病弱幸薄少女はダンジョンに潜りたい   作:ぷに凝

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ダンジョン都市『セレナ』

誘拐犯の3人と仲良く……仲良く……?仲良くは全然なっていないが、それなりに一緒の時間を過ごしている内に情も……情も……情は全く湧かなかったが、まぁそこそこ楽しくは過ごした。

 

メイクやら何やらも、嫌々ながらそこそこ上達したしな。ユダは「こっちの才能もあったみたいね」なんて意味のわからんことを言っていたが、本当、全くもって不本意な時間だった。早くダンジョンに潜りたい。あぁ、でもせっかくセットした髪が乱れそうだ。

 

「そろそろね」

 

櫛で髪をといていると、ユダが窓に目を向けた。車内にはこれといった娯楽がないので必然と、ユダから課せられる諸々の課題をこなしていくのが日課になる。

ここ最近で認識を改めたのだが、化粧ってのはまさに魔法だ。前世でも化粧前と化粧後で別人に見えるなんてことはザラにあったが、それはひとえに本人の努力によるもの。集め、試して、より効果の高いものを組み合わせる……と言うとこれは俺が何度も行ってきた事とまるっきり同じ。結果が出れば嬉しいし、失敗したら反省点を見直して次に活かせばいい。俺はここ数日間、始めてオンラインゲームをプレイした時と同じような感覚を味わうことができた。その点では感謝してもいい。

 

ちなみにこの世界の化粧品はかなり充実している。流石に前世ほどとはいかないまでも、化粧水の概念もあるし、庶民でも買えるくらいに安価らしい。なんでも、数年前にとある美人探窟者が美の探究のために美容界隈に革命を起こしたとか。

 

「その過程であなたの“刻印”とかも開発したのよ。すごいでしょう?」とユダ。お前じゃねーか。

 

つまり、この化粧品は化学成分ではなく魔術由来のものということか。

 

魔術の用途は“LoD”内で提示されたもの以外にもアレンジが効くことはわかっていたが、ここまで出来るとは驚きだ。素直に感心してしまう。

 

というかこの女、もしかしてそこそこすごい奴なのか……?

 

俺が今乗っている“魔導駆輪”などはラングルディア氏の発明。“魔導”と呼ばれる電気に似た用途をするエネルギーを軸とした様々な発明は、すでに世界中に広まっている。彼女は魔術師最強であるだけでなく研究者としても一流だ。

俺はダンジョンにしか興味がなかったので、その方向性で魔術を伸ばそうとは考えていなかった。だがこれからはそっち方面にも手を出してみようか。

 

そうして得た知識が結果的にダンジョン攻略に役立つこともあるだろう。

 

閑話休題。

 

窓の外には、街……というよりあれは完全に都市だな。ビルが乱立する都市が聳えていた。

 

「着いたわよルミネちゃん。“ダンジョン都市”『セレナ』」

 

目的地がどこかは聞いていた。だがやはり、実際この目で見ると中々に威容があるというか、感慨深いというか、血湧き肉躍るというか。

 

有り体に言って感動している。

 

……俺の身分が“奴隷”じゃなく、“探窟者”だったらより完璧だったんだが。

 

 

ダンジョン都市『セレナ』。

 

“LoD”ではいわゆる“はじまりの街”に相当し、プレイヤーの初期リスポーン地点だ。しかしリリース当初は小さな集会所のような場所でしかなかった。

アップデートを繰り返すごとに周囲に便利施設が増えていき、プレイヤーに「これもう街だろ」とツッコまれ始めると、『セレナ再開発計画』と銘打った大型アプデが入り、ダンジョン都市へと変貌した。“LoD”人気に本格的に火がついたのもこの頃だ。

 

なぜヤクザの待ち合わせ場所のような名前がついてるのかは長年不明で、プロデューサーの奥さんの名前説、スタッフの推しキャラの名前説、『SERENA』のアナグラムで『ASEREN』。アセりんが実装されるとかいう意味わからん考察まで出てくる始末。誰だよアセりん。

 

ともかく“LoD”プレイヤーにとってはこの『セレナ』はホーム……実家と同義の場所だ。初めて来る場所なのに何故か帰省するような感覚になるのは気のせいじゃないだろう。

 

何度でも言うが本当に探窟者として来たかったなぁ……。

 

「止まれ」

 

