どうやら俺は「LoD」の世界に転生したらしい。
そうと気づいたのは、例の“探窟者協会”の連中の会話を盗み聞きしたからだ。アイツら、なんでも怪しい宗教団体ってわけじゃなく“ダンジョン”に潜ることを生業としている“探窟者”を支援する団体らしい。
そして件のダンジョンだが、施設に送られる前に見る機会があったのだ。そんで見た時の感想が……。
いや「LoDやんけ!!」って感じだったんだよな。ホント、まんまよコレ。
そうと分かれば、色々とやるべきことが見えてくるというもの。今まではなんとなく二度目の人生を生きるとしか考えていなかったが、俺はここが「LoD」の世界だと気づいた瞬間に決めた。あたい、“探窟者”になる!!
そうと決まれば善は急げだ。今の時点からやるべきことをすべきである。
ちなみに俺は「オナーホール孤児院」という養育施設に預けられることになった。ひっでぇ名前だなオイ。俺これから探窟者として活動してく中でこの名前背負ってくことになんの?人生における“恥”なんだが。
建物自体は古く、少々ガタが来てる感じ。だけど屋根があって壁がある。雨風が十分凌げるというだけで今の俺からしたら充分だ。俺の他にも何人か預けられてるガキがいて、これがまぁなんともやんちゃそうな悪ガキどもだった。見たとこ全員男っぽいから、俺はいじめられるかもしれんな。ガキってのはそういうもんだ。
だけど幸いなことに、孤児院の院長である“グリエッタ”というおばあちゃんはとても優しそうな人だったので、栄養失調で死ぬみたいなことはなさそう。俺もそろそろハイハイ出来るようになれる時期だしな。自分で動ければこっちのもんよ。
ってわけで、オナホ孤児院で暮らし始めてから数ヶ月。俺は自分で動けるようになった……のだが、ちょっと体の様子がおかしい。
なんていうか、体力が無さすぎる。いやまぁそりゃ赤子なんだから当然と思うのかもしれないが、それにしたって異常だ。10歩も動き回れば、それでもう下半身が動かなくなってしまう。ハイハイってのは主に腕の力だけで進む移動法だ。下半身は補助的な役割を担うだけで殆ど動かさない。なのにこの疲労具合……もしかすると、俺は成長しても歩くことは出来ないのかもしれない。
なんかのニュースで見たが、赤ん坊の頃に経験した栄養失調や低体温症ってのは、成長しても後遺症が残る可能性が高いらしい。発育時期として重要な乳幼児期に充分な環境に置かれなかったせいで、その後一生障がいが残る体になっちまうんだとか。心当たりはありまくる。俺もそうかもしれん。
まっ、それならそれで別の方法で“探窟者”になればいい。ということで俺は何度も小休憩を挟みながら、毎日孤児院の中にある本を読み漁った。つっても小さな孤児院だ。それほど沢山蔵書があるわけでもない。置かれてたのは子供向けの児童文学、世界の大まかな地理を記載した旅行者向けの本。少々大人な感じの官能小説(こんな場所に置くな)、魔術教本だ。
この中で一番俺の目を引いたのが“魔術教本”だ。魔術は確かに「LoD」の世界でも存在した。ゲーム上の処理じゃレベルが上がれば魔術ってのは勝手に覚えていったもんだが、この世界じゃそういうわけにもいかんらしい。今んとこ「レベル」の概念があるのかもハッキリしない現状、この本で魔術について勉強しておくべきだろう。
児童文学と官能小説は、俺がこの世界での文字を読み取るのにとても有用だった。この世界における文字は当然日本語とは違うが、文法としてはいくつか流用できるものがあるとわかってからは結構サクサクと進んだな。大学時代、何の役に立つんだと思いながら学んでた言語学をここで活かせるとは。人生わからないもんだ。この若い体が知識を蓄えやすいってのもあるかもしれん。
