話は三ヶ月前まで遡ります。
俺はメロンパンこと、とうさまに土下座してお願いしていました。
「とうさま。お願いがあります。夏油離反の第一歩として、呪詛師を1人用立てて欲しいです」
「ほう、詳しい計画を聞こうか」
とうさまは楽しげに目を細めて、聴く体勢となりました。
どうやら、信用は回復できたっぽいですね。よしよし。いい感じですよ。
俺はビシッと三本指を立てました。
「とうさまの提示した条件は3つ。夏油と五条の仲を深める。夏油を殺す。夏油の死体を綺麗な形にする。手段、被害は問わない。最終確認です。よろしいですね」
「構わないよ」
確認を取った後、俺は頷きます。確認は大事ですからね。
「しかし、夏油は強くて殺せません。ならば、五条に殺して貰えばいいのです。五条ならば、大切な夏油先輩を、優しく殺してくれるはずです。遺体の損傷も最小限度でしょう」
「仲違いさせずに、どうして殺し合わせる?」
楽しそうに問いかけてきます。
「違います。殺しあわせるのではありません。五条の与える死を、夏油に有り難がって受け取らせるのです」
「どうやって」
そう言いながらも、予想はついているようでした。それはそうでしょうね。
「夏油を望まぬ形で呪詛師の立場に追いやって、五条がとどめを刺さざるを得なくするのです。今ならば、その為にちょうどいい組織があります。そう! 盤星教「時の器の会」です! 秘密裏にこの教団に呪詛師として派遣してもらい、スパイをやってるはずが、いつの間にか本当に呪詛師の親玉にさせられて、いっぱい殺してしまい、どうにもならなくなって罪悪感に苛まれた夏油は、自ら五条に裁いてもらう。これがストーリーです」
そう、ほぼほぼ原作の流れの通りですから。
知恵者のメロンパンよりいい案なんて出せません。ですから、相手の案を取ることで信用と主導権を握ります。メロンパンが10年待ってくれる事はわかっていますので、この作戦で10年稼げます。
これが俺の作戦です!
10年主導権の取り合いをするとなるとゾッとしますけどね。そこは未来の俺にお任せします。メロンパンは機嫌良さげにコロコロと笑いました。
「いいね。とてもいい。君は私に似ているのかもしれないね」
「ありがとうございます、とうさま!」
何せ、てめーの作戦丸パクリですからね!
「しかしどうやって教祖に?」
「盤星教は天元様を崇めています。そして、天元様は同化を阻止され、進化をされて人間以外の存在になられる。そう! つまり! 進化がひと段落すると、呪霊操術で操れるようになる!って事にします!! 教団に敵視されるかもしれませんが、そこはうまくやって、天元様と人の架け橋となる存在と認知させます」
「ほう? 面白い仮説だね」
メロンパンが笑顔で頷く。ですが、こちらも腐った蜜柑の家で生まれて、ここまで生き延びてきた者。空気がガラリと変わって警戒されたのを察知しました。ゾワゾワっとしたのを必死で隠します。こんなの、メロンパンはお見通しでしょうが。
「しかし、細工には時間が掛かります。俺が呪専を通っている暇がなくなります。死んだことにするなり辞めるなり裏切るなりするのは、せっかく稼いだ五条の好感度が勿体無い。ので!! 呪詛師を先に盤星教に送り込み、そこで呪専の任務として一年生が潜入する、というふうに持っていくのです!! そうですね。呪専に黙認させる為に、一般人へ取り憑いた呪霊を祓ってあげるサービスと見える人間を探すサービスをさせて成果を上げちゃいましょう。まだ大まかですが、計画はこんな感じです。呪詛師はこちらのいうことを聞いて、尚且つサクッと必要な時に抹殺できる人がいいですね。こちらの好きなタイミングで任務を終わらせて適当な所で撤退できるように」
ここで思い直して、俺は不安を表に出します。下手に不安を隠し過ぎるのも不信を呼ぶのでは? と思ったのです。
「何か、抜けがあるでしょうか、とうさま?」
「大丈夫だよ。君の好きなようにやってみるといい。家からサポートも出そう」
「ありがとうございます!」
あからさまにホッとした感じで、再度頭を畳にくっつけます。
更に、お家からの援助も得られる事になったのです。
一人で細工をするのは大変でしたから、これは本当に助かりました。
最も、それは相手の手のものを懐に入れる、という事なのですが。
いけませんね。相手が寄生虫の如く乗っ取りをかけて来るのではありません。俺の方が、相手の計画を利用しようとする寄生虫なのです。規模と力を勘違いしてはいけませんね。うまいこと主導権を乗っ取れるよう、がんばりますよ!
