2017年の約束〜白紙化地球に遺されたもの〜   作:食卓の英雄

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あはっあはっ地の文多くなっちゃった………。たはは
なっちゃったからにはもう……ネ…?

説明会になっちゃったかも


永久凍土帝国――レニングラードの隠れ村

 

 ブロロロロロロロロ…

 

 何もない。端から端まで何も見当たらない真っ白の大地。いかなる生命の痕跡すら残っていないその地に似合わぬ影が一つ。

 

 装甲に覆われた二輪に跨り掛けるのは全身に装甲を纏った人型。凶暴な竜を人型に落とし込んだかのようなそれは、時折顔を何処かへ向けると二輪の操作をしては進路を変えていた。

 

 二輪の名は虚数潜航二輪『マシン・フラウロス』。それを駆けるのは極地戦闘対応型強化外骨格型礼装を纏ったアルカズル・パラドキシアその人であった。

 

「えー、と。今どの当たりだ?」

『本来の座標ならベラルーシ北部。ついでに補足すると、南極時刻で3月26日14時25分。ベラルーシ(こっち)じゃまだ夜明け前。こんな代わり映えしない風景じゃ時間間隔もおかしくなっちまう』

 

 ライノールからの返答に脳内で大まかな地図を作り、これまでのことを纏めていく。

 

 ―――カルデアから出発して、既に3日が経過した。

 

 最初はこの真っ白に漂白された大地に困惑と焦りを抱いたものだが、丸3日もこれだけの空間にいれば飽きもする。

 当然、移動は続けながらも調査と解析は続けているが、その結果は芳しくない。地球上がまるで均されたかのように平坦になっていること。そして謎の大地の構成。

 これを突き止めれば何かヒントになるかもと思ったのだが、何故そうなったのか、意図もメリットも不明。地面の組成は多少特質こそあるがただの地面としか出てこない。

 時折、作業忘れとでも言うような文明の名残こそ現れるものの、それも残骸であったり、かつてドア枠であったものであったりと、この白紙化の規模に比べれば気にするほどでもない誤差の範疇だ。

 

 ああ、唯一成果と言えるものはあった。

 それは日記。今言ったような文明の残骸に残されたノート用紙だ。書き手はデイヴィッド・ブルーブック。地球白紙化(残されたメモに似たような記述があった)という現象に巻き込まれた生き残りのようだった。

 それに、日記や生活、そして個人としての疑問や考察などが書き殴られており、中には外の観測が出来ていなかった頃の話もあった。白紙化現象は三ヶ月かけて行われ、宙より降りた根のようなものに人類は殺され尽くしたとも。

 その内容は現時点で事件解決の参考になったとは言い難かったが、それでも貴重な先人の意見だ。

 いずれもっと情報が揃った時に考察の材料となるだろう。

 

 原本は書き写してその場に補給物資と共に残しておいた。シャドウ・ボーダーがどこにいるのか、まだ虚数空間なのか、時代のズレに呑まれてもっと先に浮上するのか、そもそも生きているのかも不明瞭だが、無駄ではないはずだ。

 取り敢えず、ちょくちょく貯めておいた魔力リソースと食料。電力はカルデアを5時間運営出来る程度のものと、食料はシャドウボーダーの定員から10人分くらいと仮定して、間食含めて5日分を残しておいた。一箇所に纏めすぎて補給が届かないのは本意ではない。それにあちらよりはマシだろうが、こっちだって限られた物資を食い潰すだけはごめんだ。だから、ここに来た。

 

 水分補給を済ませて、改めて目の前に広がる光景へと目指していく。

 

 それは漂白された大地には似合わない激しい嵐の壁。外側からは内部を伺うことは出来ず、突破しようにも核並の威力の暴風だ。流石に無事とは行かない。

 

 デイヴィッド・ブルーブックの書記にもあったが、この先のロシアこそが、違和感のある土地の一つ。なのだろう。いや、これはもう違和感などというものでは片付けられないけども。

 恐らく、これと似たような場所がいくつかあるのだろう。そして、これこそが敵へと繋がる何かだと直感する。

 加えて、カルデアを襲った相手達。方や真っ黒のコートと色白の皇女。あれはきっとロシアに由来するものなのだ。

 

 探索だけにも限界が来る。いずれ食い潰してしまうのなら、何か情報や資源はないかと、敵の懐にだって飛び込む覚悟が必要だ。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。現状をこれ以上ないほどに表した言葉だろう。

 