児童文学で基本的な文法や文字を覚え、官能小説はその知識を応用してより複雑、かつ実用的な文章の書き方を学んでいく。うん、まだ0歳に読ませるような内容ではないな。前世の源氏物語とかもそうだったが、現代のそれなりに成人向け創作物が溢れてるような時代より昔のエロ小説の方がやってることが業が深かったりエグかったりするよな。まぁ昔は娯楽が少なくて、こういう男女のにゃんにゃんが一番の娯楽だったりすると思うしな。エロあるよ(笑)
そして、基本的な文法をマスターしたことによってようやく“魔術教本”に手を出せるようになった。さてさてどんなことが書いてあるのかな?年甲斐もなくワクワクしてる自分がいるよ。
『まずは大気中の精霊を感じろ。大地から溢れ出る脈を感じ取り、その力を身体中を通る管を通して全身に行き渡らせなさい(意訳)』
俺は魔術教本を叩きつけた。
なんだこの電波本は。クソの役にも立ちゃしねぇ。書いてあることがあまりにも抽象的すぎる、かつわかりにくい。そもそも何だよ“精霊”って。どこにいんだよ。
むーん、困った。一応最後まで見てみるには見てみるが、このノリがずっと続くんだったら魔術を習得できる気がしないぞ。いや、逆に考えれば“魔術”ってのはそれだけ感覚が大事になる技術なのかもしれないな。だから理屈で説明しようとしても出来ない……とか。
仕方ない。今んとこ魔術の手がかりはこの本しかないからな。とりあえず読み進めていくとしよう。
◆
手のひらに、拳大の“水球”を浮かび上がらせ、それを窓に向けて放つ。
勢いはそこまで強くないが、水球はたしかに空を飛び、外に向かって放たれた。
これは“
↑
↑
↑
↑
ってな感じだな。ちなみにこの等級は魔術のみならず色んなものに適応されていて、例えばモンスターの強さもこの5段階で評価される。ついでにダンジョンの難易度も。
とは言っても、さすがに「アクアスフィア」だけで戦っていくのは無茶だ。せめて炎の魔術、「ファイアボール」くらいは習得したい所。
“魔術教本”によると、この世界での魔術は六つの属性に割り当てられてて、それぞれが“火属性”、“水属性”、“地属性”、“風属性”、“癒属性”、“闇属性”だ。
それぞれの属性間には“相性”が存在し、例えばわかりやすいものでいえば“火属性”は“水属性”に弱く、“風属性”には強い。この相性を考えて魔術を選択することが「LoD」の魔術師ジョブにおいては重要だった。
ってわけで、一つの属性を極めるよりも色んな属性を極めた方が汎用性が高いし強い。とは言っても、この世界の魔術師はほぼ何らかの一属性に絞って魔術を鍛え上げることが殆どらしい。と言うのは魔術の属性にも適正ってのがあって、人によって一番得意とする属性が違うんだと。
例えばある例で言えば、昔“火属性”の魔術の達人がいて、その人は火属性魔術に関しては右に出る者がいないくらい優秀な人物だったが、反面“水属性”の魔術はてんでダメで、魔術習いたての弟子にすら負ける有様だったとか。
同じようなことがほぼ全ての魔術師に言える。短所を補うより自分の長所を伸ばした方が強いってことだな。唯一“六属性”の内“四属性”を
まぁ俺には関係ないけどな!全属性を最大限鍛える。そうじゃなきゃ“探窟者”になった時に困るからな。何人かのパーティを組むつもりではあるが、自分で何でも出来るくらい強くなった方が当然幅は広がる。そう、全ては未来のダンジョンライフのために。
さぁ、この調子で魔術を習得し続けていこう。
◆
「“フレイムピラー”」
俺の右手から炎の槍が出現し、それを空に向かって放り投げた。と、同時に槍は空中で爆散し、汚ねぇ花火を散らした。
オナホ孤児院にやって来て早いもので2年。俺は毎日のように“魔術”を使い続けて腕を伸ばしていた。最近では“魔術教本”も見ていない。全く参考にならないとは言えないが、いかんせん感覚は享受できないのだ。独学でやった方が早いと気づいた。本当は“本職”の方に来ていただければ一番いいんだけどね。貧乏孤児院には難しい話だ。