というような事があったわけですが。
思ったより強力にサポートしてもらえて、メロンパンの権力にびっくりです。
俺を信用してくれたというよりも、元から準備していたのでしょう。
呪詛師の情報等は貰えなかったです。バレることを危惧されたのでしょうが、これだと意図せず解決してしまうことも考えられるので、出来ればこちらのタイミングでどうとでも出来るように情報全部欲しかったですね。
とりあえずわかることは、この任務、失敗すると呪詛師として一緒くたに処分されるって事です。さあ、道化らしくせいぜい愉快に踊りましょう。
そういうわけで、俺は皆に素晴らしい作戦を話して聞かせたのでした。
夏油様を教祖様にしますよ! 崇め奉りますよ!
「待って、全く意味がわからないんだけど?」
「夏油様は許可をくださるだけでいいのです。後は下々の私共がどうにか致しますので」
困惑する夏油先輩に、俺は分かりやすく遜ります。
「既に教祖前提で動くのやめて。ちゃんと説明して。後、夏油様ってやめて」
俺は、恭しく一礼をした。
「夏油様は呪霊操術の使い手であらせられます」
「うん、そうだね。夏油様はやめて」
今度は、ぐっと手を握る。
「天元様は同化を出来ず、進化なさいます」
「……そう、だね」
夏油先輩が、悔いる様子を見せます。五条先輩も、ぐっと顎を引きました。
「進化するとどうなるのか? そう、高次元存在、すなわち神様! つまり、呪霊操術の対象となるのです!! つまり人類は滅亡する!! な、なんだってー!??? 」
俺はことさらオーバーリアクションで渾身のジョークを披露します。
けど、返ってきたのは沈黙でした。そうですね。そうなりかねないし、実際そうなりますからね。
「……っ そ、んな事はないと思うけど……」
それは、そう願っているが故の否定でした。
本人が思いもしなかった事も、咄嗟に口から出たことも、口調に含まれた戸惑いと焦りでわかります。でもそうなんですよ、夏油先輩。
「真実はどうでもいいんですよ。大事なのは信じさせる事です。いや、事実です。夏油様は天元様と人間の仲介を出来る唯一の教祖様なのです!」
俺は身振り手振りを大きくして、演説します。いかにも冗談っぽく。
「……それ、本当だったら、どーするわけ?」
半眼で五条さんが聞いてきます。それ、聞いちゃいます?
「より楽に任務達成出来ます。嘘を言って信じさせるより、本当の事を言って信じさせる方が楽ですからね」
それから、すっと声のトーンを落とし、真面目な顔をして忠告します。
「あと、多分盤星教とか上層部とか知らない呪詛師その他諸々が、夏油先輩に無理やり言う事聞かせようとしてくるし命も狙ってくると思われます。頑張って逃げてください」
「簡単に言うなぁ……。うーん。フォローはするから、好きにやってみなよ」
落ち着きを取り戻した夏油先輩は、少しだけ悩んだ後に、あっけなくそう告げました。
「本気か、傑」
「どうにもならなくなったら、私達がどうにかするよ。だって私達、最強だし」
「夏油先輩……!!」
さすが最強、器が大きいですね。
そうなのです。まだ夏油先輩は、折れてないのです。直接甚爾さんにわからせされてないですからね。若き五条先生にはわからせされたかもしれないし、後から響いてくるかもですが、今現在は仲も良好で精神衛生もバッチリなので、さほど大きな精神ダメージを受けてもいません。綺麗な夏油先輩なのです。いや、堕ちた後も汚い訳ではないですが。
さて、許可も取れたし、好き勝手しますか!