 死ぬかもしれないし、ひょっとしたら戻ってこれないかもしれない。そう、覚悟はしている。恐れはあれど怯えと悲観はない。

 定義した。俺の冠位指定。

 藤丸立香やマシュを平和な日常へと送り出すこと。そして、セレシェイラとの約束を果たすことだ。これが叶うまでは死んでも死にきれない。いや、次があるみたいな言い方をしていたからそれも全部果たして、悔いがなくなるまでは死んでやらない。

 

 いつの日か、訪れる希望の明日を信じて、俺はロシアを囲む嵐の壁へとフラウロスを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ヴェアアアアアアアア――――ッッ!!」

『――――ッ!?』

『グアァァ――ッッッ!!?』

 

 雪原を一つの影が駆け抜ける。相対するは魔獣の群れ。凶悪なる相貌をたった一体の獲物へと向け、立ち向かう度に仲間が消え、真銀の雪原を赤い絨毯へと染め上げていく。

 幾度となく群れが排除されていく。人間を越える巨体は瞬く間に切り裂かれ、鼻頭ごと頭蓋を叩き割られた。

 そのことに、魔獣達は何故と疑問を覚える。やつらは、群れる己達よりも脆弱な存在だった。確かに同胞が殺されることもあったが、それでもこれほどの力の差はなかったと。

 

「オオオオォォ――――ッッ!」

 

 そう考えて、思考の鈍った個体がまたも首を貫かれて絶命する。その荒々しさと圧倒的な戦闘力に、このままでは全滅すると察したのか、魔獣達が尻尾を巻いて逃げていく。

 当然、背を向けた獲物へさらなる追撃が襲う。一匹、また一匹と仲間が死んでいくが、群れの全滅に比べればやむなき犠牲だ。……最も、そのような知性はなく、本能で察しているだけであろうが。

 ともかく、ほうほうの体で逃げた魔獣たちは、背後で殺される仲間を囮に、何とか魔の手から逃れようと必死で駆けていた。

 

「今だ!」

 

 パンパンパンパンッ!

 

『―――!?』

「仕留めた!」

「次だ!追い込んで撃て!」

 

 乾いた炸裂音が立て続けに12発。背後の脅威から逃げるあまり、前への警戒が疎かになっていたようだ。

 気づけば、己より前を進んでいた同胞が頭から血を流して地に伏せている。何が起こったと疑問に思う暇すら与えられず、再び放たれた銃弾によって、魔獣の意識は闇へと葬り去られたのだった。

 

 そんな魔獣を屠った集団であるが、その様子はどれも歓喜に満ち溢れている。中には飛び上がって喜ぶものまでいるほどだ。

 魔獣を眺める彼らの元に、先程大立ち回りを披露した人物が声をかける。

 

「みんな怪我はないかー?」

「村長! はい、全員怪我はありません。それに、弾薬の消費もそれぞれ一発ずつで済みました」

「それは何よりだ。それじゃあ、他の奴らが寄って来る前に拠点に帰るぞ。重量軽減と強化はかけておくから最低五匹は持ってくれ」

「分かりました! おい、お前ら聞いたな。魔術をかけてもらったら紐で固定して運搬だ」

 

 その号令に散り散りになった一団は、人間などよりも遥かに大きな魔獣たちを軽々と抱えると、一箇所に集めて村長と呼ばれた人物へと目を向ける。

 

「よし、今から強化するから抵抗せずに受けてくれ。――――――よし、それじゃあ帰るぞ」

 

 魔術による強化を受けた彼らは、それぞれ魔獣を紐でくくると、肩にかけて雪原を歩んでいく。

 

 踵を返して帰路につく彼らに、吹雪の向こうから這いずるような音が聞こえてきた。次いで、シャーシャーと掠れた蛇のような鳴き声。

 

「っ…しまった村長! ジャヴォル・トローンがいる!」

「血に惹き寄せられたのか…!」

「クソッ、流石にこの数を抱えてちゃまともに対抗することも……」

 

 獲物を置いて逃げるべきか、或いは武器を構えながら撤退するか。そんな選択肢を提示された彼らに、村長は手で制す。

 

「大丈夫だ。俺一人でやる」

 

 そう言うと、体中に魔力を纏わせると、先手必勝とばかりに巨大な影へと挑みかかったのだった。

 

 

――――…

 

 

 

「今帰ったぞ! 門を開けてくれ!」

 

 先程の“狩り”から少し経過し、彼等は無事に拠点とする地へと戻ってきていた。その声に反応して、中から一人が顔を覗かせると、彼等を確認してから門を開いた。

 

