腐った蜜柑の二枚舌   作:かりん2022

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ミッション8:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ②

 表面的には何の策謀もない日々が続いている内に、新年度になりました。

 先輩方は3年生に、俺達は2年生になり、そして新1年生が1人増えました。

 ――伊地知潔高くん。呪霊を祓うという実力の面では明らかに雑魚なのですが、『現時点では』術師志望。ちょーっと老け顔であるものの、常識人の可愛い後輩です。俺の前世知識通りならば、将来、MTの運転免許を取れる年頃に、五条先輩の命令で補助監督に転向するのでしょう。

 

 

 

 

 

 

例年通り繁忙期を過ごしたりしながら日常を過ごしていた、この年の8月のある日。

 

「いっくよー」

 

 グラウンドに子どもたちと先輩方が立っていました。五条先輩に向けて、家入先輩と夏油先輩が同時に物を投げています。……五条先輩が自らに張った無下限は、家入先輩のペンを弾く一方で、夏油先輩の消しゴムを弾かずに処理します。

 術式対象の自動選択、やはりできるようになったのですね。原作の通り、最強に成りましたか。

 おや? 五条先輩の説明を聞いていた恵くんが、かわいらしい肩に掛けさせられている自分用のミニ水筒(熱中症対策用)をいじくっているようです。

 

「――これなら最小限のリソースで無下限呪術を『ほぼ』だしっぱに、うお!」

 

 パシャン!

 

「……お茶は無害な物体と扱われるから、そうなるわけだな」

 

 夏油先輩が納得して呟くように言いました。

 五条先輩の黒いズボンの股から膝にかけて、結構な濡れ具合です。水筒の中身を、ぜーんぶ掛けられたっぽいですね。家入先輩が笑いながら携帯を構えています。

 

「恵もセンスいいなあ、掛ける場所が……。五条も早く着替えて来いよ。放っておくと、その歳でトイレに失敗したキャラになるぞ。ほら、そこに二舌もいるし」

「「え!?」」

 

 おやおや、家入先輩以外は俺に気づいていなかったんですかね。俺は意識的にニヤニヤしながら近づきます。

 

「ひょっとして『3年生が校内でお漏らし』って言いふらした方がいいパターンです? ……俺、恵くんがお茶を掛けるところは見てましたけど」

「そこから見てたならマジで止めて」

 

 五条先輩が本気で返答したところ、恵くん以外の周囲の皆さんが一斉に爆笑し始めました。

 誰がいつどんな風に死んでいくか分からない呪術界で、何気ない平和な日常を過ごせることは、とても貴重なことです。そんなことは術師なら誰だって頭に入れている事実には違いありません。その上で、特に俺は今のこんな風景をいつまでも噛み締めていたくなります。……これから散々なことが起こると事前に分かっていますから。

 

 灰原を殺すはずの産土神の任務への派遣が、先ほどパパンから命令されました。原作では七海と灰原が派遣される等級詐欺の任務でしたが、この世界では俺と灰原だけが派遣されるものとなっています。

 

 

 

 

 

 

 

数日後。産土神任務への派遣前日。

 

「「夏油先輩! お疲れ様です!」」

 

 自動販売機スペースのベンチに1人で座っている先輩に、俺と灰原は揃ってお声掛けしました。事前にここに呼び出されていた(・・・・・・・・)俺の方はともかく、灰原の存在はタイミング的に不思議でしょう。夏油先輩は小首を傾げます。

 

「2人とも、私に何か用かい?」

「はい。俺達の明日の任務が結構遠出なんですよ。それで、お土産のご希望をお伺いしたくて」

「甘いのとしょっぱいの、どっちがいいです?」

 

 先輩は微笑んで即答しました。

 

「それなら、悟も食べるかもしれないから甘いので頼む。……2人とも何か飲むかい?」

 

 五条先輩はかなり甘党ですからね。こういう尋ね方ならこうなるはずです。

 

「ええ? 悪いですよ。コーラで!!!」

「じゃあ俺はお茶で」

 

 奢って頂けるのでしたら、素直に頂くのが礼儀でしょう。リクエスト通りの物を購入して頂き、お礼を言ってから俺達は改めて夏油先輩の横に座りました。先輩が何か話したそうにしているのが分かりましたから。

 

「……2人とも、呪術師としてやっていけそうか? 辛くないか?」

 

 おや。この質問が来ましたか。

 原作に比べれば、先輩の闇落ち要素は遥かに少ない筋書きを進んでいますし、情緒もかなり安定しているはずですが。

 いや、今年の夏は呪霊被害が特に多く、皆、任務が多数命令されています。夏油先輩の術式は、呪霊を取り込むときのご本人の負担が大きい代物のはずです。俺達にこういうことを質問したい、程度の多少の弱気が生じる、というのも、……まあ当然なのでしょうか。

 

「そー、……ですね、自分は深く物事を考えないタチなので、自分にできることを精一杯やるのは気持ちいいです。特に単純な呪霊跋除なんかですね!」

 