ちなみに俺が“魔術”を使えるようになったことは、まだ孤児院の誰にもバレていない。いやこんなことしてたらバレるだろと思うかもしれないが、工夫があるのだ。例えば今の“フレイムピラー”は見た目こそ派手だが、一切音を出していない。なぜ出していないかって言ったら、槍の炸裂地点の周辺を“風魔術”でちょいちょいといじって音が外に漏れ出ないようにしたためだ。音とは“波”だ。強風が吹けば、それは音を伴う突風となるように、風は音を消してくれる便利な現象なのだ。
なぜ魔術が使えることを隠しているのかと言えば、ただの幼児でしかない俺が自由に魔術を扱えるとなったらどういう扱いを受けるか。それがよく分かっているからだ。間違いなく“王宮”に売られる。そんで一生飼い殺しだ。恐らくは“宮廷魔導士”として。
この国……地理本によると“メグルディア王国”と呼ばれるこの国は慢性的な“魔術師”不足に陥っている。まぁそんなのは世界中どこの国でもそうらしいが。
12歳を越える頃になるまでに
強くなることに余念はないが、それはあくまでダンジョン探索に費やすための努力だ。断じて宮廷暮らしでぬるま湯に浸かるためではない。この足さえ自由に動けば、俺は今すぐにでも“ダンジョン”に潜りたいぐらいなんだから。
だが、相変わらず俺の足は弱い。むしろ、日々過ごしていくにつれて酷くなっているような気配すらある。ダンジョン探索において、足が自由に動かないというのは大きなハンデだ。その分“魔術”を鍛えなくてはいけない。今の俺はそんな使命感に燃えているわけだ。
ってわけで、魔術を試し撃ちして“魔力”が空になった俺は部屋の中に戻った。
そして、孤児院の中でもはや日課となった読書をしていると……。
「あっ!おい見ろよ!ルミネがエロ本読んでるぞ!」
孤児院のクソガキに絡まれた。
「うわっ!本当だ!気持ちわりー!!」
「おい、エロ女!こっち来んなよ!エロ菌が移るからな!」
「ぎゃはははは!」
おーおー、好き勝手やりなさる。
俺は囃し立ててくる男子どもを一瞥して、再び読書に戻った。
俺以外にオナホ孤児院に預けられてる孤児は3人。“ソブル”と“イエラン”と“ドレッド”だ。誰が誰の名前かは忘れた。同じような顔して同じようなこと言うんだもんよこいつら。
院長であるグリエッダが買い出しや用事で孤児院からいなくなると、こいつらは決まって俺をいびる。一人だけ女。一人だけ年下。一人だけ外で遊んだりせずに本を読んでる。いじめの標的としてはおあつらえ向きだ。
俺はこいつらに言い返したり、やり返したりしたことは一度もない。そりゃそうだろう。やり返すつったって、本気でやったらこいつらが死ぬ。子供同士の喧嘩に“魔術”を持ち込むなんて大人気ない真似は流石にしない。
「おい、なんとか言えよエロ女!」
本を読んでる俺の肩を、“ソブル”……いやこいつは“ドレッド”か?どっちかは知らないが、がしっと掴んできた。
俺は肩越しにそいつの顔を無感情な目で見た。別に抵抗しないわけじゃないからな。もしこれ以上の乱暴を働いてくるならこいつらがエロ本と呼ぶこれを顔面にぶち込んでやる気概だ。どうだ、肌でエロを感じてみるか?
「なにか用?」
「えっ、あっ、おっ……」
俺はドレッド(暫定)に問いかけた。思えばこいつらとまともに口を利いたのは初めてかもしれんな。もしかしたら俺の声を聞いたのも初めてかもしれん。
だからだろうか、ドレッドは俺が問いかけた瞬間、頬を赤くして視線をキョロキョロと彷徨わせて明らかに動揺していた。
「い、いやっ、なんでもねぇ……」
「そう」
なら良い。俺は再び読書に戻った。
しばらくの間、後ろの方で男子がコソコソと何かを喋っていた。そして時折、チラチラとバレないように(バレてる)遠くから俺の顔を覗き込んでくる。
……ガキの行動ってのは理解できんなぁ。
ダンジョンより先に男の子攻略しちゃった。