病弱幸薄少女はダンジョンに潜りたい   作:ぷに凝

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本日3話目になります。


慎重に。時に大胆に。

「絶ッ対に反対!」

 

“今からラングルディアさんを救出に行く”とヒノエに言うと、案の定と言うべきかそんな答えが返って来た。

 

“お願い。行かせて欲しい”と水文字でさらに続ける。

 

「いや、まぁそりゃ私はルミネの言うことならなんでも聞くけどさ……」

 

ヒノエがもじもじとし出した。なんか可愛く見えてきたな。

 

「でもこればっかりは反対!ルミネには絶対に危ないことはさせたくないの!そもそもダンジョンから助け出すって、本当にそんなこと出来ると思ってるの?」

 

“出来る”。と俺は答えた。

 

「え?」とヒノエが目を丸くする。

 

俺は風魔術でふよふよと移動しながら自室に戻ると、棚の奥から大きな羊皮紙を取り出すとそれを持ってまたふよふよとヒノエの下に戻ってくる。

 

「なにそれ?」

 

“メグルディア王国の全てのダンジョンの見取り図”と、答える俺。

 

「……は?」

 

ヒノエが信じられないことを聞いたみたいに言った。

 

「な、なんでそんなもの……一回も外に出たことなんかなかったでしょ!?」

 

簡単なことだ。

 

まず前提として、俺の脳内には「LoD」に存在する全てのダンジョンのマップデータが完全に暗記されている。

そして、“メグルディア王国”周辺の地理と、脳内の「LoD」のマップ情報。双方を比較、照合してメグルディア王国とは「LoD」内で言うどの辺りのマップなのかを突き止める。

 

X軸5672、Y軸-690、Z軸125。

 

それが俺の算出した「メグルディア王国」を「LoD」内に置換した際に割り当てられた座標だ。多少誤差はあるだろうが、ほぼほぼ間違いないという認識でいい。

そしてマップを割り出すことができたら、後はマップ内のダンジョンの位置をピックアップして、その中で戦争級(ウォーフェア)に該当するダンジョンを示す。紙面上で、その位置は記された。「LoD」内での名称は「悪意の洞穴」。厄介な転移罠が入り口付近に設置されている初見殺しダンジョンだ。

 

「……」

 

ヒノエは絶句し、俺が指差した地点を見て唖然としていた。

 

位置は割り出した。内部の構造も全て頭の中に入っている。恐らくラングルディア氏が閉じ込められているのはダンジョン最奥──モンスターハウスの向こう側、宝箱以外には何もない袋小路だ。ゲーム内では何の意味もないマップだが、これが現実になれば立派にモンスターハウスから身を守ることができる籠城地点へと早変わりする。

 

依頼は出されてからすでに3日以上経っているという話だった。ラングルディア氏が居るとしたらここだろう。

 

「……ルミネ、なんでここまで」

 

“なんでここまでダンジョンに執着するのか、って言いたい?”

 

ヒノエは、こくんと頷いた。

それこそ簡単すぎる質問だ。

 

“そこにダンジョンがあるから”だ。

 

 

「……ルミネ、言っておくけどね」

 

俺は、ヒノエと共に風魔術で空を飛びながら横に並んで会話をしていた。

 

「危ないことは絶対にしないで。いい?」

 

俺はヒノエのその言葉を聞いて苦笑した。

今からダンジョンに潜ろうというのに、危ないも何もないだろう。ダンジョンに“絶対”は存在しない。死ぬときゃ死ぬものだ。

 

「だから!その中でも出来るだけ危ないことはしないでってこと!」

 

ヒノエは眉を顰めてそう言った。善処しよう。作戦“いのちだいじに”だ。

 

……というか。

 

“ヒノエは連れてくるつもりなかったんだけど”。

 

「馬鹿なこと言わないで。付いていくに決まってるでしょ」

 

ヒノエの返答を聞いて、俺は頭を掻く。

 

正直これが一番困った。危険なダンジョン探索。ヒノエを連れていくことには大いに抵抗があった。たった今言ったようにダンジョンに“絶対”はない。どれだけ内部の情報を把握したところで、たった一瞬のミスが命取りとなるような本物の修羅場だ。いや、俺はこの世界のダンジョンに潜ったことはないが少なくとも「LoD」ではそうだった。

