腐った蜜柑の二枚舌   作:かりん2022

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ミッション9:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ③

「まずは、そうだね。2人のタイプを聞きたいね」

 

 タイプの話は終わったかと認識していましたが、推してきますね。何より優先するのがタイプの話ですか。ふむ。

 

「そうですね。迫害された幼子を庇って勢いのままに村人皆殺しにしちゃって、自分を騙す為に呪霊の見えない人間は猿なので滅ぶべきとか言い出す胡散臭い笑顔が素敵な自分洗脳系チョロイン教祖でしょうか」

「女性に優劣をつけるような真似はしたくないかな」

「あはは。ちなみに二舌くん、それは自己紹介かな?」

「まっさかぁ。僕の脳内彼女の話ですよ」

 

 アハハハハと笑う。夏油先輩は引いていた。貴方の事です。

 

「それにしても面白いね。私は好みのタイプで人間性を判断するんだけど、君らみたいなクズはそうそうみないかな」

「光栄です」

「どうも」

 

 呪術師はクズと言われてなんぼです。俺と夏油先輩はぺこりと頭を下げる。

 

「私は呪霊のいない世界を研究をしているのだけれど、私の興味はもっぱら君ら二人でね」

「夏油先輩はともかく、俺もですか?」

 

 俺は小首を傾げます。特級呪術師にとって、俺は雑魚ですから。

 

「もちろんさ。君の術式もだけど、君の家は隠密の家系なのに、随分と表に出張ってくるじゃないか。何かあった?」

 

 ああ、そういうこと。俺の暗躍とか、メロンパンの乗っ取りとか、家の中はそりゃもう色々ありましたとも。でもさ。

 

「それ、いうと思います?」

「隠密の家系?」

 

 今度は夏油さんが首を傾げるので、教えてあげます。

 

「腐った蜜柑のさらに腐った部分を担ってるって事ですよ。夏油先輩が想像できるその10倍は悪いお家です」

「私の考える悪い事は結構だよ?」

 

 反射的に斜に構えてみる夏油先輩。そうする事自体、疲れてて弱ってるのでしょう。ガチに腐った家に所属している人間の前で言える事じゃないですからね。

 

「夏油先輩が考える何を言ったって、とうさまや俺に可愛いねって言われちゃいますよ、夏油先輩。大体、夏油先輩が考える最大の悪事って、非術師なんてみんな殺しちゃえばいいのにぐらいでしょう?」

「ほ、ほう。それより上は確かに思いつかないかな。じゃあ、私にレクチャーしてくれないかな」

 

 それすら思いつかなかったって思ってるのがバレバレですよ、夏油先輩。そっか。ここで九十九さんが後押ししなければ、思いつきもしなかったですか。……守りたいです。そうしないと人がたくさん死ぬからとか、そういうのではなくて、このぶきっちょな先輩を助けてあげたいです。

 

「そうですね。例えば、地道にうちの家が貴方と五条さんを仲違いさせようと頑張ってるの気づいてます? 会える日減らしたり、五条先輩の気を任務で逸らしたり、夏油先輩に悪口吹き込もうとしたり。悪口ではないですか。五条先輩凄いですね、夏油先輩いりませんね、みたいに」

「は? なんで?」

 

 夏油先輩の声のトーンが変わります。

 

「お二人が最強で珍しい術式だから、殺し合わせて共倒れして標本になってくんないかなって」

 

 自分では悟は殺せない、なんてコンプレックスが出たらどうしようと心配したけれど、夏油先輩の口から出たのは全然別のことでした。

 

「はぁ!? こんな忙しいのに、何を考えているんだ!?」

 

 夏油先輩の目に、生気が戻ってきます。あまりの衝撃に、頭が少し働き始めたのでしょうか? 良かったです。夏油先輩はまだ壊れてないようですね。

 

「だからですよ。これを機に酷使することで思考能力奪って刷り込みの準備ですね。ふふ、せっかくこれから本格的に刷り込むはずだったのに、話しちゃいました」

「おお? ぶっ込むねー。いいの、言っちゃって」

 

 九十九さんが囃し立てます。殺されちゃうよー、なんて。それだけで済むといいですね。そんな気持ちを綺麗に隠して、肩をすくめて軽く言います。

 

