2017年の約束〜白紙化地球に遺されたもの〜 作:食卓の英雄
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ゴルドルフ・ムジーク、及び彼が引き連れてきた傭兵によって、我らがカルデアは制圧された。その後は彼らへの引き継ぎのために隔離されたり、それぞれ査問を受けるために部屋から連れ出された。しかし、ここで彼らにとっても予想外の出来事が発生する。
『警告 警告 現時点での観測結果に ■■ 発生』
『観測結果 過去に該当なし 統計による 対応、予報、予測が 困難です』
『観測値に 異常が検知されません 電磁波が 一切 検知 されません』
『地球に飛来する 宇宙線が 検知されません』
『人工衛星からの映像 途絶しました マウナケア天文台からの通信 ロスト』
『現在―――地球上において観測できる他天体は ありません』
『疑似天球カルデアスに負荷がかかっています 観測レンズ シバ を停止 します』
『全スタッフに通達。全スタッフに通達。正門ゲート他、館内すべてのゲート機能が停止しました。館内から外部への移動は できません。機能回復まで しばらくお待ちください』
「なっ、なんだこいつら!?」
「撃て撃て! っちくしょう! 蜂の巣にしたのに再生しやがる!?」
傭兵たちに連れられ、北館の通路を通っていた最中、白い仮面とトレンチコートをつけた何者かに襲撃された。傭兵も予想外の敵に対応しているが、敵は淡々と襲い来る。
黒尽くめに白いマスクの不気味な敵。アクスとボウガンを獲物に襲いかかる時代錯誤な存在だが、強さは本物だ。現に、目の前で傭兵が為すすべもなくやられている。
…今なら、傭兵の目は向いてない。
「セレシェイラ、向こうがやり合ってる今がチャンスだ。逃げるぞ」
「館内放送聞いてた? あらゆる場所にいるんだよ。孤立したカルデアで、どこに逃げろって…」
「でもここに留まってても殺されるだけだ。何かあっても殿は俺がするからさ、とにかく逃げよう。ホームズかダ・ヴィンチに合流できたら大丈夫かもしれない」
「おい、やめろ。来るな。来るんじゃないっ! …ぎゃあああああああっ!!?」
「早くっ!」
「う、うん…」
彼らが無惨にもアクスで割られていく光景を尻目に、俺たちは走り出した。
「一番近いのは東館だ! 東館を通って……!?」
背後の奴らを気にしながら、駆けるが、目指す東館の入り口が差し掛かったその瞬間。
パキン、と美麗な音がした。
そこを見れば、東館への通路が魔力を多分に含んだ氷によって覆われており、遠方には人の形をした氷がある。視覚強化で見れば、そこには恐怖に支配された顔のまま氷漬けになっている同僚の姿があった。
「…うそ。ねえ、これ、こんなのって」
「何でだよ…」
ついこの間まで、人理修復を終えられたって、はしゃいで、喜んで、栄転先を自慢し合ったり、先行きを話してたりしてただろ。
それが、こんな。害虫でも駆除するみたいに。
沸々と湧き上がる怒りを余所に、分割した思考で冷静に対応する。管制室は真っ先に抑えようとするだろう。東館がこんな有様になってるってことは、カルデアに逃げられるような場所は少ない。
「戻ろう」
「でもさっきの奴らが…」
「何とかする手段はある。管制室は真っ先に抑えに来た。東館までこんなことになってるってことは、もうカルデアに逃げられる場所は一つしかない。―――格納庫だ。あそこなら、最悪に備えて脱出できる設備がある。ホームズ達もこの惨状を知ってるならそっちに行くはずだ」
未だ信じられないと目を剥くセレシェイラの手を引いて、進んできた道を引き返す。
ああ、しまった。あれを見せてしまった。記憶系の能力を持つ彼女はきっと、あの悲痛な同僚の死に顔を思い出してしまうのだろう。
「あっ、前!」
さっきの奴らだ。傭兵集団がどうなってしまったのか。その末路はアクスにベッタリとついた赤い染みが如実に表していた。
「やるしかないか…!」
ハッキリ言って、目の前の奴らは異常だ。あまり複雑な動作はしてこないものの、速さ、攻撃力。そして穴だらけになっても再生する能力など、一体だけでも並の使い魔を遥かに上回る性能を持つ。
蒼崎橙子の怪物であるのならまだしも、カルデア中にこれが発生しているらしい。…流石に1000や2000いるってのは常識的に考えてあり得ないが……。ここまで理不尽な侵略を見れば、その楽観視もどうだか。
恐らく、術者そのものが操っている訳ではないだろう。自立稼働型の何かというわけだ。ならここは一つ、牽制と妨害を行って走り抜ける!
