2017年の約束〜白紙化地球に遺されたもの〜   作:食卓の英雄

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本編で語られない設定
彼の先祖は世界の滅びを回避するために世界を滅ぼす兵器や過剰過ぎる礼装を作成したアトラス院を見下しており、また世界を最も長く存続させるためにはこの星全ての神秘を無にすることだと結論づけた。
神秘がある限り人の手に余る存在が生み出され、その度こちらの都合で多大な犠牲を払ったりしてきた。それでも表の世界は動いている。いや、むしろ表の世界こそが真実に近しいと思っている。
神秘がなくとも世界は存続する。むしろ神秘が現存している時点で厄介な事態が引き起こされてしまう。よって、星自体の神秘という神秘を殺し尽くせば世界は延命されると解く。曰く「人が一人で救える世界なんぞ滅びてしまえ」即ち、多数の無力な人々の集合こそが普遍的な世界であり、世界の地盤を支える彼らこそが救世の手段だと信じている。
その際に他の錬金術師の邪魔だてをしたり、過剰礼装を無断で破棄したり、研究資料を持ち去ったことで怒りを買い追放。
その後は様々な地域を転々とするも、最終的に神秘は廃れるものとして、この星の神秘が消え去ったあとも地表に残る異星の存在を危険視して南米へと向かう。その後、行方不明となった。
人柄や態度は兎も角、錬金術師としてはとても優秀だった。


フィニス・カルデアに遺されたもの

 

 カルデア最後の生き残りが、万能の天才の捨て身の献身によって脱出し、敵の手も完全に引いたその後の話。

 

 人理焼却が実行されて尚、文明の光を携えていた星見台は、今や極寒の地獄へと作り変えられた。濃密な魔力の籠もった氷塊が乱立し、真白に覆われた室内には最期の表情を色濃く残した氷像(スタッフだったもの)がアクセントのように立ち並んでいる。

 そんな、生命の絶えた筈の空間に、動く影が一つ。

 

「ぁっ…がぁ…っふ、ふうぅっ! はあ、はあ…、クソっ、あの神父め。目聡く心臓ぶっこ抜いて来やがって…」

 

 その正体は、礼装である大爪に移動を任せて胸に空いた穴へと手を差し込み、延命を続けるアルカズルだった。

 

 何故、あれほど絶望的な状況から生還できたのか。それには3つの理由がある。

 1つ。キャスターによる攻撃が氷の魔術であったという点だ。

 

 そも、彼はこの世界に生まれ落ちてからというのも、想定した戦闘は全て人外級の相手ばかり。タイプ・ムーン世界として、そのようなイレギュラーや、例外級の魔術師にばかり焦点が当てられている。そして、その様な例に多く見られるのは、他者を多く巻き込む可能性を孕んでいるということ。

 故に、最初から目指すのは魔導でも根源でも、はたまた最強でもない。ただの魔術師など眼中になく、仮想敵はいずれも現代の魔術世界に置いての怪物や、神代の時代にあっても世界に名を轟かせた英雄たち。

 だが、どれだけ対抗策を練り、なりふり構わずあらゆる技術を取り込んだとして、どうあがいても足りないものはある。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに習い、たった一撃が全てを決することもある。まして格上、埒外の切り札、理解不能の術理を持つ怪物達には、及ばないことだってあるだろう。

 だからこそ、予め敗れた際の緊急手段は用意していたのだ。肉体が致命傷を追った瞬間、その攻撃手段に習った症状のみを体に付与し、回復を待つというもの。簡単に言えば死んだふりだ。

 表面や肉体の半ばまで損傷してしまうが、肝心の部分は最低限動かしていた。加えて、無属性魔術の発展として、生きている組成だが、死んだものである、所謂不死者に近い性質の膜で生体反応をカバーしていたのである。

 どういう訳か、ラスプーチンにはバレてしまったが。(主人公は預かり知らないことだが、これにはラスプーチンの霊基に含まれたとある神霊の権能によるもの。また、その手の怪物の専門家である埋葬機関所属の者には暴かれてしまう)

