病弱幸薄少女はダンジョンに潜りたい   作:ぷに凝

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孤児院の名前がスカイリムのパクリだろ!と指摘を受けました。

スカイリムのパクリです。



声は届かない

早いもので、俺がオナホ孤児院に来てから5年が過ぎた。

 

5歳になった俺は相変わらず魔術の習得に精を出していて、ついこの間ようやく混沌級(カオス)の魔術が使えるようになった。長かった。戦争級(ウォーフェア)を覚えてから丸2年かかってしまったわけだ。そこまでは割とサクサク行けたのに、この辺りから魔術は急に難しくなった。

まぁ世間じゃ混沌級(カオス)の魔術が使えるだけで魔術師としては一人前って評価らしいしな。そんなすぐポンポン習得できるものでもないのだろう。

 

と、ちなみに孤児院の悪ガキ共は最近俺にちょっかいをかけてこなくなった。それどころか、俺が自力で歩けないせいで日々の生活で四苦八苦しているとおぶってくれるようになったり色々と気を遣ってくるようになった。いつも俺は魔術の練習をする時庭に出ているのだが、何をするかも言ってないのに俺が庭に出ようとしたら自主的に「手伝ってやるよ」と背中を貸してくれる始末だ。

なんだ、案外気のいい奴らじゃねぇか。名前を覚えてやろう。おい、そこの青髪のお前。名前を教えろ。は?何恥ずかしがってんだよ。別にいいだろ名前くらい。ソブル?なるほどな、お前がソブルだったか。ありがとな。おぶってくれて。助かったわ。

 

と、普通にお礼を言ったらソブルがいきなり「か、勘違いすんじゃねーよ!」といきなりキレてその場に俺を(優しく)置いて走って行ってしまった。前言撤回。やっぱ優しくないわ。こんな庭先に放置しやがって。まぁ魔術で移動出来るから困るってほどでもないけど。

と、俺は風魔術で僅かに自分の体を浮かしながら建物の中へと戻っていく。簡単に見えてこれめちゃくちゃむずいからな。少しでも風の操作が乱れると俺の体が錐揉み回転し始めるんだ。ただでさえあんまり強くない俺の体にそんな負荷をかけたら全身ゲロまみれになってしまう。ゲロは回避しなければならない。

 

「……え?」

 

と、建物内に入った瞬間、玄関に人の気配を感じた。反射的に魔術を解除しようと慌てて、姿勢が安定しないまま魔術を解除してしまう。

 

「あいたっ」

「……なにやってんの?アンタ」

 

尻餅を突いた俺を、怪訝な目で見下ろす一人の黒髪の少女がそこにいた。誰だこの子。知らない子だぞ。お客さんかな?

 

「院長先生ならいませんよ。今お出かけ中なので」

「はぁ?私は客じゃないけど?今日からここで暮らすの」

「え?」

 

ここで暮らすとな。つまりこの子も孤児ってことか。仲間が増えるよ!やったねルミちゃ……やめとこ。

 

「あら?ルミネちゃん?もうヒノエちゃんと仲良くなったの?偉いわねぇ」

 

玄関先で俺と女の子が話していると、今度は院長先生が帰ってきた。手には野菜が詰まったバスケットを抱えている。どうやら買い出しの帰りだったらしい。

 

「ルミネ……ってことは、アンタがグリエッタさんが言ってた私以外の女の子?ふぅん……」

 

ヒノエ。そう呼ばれた少女は、床に座り込んでいる俺に目線を合わせて、まじまじと瞳を覗き込んできた。こんな至近距離で幼い女の子と見つめ合った経験がないので反射的に目を逸らしたくなるが、そういえば俺も似たような年齢か。と思い直して正面からヒノエを見つめ直す。

 

「アンタ、いくつ?」

「5歳です」

「そ。アタシは8歳。だからアタシの方がお姉さんね。歩けないんでしょ?可哀想だから色々助けてあげる!どうせ男どもにいじめられてるんでしょうから」

 

ふむ。ヒノエは8歳と。俺より3歳ほど年上だ。と言っても前世も換算すれば遥か歳下にはなってしまうが、実年齢は確かにお姉さんと言って差し支えない。

8歳の子供をお姉さん呼びか……一部のマニアにはウケそうだ。「LoD」にもその手のNPCの愛好家はごまんといた。「日本人はみんなロリコン」とは誰が言った言葉だったか。