「
魔術回路のスイッチを入れる。衛宮士郎が撃鉄を下ろすように、遠坂凛がナイフを差し込むように、俺は肉体にプラグを接続するイメージを想起する。体内を巡る
それに伴い肉体に痛みが走るが、大したものではない。むしろ、無事に開くことが出来て安心したくらいだ。
「ちょっと抱えるぞ」
「ちょっ…!?」
セレシェイラを抱え、肉体を強化して奴らの頭上を飛び越える。当然、奴らも上を通ろうとする俺たちにボウガンを向けてくるが、問題ない。
虚数魔術の一環として、影そのものに物質的な干渉力を持たせた武器として扱う。黒桜が使ってたアレに近い感じ。
奴らは自身の影から伸びた鞭に腕を阻まれあらぬ方向へ飛礫を打ち込み、影に
向こう岸に着地しても、安心は出来ない。今しがた同士討ちしたというのに、まるで警戒していないかのようにこちらへボウガンを放ってくる。
まあ、それは何となく予想していたからいい。さっき足を取った奴らの内一体を引っ張り上げ、俺らを狙う射線を切る。
どうせ強化しているのだからと、足止めは継続しつつ全力で西館まで走る。追加のアナウンスはない。もう完全に管制室は諦めた方が良さそうだ。……ダストンも、逃げられていればいいけど。
そして、西館へ繋がる道へと差し掛かったその時。中央区画から何者かがゆっくりと、まるでこの惨状においても平時であるかのように、歩いてくる一つの影。
「あれって、教会から派遣された、査問団の顧問…」
「言峰綺礼…」
一瞬、彼に護衛を頼もうかという思考が浮き上がった。言峰綺礼ほどの人物であればあの使い魔どもともマトモにやりあえるだろうし、第四次聖杯戦争にギルガメッシュが召喚されていないことから、聖職者として誠実なままであると思っていた。
だが、現実は違ったらしい。彼から向けられる感情は好意的なものでも、はたまた驚きでもない。
「やれやれ。私から手を出すつもりはなかったが、出会ってしまった以上仕方がない、というものだ」
仕方がない、という振る舞いであるが、明確な殺意。感情的なものでなく、そういう作業としてやらなければいけないことのように、俺たちを見据えた。
「……何の真似ですか、言峰神父。あなたは聖堂教会から派遣された顧問の筈。こんな真似を法皇が認めたとは思いませんが」
彼ら聖堂教会に属する者は法皇の直下の所属にあたる。任務に必要なことであっても、魔術協会に属する者との協力関係を築く行為をするのにも法皇の許可がいるような組織。このようにして明らかに魔術に関わる存在の襲撃に荷担するなど、下手をすれば組織そのものに茶々を入れる隙を作るようなもの。
仮に、このようなことが起きたと判明すれば、時計塔の一部の魔術師連中はその傷口を執拗に責め立てることだろう。
そもそも、聖堂教会は悪魔や神秘の乱用に対しては粛清を与える組織だ。いくら神秘に対する姿勢が魔術師たちと相容れないとし、カルデアのことを対象に選んだとして、それならばそもそも聖杯戦争の監督役など立てない。より上位の代行者らを派遣して止めているはずだ。
よって、聖堂教会自体がこのことを認可しているはずもない。一部グレーゾーンのものはあるが、魔術教会よりは全然マシな筈。というよりサーヴァントがいると理解して尚一人しか寄越さないということを、あの教会がするはずもない。
「法皇、法皇ときたか。成る程、確かに法皇猊下へは確認を取っていない。私の独断ということに成りますな」
「なら、せめて俺たちの脱出くらいは見逃して…」
「――――だが、
次の瞬間、身の毛のよだつほどの殺意が向けられる。