 だが、幸運なことに、氷結であったことが、傷の悪化を防いでいた。そもそもの攻撃がその他の属性であれば肉体的な損傷は免れず、仮に生き残っていたとしてラスプーチンの追撃には耐えられなかったことだろう。

 

 2つ。彼の起源が『接続』であったこと。

 これは物理的、霊的に問わず、接続という概念に対しての適正を格段に高めていた。この起源による特化の真価は、衛宮士郎という宝具(情報の塊過ぎて解析したら死ぬ)を何度も解析し複製するという自殺行為にも等しい魔術を当然のように扱う魔術使いを見れば理解できるだろう。

 失った心臓を、投影魔術でポンプ型の人工心臓を作り出し、千切れた血管や肉体とつなぎ合わせた。

 失った血がもっと多ければ、とても循環など出来なかったことだろう。

 

 最後に3つ。これは彼が魔術師の家系であるから、ということだろう。

 祖先である錬金術師がアトラス院から追放され、後の子孫たちは魔導を目指した。目立たないながらも家の歴史は古く、累積された魔術刻印も名家に比べれば見劣りするものの十分に一流と呼べるものだった。

 魔術師の家系としては認知されていることだが、刻印自体が術者を生かすための機構を備えており、それがたまたま強かった。そういうことだ。

 

 …そんな魔術刻印を持っていて、あの程度の力量でこまねいていた両親は、本当に才能に恵まれなかったのだろう。まあ、名家であっても、必ずしも優れた魔術師が生まれるとは限らない。ということだろう。その逆も、また然りだ。

 

 これら3つの要素が重なり合い、どうにか彼は一命を取り留めて活動している訳だが……。

 既に、死に体だ。氷結魔術のお陰で肉体の損傷は免れたが、事前の戦闘で骨はいくつも折れている。術者の生命維持を担う魔術刻印も損傷には強いが、完全に衰弱してしまうと維持するための魔力すら使い果たしてしまい、役に立たない。

 加えて、今体に血を巡らせているのは投影魔術によって造られた心臓だ。形だけで中身がないと言われ、耐久性にも難のある投影では、その役割を維持するには5分と保たない。

 

 心臓のポンプを握って動かしながら、魔力を注ぎ込むことで少しでも延命させる。無駄に見えるかもしれないが、彼にはその時間を賭けるだけの算段はあった。

 

 とはいっても、博打も博打。普通の魔術師なら考えもしないだろう無謀なことで、更に、それが襲撃を受けたこの施設に残っているのかも怪しい。特に、あのタマモヴィッチ・コヤンスカヤは毟り取れるところからはひたすら取り尽くしていくような、知り合いの魔術師に似たような目をしていた。

 

 あるかも分からない。あったとしても成功する確率は低い。

 

 けれど、そんな一縷の望みにかけるしかない。

 

「ロックは、もうかかってないみたいだな…」

 

 自動操縦していた大爪が停止する。それは、このカルデアにおいて特異点やシミュレーターで得られた魔術資源を貯蔵していた保管庫だ。

 

 キーは必要ない。職員証を翳せば、異音を立てながらドアが開く。……が、電力不足のためか30cm程開いた所で停止した。

 

「こんな時に限って…!」

 

 体を機械腕で固定し、大爪を用いて無理矢理ドアを開く。

 

「あ……? ゴボッ、ごはっ」

 

 右手から、握っていた感覚が消失する。どうやら、投影魔術の限界が来たらしい。

 再度作り直し、接続する余裕はない。そもそも、投影魔術は得意じゃない。こんな状態でやったところで触れた瞬間に溶けるようなものしか造れないだろう。

 

 保管庫の内部は、何と比較的軽微な損傷に留まっている。

 確かに荒らされた形跡はあるが、資源自体が害された様子はない。枠に比べて資源の量が少ないのは、現在のカルデア解散に伴い整理をしたり、サーヴァントの霊基再臨などに用いられていたから。……それも、お役御免ということで補充することはなかったけどね。

 

「この欄だな…っ、最終日も真面目に管理してた倉庫番には、頭が上がらないなっ…」

 

 アームを使ってお目当ての素材を探し当てる。『蛮神の心臓』、それに『凶骨』だ。

 

