腐った蜜柑の二枚舌   作:かりん2022

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ミッション7:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ①

 夏油先輩合流後。夏油先輩は、すぐさま利久と面会をしました。

 

「利久」

 

 夏油先輩は、にこりと穏やかで慈愛溢れる顔をして、利久の顔を包み込みました。

 利久はようやく現れた救いに縋ります。

 

「夏油様。夏油様、夏油様、夏油様! 僕に救いを……!」

 

 そっと夏油様は、利久の口に指を当てます。なんだかとてもえっちです。

 

「あ……」

「いい子だね。利久。君はわかっているはずだ」

 

 えっちです(二回目)。イケメンってすげーですね。イケボって最高だと思います。

 

「僕は……」

「君がやった事は、してはいけない事だった」

「ふ、ふえぇ……」

 

 コツンと、額と額が合わさります。ふえぇ。

 

「君のことを赦そう。今までの事はね。でも、これからは、二度と勝手に術式を使っては行けないよ。縛れるかい?」

「縛り、ます」

 

 かつてこんなにえっちな契約が存在したでしょうか。したかもしれません。

 

「今から、君の呪霊も、君の罪も、術式も、君の人生すらも、貰い受けよう。今日から、私が君のお父さんだよ」

「夏油、様」

 

 夏油先輩は、そっと利久を抱き寄せます。おにショタですか?

 保護者ってよりは、えっちさが来るんですよねぇ。

 

「もう大丈夫。だから、私を信じて父さんって呼んでくれないかな」

「お母様ー! あっ ちがっ」

 

 利久は泣きじゃくって夏油先輩に飛びついて、盛大に間違えました。

 溢れ出る夏油先輩のママ感よ。

 

「ほら恵、お前のお兄ちゃんが出来たぞ」

 

 五条先輩はゲラゲラと笑って、抱き上げた恵に話しかけます。恵はふいっと顔を逸らしました。

 恵は言葉をほとんど話さなくなっていました。

 原作で心の支えだった津美紀がいない事は、恵の心の形成に大きな違いを生んだのでしょう。

 3歳の身にはあまりに重い真実も告げられ、恵くんは3歳にして非行まっしぐらな勢いで心を閉ざしています。

 これが吉と出ることは恐らくないでしょう。津美紀を失ったことで、拠り所や善悪の基準がなくなってしまったのですから。それでも、恵の人生がより良い物であることを望みます。祈りではありません。そんな資格、原因で父親の死因である俺にはないのです。ただ、恵が健やかに育つ事が今後の戦略に大きく影響するから。自分の薄汚いエゴのために、恵のささやかな幸せを望むのです。

 

 それから、夏油先輩のスーパーお説教タイムが夏油先輩のご両親に行われました。

 中々厳しいお言葉で叱っております。

 わあっと奥さんが泣いてしまい、駆けていくのを旦那さんが追いかけます。

 夏油先輩は未だぷんぷん丸で七海に宥められています。

 

 俺はそっとご両親の方を追いかけました。灰原は、夏油先輩の両親と話していました。

 

「夏油先輩のお母さん、お父さん! 僕、思ったんですけど……親の愛って凄いんですね!」

「え?」

「だってそうじゃないですか。夏油先輩の為に、あえて飛び込んだんですよね?」

「そ、それは……」

「わかりますよ。夏油先輩の事が心配だったんでしょう?」

 

 両親が頷いた気配がしました。

 

「利久くんのご両親みたいに、僕達のこと、虐待する道だってあったわけじゃないですか。それなのに。……僕達は、両親に少し怖がられていたから」

「私だって、怖いと思う時はあったわ」

「私も、このまま捨ててしまいたいということはあった」

「そう、なんですか?」

「でも、そうするには、あの子いい子すぎるのよ。嫌うなんて出来ないわ」

「そうとも。いじっぱりで、見栄っ張りで、外面が良くて、すーぐ切れて。でもとても優しくて正義感の強い、私たちの大切な息子だ」

「そう、ですか……。実は、僕、◼️◼️◼️◼️◼️」

 

 

 俺の心臓は、一瞬鼓動を止めました。

 灰原の秘密。見つけましたよ。ようやく、これで……。

 

 

 

「おー。二舌」

 

 俺は肩を跳ねさせます。家入先輩が、声をかけてくれていました。

 

「家入先輩! 家入先輩も来られてたのですか?」

「まあね。夏油の両親に変な薬とか使われてたら大変でしょ。子供もいるっていうし」

「そうですね」

「それにしても、夏油も子持ちになったな。私、2度あることは3度あると思うんだ」

「と言いますと?」

「私も反転術式の使える女の子拾いたい。男の子は二人いるしな」

「頑張ってください、硝子ママ先輩」

「任せろ、あんなクズなパパ達には任せておけないしな」

 

 ムン、と力瘤を見せる家入先輩が可愛いです。

 頭から消し去ってて本当にごめんなさい。そうですね、普通に考えたら、同級生で育ててるんだから、硝子先輩がママですね。女の子を凌駕する夏油先輩のママ感よ……。

 

 夏油先輩と五条先輩も、それぞれ子供を抱っこしてやってきて、家入先輩と談笑します。夏油先輩と五条先輩は、しばらく見ない間に穏やかな表情をするようになったと思います。これも子育て効果なのでしょうか。

 となると、五条家のお偉方の作戦は成功という事でしょう。

 愛を持って原作よりも遥かに安定している夏油傑。五条悟。

 俺は思わず目を伏せました。

 大切なものを増やして、安定している最強コンビ。彼らが放置されることはあり得ないのです。特級。それは、国を滅ぼしうる強力な術師に贈られる称号であると、原作知識によって俺は知っています。