 

死ぬのが俺一人ならダンジョンに向かう足取りももう少し軽くなるはずなのだが、ヒノエという守るべき対象も一緒についてきてしまったことで色々と作戦を練り直さなければいけなくなった。

 

正直に言って、邪魔である。

 

「ルミネが私の知らない所で死んでた。なんてことになったら私も後を追うからね」

 

恐ろしすぎる脅迫だ。なんだその自爆特攻。

 

……と、そうこう言っている間に。

 

“着いた”。

 

「早かったわね……」

 

俺とヒノエは風魔術のクッションによりふわりと着地した。

目の前に聳え立つのは、「入ってこい」と言わんばかりに大口を開けてその場に鎮座しているダンジョンの入り口だ。

 

「ここが、ダンジョン……」

 

初めて見るダンジョンに流石のヒノエも恐ろしいものを感じたようで、肩を抱いて身震いしていた。俺はそんなヒノエの肩をさすさすと摩ってあげる。

 

「んっ……ちょっと、こんな明るい時間から……?いいよ?」

 

色っぽい声を出すな。“いいよ”じゃねぇんだよな。

この9歳児、歳の割にマセてやがる。

さて、ダンジョンの入り口でこうして乳繰りあっていても始まらない。さっさと突入することにしよう。

 

「えっ、ちょっと!?もう行くの!?きゃーっ、こわーい!!」

 

そしてダンジョンの中に入った途端急に抱きついてくるヒノエ。お前はお化け屋敷入る時の女子か。

 

 

「……中は結構明るいんだね」

 

ダンジョンを進むこと数分。流石に切り替えて緊張した様子のヒノエを後ろにしながら俺はダンジョン内を進んでいく。

 

「ルミネ、大丈夫?モンスター出て来てない?……ルミネ?」

 

俺は、そんなダンジョンを進みながら……。

 

“〜〜〜!!”

 

「えっ……」

 

号泣していた。

 

そんな俺にヒノエがドン引きする。

 

「いや、なんで泣いてんの……?そんなに怖かった?よしよし、大丈夫だよ」

 

ダンジョンに入る時に「きゃ〜っこわ〜い!!」とか言ってた女が俺の頭を撫でながら何か言ってるが聞こえない。俺は“今自分がダンジョンを進んでいる”という事実に感動して咽び泣いていた。

 

俺は“ルミネ”として過ごした時間より遥かに前世でただの男として暮らしていた期間の方が長い。そしてその人生のうちの半分は「LoD」に捧げていたのだ。その時間は、ルミネの生涯よりずっと長い。

まさに俺にとってダンジョンとは自分の半身であり、人生の相棒であり、恋人であり、結婚相手であり、家族だった。俺は今家族の体内を散策していると言っても過言ではないのだ。いやそれは流石に過言だ。

 

だから嬉しい。今自分がダンジョンを探索しているという事実がたまらなく嬉しいのだ。涙を流しすぎるあまり脱水症状に陥る程に。

やばい、マジで眩暈がして来た。水魔術で水分を補給しないと。

 

「泣きすぎて脱水症状になる人初めて見た」

 

そういうこともあるだろう。

 

「……ところでルミネ。この道は合ってるんだよね?なんか薄暗いけど」

 

進みながらヒノエが不安に駆られたようで、そんなことを言って来た。

 

“どういうこと?”と俺は聞いた。

 

「え?いや、だって……ラングルディアさんのいる部屋の目安は付いてるんでしょ?今そこに向かってるんだよね?」

 

あぁ、そういうことかと俺は平手を打った。

 

確かに不安に思っても仕方ない。ヒノエは俺と違い、ダンジョン内の構造を全く把握していないのだ。自分の現在位置もわからないのに進み続けるというのは、周囲を闇に囲まれた迷路を進むような行き先のない不安を覚えるものだ。

 

“大丈夫”、と俺はピースサイン付きで返答した。

 

“ちゃんと隅から隅まで回るつもりだから”と。

 

「……え?」

 

ヒノエが立ち止まった。

 