 ……まあ、ここまでくれば何をするか分かるか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。無謀だと思うか? 勿論俺だってそう思う。でも、もうなりふり構ってはいられない。

 

 類感魔術。……似た姿や性質のものを用意し、それをそのものと定義することで影響を及ぼす魔術。一般的なは呪術としてもよく知られ、尤も有名なのは呪いの藁人形とかだろう。

 藁で人型を型取り、対象の写真や髪の毛なんかを混ぜることで、人形を通して呪いを与える。といった風に。

 性質が似通っていればいるほど、その効果は高くなる。だから、人間の物ではないとはいえ、心臓と骨という形質を持っている以上、これらも対象の内だ。

 

 とはいえ、この二つはどちらも呪いに塗れている。方やスケルトン達の怨念の籠もった中でも一際強力な部位が遺されたもの。方や偽物とはいえ仮にも神であったものの心臓。

 どちらも人の身には余る代物だ。

 

 だからこそ、まずは御霊信仰で用いられるように正当な手法で祀り上げる。悪霊や怨霊に対して信仰し、神と崇めることで怨念や呪いを鎮め、神の座を用意するということだ。

 そうして、呪い以外の概念を付与していく。とはいえ俺も本職ではないし、質が質だ。完全な浄化など不可能だ。

 

 ここで、もう一つの至上礼装の出番だ。失敗しないように、指先から慎重に闇色の糸を手繰る。

 虚数と無属性の性質を繋ぎ合わせ、両方の性質を持ち、そのどちらでもないという、作った俺でさえ詳細が分からない謎の糸。

 名付けて回天霊糸。目に見えるが、どちらかというと概念そのものに近いもので、物理的な干渉力は皆無だが、その分星幽界や概念、因果といった現象に対してすら干渉できる。

 

 尤も、干渉できるとはいっても強度が高ければ干渉するにも一苦労であり、下手をすれば霊糸で絡め取っても、ろくに減衰することも出来ない時もある。

 それに、因果への干渉は出来るが、俺自身が見えるようになるわけではないため、基本的に向けられた因果に対する防衛しか出来ない。

 

 で、本題だ。この霊糸を蛮神の心臓を構築する呪いへと結びつけ、摘出した俺の砕けた骨へと移植。

 計13個ものデミ・ゴッドの心臓が作り出す呪い。下手な宝具クラスの呪力になったのは言うまでもないだろう。

 

 そして、概念漂白した心臓には祭神としての性質が残っている。簡易的かつ雑なもので、オリジナルのマイナー宗教程度の信仰すらないけども。

 それを抽出して一つに結び合わせ、違和感がない程度につなぎ合わせる。………成功。全ての性質を失った心臓は大気中にエーテルとなって分解されるが、残った一つは潤沢な魔力と信仰の加護が宿っている。

 

「あとは、単純な強度だな…」

 

 出来る限りのことはした。害になる要素は出来る限り取り除いたし、心臓としては十分。でも、そもそもの強度が人間のそれではないこの心臓に、俺は耐えられるのかという話だ。

 害意が無くとも、高純度なエーテルや情報は処理しきれなければ毒になる。

 

 俺の接続は、何もいいことばかりじゃない。あくまで、対象も対象をつなぎ合わせるだけ。物理、霊的問わずに高い適性を持ってはいるが、支配ではなく接続。

 例えば、金魚を飼っている池に、海と直通の経路を作ったらどうなるだろうか。

 そう、淡水魚である金魚は死ぬ。死ななかったとしても、海水が毒であること確かだし、池の水も海に流れ込んだり、海の魚が侵入して来ることだってあるかもしれない。

 

 繋がる、ということはお互いに干渉しあうということだ。決して、一方通行じゃない。

 

 それでも、やるしかない。魔術刻印が生かしてくれているが、これも風前の灯火だ。

 意を決して、心臓を胸の内に収める。そして、先程行っていたように、自らの肉体の一部として、その心臓を紐付ける。

 

「―――――――――ッッ!!!?」

 

 予め服を破いて作った猿轡を噛む。痛い、痛くない以前に、存在強度が違う。数多の情報の海の中に、殻を失った生卵のように落ちて潰れようとしている。

 『相互接続・機械六肢』が、指示していた通りに俺の核とも呼べる何かを霊糸で絡めて引き揚げる。お陰で流されずに、溶け出さずに留まっているが、これはジェット機の外側に吊られているような状況に等しい。