「逃げろセレシェイラ!」
「わっ!?」
咄嗟に、セレシェイラを通路側へと投げ飛ばす。少し乱暴になってしまったけど、あれでも魔術使い。何とかなるだろう。
それ以上に、安否を確認する余裕は今の俺にはなく…。
―――速い。
目を逸らしていないはずだった。だが、それでも人知を超えた素早さで懐まで接近される。身を屈めて被弾面を小さくし、右腕が繰り出された。
「む?」
それを、既のところで空振りさせる。接近したのをいいことに、先程の使い魔にやった時と同じ影に足を沈めたのだ。
想像以上に上手くいったことにほくそ笑むが、言峰はそのまま背に隠していた腕から黒鍵を撃ち出した。
「痛っ!?」
強化した左腕で受けるが、それでも完全に止められずに腕の半ばまで深々と突き刺さる。
その一瞬で、言峰は沈んだ左足を引き抜いて俺を蹴り飛ばした。これも、体を丸めて防御するが、それでも肺の中の空気が全て吐き出され、カルデアの通路の壁へと叩きつけられる。
その勢いは、内部の導線が見える程に壁を抉った。これだけで、今の蹴りの威力が窺える。
「ちょっとあんた、何やって…」
セレシェイラが困惑したように呟く。まだ逃げてなかったのか。
「いや、だって、あんたがまだ……」
「いいか、セレシェイラ。早く逃げてくれ。お前の方が心配だぞ。さっきの奴らが来ないとも限らない。お前が逃げて、ホームズがダ・ヴィンチでも呼んできてくれた方が、俺は生き残れる。確率の話だ。俺が足止めして救援を呼ぶか、二人纏めてこいつにやられるか。どっちが生き残れる確率が高いかなんてわかってる。お前、戦闘用の魔術なんか使えないだろ?」
「それは、そうだけど…」
「いいから! あの使い魔どもがどこまで侵攻してるかわからないんだ。早く行ってくれないとお前まで死ぬんだって!」
そう言うと、やや惜しむ様子は見せたものの、頭を振って西館へと続く道を走り出す。
「逃がさない理由はないのだが、これでも仕事なのでね」
背を向けて走るセレシェイラへと、神父が考える仕草を挟んで黒鍵を放つ。
「余所見してくれてありがとうよ」
それは、横から伸びてきた金属製の巨大な爪に阻まれる。
「お陰で取り出す時間が出来た」
それは、異形だった。人の定めた形。二本の腕と二本の脚を逸脱したシルエット。金属質な光沢を放つアームと爪が、まるで第6第8の腕のように伸びている。
巨大な刃を組み合わせたような大爪で凪ぐ。大振りの攻撃、言峰は後ろへ飛んで回避するが、カルデアの壁に巨大な爪痕が刻まれる。見た目に違わない破壊力を持つようだ。
「…生き残りのカルデアスタッフに戦闘要員がいたとは。これは少々諜報不足だったかな」
「そりゃそうだ。俺はここでは一般スタッフでしかない。もっと前の記録を見るべきだったな」
「成る程、道理で」
「言っとくが、約束があるんでな。一介の
これこそが、18年の魔導の道を歩んだ成果。『
篭手を装着し、礼装へと魔力を巡らせる。魔術回路に直接接続させることでその性能を更に高め、対象を殲滅するために行動を開始する。
遮二無二に大爪を振り回し、壁や天井ごと削りながら突貫する。平地であればともかく、ここは一本道の通路。逃げ道のない絨毯爪撃を、言峰は涼しい顔をしながら背後へ下がる。
これでいい。もとから真っ当に戦うつもりはない。こうして時間稼ぎさえ出来れば十分だ。
それでも、戦闘者でもある言峰は、冷静に見極めて爪の内側へと入り込もうとするが―――
「おっと」