歩けない俺を色々と助けてくれる、というのもありがたい話だ。実際、男連中に何もかも俺の介護を任せるわけにいかんからな。中身はおっさんだろうとこの体は女性であるわけで、女性同士にしか頼めないことも色々とある。そう言う時にヒノエに頼れるのは実に助かる。

 

「ル、ルミネ?さっきはごめ──って、院長……と誰?」

 

そうこうしていると、リビングからソブルがひょっこりと顔を出した。どうやらさっきの俺に対する狼藉を悪いと思ったのか謝りに来たようだが、その場にいた院長と、ヒノエを見て怪訝な顔つきになった。

 

そんなソブルを見て、ヒノエは胸を張りながらふんっと鼻で笑う。

 

「アタシはヒノエ。言っとくけど気安く話しかけないでくれる?男は嫌いよ!」

「は、はぁ!?なんだこいつ!」

「こらこら、ヒノエさん?仲良くしなきゃダメよ?」

「……ごめんなさーい」

 

……早速ヒノエとソブルが喧嘩を始めて、院長に嗜められたヒノエは悪びれた様子もなく院の中へと入っていった。

 

「……くそっ、なんなんだよ」

 

ソブルはそんなヒノエの様子を忌々しげに睨んでいた。俺への謝罪の件はすっかり頭から飛んでしまったらしい。子供らしくて結構なことだ。

 

 

「院長先生!私手伝います!」

「あら、ホント?ヒノエちゃんは偉いわねぇ」

 

それからというもの。

 

ヒノエは積極的に院長先生の仕事を手伝い、子供達にあれこれと指示を飛ばしてリーダーシップを取るようになっていった。ヒノエはすごい。8歳なのにこんなにしっかりしてるとは。俺が同年代の頃は鼻垂らして友達と公園でゲームして遊んでたよ。

 

「……ちっ、うっぜぇな」

「きも」

「ブスが」

 

……だが。同年代の男子たちの前ではその委員長的な行動はうざったらしく思えたらしい。徐々に男子たちはヒノエを仲間外れにするように動き始めた。

 

「ほらそこ!ドレッド!雑巾がけ終わってないでしょ!?なにサボってんの!?」

「うるせぇな!」

「引っ込んでろよブス!」

「はぁ!?」

 

日々を追うごとに、ヒノエと他の生徒との溝はどんどんと深まるばかり。精神的には年長者であるところの俺がなんとか仲裁しようとしても、見た目はこの院の中で一番歳下。話を聞いてもらえなかった。

 

……小学生以下の子供達に押される大人とは一体。

 

ヒノエは決して悪い子じゃない。単にしっかりしてて委員長タイプってだけだ。だけど気の強い言動は悪ガキどもの癪に障ったらしい。なんとなく嫌いだから。最初はそんな理由で“いじめ”っていうのは始まるんだ。

 

本当ならもっとキビキビ動きたいのだが、このルミネの体がまた難儀なもので、少しでも動けば頻繁に高熱を出してしまう。その度に俺はベッドの上で寝かされ、起きた時にはヒノエと男子たちの喧嘩が勃発しているという状況。止めようとしても逆に「お前は寝てろ」とベッドに戻される始末。院長先生にもチクって注意してもらったが、時間が経てばまた再発してしまう。根本を断たなきゃいけないのに、大人であるはずの自分が何もできず、情けないったらありゃしない。

 

そしてある日。

 

「うっ、ふぅ……ぐぅっ……!」

 

物陰に隠れて、一人で泣いているヒノエを目撃してしまった。髪はわざと乱されたみたいにぐしゃぐしゃで、服の裾が一部破けている。

以前、「私の一番のお気に入り」だと笑顔で語っていた赤いワンピースだった。

 

俺は、泣いているヒノエを黙って後ろから抱きしめた。セクハラ?んなこと知るか。見た目は女の子二人が抱き合ってるだけの絵面だ。てぇてぇっつって見逃せ。

「大丈夫」と、何度も声をかけながら、俺の胸の中で泣いているヒノエが泣き止むまで、背中をさすってただ抱き締め続ける。今の俺に出来ることはこれくらいだ。

 