 今にも1000の肉塊になってしまうような濁流。たった1秒が何時間にも思えるほどの苦痛と精神的消耗。

 

 目は裏返り血涙を流し、猿轡を一心不乱に噛みまくる。

 

 鼓動が五月蝿い。ただの人間の肉体にそぐわない活性化した心臓が、却って苦しみを長引かせる。

 

 何時間、こうしていたことだろう。

 

 いつの間にか意識を失っていたらしく、気がつけば体は床に投げ出されていた。

 代わり映えのしない景色では、何かを比較して調べる事等できやしない。ただ、成功したのだという確信はあった。

 

 ドクン、ドクンという力強い鼓動。若干の違和感は残るが、むしろ移植前よりずっと調子のいい体。

 そして、鼓動の度に精製される魔力も、かつてとは比べ物にならない程に増大していた。竜の炉心ではないが、やはりそういった存在が持つ心臓という点では同じなんだろう。

 

「うわっ」

 

 今の今まで気づかなかったが、俺の倒れていた床には汗やら血やら、様々な体液によって浸されていた。

 正直汚い。

 

「体は……問題ないな。心臓も馴染んでる」

 

 解析魔術を肉体にかけ、何かしらの悪影響が出ていないか確認するが、その懸念は解消された。心臓は俺の体の一部として認識されているらしく、無事血液の循環、魔力生成能力を取り戻していた。

 

 魔術師の中にはこんな風に肉体の一部などをより上位の質で構成しているものも珍しいという訳では無いが、ここまで上位の神秘を秘めた心臓を造った者など、現代では数える程度しかいないだろう(神喰いなどの己の肉体を変質させた場合は除く)。

 さて、後は凶骨だが、こちらも呪いを映し、残った力ある骨を錬金術で圧縮。一つにまとめ、霊的に切断(cut)整形(form)

 ついでにルーンを刻んだり、色々と魔術的な付加をして、肉体へと繋げる。

 

「ふぅぅ……っ」

 

 こちらも痛みが走るが、心臓に比べれば力が弱く、替えのきくパーツの一つなため負荷は少ない。これなら魔術回路を初めて作った時の方が痛かった。

 …そう考えると、魔術行使の度にこれ以上の激痛を伴いながらメリットどころかデメリットしかない方法をしていた衛宮士郎は、真っ当な魔術師から見れば狂気の沙汰にも見えるだろう。

 

 一本目が5分で馴染んだところで、次の骨へと取り掛かる。後17本。集中力が一番の敵だ。

 

 

―――…

 

 

 

 完璧だ。全てが体に馴染み、何ら不調のない新しい体を手にすることが出来た。むしろ、凶骨は元が怨念や呪詛と関わりの深い神秘を持つ素材だったため、対呪詛や対霊的防御の術式と相性がよかった。

 これで、生半可な呪いは無意識でも抵抗できるようになった。全力で防御すれば、サーヴァント級の呪いすら効力を減衰することが可能だろう。

 

 新たに得た炉心と概念兵装。俺の戦力は5割増しだ。

 

 正直、ここにある素材はいずれも魔術師にとって垂涎ものの貴重品ばかり。これも神代の幻想種と頻繁に接敵する特異点のお陰だろう。

 きっと、このような状況では取りに戻ることもないだろうし、有効活用させてもらうとしよう。使わなければ、虚数ポケットに資源として保管しておけばいいだけの話だ。

 

 やっとの思いで願いが叶ったのだ。約束を果たすまで、死んでも死にきれない。絶対にこの場を生き延びて、セレシェイラとデートするんだ。

 

 そうやって、あるだけの素材を回収していると、壁際に飛んだ血潮が目に入る。

 

「………お疲れ様」

 

 それはかつて倉庫番だった職員だ。傷跡から、恐らくあの使い魔に殺されたのだろう。せめて、遺体は丁重に弔ってやろう。

 

 素材は虚数空間にとりあえず保管し、今のカルデアを見て回る。

 

