爆発の衝撃で、俺は大きく吹き飛んだ。
魔法で衝撃を和らげてはいるが、体質が災いしてか全身痛い。
だが……。
「ルミネ……!?」
ヒノエは取り返した。
「ルミネ!ルミネ!!酷い怪我……!!」
『大丈夫』
「大丈夫なわけないでしょ!!」
まぁ確かに大丈夫ではない。だけどそれは俺自身の体じゃなく、ヒノエの精神面の話だ。彼女は顔をぐしゃぐしゃにして、本当に悲痛な表情で俺を見つめていた。
ここ半年間ほどは大人しくしていたのに、またヒノエを泣かせてしまった。
こりゃまた院長先生に怒られるかな。
「すげぇな、マジで。“混沌級”の魔術……こんなガキに扱えんのかよ」
ヒノエの頭をさすさすと撫でていると、相変わらずゴツい武装をした男が重い足音を響かせて近づいてきた。
あれは結構上位の武装だな。こいつら多分ベテランの探窟者だ。少し特殊とはいえ俺みたいなガキ一人拐うために派遣されるにしては、かなりの腕利きと見た。
にしても、ゲーム上じゃ感じなかったけどちゃんと武装した男ってのはあれほど威圧感があるもんなのか。俺が子供になってるからそう感じてるだけか??
「おい、そのガキ離してこっちに来い。殺されたくなかったらな」
「ひっ……!」
ヒノエがひしと俺にしがみついて、がちがちと歯を鳴らしながら男を見上げている。
一度ダンジョンに入ったことがあるとはいえ、あん時は俺が好き勝手やってたからそんなに怖くはなかっただろう。だけど今回は相手が人間。恐怖に支配されるのも無理はない。
「ハ、ハゲにルミネは渡さないわよ……ハゲが移るから……」
いや嘘だわ。この子思ったよりメンタル強い。
「てめぇには聞いてねぇよ」
で、こっちは子供相手でも容赦なしと。
地面に手を当て、魔術を発動した。
「あ?」
「きゃあ!?」
ドゴッ──と地面が隆起して、即席の土壁が出来上がる。
とにかくあの武装が厄介だ。障害物があるに越したことはない。
「うわわっ、わわっ!!」
地面の動きは壁を形成するだけに留まらず、まるで絨毯のようにグネグネと動いて俺とヒノエを壁を壊そうとしている探窟者達から引き離していく。
大地そのものが意志を持ったように動いているが、流石にそこまで大それた事は出来ない。これは地表のごく一部の土や砂利を転がしているだけ。
即席のベルトコンベアのようなもので、これなら魔力消費も最小限で済む。
「……ルミネは凄いね、相変わらず」
ヒノエが若干呆れたような語気で言ってきたので、俺はVサインを返した。
少しは元気が戻ったようで何より。
「あ、でもルミネ……皆が……」
『大丈夫』
「……え?」
かと思えばすぐに表情が暗くなったヒノエに、俺は強く言い切る(文字だけど)。
『今は後ろじゃなく、前に集中して』
「……うん!」
ヒノエが意を決し、強く頷いた。
逃げる途中、随所随所で壁を生成しているのが功を奏したのか追っ手は来ていない。このまま逃げ切れれば……
などと一瞬油断したのが悪かったのか。
星が光った。
「え?」
比喩じゃなく、一瞬そう感じたぐらいの強い光が空で瞬いた。
しかしそれはおかしい。何故なら今は日中。空には星どころか月も出ていない。では太陽か?と目を凝らして……。
俺は反射的に魔術を使った。
───!!!
