山門の死剣 作:厨二おじさん
「破道の四……白雷!」
淑やかな声と共に指先より指向性を持った雷撃が放たれる。闇夜を切り裂き瞬きの内にランサーに襲いかかる雷光。
しかし、さながらボクサーのヘッドスリップの様に僅かに首を逸らして回避する。
「…シッ!」
勢いのまま身体をうねらせランサーが突進する。全身の筋肉が隆起し風を纏い
躍動する。
「破道の三十三 蒼火墜!」
巨大な蒼き炎が視界を塞ぎ接近を阻む。だが正確無比な朱槍の穂先が炎の芯切り裂き難なく搔き消す。まさに神業、クラススキルの対魔力に頼らずとも光の神子とっては造作もない芸である。
ついには卯ノ花を射程圏内に捉える。
「一発喰らいな!!」
放たれる朱槍、本来であればランサーにとって必中の間合い…更にそれより半歩詰めた距離。
外れぬ一閃になる…ハズであった。
「…………チッ」
しかし槍は空を突く。眼前に彼女の姿は既にない。陽炎の様にランサーの目の前から消え失せたのだった。
「縛道の六十二…百歩欄干」
空より響く声。
降り注ぐ無数の光跡、それらは実体を持ち敵を磔にせんと襲いかかる。
「…次から次と珍妙な技を!!」
回避は不可能と判断して迎撃を選んだランサーは魔槍を振るう。
縦横無尽の槍術が、隙間無く放たれた光の棒を余す事なく撃ち落とす。
「…お見事です。槍一本で全て捌き切るとは…流石は人理に刻まれた英霊、困りましたね、一筋縄では行きそうにありません…」
宙空で微笑みを湛え、丁寧な言葉使いは崩さないものの……その目は明らかに深く、深く、黒く、黒く濁り、こちらを獲物と定めている。
肉食獣のそれではない。下劣で醜悪な…人の内より滲み出した欲望を内包したもの。
簡潔に形容するならば、『猟奇的』
「…ハッ、『困った』だぁ?キャスターの真似事ばかりで手の内も見せねぇ…そこの腰物は飾りって訳じゃねぇんだろ?さっさと抜かねえと次はこの槍がアンタを貫くぜ?」
その言葉と共に、卯ノ花の胸元に垂れた編み込まれた髪がほつれ始めた。
「……まぁ‼︎」
ランサーの槍は卯ノ花が掻き消える前に届いていた。つまり彼女の知覚を槍の速度が上回ったことを意味している。
編み込みが解け長い黒髪が垂れる、卯ノ花の印象を大きく変える。しかしそれは髪型が変わっただけでは無い。
胸元の大きな刀傷が露見したからである。
一瞬、卯ノ花の顔が驚愕に染まり、すぐさまグニャリとゆがんた。
ランサーは斥候としての仕事を全うしている。幾度かの偵察、接敵により各陣営の勢力図を把握していた。
アインツベルンのバーサーカー
間桐のライダー
そしてこの山門の奥柳洞寺に潜むキャスター
アーチャー、セイバーともに未召喚という情報は雇い主からもたらされる。ならば目の前にある和装の女はアサシンで間違いはない。
しかしながらアサシンは対人特化、もとい対マスターを想定されたクラスである。己の気配を悟らせない技、無音にて殺す業に傾倒する者にとってこの様なサーヴァント同士の白兵戦は不得手のはずである。
(なんだコイツ、あの目は戦闘狂の目……俺も人の事を言えた立場じゃ無いが……目の前の奴はもっと狂っている!)
敵を『殺害』する事が目的ではない。『殺し合い』を望んでいる。それはアサシンの定義から最も遠いものである。
「フ、フフフ…ふふふふふふ、……あぁ、たのしい。これほどの
身悶え、頬を振るわせながら卯ノ花はゆっくりと柄に手をかけた。
ゆっくりと抜かれた刀身は月夜に怪しく照らされる。
(コイツ…霊基が…)
死神:A
彼女の種族を示すスキル。ランクの上昇に伴い死神の基本戦術である剣術、鬼道、白打、瞬歩の性能が上昇する。本来悪霊退治に生業とする種族だが彼女の得物はそれら以外の血が多分に含まれている。空前絶後の大罪人としての在り方こそ本来の彼女である。