「えっ、ちょ、ちょっと待って?私たちは今ラングルディアさんの所に向かってるんだよね?それで合ってるよね?」

 

だから何を馬鹿なことを言っているのだろうか。

このダンジョンに来るのは初めてなのに、最初からゴールに向かう奴があるか。

 

“ダンジョン内を全部回ってから最後に行く”と。俺ははっきり言った。

 

「……ルミネってさ」

 

その返答を聞いたヒノエは、うーん、としばし唸った後にこう言った。

 

「実はバカだよね」

 

なんだと。

そんなこと、前世の“フレンド達全員”以外には言われたことないぞ。心外だ。

 

……む。

 

俺は全身に魔力を漲らせた。

 

「……──」

 

モンスターだ。二足歩行で、手には粗末だが武器を持っている。その目は爬虫類のように、というか実際に爬虫類の目はギョロギョロと忙しなく動き水かさのついた足でひたひたとダンジョン内を練り歩いている。

 

征服級(コンクエスト)”モンスター、「リザードマン」だ。

 

「……!」

 

ヒノエが緊張した面持ちで、リザードマンを見つめている。

 

リザードマンは俺たちの進む先、通路の真ん中で背を向けて立っていた。

 

俺は右手に“魔力”を集中させ、それを結晶にするようなイメージで魔術を構築していく。属性は“水”。ただし威力は温くない。

 

キンキンに冷えた“氷”の鋭さだ。

 

「!」

 

征服級(コンクエスト)”魔術「アイススピナー」。

 

形作られた氷の槍が、一直線に「リザードマン」へと向かっていった。

 

「──!!」

 

命中。と同時に、「リザードマン」の体は黒い煙と共に消滅し、コロンと音を立てて小さな石がその場に転がった。リアルなこの世界の法則とは裏腹に、この辺の処理は実にゲーム的だな。

 

“片付いたよ”。

 

俺は後ろで口に手を当てて黙っていたヒノエに水文字を見せた。

 

「ぷはっ!初めて見た……あれがモンスターなんだ」

 

俺も初めて見た。

 

モンスターは基本的に同等級の“魔術”を当てれば大きなダメージになるが、さらに戦闘を有利に進めるためには“相性”の把握が必須となる。

「リザードマン」の属性は“火‘だ。水属性のアイススピナーは奴にとってウィークポイントとなった。

 

「すごいね。ルミネ……全然動揺してなかった」

 

ヒノエは俺を尊敬の眼差しで見つめていた。

確かに動揺はしてなかったな。初めてモンスターに会ったので興奮はしたが。

 

この調子で行こう。

 

 

数時間後。

 

俺たちはようやくモンスターハウスがある通路に辿り着いた。長く険しい道のりだった。

 

「……ルミネが隅までマッピングしてるからでしょ」

 

無論だ。ダンジョンを攻略するのにアイテムの取り逃しはこの俺が許さん。2周目以降でどんなアイテムが取れるか分かってるならともかく、初見攻略だぞ?しかも初めてのダンジョンだ。隅から隅まで舐め回るように探索しなければダンジョンに失礼というものだ。

 

「……ルミネって、ダンジョンの話になると早口、早書き?になるよね」

 

ヒノエが呆れたような視線を向けてくる。何を言われようともこれは曲げない。

 

そもそも最短ルートで行くなら、入口の転移罠を踏んでさっさとモンスターハウスに直行すればいい。それをしなかった時点で俺の決意は固かった。

 

さて。踏み込むとしよう。

 

「えっ、ちょ、ちょっと待って!何の作戦もなし?」

 

作戦とな。

 

「いや、ほら……どのモンスター最初に倒す。とかどのモンスターは後回し。とか」

 

なるほど。モンスターを撃破する優先順位か。確かにそれは必要だ。

では作戦を伝える。

 

”全部いっぺんに倒す“だ。

 

「……え」

 

それ以外ない。それが一番手っ取り早い。

 

さて行くとしよう。

 

「えっ、ちょっと待って。本気?嘘だよね?ルミネ?」

 

……

 

…………。

 

「ルミネェェェェェ!!」

「えっ、えぇ!?」

 

かくして、“ラングルディアの救出依頼”は達成された。

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