ということでさらに一ヶ月後、俺達は教団内部に侵入していました。
挨拶をすると、皆さんにこやかに挨拶を交わしてくれます。
10年前からいました! ぐらいのつもりで慣れ親しんだ風を装っていきたいと思います。
「案外、あっさり侵入出来ましたね」
「普通に受け入れられたけど、どうやったの、二舌?」
「仕込みは既にしてあります。呪霊操術についての話と、俺達が夏油先輩の可愛い後輩で潜入中って事を流して、盤星教の人達が俺達を捕える方向ではなく洗脳して取り込む事を選ぶよう誘導してあるので、それでですよ。後は天内 理子の髪を賄賂として献上してあります。ですが暴走する人はどこにでもいるでしょうから、捕まって人質にされないように気をつけてくださいね」
本当にメロンパンの至れり尽くせりなフォローに感謝です。後が怖いですけど。
「……もう貴方1人でいいのでは?」
「流石に1人だと手が足りなくて無理ですね。一応俺、こういうのしてきた家の出なので、色々とツテがあるんです。俺達は囮をして、俺の家の者が集めた情報を受け取って最後に呪詛師を倒せばOKです」
「凄いね、二舌!」
「それくらいなら出来そうですね。要は一生懸命調べるが成果の上がらない、あるいは偽情報に踊らされる学生を演じろと」
「そういうこと! 俺は派手に工作するので、取り込めそうなまとも枠が必要なんです」
だけど真面目に探ってくださいね、とお願いすると、言われなくとも、と返ってきました。うむうむ、やる気十分ですね。
さて、仕込みをして二ヶ月。そろそろまだ殺せないのかとせっつかれだした頃。
俺は順調に出世して、説法を任されてました。
「祈るのです! 夏油様こそ唯一絶対の教祖様、天元様との架け橋なのです! 慈悲深き夏油様は言われました。汝が罪を全て赦そうと!! そして、罪から産まれしバケモノを受け入れ、調伏したのです! 夏油様は人の醜さを全て許され、従わせる、天元様に選ばれし方なのです!」
そして私はマイク片手にイケイケで手を振り上げます。
「L・O・V・E! げ・と・う!」
「「夏油様! 我らに愛を!」」
「「夏油様! 我らに救いを!」」
「「夏油様! 我らに赦しを!」」
夏油様コールを全身に浴びる。ヒャッハー気持ちいい!
「我らは真理が見えぬ猿にしかすぎません!」
「「猿!! 猿!!」」
「夏油様が神となり、天元様の元、猿どもを楽園に導くのです!」
「「楽園!!! 楽園!!!」」
うん、なかなかいい感じ。1人1人の秘密を暴き、思考能力にデバフをかけた甲斐がありました。しかしアレですね。煽る時には敬語をやめてみましょうか。口調含め、色々研究しないと蹴ません。より上手く人心を手のひらで転がすために!
とうさまに次の段階に移りたいと連絡すると、指示した場所へ行くと呪詛師がいると指示をもらいました。用事が済んだのでサクッと呪詛師を殺して帰りますよ。
ですがどうやら、上層部は学生に胸糞悪い殺しをどうしても体験させたいそうです。天内護衛依頼に続いてこれですからね。踏み絵と洗脳の一環、という事なのでしょう。
「後は呪詛師を倒して終了ですね 」
るんたったるんたったと二人を誘って指示された場所に向かいます。
「ふぅ、ようやく任務終了ですか」
「なんか、俺達、あまり役立ててなくて申し訳ないな」
「それは問題ないですよ。俺達の手で呪詛師を抹殺すれば、上層部としては問題ないのです。これはいわば、上層部の用意した踏み絵であって、本当に能力を問われている訳ではないので」
「それはどういう……」
緩んだ空気で部屋へと入る。
「……お兄ちゃん達、神様のお友達?」
「子供!?」
灰原が声を上げます。その子供は、古傷の多い子供でした。
過去に虐待されていたのは一目瞭然で。恵よりもほんの少し年上でしょうか。
術式が発現するかどうか。それぐらいの年なのです。ま、発現してるんですけどね。
いや、原作では弱いって言われてたけど、立派だと思います。こんな歳で呪詛師やってるのですから。
「君が呪詛師ですね」
「ちょっ 子供相手に何を」
「術式「他人語り」。君は両親を呪霊にして呪具に封じましたね。他にも、たくさんの非術師を呪霊にしては呪具にしています。将来有望でいらっしゃることで」
俺が術を使うと、子供が胸を押さえます。
デバフが通じたのです。
「「!??」踏み絵ってまさか」
驚愕する、七海と灰原。七海は気付いたようですね。
さあ、君らは踏み絵を踏めるかな?
「あんなのパパとママじゃない!! 非術師なんて人間じゃない! だから、人間にしてあげた。それだけ。後は神様に取り込んで貰えば、全ての罪は赦されて、いいものになれるんだよ。僕の事もきっと可愛がってくれるようになる」
「そうですね。そうですとも。神様は、夏油様は君の事を赦します。愛します。庇います。でも、君を庇えば神様が窮地に立たされるのです。だから、神様に出会う前に死んでください」
俺は短剣を振るいます。
「ちょぉーっと待った!!」
「貴方は私達にも事前に情報を寄越すべきです。とりあえず撤退します」
な、何をするー!
七海と灰原は俺を捕まえ、担ぎ上げて撤退したのです。
次回、明日19時更新
「ミッション6:夏油離反の下準備/先輩を教祖様に祭り上げろ ③」
本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。
ここ好き、感想、お気に入り、ありがとうございます!
ここ好き、匿名感想等お待ちしてます!
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こちらで本日21:00〜21:30まで、11話の相談してます。
ネタバレ上等の方は覗きに来てください。
今日のお部屋の主催者はかりんです。