どうすればいいのか。ヒノエを慰めながら俺はそれを考えた。

 

ソブル達を魔術で言うこと聞かせて黙らせるか?この際、俺が魔術を使えることがバレるリスクは度外視だ。

だけど力で解決した場合、それは問題の根本的な解決にはならない。ヒノエと俺、そしてソブル達の間には決して埋まらない溝ができることになるだろう。俺はぶっちゃけそれでもいいと思った。だが……。

 

「……くや、しい……」

 

ヒノエが泣いている最中、一度だけそう言ったのを俺は聞き逃さなかった。

 

ヒノエは悔しいのだ。いじめられて、泣くことしかできない自分が。その気持ちは俺にもよくわかる。そして、そんな時に俺みたいな歳下の女の子に庇われたら、ヒノエは何を思うのだろうか。その“傷”はこれから先ずっと、ヒノエの心に残り続けることにならないだろうか。

 

……最も理想的なのは、彼女自身がこの状況を打破することだ。いじめという困難に、彼女自身が打ち勝つ。そうすれば彼女は自信を取り戻し、二度と同じような目に遭うことは無くなるだろう。

俺のこの考えは間違っているのかもしれない。いじめられている子を目の前にしておきながら、あえて助けないなんてどうかしてると非難されるかもしれない。だが重要なのは周囲がどう思うかじゃない。ヒノエがどう思うかなのだ。

 

俺は考えて、考えて……一つの結論を出した。

 

……

 

…………。

 

「……魔、術?」

「うん。今からヒノエに、私の知ってる魔術を教える」

 

ある日。俺は裏庭にヒノエを呼び出した。勿論院長先生と悪ガキどもには内緒で。

 

俺の結論。それは、俺がヒノエに“魔術”を伝授することだった。

 

「え?ルミネ……魔術使えるの?」

「うん。まだ“平和級(ピースフル)”だけだけど」

「いや、それでもまだ5歳なんだよね!?本当に!?」

 

ヒノエが信じられないことを聞いたかのような表情で驚く。

 

本当かと聞かれても、本当に本当だ。別にそんな驚くことでは……いや、驚くか。ヒノエの年齢でも魔術を習得するには早いと言われる時期なのに、その3つ下の俺が平和級(ピースフル)まで使えるって言うんだから。

 

まぁ実際の階級は嘘だが。わざわざ全てを言う必要もない。

 

「……でも、教えてくれるって、そんなこと出来るの?」

「出来る、と思う」

 

……とは言ったが、正直自信はそこまでない。“魔術教本”を読んで最初のページで地面に叩きつけた俺だしな。教師の経験もない。上手く教えられるかと聞かれると怪しいのだが。

 

やると言ったのだ。やるしかないだろう。

 

「じゃあまず、“魔力”について」

「う、うん」

 

“魔力”。俺は断言するが、この“魔力”の取り扱いがどれだけ巧いかで魔術師の強さというのは九割方決まる。

魔力はどこにでも存在する。俺の体の中にも流れているし、地中の中にも、海の中にも存在する。そしてその“魔力”を生み出してくれるのが大気中に漂う“精霊”というわけだ。

 

「精霊から魔力を取り出すために、一番有効なのが“詠唱”。詠唱っていうのは、精霊にお願いして魔力をわけてもらう合言葉みたいなものなんだ」

「なるほどね……」

 

自分で言ったが、これは割と分かり易い例えなんじゃないだろうか?

 

合言葉。だから詠唱を間違えれば効果はないし、複雑な魔術を発動するためには長い詠唱が必要になるわけだ。終末級(ラグナロク)レベルの魔術になると、詠唱に一日中かけるようなこともあるらしい。それ意味あんのかって思わなくもないが。

 

「じゃあルミネも詠唱を使ってるんだ」

「いや、使ってない」

「えっ」

 

そう。俺は詠唱をしていない。だって早口言葉得意じゃないし。

色々頑張って無詠唱でやってます。

 

「じゃあ、私も無詠唱で?」

「うーん。それは難しいかも。略式詠唱の方がいいかな」

 

“詠唱”にも種類がある。

 