 ほぼ原作と同じなのに、最後に一言だけ多いのは、去年の単純じゃない任務のせいでしょうね。利久という子どもの呪詛師を殺せるかどうかが、俺達の踏み絵になっていた、あの一件。灰原にも思うところがあるのでしょう。

 

「灰原はそうか。二舌は?」

 

 俺は真顔で即答しました。

 

「術師をやれなくなった場合には、確実に死ぬよりもえげつない目に合う家の生まれなので……。どうあろうと術師としてやっていくしかないっすね。何とか強く生き続けたいですが」

 

 夏油先輩と灰原が絶句して引いてます。でも、……2人にどう思われようとも、俺の家のかたちは変わることはありません。これは、一切誤魔化せない現実としての回答なのでした。

 夏油先輩が何か喋ろうとして、しかし、明らかに言葉に迷っている様子で口を閉じました。

 ちょっと重たい空気になります。雰囲気を変えるために俺がおちゃらけて何か言おうとした、その前に、聞き覚えの無い足音がこちらに近づいてきました。ブーツっぽいしっかりした歩みです。

 

「夏油くんと二舌くんは誰かな?」

 

 原作で描かれた通り、実に尻とタッパの大きい女性ですね。こんな人に無茶にしごかれたせいで、未来の東堂葵という青年は性癖が歪んでしまったのでしょうか。

 この女性の質問に、灰原が答えます。

 

「ここの2人ですけど、どなた様ですか」

「特級術師の九十九さんですね。俺達と今日ここで待ち合わせしているお相手の。……ちなみに、初対面の人には『好きな人のタイプ』を聞いてくるらしいと風の噂で聞きました。本当ですか?」

「え!? そうなの? 自分はたくさん食べる子が好きです!!」

 

 九十九さんが噴き出します。

 

「君、素直でカワイイ子だね。質問する前に好みを教えてくれたのは初めてだ。隣の子の情報は、全部合っているよ。私は特級術師の九十九由基だ。夏油くん・二舌くんのふたりと話をしたいことがあってね、ここに早めに来たんだ」

「そうでしたか!! じゃあ僕は失礼しますね!」

 

 灰原は、飲みかけのコーラを片手に、礼をしながらこのスペースからそそくさと出ていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ待ち合わせとして連絡した時刻の15分前。天内理子とメイドは、もう少ししたらここに来るかな?」

「そうですね」

 

 壁の時計をチラリと見上げながら、九十九さんが言いました。夏油先輩が相槌を打ちます。

 

 ――俺達がここで待ち合わせしてた理由は、『天内理子ちゃんと黒井さんにお別れを言うため』です。

 去年の同化失敗以降、天内理子ちゃんは、黒井さんと一緒にここの敷地(=正確に言えば天元様の結界)で匿われていました。

 元星漿体という理子ちゃんの立場は、言い方は悪いですが、色んな立場の人にとって『研究材料にしたい唯一無二の貴重なサンプル』です。一連の騒ぎで身元が割れまくっている以上、元の私立中学生には戻れそうにありません。即日どこかでホルマリン漬けにされる未来が見えきってます。

 ……とはいえ、同化失敗から1年が経ち、『いつまでもそうやって匿うわけにはいかない』、という意見も総監部から出ていました。

 2人が身の置き所を探す中で、盤星教が『大! 大! 大歓迎!』というアプローチを掛けてきたりもしたそうです。が、肝心の理子ちゃんと黒井さんは『この教団はちょっと……』という意見になったそうで。うん、分かります。

 ……で、そういう話を耳にした九十九さんが、元星漿体という立場から、天元様経由で、理子ちゃん達の引き取りを打診したそうです。九十九さんは世界のあちこちを放浪中の方ですから、『色んな所に行って色んな物を見てみたい』という理子ちゃんの希望と合致。話がトントン拍子に進んで、今日、九十九さんと合流して旅立ち、……となったのです。

 なお、この別れの挨拶には、五条先輩は来ません。パーになって薨星宮で大暴れしたせいです。あの時、術式の衝撃で気絶させられた上、夏油先輩にからくも守られた理子ちゃんと黒井さんは、五条先輩には『申し訳ないけど怖いから来ないで』とはっきりNoを出しました。仕方ないですね。

 

「改めて、特級術師の九十九由基だ。失礼だけど、夏油くんと二舌くん、どっちがどっちか聞いてもいいかい?」

「3年生の夏油傑です。先日一級術師に戻りました。こちらが後輩の二舌」

「お会いできて光栄です。2年生の二舌誠司といいます。二級術師です」

 

 俺達は揃って頭を下げます。夏油先輩が口を開きました。

 

「私達とお話したいこととは、どういったご用件でしょうか?」




次回、明日19時01分更新
「ミッション9:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ③」

本日20時過ぎ、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。

ここ好き、匿名感想等もお待ちしてます!


本日のLiveNovelは時村ニレが開きます。内容は12話の内容打ち合わせです。じゅじゅフェス配信終了が21時以降にずれた場合は遅れます。
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