 酷いものだ。通路は戦闘の爪痕が残され、北館は氷に包まれている。道行く度にボウガンにより胸を貫かれた遺体、手斧によって斬りつけられた遺体が目に入る。

 

「グラン、笹山、ミューズ、李、ゲイル。……ガンビア、ビル、セレスティナ、ガルシア、リットン」

 

 その度に、彼らの名前が思い出される。関わりが薄い部署の者もいたが、それでも共に人理焼却に抗った仲間だ。こんな形で、こんな死に方をしていい奴らではなかった。

 

 彼らに出会う度に、名前を読んで、職員証を形見として受け取る。

 

 そして、主要な機関が多くある管制室の扉を潜る。

 

 特にここは酷かった。念入りに凍結され、剣のように氷が突き出ている。カルデアスは……駄目だ。凍結されて機能を停止したのか、それとも不調によるものかは分からないが、真っ白に染まった上で氷に包まれてしまっている。

 

 ダメ元で動かないかと期待したが、やはり無駄足だった。

 

 そうやって、踵を返そうとして、見つけた。

 

「……ダストン」

 

 一般の技師ながらカルデアに務めていた男性職員。共に藤丸立香が日常に戻れるようにと団結しあった男だ。加えて、セレシェイラへのアプローチを相談した相手でもある。

 

「…悪かったよ、あんたのアドバイス、間違ってなかった。これが落ち着いたら、食事に行くことになってるんだ。…お疲れさま」

 

 氷に魔術回路を接続し、内包する魔力を吸い上げる。魔力で構成されていた氷は霧散し、内部のダストンは解放される。

 開ききった瞳を閉じ、例にならって職員証を回収する。

 

 結局、彼らの遺体は火葬することにした。

 

 本当はそれぞれの国にあった弔いをしてやりたかったが、生憎とそれに応えられるような場所はない。

 せめて、同じカルデア職員として一緒の場所に、同じ方法で。寂しい場所だが、思い出の残っているこの地が相応しい。

 

 全員分の墓を立て、暫く黙祷。

 

 このくらいで十分か。

 

 後は、現実を見る時間だ。

 彼らには悪いと思うけど、そうくよくよしてもいられない。藤丸やマシュたちのことは心配だが、向こうにはホームズ達がいる。きっと何かしらの手段を講じている筈だ。

 

 さて、俺の方に残されたものはといえば、豊富な魔術的素材と、僅かな携帯食料。各々の職員が自分用に取っておいたと思われる菓子の類くらいだ。

 食料資源は、引き継ぎの際に次期所長によって補給されることになっていたが、それは最早見当たらない。

 それはそうだろう。手配していたのはNFFサービスだ。襲撃かける施設にまでご丁寧に資源を残すはずがない。

 

「一週間くらいか…」

 

 あれだけの職員が暮らしていたのに、あまりに少ないと思うだろう。

 活力を得るためにも食料は必要だ。それも、この新たな心臓は多くの栄養を求めているらしい。……そりゃあ、人の身で竜の炉心を稼働させているのだ。腹も減る。

 俺はそこまでではないが、燃費がかかるのは変わらない。

 

 薄っすらと聞こえた声により、外の世界が大変なことになっているのは把握した。

 ここに閉じ籠もって助けを待つのは、とても賢明とは言えない。外に出るべきだろう。

 

 明らかに組織的な犯行。恐らくそれぞれの拠点などがあるのだろう。そして、カルデアはきっとその打倒を目指すはず。

 つまり戦闘などに掛かりきりになるのは、これまでと変わらないってことだ。

 

 運が良ければ合流できるかもしれないし、この原因は俺も気になっている。第一、ここでじっと待つことが出来るようなら、とっくに魔導なんて放って逃亡生活を送っていただろう。

 厄介事に巻き込まれるのは嫌だが、こうして巻き込まれてしまっている以上そうも言っていられない。

 特異点じゃないんなら、俺にも出来ることは在るはずだ。例え無駄足だと罵られようと、その努力は許されるはずだ。

 

 ……まあ、実際がどんな状況かは分からないからこそ、最大限準備していかなければならないんだけど。

 