 そこは、山の谷沿いに作られた村だった。とても近代的とは言い難いが、石と木で出来たしっかりとした造りの家が転々と立っている。

 大量の獲物を携えて帰ってきた彼等と、その成果を喜び受け入れる住民たち。

 歓迎を受けながら村の奥の洞穴へと歩みを進めると、早速獲ってきた獲物の血抜きを始めた。通常の生物とは異なる強度、身体構造を持つ魔獣を、慣れた手付きでテキパキと熟していく。

 

 だが、魔獣の体の大きさと数が多いこともあって、自然と長引いていく。ただ淡々と作業をするのにも飽いたのか、そのうちの一人が声をあげる。

 

「それにしても、村長が来てから食料に困るような日は無くなったな。今日もこんだけのクリチャーチが狩れた」

「ジャヴォル・トローンも倒してたしな…。村長、アンタ本当に()()か? いや、疑ってるわけじゃねえんだけどよ」

 

 旧種。常ならば聞き慣れない単語が、一個人へと向けて放たれた。何故同じ村の一員であるはずの人物からこのような言葉が放たれたのか。答えは簡単だ。

 

 厚手のコートを着、銃器を扱い、村を構成し、同じ言葉で話していたとしても。彼らの姿は、人間のそれではないからだ。

 いや、だがしかし、彼らこそがこの世界の人間であるのは紛れもない事実。

 かつて地球へ飛来した隕石による大寒波。その大極寒の地に耐えるべくして生まれた、魔獣と人間の合成体。名をヤガ。狼のような肉体的特質と強靭な肉体を持った、この地に生きる新人類だ。

 

 そして、その人類の発展先であるヤガに旧種と呼ばれる存在がいるとすれば、それは、我々のよく知る霊長の姿であるのだろう。

 

 つまり、俺のことだ。

 いや待て、違うんだ。違くないけど、違うんだ。

 

 始まりは、俺が意を決してロシアを覆う嵐の壁内部へと、虚数潜航を用いて侵入した時だった。 

 

 浮上した俺が目にしたのは、一面真っ白に染まった世界。それも、白紙化の無機質な白でなく、荒れ狂う吹雪と深い雪原の極寒の地だった。

 それはそれは驚いた。ロシアということで寒さには警戒していたが、なんとその外気温マイナス100度。礼装に極地用の温度、環境対策を施しておいてよかったと、改めて思った瞬間だった。

 

 暫く調査のために散策していると、時代的に居ていいはずのない魔獣たちの群れに、噂に聞く皇帝(ツァーリ)イヴァン雷帝。そして人類と魔獣の合成体(ハイブリッド)

 

 ファーストコンタクトは事故に近いものだった。何もかも分からず、頼れる相手(ライノールはあくまでAI)もいない。それだけに接触する相手と場所は選ぼうと思っていた。

 なので、殺戮猟兵(オプリチニキ)やヤガの目から逃れつつロシアの外周を沿ってマシン・フラウロスを走らせていると、真白の魔獣。クリチャーチの群れに襲われている彼らを見つけたのが原因だ。

 

 最初は命の奪い合いをする以上、仕方のないことだと思って知らぬ存ぜぬで通そうとしていたが、話を聞く限り、その先にある村を守るために立ち向かっているらしかった。

 それに、ここは元の地図と照らし合わせるとサンクトペテルブルク周辺。首都ヤガ・モスクワから500km以上離れた文字通り世界の果てには、殺戮猟兵も巡回していない。

 

 うまくすれば、悩んでいた現地の情報と拠点が手に入る可能性がある。クリチャーチには以前に遭遇してその強さもあらかた理解した。損得勘定を秤にかけ、ついでに自分たちの居場所を襲撃から守ろうとする彼らの姿に何かを重ね。

 

『おいおい待て待て! このまま突っ込むつもりか!?』

「うおおおおおおおおおおぉぉぉ――――っ!!」

 

 ハンドルはフルスロットルに。ここまで音を立てると両者も当然気がつくが、関係ない。そのまま体を固定し、今にもヤガを串刺しにせんとばかりに並ぶクリチャーチ達。それをフラウロスの速力と強化した竜の外装によって、三つの首を一撃で吹き飛ばした。

 

 因みに、その時は恐怖の対象としてすごいビビられた。

 

「あ、そういえば俺村長の顔見たことないかも」

「俺もだ。旧種って俺らみたいに毛皮がないんだよな?」

 

 やいのやいのと、堰を切ったように会話の幅が広がっていく。

 顔だけ解放して「ほんとにつるつるだ」「毛がないってどんな感じなんだ?」やら話しているこのテンションを見る通り、今回狩猟に出ているヤガに大人は殆どいない。

 殆ど不死身に近い肉体を誇っているヤガだが、流石に心臓や頭をやられては死んでしまう。

 ここは人の手の殆ど入っていない世界の果て。生活圏のように殺戮猟兵による圧政に悩まされる心配も、狩り場の取り合いなどはないのだが、それは裏を返せば魔獣達の楽園ともいえる。