轟音と極光。真っ逆さまになる視界と感覚。口の中に広がる土の味。
俺は自分が空に投げ出されたことを理解した。
混乱した上下感覚が魔術の発動を阻害して、俺は背中から地面に打ち付けられた。肺が息を吐き出し、それに混じって僅かに切れて出血した口内の血が地面に飛び散った。
……直前に土の防壁を張ってもこれだけの威力か。
首だけを動かし、腕の中にいない少女の姿を探す。
「う、うぅ……!」
無事だ。全身土埃で汚れて、怪我もしているだろうが無事だ。
治癒魔術で回復する。
「……おい、話と違うぞ」
僅かに首を起こすと、そこには黒づくめの青年が立っていた。
「“混沌級”の実力者って話だったはずだ。なんで子供がいるんだ」
「その子供がそうだってだけだろ。あ、白い方な。黒い方のガキは関係ないから殺していいぞ」
「いいわけねぇだろうが殺すぞ」
黒づくめの青年が、いつの間にか追いついていた鉄で武装した男に詰め寄る。
「なに善人ぶってんだお前?後がねぇって言うから雇ってやったのを忘れたのか?」
「……」
「別に嘘は言ってねぇよな?事実、そのガキは魔術を使ったんだ。ガキだろうが女だろうが同じだろ」
至近距離で睨み合う二人。折れたのは黒づくめの青年だった。乱暴に掴んでいた襟を離してこちらに近づいてくる。
フードに隠されて顔は見えないが、その足取りはどこか重いように感じる。
躊躇してくれるなら、こちらとしては好都合。
「!!」
黒づくめの青年の足元に堆積した”砂“が変形し、刃の形となって襲いかかった。
凝固、変形……無から有を生み出すのではなく、すでに存在しているものを利用する魔術は応用が効く。
だが彼はすんでのところで躱したらしい。
「……驚いたな」
いや。
「確かに、ただの子供じゃないらしい」
“斬った”。
刃となった砂の山がサラサラと崩れ落ちる。切先に刻まれた断面は黒く焦げて、白い煙を上げている。
──ブウゥゥン
という特徴的な音と共に、黒づくめの青年は右手に紅色の光子剣を握っていた。LoD内で“製作”できる装備の中で、最高攻撃力に設定されてる片手剣『Akathuki』。
あれが星の光の正体か。
だが近接攻撃主体ならこっちに分がある。まずはさっきみたいに地形を変化させて死角を作って、隙を見て背後から──。
「おい」
魔力を操作しようとした瞬間。
「抵抗はするな」
俺の視界に入ってきたその光景。
「ルミネ……」
ヒノエが鋼鉄男に、鉄の砲身を向けられている。目を恐怖に歪めながら、こちらに何かを伝えようとしてきていた。同時に唇がかすかに動く。
『に、げ、て』
逃げて。
「……」
確かに俺一人だけなら、ここから逃げ出す事はできる。そしてヒノエもそれを望んでいる。
……俺の目的はダンジョンだ。この世界に生まれた時から、それ以外の全てはどうでもいいことだったし。人生を捧げるつもりでいた。その思いは今も変わってはいない。むしろ、上位の探窟者達の実力を見ることが出来て、俺のダンジョンへの熱は増すばかり。
俺はやっぱり、ダンジョンへ行きたい。
「……ルミネ!!」
両手を上げ、頭の後ろで組んだ。
「そうだ。それでいい」
そして、ヒノエには将来的に俺がダンジョンを攻略する時の仲間になって欲しい。それだけのポテンシャルが彼女にはあると俺は思う。だから、死ぬならダンジョンの中でだ。
今、ここじゃない。
「ルミネ!逃げて!早く!!」
「はっ、どっちみちあんな体で遠くまで行けるかよ。最初から詰んでんだ、お前達は」
ヒノエが鋼鉄男に抱え上げられ、こちらへと近づいてくる。砲身は向けられたままで。
男の腕の中で、ヒノエが悲痛な表情でもがいていた。
「ルミネぇぇ!!」
俺は、絶望に沈むヒノエの顔を見て静かに目を閉じ──。
「どおおおぉぉぉ!!?」
「え」
「あ」
鋭い“槍”の形に変形させた砂の先端が、男の股間を襲った。
……そこは柔らかくないと、動けないもんな。
これは間違いなく曇らせだなぁ……。