 その為に食料を漁っていたし、 ダ・ヴィンチの工房を使って礼装作成に精を出した。

 神代の魔獣や幻想種の素材。位の高い素材など、仮に現代で購入するなら、ハリウッド映画並みの金額が動くことだろう。なんて恐ろしい。

 

 そんな素材をふんだんに使った、贅沢過ぎる礼装。 

 

 肉体を覆う竜の逆さ鱗の伝承礼装。特殊な結晶体を鉱石魔術の要領で魔弾へと作り替えたもの。魔本の要たる頁のみを綴った自動礼装。瞳と宝玉という要素を繋げて造った人工魔眼。

 

 ものがものだけに加工難易度が高く、実用する礼装として作成出来たものは少ない。様々な技術を織り交ぜ、ようやく完成した、程度のものでしかないが、やはり膨大な神秘を込めた素材として、通常の礼装と一線を画すほどの効果は備えている。

 

 いくつか作成したものでも、特に完成度が高いのは骨刀だ。

 

 これは前に摘出した俺の骨を霊的加工で繋ぎ合わせ、その後に刀の形へと加工を施したものになる。

 刀崎の家の仕事は見たが、あれほどの技術力は俺にはない。だから、そこは人体工学と錬金術、死霊術などのいいとこ取りをして補った。

 肉体の一部を礼装としたことで、この刀には俺の起源である『接続』が籠もっている概念武装でもある。

 俺と最も相性がよいため基本的には魔術の補助などの効果が目当てになるが、ある要素だけを接続させ効果をいじったり、接続した魔力物資から魔力をこちらへ横流しすることも出来る。

 難易度は高いがやろうと思えば相手の魔術回路や霊体無理矢理接続して対象から直接魔力を奪うことも可能だろう。

 

 何より素晴らしいのが、柄が弁の役割を果たすから相手側からの干渉は妨害出来るということ。あくまで弁なので長時間繋げると無理矢理突破される恐れはあるけど、それでもないのとはかなり使用感が違う。

 

 あれだけ豪華な素材を用いたにも関わらず俺の骨が最も完成度が高いのは考えものだが、完成度と作品の効果とはまた別の話だ。一応骨刀にも素材の神秘を転換しておいたから、英霊の宝具と打ち合っても壊れることはないだろう。

 

 さて、後は出発するだけという状態。だがここで問題が一つ。

 

 これで本当に最後かもしれないと思いカルデア内を見て回っていたら、ある部屋に不審な魔力反応を見つけた。

 該当場所はレフ・ライノールが個人的に訪れていたという倉庫の一つ。当然レフの裏切りが発覚した時にダ・ヴィンチ氏が調べていたが、異常なしと結論づけられた場所だ。

 

 何故、という気持ちはあった。それ以上に、今更見つかるようなもの、先日の襲撃者たちによる仕掛けではないだろうかとも疑った。

 そんなことはわかり切っていたのに、どうにも気になって、現に今、倉庫の前に立っている。

 

 恐る恐る入ると、床一面に溢れ出す青い燐光。

 

「虚数ポケット…?」

 

 このカルデアに、虚数属性の素養がある魔術師は俺以外に存在しない。少なくとも報告書の上じゃ確認できてない。

 

 訝しみながらも、虚数に沈んだ情報を解凍していく。余りに膨大な何かがこの中に収まっているが、取捨選択をしなければまともな作業すらままならない。

 

 そんな大規模なもの、一体いつの間に。解凍とサルベージを続けながら、不思議に思っていると突然、目の前に魔術的な立体映像が浮かび上がった。

 

『あー、声は聞こえてるな。映像は? クク、いや、映像なんてどうでもいい。これを満足に聞く余裕があれば続行。ないなら今すぐ戻すこった。なんせ、一度しか言わねぇからな』

 

 ―――不敵な笑みを好々と浮かべる、懐かしき師の映像があった。

 




今回作成した礼装はまたのお披露目ということで。

完成度と出来の違い。
他の礼装とかは100のポテンシャルを持つ素材を80しか引き出せない、というような状態で、いいとこ50程度のポテンシャルの素材で80の効果を持つ礼装を作り上げた、というようなもの。
数値はあくまで一例であり、今回の礼装とは一切関係ない。
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