 

 いかに比較的弱めのクリチャーチと言えど、安全に狩れるのは周囲に仲間のいない場や素早く仕留められる場合のみ。群れを抜けて少し行ったら新たな群れ…というのもここらでは珍しくない話らしい。現に、今しがた狩り終えた集団も四つほどの群れが合流したものだったりする。

 

 そんなわけで、獲物はいるのに狙う機会がない。という状況で、狩りに出た大人の狩人たちが群れに囲まれて死亡。ヤガの肉体を維持するためには食料は必要だ。その状況を打開すべく残った若い衆がクリチャーチを狩ってきた帰り。仕留めたと思っていたクリチャーチが村の前で叫んでしまった。次々と湧いてくるクリチャーチに対応していると、俺が現れた。

  それがことのあらましだ。

 元々は、イヴァン雷帝や殺戮猟兵の圧政から逃れたり、過酷になるに連れ必要ないと仕事を追われた大道芸人達が逃れたのが村の成り立ちだ。彼らもそのヤガの子孫であり、身を寄せ合って暮らしているためか、価値観も首都周辺に比べれば柔軟な方だった。

 

 こうして迎えられた俺は戦力や知識が他より秀でているからということで、村長として扱われているのだ。まあ、これも俺がこの地を去るまでの間なのだが…。

 

 勿論、目当ての収穫はあった。ここが異なる歴史を辿った世界であること。ロシア以外の土地を認知していないこと。イヴァン雷帝を取り巻く、彼らで言う旧種の魔術師とサーヴァント。レジスタンスの活動などだ。

 これはライノールと議論した末の推測だが、ここは歴史のターニングポイントである特異点が、そのままに存続してしまった世界。そして、世界に修正されるであろうこの世界を、現実に繋ぎ止めているのが首都にあるあの巨大な何かなのだと。

 

 まあ、だからといって俺に出来ることは少ない。相手の戦力規模的に、俺ではどうあがいても勝てないのは明白だ。

 それに、これはただの希望論になるけど、物語的に考えてしまえばカルデアが倒すべき存在だ。そして恐らく、そちらの歴史には俺のような存在はいないのだろう。物語的に見てしまったら、こんなスタッフは扱いに困るだけだ。

 手助け出来ないこともないが、それは今後の状況次第だ。きっと、これからもこのような世界が広がっているのだろう。そして、それを解決するというのは、世界を滅ぼすと同義ということ。あの大木の恩恵を失った世界は、きっと別れた枝として剪定される。

 

 ……つまり、今までの歴史を直すための旅路ではなく、世界を救うために他の世界を踏みにじっていく、ということだ。

 きっと、真っ当な魔術師なら多少の感傷はあっても、何ら問題はないと割り切ってしまう。だけど、藤丸とマシュは気にしてしまうだろう。彼らにそのような重荷を背負わせたくないという気持ちはあるが、その覚悟がなければ今後の戦いは厳しいものになる。そんな予感がする。

 ………心苦しいが、超えなければならない壁として、極力手は出さない。

 

 こちらもまたライノールとの推測だが、きっとカルデアは一番最初にここへやって来る。殺戮猟兵との縁を辿って浮上するなら、ここが最も近くなる。資源も少なくなっている筈で、補給と調査を兼ねてくることだろう。

 

 会いたくない、と言えば嘘になる。一人で活動している俺よりも、サーヴァントなどの戦力のあるカルデアがより重大な情報を握っているかもしれない。

 俺がこうして一人と一台でいたのは無駄かもしれない。だが、ここで合流した所で俺に何が出来る? 中途半端な戦力になるくらいなら、身軽な第三者の立場であったほうが役立つこともあるかもしれない。

 結局は、俺のエゴだ。それに……セレシェイラとあんな風に別れたのに、こんな早くにノコノコと出ていくのは格好がつかない。馬鹿なことをと思うかもしれないが、男の意地は時に論理的な思考を超えるのだ。

 

「血抜き終わったぞ」

「よしよし、今回は多かったからな。村の連中全員を賄っても当分食ってける」

 

 と、これまでの情報を整理していると血抜きが完了した旨が知らされる。そんなにも長い間思考していたのかと少し驚き、得た肉を毒抜きして俺たちの口に合うように手を加えていく。

 ヤガはそのあたりも人間より頑丈なようで、俺が毒抜きしている間に、肉を切り分けて村のみんなへと分配していく。

 