最初から最後まで詠唱する“完全詠唱”。

詠唱の一部を省略する“略式詠唱”。

そして詠唱を行わない“無詠唱”だ。

 

「魔力を操る感覚が掴めれば、その内無詠唱でも使えるようになるよ。ただ、ヒノエ。一つ約束してほしい」

「う、うん。何?」

「自分を守る目的以外で、魔術を使わないこと」

 

今回、俺はヒノエに自分が魔術を使える事実を明かし、そしてその一部を伝授することにした。

 

だけどこれはあくまで“護身術”。人を傷つけるために教えるんじゃない。ヒノエはまだ8歳だ。正直これもかなりリスキーな判断だった。

 

「……わかった。ありがとう、ルミネ」

 

ヒノエは、真剣な顔で頷いた。それを見て俺は、ヒノエなら大丈夫だと安心した。

 

安心してしまった。

 

 

ある日。

 

「私は捨てられてなんかない!!」

 

院内に、ヒノエの悲鳴に似た叫び声が響いた。

俺は、机の乾拭きを中断して、叫び声が聞こえた場所へと向かう。

 

「は?何言ってんだよ。ここにいる時点で全員捨てられてんだよ。俺たちは“孤児”だからな」

「違う!お母さんは迎えに来る!!」

 

ヒノエは、目から涙を流して泣いていた。

 

「だから来ねぇっつってんだろ!お前みたいなブス迎えにこねぇよ!!」

「……ちょっと」

 

俺は、声に僅かに怒気を滲ませてヒノエを泣かせていた男子、ドレッドに詰め寄った。ちょっと男子ー。ヒノエちゃん泣いてるじゃん。サイテー。

 

「ドレッド。今のは言い過ぎ。謝って」

「……チッ。なんだよルミネまで。俺が悪いのか?先に突っかかってきたのはあっちだぞ!?俺は言い返しただけだ!」

「それでも今のは言い過ぎだよ。謝って」

 

……本当はもっとガツンと言いたいんだが。ルミネの体は大声を出すと頭痛になってしまう。

 

「……なんだよ!?捨てられた奴に捨てられたって言って、何が悪いんだよ!?」

「……」

 

その言葉で、ピシリと何かにヒビが入った音がした。

 

俺は気づいていなかった。

 

俺の想像以上に、ヒノエに魔術の才能があったことを。

それこそ、教えていない“無詠唱”をいつの間にか使えるようになっていたくらいに。

 

そして俺は気づくべきだったんだ。

 

「……“ファイアボール”」

 

子供というのは、得てして感情で後先考えず行動してしまうものなのだと。

 

「えっ?」

「!!」

 

ヒノエが炎の平和級(ピースフル)魔術をドレッドに向かって使った。

まずい。あれは死ぬ。そう直感した。平和級(ピースフル)であっても、その威力は子供一人を殺すくらいわけないのだ。

 

俺は風の魔術で飛び上がると、まずドレッドを突き飛ばした。

 

「え?」

 

ヒノエが我に返ったように目を見開き、俺を見ている。

 

「“アクアスフィ──」

 

火の魔術を相殺する、水の魔術を発動する。

けど、これは多分間に合わ──。

 

──次の瞬間、顔の半分が暴力的な熱で灼かれた。

 

水魔術で消火──出来ない。魔術を構築したいのに、熱くて何も考えられない。

 

「──ッ!?」

「──!!」

 

遠くに誰かの声が聞こえる。

だけどその声も徐々に遠くなっていって……。

 

──次の瞬間、顔に被せられた大量の水で引き戻される。

 

……もうちょい優しく消火できなかったもんかな。

 

「嫌っ、ルミネ……!?ルミネッ!!」

「い、院長を呼べ!!」

「お、おう……!?」

「や、やべぇ……」

 

左目でヒノエの姿を確認する。

 

酷い顔だ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。大丈夫だ、俺は生きてる。生きてれば何も問題はない。だから……。

 

「ぁ、ぉ……」

 

「大丈夫」と、そう言おうとして……声が出なかった。

ひゅー、ひゅー、と音を漏らすだけだ。

 

……ん。ちょっと待て。

 

これ、もしかして結構ヤバいか?

 

……

 

…………。

 

その日から、俺は声を出せなくなった。

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