「この程度なら殺されないで済むかなって。片手間程度に進める陰謀ですから」

「嘘だね。結構な肝煎だろ。さっき言ってたタイプって夏油くんのことかな。そういう計画があるんだね」

「さあ? どうでしょう」

 

 夏油先輩は、顔色を青くしました。

 

「二舌……。何故、いや、その幼子っていうのは、今も迫害されてるのかい? なんとか助けられないかな」

「夏油先輩かーわいい♡ でもその為に五条先輩に死ぬより酷いことになれって言えます?」

「それは」

 

 夏油先輩は惑います。惑っちゃ駄目なんですよ。こんな悪い人達の前で。それは付け入る隙になりますから。

 

「簡単な策略ですよ。夏油先輩は見知らぬ幼児のためにも我が身を犠牲にできる。そして、五条先輩は夏油先輩の為なら「やめてくれ!」」

 

 耳を塞いでしまう夏油先輩。そうなのです、俺ってとっても邪悪なんですよ。

 それでもって、耳を塞いでちゃ駄目ですよ、夏油先輩。

 

「夏油先輩、かーわいい♡ 言ったでしょ。俺の家、そういう家なので。ね、邪悪でしょ」

 

 純粋に疑問を浮かべて、九十九さんは問いかけてくる。

 

「二舌くんは、何故そこまで夏油くんに肩入れを? 命を賭けて……いや、それにとどまらないな。死ぬより酷い事になる危険を負ってまで、夏油くんに肩入れする理由は? 五条くんの監視任務で来たとしても、学生は目立ちすぎるんだよ。学校に入る時点でもう切り捨て前提なんだ。だから学校に入って先輩たちが好きになった、ってのは順序が逆になる。君は君の意思でこの学校に来た。入学前に、どこかで君ら会ってたのかい? それとも、それも君の友達の術式によるものかな」

 

 いきなり出てきた友達と言う言葉に、俺は目をぱちくりします。

 残念、この呪専が今世で初めて通った学校なので、友達はいないのですよ。

 

「術式?」

「五条くんが大暴れした件、詳細な報告が上がってるんだよね。あれだけの事を起こしたのだから当然なのだけど。それで、君が語った事だけど、君には入手し得ないんじゃないかって情報があってね。君の本当の術式、あるいは第二の術式があるんじゃないかってこと。相手の情報を読み取るとかね」

 

 なるほど。まあ、監視もあるでしょうし、ここぞとばかりに五条先輩から情報を搾り取ったと言うのもあるでしょうしね。

 

「俺の術式は語りによるバフデバフですが」

「それは演技できるだろ。ただ、私はバフ効果が大きすぎるから、普通に君の術式は一つで拡張術式じゃないかってことを疑ってる」

 

 情報を読み取れるんだったら、チートだったのですが。残念、この術式は地道な努力が必要不可欠なのです。

 

「なんでも術式で解決しないでくださいよ。俺の努力イズ何って話になるじゃないですか」

「まあ、そういう術式だとしてもそう答えるだろうけどね。で、肩入れの理由は?」

 

 誤魔化されてくれなかったですか。

 

「んー。好感度を落とさずに家のミッションを熟す為、ですかね。こう見えて、ちゃんと渡す情報は選んでるんですよ?」

「どうだか。コウモリはどちらからも潰されるよ」

「警告ですか?」

 

 原作知識を持ってなお。九十九さんが、負けて殺されると知っていてもなお。俺は、九十九さんを信頼してなかったのです。この人はいわば正義のマッドサイエンティスト。無条件に信頼していいとはとても言えないのです。

 

「まさか。忠告だよ。ただ、どうしても逃げたければ、君のその情報網とやらと引き合えに助けてもいいよ」

「結構です。俺……」

 

 五条先輩しか信頼してませんから。その言葉を飲み込みます。

 今はその五条先輩すら駄目なのです。今はまだ学生ですし、俺のせいで立場が弱くなっているのですから。

 

「俺の事を、助けられる人なんていないんで」

「……そうか」

 

 夏油先輩は、あからさまに顔を伏せました。

 

 