 クリチャーチの味は、クセは強いが美味い。熊の肉に近いような味をしているが、これも調理次第で変わるだろう。虚数空間のお陰で腐らせることもないとあれば、この魔獣の楽園は最高の狩り場だ。

 

「それじゃあアシモフ。俺は工房に籠もるから、何か用があったら伝えてくれ」

「おう。とはいってもまだまだクリチャーチの肉はあるからそっちで呼ぶことはなさそうだろうけどな」

 

 青年たちのリーダー格であるアシモフに伝え、血抜きをしていた洞穴から、脇道へ逸れる。当然、その先は行き止まり。

 けれどアルカズルが指を動かす仕草を見せると、その岩は意思を持ったかのように動き始めた。

 ゴーレムだ。工房への道を隠すと同時に防衛戦力として控えている。俺自身はゴーレムが得意という訳では無いが、魔術師も珍しくなったこの世界では、魔力を纏った年代物の鉱石なんかが意外と放置されている。質がいいからその分いい結果が出せる。

 

 そのため、この穴蔵の岩壁でゴーレムを多数製造し、魔力の籠もった鉱石を採掘させるライン作業も出来ている。最低限のコストでより良い結果を出すに越したことはないのだ。

 

 ただまあ、戦闘力に関してはお察しといった所だ。正直単純作業くらいしか任せられない。画面の前では分からなかったが、Apocryphaでアヴィケブロンにより大量生産されていたゴーレムですら、俺程度では一年掛かっても仕上げられるかどうか、といった出来だ。

 

 俺が通過したのを確認したゴーレムが再び道を閉ざすと、中から陽気に指示を出す声が聞こえた。

 

『そらそら、掘ってけ掘ってけ! 一級の触媒がゴロゴロ出てきやがる! 世界がこんな時に言うのもあれだがここは天国か!?』

「ライノール」

『お、帰ったか』

 

 工房で設置しているマシン・フラウロスにて、ゴーレムへ指示を出すライノール。

 というのも、俺は視界外のゴーレムを意のままに操るような技術は収めていない。真剣にパスを繋げたならともかく、それをするとコストと意識を割かれることから割に合わない。

 ので、マシン・フラウロスの改修も含めて工房に配置すると同時に、内部のライノール自身にゴーレムの操作を任せるという力技でこのラインは形成されている。

 

「調子は?」

『クク、まあ見てみろ。上質な鉱石が既に数百キロは貯まってる。それより下のランクでも十分に上等なモンばかり。中には1000年モノの宝石まで出てきやがった。現代の魔術師なら喉から手が出るほど欲しい土地だろうよ』

 

 それはそうだ。というより工房を建てた俺ですらここまで好条件とは思っていなかった。

 話もそこそこに、引き続きライノールへゴーレムの指揮を任せ、俺は俺の作業へと取り掛かる。

 

「さて、じゃあこいつをどう改良するかだが……」

 

 目の前には『励振火薬』がある。これは魔力を籠めることで発火する火薬で、少ない魔力でも爆発的な火力を生み出すことが出来る。

 ヤガが魔獣の狩りに使用しているこれだが、銃身や弾に魔術的加工を施している魔術使いならともかく、火薬自体が特殊なのは初めて見た。

 まあ、これは数が少なすぎるせいもあるが。なんたって、まず魔術師は銃など使わない。仮に使ったとして遊び程度。傭兵の魔術使いが持っているかどうか、程度。それも、コストの関係で銃本体を強化するか、魔術が込めやすい金属部分へ付与しているかだ。ああ、一応魔力を着火剤として使うなら……いや、話が逸れた。

 

 まあ、そこに俺は目をつけた。こんな代物を扱う以上銃自体にもそれなりに魔術的加工はされているが、俺から見れば一系統に偏っている上に、練度もそこそこ程度。

 まあ、それで魔獣の狩りが出来ている以上、それで十分ではあるんだが、手を加えることは十分出来る。それに個人的に興味もある。

 材料は今掘り出している通り潤沢。新たなモデルの銃も可能だろうし、火薬の作り方は現役を退いた老人のヤガに教えてもらった。

 出来る限りコストを落とし、量産が可能で、かつ高性能に。

 

「難しい問題だけど、妥協して勝てそうな相手はいない、か…」

 

 ああ、今頃セレシェイラたちは、シャドウボーダー組は何をしていることだろう。願わくば、無事にこのロシアへと辿り着いてくれればな…。

 

 この日、陽が落ち魔獣すら寝静まっても、工房の光が絶えることは無かった。




やっぱり異聞帯って資源の宝庫なんだよな…
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