それは、顔を狙った魔力弾によって防がれる。それは、もう一つ上の二つのアーム。その中心から放たれる魔力の塊は、大爪の隙を埋めるように的確な援護射撃を続けている。
この礼装は
言峰は軽く受け流し、拳で軽々と払っていくが、狙いの反れた魔弾が壁を貫通した時点でその威力の程は分かるだろう。
しばらくはその応酬を続けていた二人だが、言峰が背後へ大きく跳んだことで一時停止を迎える。
「……失礼。ここまで強力な礼装だとは思わなかった。ともすれば至上礼装にも届きうる性能。下手な英霊の攻撃なら対応出来ると太鼓判を押させてもらおう」
先に口を開いたのは、言峰だ。その口調は、皮肉ではなく素直に驚いているようなものだった。
太鼓判。代行者である筈の彼から、
いや、そもそも今は2017年。1994年から2004年の10年間であれほど変わった人間が、13年前と全く変わらない容姿であることを疑問に思うべきだったのだろう。そこは、魔術世界に関わってきたが故の無意識だった。90を超えて尚20代の外見を保つ魔術師がいるのだから当然と言えば当然だが。
「ってことは、人間じゃない?」
「いかにも。サーヴァント、グレゴリー・ラスプーチン。この外見である理由は、カルデア職員である君なら分かるだろう?」
「っ疑似サーヴァント……!」
最悪だ。本物の言峰綺礼であるのなら、まだやりようはあった。だが、疑似サーヴァントであるというのなら、話は別だ。そも、神秘の質が違う。人間である言峰綺礼には、質が薄くとも大質量攻撃などは通るが、サーヴァントであれば上位の神秘でなければ何の痛痒にもならなくなってしまう。
加えて、スキルや宝具の存在だ。もしラスプーチンの有する宝具が強大な破壊力を持っていたり、特殊な性質を持つ宝具であった場合は、次の瞬間にでも俺は殺されてしまう。
というか、今の応酬も本気ではなかったんだろう。実力の程は分からないが、歴としたサーヴァントだ。あの程度で退くような存在は、余程弱い幻霊か戦闘向きでないサーヴァントくらいだ。
「こちらも正体を明かしたのだから、一つ質問をさせてもらう。その礼装はどこから取り出したものだ? 目を離した一瞬で取り出していたが…」
「そっちが勝手に明かしたんだろ…」
「それは失礼。ではこれからの戦闘で宝具を使わないことを約束させてもらう」
「サーヴァント相手にそれはハンデとは言えないだろ。……説明ついでに、もう一つの礼装を取り出すまで攻撃しない。これなら教えてもいい」
「了承しよう」
ラスプーチンが構えを問いて腕を組んだことを確認し、体内に手を入れる。
「…虚数魔術か」
「知ってるんだな。そうさ、場所も時間も関係ない虚数ポケットに礼装を格納してるんだよ。流石に最初の時みたいな状況じゃ、取り出す余裕がないけどな」
「フム、ますます疑問だな。戦闘能力に長けていて、魔力も少なくない。マスター候補としても有力だと思うがね」
「………」
「これ以上は追加料金ということかね。まあいい。もう終わっているのだろう。下手な時間稼ぎをするというのなら、約束の保証は出来かねんが?」
流石に気づかれるか。本当はもっと時間を稼げればよかったけど。圧縮していたわけでもない単体を取り出すのに、そこまでの時間は必要ない。遅くとも1秒程度で取り出すことが可能だ。
そうして、虚数ポケットから取り出したのは一つのカバン。四角い手提げ式のもので、内部から魔力が感じ取れることから、その中身こそが本題だとラスプーチンは思っていたのだが、予想に反して、カバンの鍵だけを開けて、中身を取り出すこと無く地面へ置いた。
(設置型の礼装か――?)
