山門の死剣 作:厨二おじさん
その石階段は宙空に浮かぶ満月を以てしても全体を照らす事は叶わず、両脇から生えた木々が夜闇混ざり合いながら階段の行先を覆い隠していた。
柳洞寺
冬木の龍脈の要石であり、冬木で行われる聖杯戦争その根幹を担う大聖杯が地下深く眠る地。聖杯の着地点。その本堂へのアクセスは山門より麓に伸びるこの石階段以外存在しない。
晴れた日でさえ麓から山門を視認できないこの長い石階段を青い疾風が駆け抜けていた。
一度石段を蹴れば十、二十を跳ね上がり、常人では姿を捉えることも叶わない。木々は彼の通り過ぎた後、一拍を空けて気付いたようにざわめき立った。獣の如き敏捷性が可能とさせるそれは霊長の長、人の臨界に立つ者が示す神業である。
ランサー:クー・フーリン
第五次聖杯戦争、その槍兵のクラスに召喚されたアイルランドの大英雄。今宵の彼は、
(…しかしこの参道、関としてその役割を全うしているな。厄介な結界のせいでこの道以外は無いも同然……奴はここの護りを固めるだけで事足りる)
柳洞寺を含むこの山には山門とそこに続く参道以外に結界が敷かれている。霊体に対して有効なこの法術にサーヴァントも当然含まれる。その身こそ神秘の具現である英霊でさえ幾分かのステータスの低下は免れない。対魔力を保有する三騎士の一角であれど、自身の工房で絶大な力を振るうキャスタークラスのサーヴァントが待ち構える領域に飛び込む前の不必要な消耗は避けなければならない。
(…さて、何が出る?一介の悪霊魔獣なら蹴散らして進むが、あの魔女の事だ、大仕掛けがあったって不思議じゃねぇ……っと!?)
ランサーは加速の一切を殺しその場に
追従していた風がランサーを通り過ぎ山門を抜けていく。
そして山門に立つ者の袖裾をはためかせる。
月夜を背に抱く者の姿は逆光でシルエットとしか映らないが夜目の効くランサーはしっかりとその姿を捉えていた。
「…よお、こんな夜中だが“お参り”ってヤツをしてみたくてよ。遥々この寺まで足を運んだんだが……アンタ、ここの関係者か?」
槍を強く握る。眼前の相手が一筋縄ではいかないと悟る。すなわち…サーヴァント。
「……誠に申し訳ございませんが当寺は現在、関係者以外立ち入り禁止となっております。参拝の方……とりわけ当寺に害をなす不躾な暴徒には私が対応する様、
恭しく頭を下げていた女が顔を上げる。
黒い着物に黒の袴、白い羽織を纏い腰に刀を差している。長い黒髪を胸元で結い穏やかな笑顔を浮かべながら女は続けた。
「…卯ノ花烈、聖杯の導きにより、地獄より招かれ今宵この山門を守護する者です」
剣八:A
剣に生き、剣に死んだ者を示すスキル。複合的な精神汚染スキルであり剣術技能に補正がかかる。Aランク以上の場合戦闘時の負傷によって筋力、敏捷に追加補正を得る。このスキルを保有する者が敗北を確信した場合、同スキルは勝者に継承される。その場合元のスキル保有者は消滅する。