 二人に対する攻撃は、原作よりも遥かに苛烈になるのではないでしょうか。

 そして、その先鋒となるのは、間違いなく俺です。

 いいえ。こう言い換えましょう。俺でなくてはならないのです。犠牲をコントロールする為に。もっと酷くしてるんじゃないかって疑念に耳を塞ぎ、俺は必死に最悪より少しマシを探して足掻くのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務から帰投した後、俺は報告のため、一時帰宅し、とうさまの前で頭を擦り付けていました。

 

「今回の件は期待外れだったかな」

 

 つまらなそうに、とうさまは告げる。

 

「結果的に大成功ですが!? 夏油様と盤星教との縁を繋ぎましたし、利久は確実にアキレス腱になりますよ」

「君ならわかるだろ。この依頼の目的」

「一年生、特に俺の踏み絵と五条悟に対する牽制、夏油傑に対する曇らせですよね」

 

 そこで、ようやくとうさまの目は俺の方に向いた。

 

「わかっているじゃないか。なら、もう少しいい形にできたろ」

「夏油傑の両親ですよ? 動かすには駒が大きすぎます。失うように立ち回ってそれがバレたら一気に警戒されますよ。私の責任でそんなことは行いたくないですね。ずっと指示を待ってたんですが」

「夏油傑の両親が囚われていると聞いて、五条悟が心配して人員を入れてきたんだよ」

 

 うーん。どうやら上の方で色々な駆け引きが起きていたようですね。実は夏油さん、五条家の方に次期当主のご親友として、かなり重く見られているのです。怖がられる当主様を人間に見せる為の道具として、ですが。

 

「あれ、とうさまの仕込みじゃなかったんですか?」

「非術師だからと、ノーマークだったよね。盤星教の奴らも上手く隠していたみたいだし。下の方の人たちで止めてたみたいだね。してやられたけど、次はないよ」

 

 俺の思考は完全に停止します。そして、思わず叫んでしまいました。

 

「マークしてなかったんですか!? 把握すらしてなかったと!?」

 

 うそでしょう!? だってメロンパンですよ!? 原作で、ご両親はきっちり殺されてたし、津美紀だってしっかり活用していたのに!!

 

「うるさいな。非術師なんて大した力もないし、庇護しなくても早々死なないし、しかるべき時に使えばいいと思っていたんだよ」

 

 は、はえー。

 

「でも、あのタイミングでこんな滑り込み解決ってありますか? 夏油先輩に120%有利に働いてましたが」

「忌々しいけれど、呪術界ではたまにあることだよ。出来すぎた偶然がね」

 

 偶然。偶然かぁ。偶然って怖いですね。いや、唐突に盤星教に突撃したわけではなくて、夏油先輩が弱ってて、おそらくパンフレットか何か、調べた資料なんかも家に持っていってしまったのだと睨んでいるけれど。

 流石に故意に夏油先輩のご両親に手を出していたなら、メロンパン達も気づいたはずだ。夏油先輩からの電話もそう。マークされてるのはあくまで俺達であって、夏油先輩やご両親からアクションを起こされてはどうにもならなかったのだ。

 

「そういうわけで、本来の目的を果たして欲しい」

「どうすればいいですか?」

 

 今度こそ、後から話が違うって言わないでくださいね、なんて意思を眼に込めながら(人、それをジト目という)問い掛けます。

 

「灰原の抹殺。あれは確実に夏油につくし、能力的にも手軽に殺せそうだ。失って痛い駒でもない。踏み絵にちょうどいいだろ? 五条悟の牽制にもなり、夏油傑の心も削れる」

「別の意味で削れてる気もしますが……。いいでしょう。下手人の隠蔽はしてくれるんですよね? 等級違いの任務を装うとか」

「ああ、それは任せてほしい」

「お願いします」

 

 去り際、やけにとうさまが楽しそうな表情をしていたが、なんなんでしょう。

 

 ぱたた、と水が溢れます。雨漏りですか? 違います。ここは室内ですから。

 

「あ、はは……それは、それはないでしょう」

 

 涙。泣いてる。この俺が、ですか? そんな馬鹿な。

 だって。だってーーあまりにも、身勝手すぎる。初めから、裏切る為に近づいたようなものなのに……。……欲しい。力が欲しい。呪力だけでなく、全部を笑顔の仮面の裏に隠せるような、道化師になりきる精神力が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高専の自動販売機の前のベンチで、灰原と七海は休んでいた。二舌は実家に呼び出されていない。よくある事だ。ただ、今は怒られているのだろうなと予想はついた。

 

「結局、踏めませんでしたね」

「踏み絵?」

「ええ。上層部が何か仕掛けてくるかもしれません。警戒しないと」

 

 お茶のペットボトルを握りしめて、七海が硬い声で言う。

 俯いた灰原の表情は、七海には見えない。

 

「七海。僕達は、なんなのかな?」

「灰原」

「呪霊を倒すだけじゃ、ダメなのかな」

 

 七海は、胸が締め付けられるようだった。

 

「……わかりません」

 

 そう、言葉を吐き出すのが精一杯だった。ただ、わかった。わかってしまった。

 灰原はきっと、次回も上層部には従わない。二舌は従うだろう。

 自分。自分は? 自分は、きっと……

 

 

 

 

 

 そこから先は、考えたくもなかった。




次回、明日19時更新
「ミッション8:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ②」

本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。

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