 それから、理子ちゃんと黒井さんが来て、俺達はお別れをしました。

 お別れをした後、夏油さんは俺に何か言いたくて、言えなくて、口をパクパクさせて、最後にこう言葉を絞り出しました。

 

「私は、君も、その、迫害されてる子供も、助けたいよ。そもそも私達は呪術師で、呪霊を倒すのが、倒すのだけが仕事だろ? それじゃ駄目なのか……?」

「それは綺麗事です。愚かすぎて術師出なら幼子ですら鼻で笑う願いです」

 

「でも」

 

「俺の持論では、一般出に夢を見させるのも、術師の家の務めなんです。仕事から逃げ出さないようにする為に。たまに綺麗なものと交わって心の安息を得るために。術師出の義務として、少しだけ夏油先輩に手助けです。夏油先輩、今、貴方のするべきことはなんですか?」

「強くなる事だ。術師としても……人としても」

 

 俺は首を振りました。違うのです。違うのですよ、夏油先輩。

 

「2017年12月24日。2018年10月31日」

 

 

「約束します。そこまで耐えてくれたなら、地獄はそこで終わりです。終わらせます。俺の事を、信じてくれますか?」

 

 夏油先輩は、こくりと頷いた。

 

 

 

「なら、とりあえずグレて術師の仕事放り出して自分探しの旅に出てください。それが今のあなたのすべきことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何か申し開きはあるかな?」

「教団に引き込むための懐柔策ですが、何か」

 

 涼しい顔で、言い放つのは、二舌 誠司。だが、その緊張と怯えは完全には消せていなかった。全く、なんの変哲もない単なる有象無象の中に、飛んだ原石が隠れていたものだ。

 

「いつまで耐えろと言ったのかな」

「2017年12月24日です。その日を夏油傑の命日にする予定なので、嘘はついてませんし、夏油傑の信頼をこれで完全に取れたはずです。教団に引き入れて離反に持ってくのに必要な事でした」

 

 10年後を出されて、さすがに少し驚く。しかもタイミングとしてはベストだったからだ。

 

「もうそこまで決めているのかい?」

「結構タイトなスケジュールかと思いますが。先延ばしします?」

 

 誠司は心配そうな顔をする。全く、どこまでこちらの計画を知っていると言うのか。今すぐにでも乗っ取ってみたい思いもあるが、この男はまだ使える。今は殺すべき時ではない。

 

「いや、その日付で構わない。君はどこまで知ってるのかな」

「俺はとうさまの次に策謀が得意なので」

「優秀な子供で嬉しいよ。もういきなさい」

「はい」

 

 誠司が畳に頭を擦り付け下がる。彼が退出した後、おかっぱの術師が現れる。裏梅だ。

 

「あれは離反しているぞ」

「そんなことは知っているよ。賢いつもりで可愛いじゃないか。今から盤をひっくり返してあげた時の事を考えると、にやけてくるよ」

 

 可愛い可愛い二舌誠司。早く脳みそを取り出し踏み潰して、彼の術式を確認してみたい。情報を司る術式だと思うのだが、さて。少なくとも、中身が違うことには気づいているだろう。

 

「さっさと殺して仕舞えばいいのに」

「あの子は使える子だからね。利用するだけ利用するさ。さあ、今度は踏み絵を踏めるかな?」

 

 ニヤニヤと笑みが溢れてしまう。先日の涙は傑作だった。

 

「友人を殺させるのだったか」

「そう。後は術式について調査をしたい。五条悟が見せた力……異常すぎる。あれは現時点での五条悟には不可能だ。思考能力の著しい低下や酩酊状態も気になる。それを起こせる術式というのなら、それなりに価値が出てくるからね」

「次の体候補ということか」

「そうだよ。せっかく信頼度も稼いでくれているからね。せいぜい楽しませてほしいな、二舌 誠司」

 

 私は、自分の目で見たものを遠方の呪具に映し出せる監視用の術師を使って監視をしつつ、湧き上がるワクワクとした気持ちに微笑んだのだった。




次回、明日19時01分更新
「ミッション10:灰原を抹殺せよ/灰原を救え ④」

本日20時頃、かりん2022活動報告にて裏話公開。
ネタバレにお気をつけください。

ここ好き、匿名感想等もお待ちしてます!

本日は9時からの配信はありません。
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