「はいチーズ」
カバンの隙間から、強力なフラッシュが焚かれる。目を焼くほどの強烈な閃光は、予め対策をしていなければ視覚を一定時間奪うほどの効果を得られたであろう。
――だが、こと超人の域にある存在に対しては、あまりにお粗末と言わざるを得ない。
ラスプーチンは内心で幻滅、そして憐れみを抱いていた。この閃光はサーヴァントに対しての効力はほぼない。よくて、油断しているサーヴァントの虚をつくのが精々だろう。
故に、怯むこと無く真っ直ぐに、胸に向かって貫手を放った。
が、阻まれることのない筈の攻撃は、確かに受け止められる。それも、纏う礼装のような硬質な手応えではなく、手首を掴み取られる形でだ。
「何っ?」
驚愕に硬直した瞬間、目の前の何かが懐に潜り込み強烈な一撃を与える。これを防ぐが、その箇所にはビリビリとした衝撃の余波が残る。
やや離れて見てみると、それは人型をしたナニカだ。いや、正確には、自らと同じシルエット――ラスプーチンを黒塗りにしたようなものが、八極拳の構えをとって佇んでいる。
「これは驚いた。まさか現代の魔術師がこのような魔術礼装を扱っているとは…。封印指定でもされているのかね」
「一代限りの産廃魔術礼装だからな。効果はその分高めになってるよ。それに、これは相手の影をそのまま写し取る礼装だ。対象が強くなきゃここまで強くはならない」
そう。この礼装、名は『影写機』。蒼崎橙子の幻灯機をモデルに考案した魔術礼装。カバンに秘めた機構からフラッシュを焚き、それによって映し出された影を実体化し、契約を結んで使役する代物。
当人であるのならともかく、影はただの現象だ。光の加減でそう見えるだけという代物であり、そのような目に見える概念の一つ。だが、それと同様に物質を正確に写し取るものでもある。その性質を表面化させたものだ。
加えて、この機能にも意味はある。映写機。つまりカメラが出回った当初は、映された人間は魂を抜き取られるという迷信があった。その逸話を抽出したものを、影を操るという性質と魔術的に接続した。
蒼崎橙子は、最強を造ればいいという発想だったが、最強であっても対応できない事態はある。それから逆説的に考え、万能に届かずとも、目の前の相手にさえ対応出来ればいい。という思想の結果がこれだ。
弱い相手には弱く。強い相手には強く出られる、相手依存の礼装だが、このような状況では並の礼装を越える性能を発揮できる、というわけだ。
勿論、フラッシュで影を映し出せないような大きさの存在や、身を覆って隠してしまえば効果はなくなるが、初見で対応するには光の速度は速すぎた。
今もラスプーチンと殴り合う影を横目に、『
六肢の内、二つは作業や戦闘に特化させた性能をしているが、こちらは足を包み込むように展開する具足だ。
こっちの機能は機動力に乏しい魔術師の弱点を補うためにつけられている。魔力によるブースト、放出による加速はもとより、悪路や山道など地形に合わせて形状を適切に変え、移動性能を格段に上昇させることが可能だ。
一度発動させれば魔力の許す限り戦い続けるため、俺がここに残る必要はない。影は倒しても再び形を整えて戦闘を再開する。止める手段は礼装の起動停止のみ。
戦法などを写し取っているとはいえ、動作を制御するのは本人の意志ではない。加えて偉人怪人集まるサーヴァント。影を相手取りながらこちらを害する手段がないとは限らない。むしろあって然るべきだ。
だから、走る。願わくば追ってこないでくれと祈りながら。それと、どうか置いて行かないでくれと思いながら。
いや、大丈夫だよな。流石に大丈夫だよな。セレシェイラにも言っておいたし、まだ手が回ってないから大丈夫な筈。これで置いていかれてたら今世紀最大のショックを受ける自身がある。
「……あら、こんなところに鼠が一匹。神父はいったい何をしているのかしら」
「!?」
「おやおやまあまあ、あの人もこんな失敗をなさるのですねぇ。ま、いいでしょう。どの道カルデアの皆様には退場していただく予定ですので」
気づけば、例の使い魔達を引き連れた、秘書の女…タマモヴィッチ・コヤンスカヤと、白銀の長髪に人形を抱えた女がいる。
特に、女の方はサーヴァント。……恐らくキャスタークラス。となると、今カルデアを襲っている無数の使い魔たちはこのキャスターの宝具か何かによるものか―――?