セレナの街への入り口、重々しい鉄の門が聳え立つその前に人だかりができている。入り口は二つあるようで、一方は何十時間待ちだろうというくらいの長蛇の列が出来ていた。

まさかあそこに並ぶのか……と思っていたら俺たちの“魔導駆輪”が停まったのは隣にある入り口。こちらは逆にすぐに入り口付近まで近づけた。

 

「身分証を」

「……」

 

門の前には検問所が建っており、制服を着た審査官と思わしき人物が立っていた。

一つ前。泥や土で汚れ、身なりも良いとは言えない……言ってしまえば”みすぼらしい“ナリの男が、検問所で顔色を厳しくしながら懐から青色のカードを出した。

 

あのカードは“探窟者”が自身の身分を証明するためのもの。名前、階級、所属、探窟者として登録されたギルドなどこと細かく記されている。

 

「申し訳ありません。“征服級”ですと、通常の検問所をご利用いただく手筈となっております」

「ば、バカ言え!それじゃ何十年も待たされるって話じゃねぇか!!」

「規則ですので」

 

しかし、何やら揉めている。どうやらあの男は検問所を通れないことに怒っているらしい。見たところ、“探窟者”は一定以上の階級に昇格しないと通過できないのか。

 

「テメェ!!」

 

男が武器を抜いた。“銃”だ。『Sirayuri』だったかな。銃カテゴリーの武器の中では比較的レアリティが低い、初心者向きのものだ。性能もそれ相応。無論、魔改造すれば上級ダンジョンでも通じるものに化けるが。

 

しかし男のものはバニラだ。初期状態。

 

──ビーッ!!ビーッ!!

 

男が銃を取り出した瞬間、検問所から“警報”が鳴り響いた。

 

「な、なんだ!?やめろ!触んじゃ……ぎいぃ!?」

 

そして、男はバイクごと地面から生えてきた“鉄線”により捉えられ、そして電流が流れたのか体を痙攣させながら倒れた。

 

「警備員」

 

すぐ側に立っていた銃を持った警備員が、男の肩を乱暴に掴んで入口の方へと連れて行く。バイクの方はまた別の警備員が片手で掴んで運んでいく。

ちなみにこの警備員の持っている銃。ベースは『Sirayuri』だが、こちらはゴリゴリに改造されてほぼ別の銃だな。側面に『Kuroyuri』とある。彼ら警備員の制式装備だろうか。

 

男が連れていかれ、俺たちの番となった。

 

「身分証を」

「どうぞ」

 

ユダは警備員に言われ、懐から一枚のカードを取り出した。

 

白いカードだ。

 

そのカードを、審査官は緑色の光を発する謎の機械に通す。すると「ピピッ」という軽い電子音。

 

「確認しました。ようこそセレナへ」

「ありがとう」

 

検問所の前のゲートが開いて、魔導駆輪が道を進んでいく。

 

……やっぱりユダ達はかなりレベルの高い探窟者のようだ。明らかにセキュリティが厳しいが、難なく通過してしまった。

 

というか、いきなり文明レベルが上がりすぎて風邪ひきそうだ。

 

門をくぐり、中へと入る。

 

……。

 

「……ルミネ、どうした?」

「便所だろう」

 

隣で誰かが何を言ってるが聞こえない。

 

「無粋な男たちは黙ってなさい。せっかくの感動が台無しだわ」

 

俺の意識はたった一つ。街の中に入った瞬間に目に入った“それ”に釘付けとなった。

 

『──さぁ、間もなく終盤戦です!!サイクロドーンの体力も残りわずか!しかしパーティ“アンチクロス”も全滅の瀬戸際だァァ〜〜〜!!!』

 

──オオオオォォォ!!!

 

……これはなんだ??

 

“LoD”にこんな要素はなかったはずだ。

 

こんな“熱狂”は存在しなかった。

 

空に映るのは、巨大モニターに投影されたリアルタイムの“ダンジョン攻略”。

 

一つ目の八ツ首竜と、それに相対する人間。

 

そして。

 

その下の広場に広がる“全く同じ光景”。

 

八ツ首の竜。サイクロードンに道ゆく人々が挑んでいく。戦闘なんかこれっぽちもしたことがなさそうな、あらゆる人種、あらゆる人間が。

 

──ダンジョンの中継。いや、違う。

 

 

“体験型ダンジョン攻略”だ。

 

 

俺は、目の前で行われてるソレに言葉が出なかった。




ちなみに各階級の探窟者のカードの色は以下の通り

終末級(黒)

混沌級(白)

戦争級(赤)

征服級(青)

平和級(緑)

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