな手法だ。……お爺ちゃんの方がちょっとムッとしたけれど、すぐに取り繕って傑と目を合わせた。
最初から、お爺ちゃんは傑を胡散臭がっていた。この団体戦で、盤星教の中高生呪術師の動きが変だと真っ先に気が付いてもいた。今だって、傑への疑心は絶対に大きいはずだ。その疑心は、こうした縛りを利用することでしか晴らせない。
同時に、お爺ちゃん自身の潔白も、こうした手法でしか晴らせない。お爺ちゃんにも、保守派の筆頭として『宿儺の器を殺したい』という動機が一応あるにはある。
「……。お主も加わって儂ら3人で同時に縛れ、五条。それならば縛りを受けよう」
もちろん、僕が拒否する理由なんてあるはずなかった。
「加茂先輩! 順平がいないんだ! 中学生の2人も!」
「はぁ!? ちゃんと見張っておけ!」
加茂先輩が、弓矢を特級呪霊に向けたまま、俺達に怒鳴り声を浴びせる。もっともな怒りだ。
植物らしい特級呪霊は、やたらと硬い。みんなで苦戦している時、東堂先輩と祢木先輩が助太刀に入って来た。
「ブラザー! 助けに来たぞ!」
「虎杖! 釘崎! 大丈夫か!?」
「はい!」
どうにかコンビネーションが出来上がる。みんなで協力してやっと特級呪霊をボコれるようになった頃、今度は真上から声がした。拡声器を通したらしい大声が。
「レディースアンドジェントルメェン! やぁやぁやぁやぁ私がきたよ!」
「げっ変態!」
「はぁーっはっはっは! 的確なディスりをありがとう!」
「的確なのかよ」
「本人が肯定してるんだからそうなんじゃない?」
伏黒と釘崎がコメントする。
浮かぶ呪霊に乗って、拡声器をこちらに向ける二舌。同じ呪霊に順平達が乗っていた。あいつら8人、皆いるじゃん。――嫌な予感がする。
「まず京都校のきみ! その名は東堂 葵!」
「ん!?」
「術式の名は不義遊戯、手を叩くのが発動条件の術式だね! 入れ替えるナイスな手品だ、親近感を覚えるよ! だが、キャラが被るのはいただけない! 君から消えてもらうとしよう!」
「!! ブラザー!! こいつ等は味方じゃないっ、敵だ」
急に東堂先輩の動きが鈍くなり、俺に叫んでいる最中に目の前から掻き消えた。
流石に俺でも分かる。これは敵がやる動きだ。
「東堂に何をした!?」
「ワープで校舎内に飛ばしただけだよ! 今、東堂くんは教室でビックリしてるはずさ!! 赤血操術使いで、6歳くらいの頃に加茂家に引き取られた、表向き嫡男の加茂 憲紀くん!」
「……!! お前、語りで他人を弱体化させる術式か!!」
「ああ! そして、怪我人を連れ出したのにまた帳に入って来ているあの坊や、乙骨 憂太くん! 里香ちゃんに呪われている秘匿死刑執行猶予中の2年生! 私はその解呪のヒントを知っているけれど、取引材料にしようとして断られたので、今親切にもデバフを添えて教えてあげよう! 呪ったのは君だよ! 愛する物を留めおくことを代償にする、乙骨少年一世一代の呪いさ、愛とはスバラシィぃぃ呪いだね!」
二舌が言い終えた瞬間。ずっと向こう側の、帳の縁のあたりに居たはずの乙骨先輩が、里香ちゃんごと消えた。
二舌の真横で、ワープ使いの中学生の子が、乙骨先輩が居た辺りを見下ろしている。……そうだ、ワープはアイツの術式だ。誰かを強制ワープさせることが、遠隔でも可能な子だったのか。
「それから、光りながらこっちに走ってきている上半身裸のきみ!! 秤 金次くん!! 術式の名は坐殺博徒! 必中領域がデフォルトでくっ付いた強い術式だ! 呪術規定の『秘密』をクソ喰らえと思ってるのではないかね? 君のやりたい術師の武闘会は上層部がなんと言うかな! 寝返ってみるのも手だと思うね! グッドルッキングガイで裁定者な五条先輩に殺されても自己責任でお願いするよ!」
遠くから駆け寄ってきていたはずの秤先輩も消え、同時に全然違う場所で女性の叫び声がした。
今度は校舎内へワープさせられたのではなかったっぽい。無理やりワープさせられた秤先輩は、こちらに向かっていた庵先生と正面から激突して、先生と一緒に転んだようだった。
とりあえず先輩の方は無事だ。伸びた庵先生を抱え上げている姿が見える。たぶんそのまま離脱するんだろう。先生を抱えて帳の方へ走り出していた。
「さてさて! これで各班のリーダーは追い払えたかな? 私もたまにはいいところを見せないとね!」
二舌は、仮面のように完璧な笑顔で順平に話しかけた。
「友達との特別な時間はどうだったかな? 順平」
「最高でした。ごめんね、虎杖君!」
「順平!?」
――五条先生は!?
思わず俺はそう考えてしまう。すぐに、ここに下ろされた帳がそれを防いでいることに思い至った。
「虎杖くん、無駄だよ。先生達を防ぐ帳を張っているからね」
「だから、代わりに私が来たよ!」
「夏油さん!」
別の呪霊に乗って、夏油さんがこちらに飛んで来ている。
……でも、二舌は顔を歪めた。
「ショータイム!」
二舌が叫ぶなり、夏油さんは呪霊の上で昏倒した。
メロンパンは言いました。
数ヶ月だけ、平穏な生活を送らせると。
ゲームしたい。漫画を読みたい。好きなだけ眠りたい。ネットサーフィンを楽しみたい。小説が読みたい。もう戦いたくない。誰にも文句なんて言わせない。
それは、娯楽大国に生まれた日本人なら当然に享受できるはずの幸せでした。
平和ボケと言われてもいい。ボケボケとしたかったのです。
俺は。
『どうすればいいですか、とうさま』
『そうだな。全員に呪物で受肉してもらおうか。使いたい呪物は8個ある。もっとも、そのうち5つは宿儺の指だから、受肉させようとも無駄に終わるだろうけどね。ああ、そうだ。もしも夏油をちゃんと連れて来れたら、君を器にしないでもすむかもね?』
――俺は。
ストック切れです。
次回更新はしばしお待ちください。
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
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完結まで頑張れるように、応援をお願いします!