「やりなさい、ヴィイ」
予想外の自体に思考を熱中させていると、キャスターは人形をこちらに突き出し、次の瞬間、通路は銀世界に包まれた。
「かっ!?」
不意の遭遇であったこと。一方通行でありながら前面は敵に囲まれ、広さもなかったこと。そして、
無防備にもキャスターの魔術を直撃した体は、急速に冷凍され、霜が降り、睫毛が凍結。足は既に氷で覆われて動かない。
生きてはいるが、最早これ以上どうしようもない。辛うじて開く目を前に向けると、相手はそのことに何の興味すら抱かないという視線で向き直ると、再び人形を突き出した。
「―――ヴィイ」
「―――――――――」
サーヴァントに対して精一杯抗った彼は、運悪くもキャスターと遭遇。分厚い氷によって閉ざされた
『…ああ……あああ、誰か、誰か…! 誰かいないのか! 誰でもいい! 誰か、誰か―――!』
「皇女様、どうやら管制室の方へと戻ったお馬鹿さん達がいるみたいですわよ」
「変わりません。
そうして、今さきほど殺害した男のことなど、毛ほども興味がないとでも言うかのように、それらは今の通信の発信元である管制室へと向かうらしい。
やがて、誰もいなくなった通路に氷像が佇む殺風景な景色となった。カルデアに、戦闘音が響き渡る。
どうやら、管制室に取り残されたゴルドルフを回収した藤丸、マシュ、ダ・ヴィンチと、皇女と殺戮猟兵の戦闘が火蓋を切ったらしい。
そして、コツ、コツ、と通路を通りがかる一つの影。
「影が突如として消えたから何が起きたかと思えば、成る程、君は中々に運がないようだ」
クツクツと、嗤う神父が氷像の中身へと声をかける。返事は、ない。
「このような状態に至って尚、生きているのか。分かってはいたものだが、魔術師というものは中々しぶといものだな」
氷像に触れたかと思うと、素早い貫手。魔力の濃密に籠もった氷すら打ち砕き、神父の手刀が彼のその胸を刺し貫く。
そして、引き抜かれた腕に掴まれるのは、鮮血に濡れた未だ脈打つ心臓があった。
「では、私も仕上げの作業に取り掛からせてもらおうかな」
そうして、今度こそ通路に静寂が訪れた。
◆◆◆◆◆
―――この後の流れは、お察しのとおりだ。キャスターのサーヴァントに追い立てられた彼らは、全力で格納庫まで逃げ、レオナルド・ダ・ヴィンチを失いながらも、カルデアの外へと脱出することに成功。
そして、元Aチームマスターであるキリシュタリア・ヴォーダイムによって知らされた白紙化地球と各クリプターが運営する異聞帯の存在。
人理漂白されたこの世界を取り戻すための新たな戦いの狼煙が上がるのだった。
主人公の使う礼装
【
人体工学や錬金術に用いられるホムンクルス用の人工の魂を魔術回路ごと接続し、6つの機械腕を動かす。
二つは作業補佐の腕型。礼装を使用できる。
二つはパッションリップのような巨大な鉤爪。戦闘特化型。一応巨大な爪が破壊されても根本が槍のようになっている。鋭さよりも硬さに特化しており、質量による暴力と防御性能が高い。
更に二つは足に装着する形。使用者の運動機能を高めるために特化したもの。ブースター機能や変形もし、その足場を快適に最適に移動できるようにしてある。
尚、これがフォルエッジ家に見つかれば相当疎まれるものとする。
【影写機】
蒼崎橙子の幻灯機をモデルにした魔術礼装。カルデア仕込みの機械と魔術の結晶。幻灯機をモチーフにしているだけあり、対処方法や理論は近いが、性質は別物。
名前は燈子の幻灯機→カメラの原型より
映写機→カメラ
光から使い魔を投影する燈子のものとは違い、フラッシュ光に映し出された相手の影を転写し、意のままに操る。相手のステータスによって効果が大きく変わる。相手の影が反映されるので、対魔力は貫通する。
だが、相手があまりに上位の存在であった場合抵抗される。マジの神霊や神、あるいはそれに匹敵する存在など。
幻影機に込めた魔力が尽きない限り復活する。
燈子は最強のものを造ればいいという理論で造られた怪物だが、主人公は相手に対抗できさえすればいいという設計思想で造られた。
因みに、対象が光で影を転写できないような存在、あるいはこの礼装のフラッシュで影が写せないほどの大きさであれば強さに限らず効果は発動しない。使役できる影は一回のフラッシュで映し出された影のみ。新たに影を作ろうとすれば、現在活動している影を消してからでないといけない。
これを完成させた時、ライノールにはすごい嫌な顔をされた。
Qなぜ燈子の術式を真似たのか? Aファンなので。