百合雰囲気ワールド在住一般百合アンチ   作:おりーぶおいる011

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19世紀、一人の作家が世界を変えた。

そう、大百合時代突入である。


プロローグ

 歴史において、マリー・アントワネットはこう言った。

 

《パンがなければケーキを食べればいいじゃない》

 

 その数百年後、パチー・モントワネットはこう言った。

 

《男性がいなければ女性を愛せばいいじゃない。なんならいても汝、女性を愛しなさいな》

 

 パチモンの戯言で終わるはずだったソレは、何故か爆発的な支持を得てまたたく間に全世界に広がった。そして数十年後、それは何故かマジョリティとなっていた。

 

 僕は切実にこう言いたい。世界はクソだ。

 

 ☆

 

「なに読んでるの?」

 

 背後から明るい声で話し掛けられて慌てて本を閉じる。声のした方を見ると、そこには愛嬌のある顔で少女が立っていた。

 

「香菜。おはよう」

 

 さり気なく本をしまいつつ軽く挨拶する。彼女は僕の幼馴染。名前は綾田香菜。肩までかかるくらいに揃えられた黒寄りの茶髪で、人当たりの良さげな笑顔が控えめに言ってかわいい子だ。

 

「おはよう有牧くん。それでなに読んでたの?」

 

 挨拶もそこそこに香菜が続ける。本を渡してやれば話は終わるが、だからといって読んでた本が本なだけに見せるのは抵抗がある。

 

「大したものじゃないよ。歴史の本みたいなもの」

「え、新学期初日から勉強?熱心さんだね」

 

 よかった。どうにか誤魔化せたみたいだ。かわりに僕が高校入学2度目の春から歴史書を読み込むガリ勉野郎になってしまったけれど。

 本には今をときめく百合文化について書き綴られていた。百合については学校でも必ず教えられる内容で、改めて読み耽るようなものでもない。

 18世紀末、世界中で男性の人口が激減するという未曾有の事態が起こったことを契機に、なんやかんやで19世紀の百合作家パチーモントワネットによって百合文化は飛躍的な成長を遂げた。

 現代の男女比は過去と遜色ないほどの復活を遂げたとは言え、一度根付いた文化はそう簡単に色褪せることはなく、百合の風潮は今も色濃く残っている。

 そうしてパチーモントワネット、詳細不明の彼女ないし彼は現代における同性愛の祖とされているのだ。

 

「今年は有牧くんと同じクラスかな?」

 

 高校への道をともに歩く最中、そんな可愛らしいことを言ってくれる幼なじみに、思わず僕に気があるのかと錯覚してしまう。

 だけど騙されてはならない。気を確かにしろ平角有牧。変な気を持てば殺されるぞ。

 

「どうだろうね。また女子でクラスが固まるんじゃない?」

「あれ、知らないの?2年からは男女混合になるんだよ?」

「……え?」

 

 飛び出した台詞に思わず耳を疑う。クラスが男女、混合だって?

 

「春休み前に学力テストがあったでしょ?それで全生徒含めてクラス分けされるんだって。知らなかった?」

「し、知らなかった……なんてこった」

「あれ?今のそんなに落ち込む要素あった?」

 

 落ち込むとかそういう問題じゃない。男女混合なんて、僕にとっては死活問題だ。

 この世に生まれ落ちて16年。誰にも言っていないことではあるが、僕、平角有牧には致命的な欠陥がある。

 

 それは、ガールズラブが大の苦手であること。

 

「は、はは……いや、ちょっとビックリしちゃってね」

「ビックリ?……あ、そっか。有牧くんって女の子苦手だもんね」

「ま、まあね」

 

 香菜には女嫌いと認知されている僕ではあるが、それは少し違う。と言っても、ほぼ同義みたいなものだけど。

 

「でも、私とはこうして話せるよね?どうしてだろう?」

「なんでなんだろうね」

 

 簡単だ。香菜と話すときは一対一だからだ。何人かでいるときに僕がいつものように話すことはないだろう。

 

「……あ!もしかしたらこれも幼なじみの特権かもね。ふふん。私と有牧くんは仲良しだもんね〜?」

「そうだね。ほら香菜、お手」

「あれー!?もしかして人間扱いしてないから話せるの!?」

 

 結局のところ、僕は女の子が複数人で集まっている空間が苦手なだけなんだ。周りに人のいない対面状態なら普通に話せる。

 なんだあのイチャイチャ空間。脳が焼けるわあんなもん。いや、別に普通なんだけどさ。

 

 そうこうしてるうちに校門が見えてきた。近づいたことで分かったが、前には褐色のいい健康そうな女性が一人立っている。

 

「あ、おはようございますメイデ──金田先生!」

「ああ、おはよう綾田。ところで今なにか言いかけなかった?」

 

 香菜が校門の前の女性に向かって声をかける。ただ、その際つい渾名であるメイデンと口にしそうになったのは間違いなくミスだろう。

 彼女の名は金田芽依。僕らの高校の生徒指導担当の女性だ。キリッとした眼など、一見すると冷血と捉えられそうな特徴と生徒指導ということもあり、ついた異名が鉄の乙女。それが簡略化されていつしかメイデンで定着したらしい。

 まぁ、ビックリするほどの美人なのに交際経験がないとかその辺も渾名の由来でもあるかもしれないけど。

 

「あっははー!気のせいですよ!」

「そう?メイデンとか聞こえた気がしたんだけど……平角は聞こえなかった?」

 

 ここで僕にふるのか。まあ、ただの世間話みたいなもので別に問い詰めたいわけでもないだろう。だから香菜もそんな眼差しで見るのはやめて欲しい。言われなくとも告げ口のようなことをするような男じゃないさ。

 

 僕は胸を張って、堂々と口を開く。

 

「香菜も言ってる通り、多分メイデンの気のせいです」

 

 僕だけが呼び出されることになった。

 

 ☆

 

「ちょっと口が滑っただけなのに、メイデンも頭が固いよもう……」

 

 生徒指導室から開放され、スマホを片手に2年生棟に足を運ぶ。

 僕が連れて行かれるときに見えた香菜のあのバカを見るような顔、今思い出しても納得がいかない。僕はわざわざ庇ってあげたのに。

 

 どこか釈然としないままメッセージアプリを起動すると、一番上にDとだけ書かれた新着のメッセージが一通。おそらくは僕のクラス番号だろう。どうやら件の人物は僕の分まで調べてくれたようだ。

 結構早めに家を出たはずだけど、既に廊下は生徒で溢れている。それもこれもあの堅物教師のせいだ。

 

「おっはよーみのりっ!」

「わわっ!ちょっとむぎ!急に飛びついてこないでって!」

 

 すぐそこでも仲良さげにじゃれ合う少女たち。朝から元気がいいね。

 

「今年も同じクラスだったね!」

「さっきみたよ。Aでしょ?」

「うん!しかもね!あの鳶色さんも──」

 

 聞き耳を立てているようで居た堪れない気持ちになるつつも、ついつい話し声に耳を傾けてしまう。というか、鳶色さんもAクラスなのか。

 

 鳶色蜜柑。あの、と形容されるだけあって彼女は一年の頃から名前をよく聞く人物で、学年首席を誇る頭脳とその容姿の美しさから学年を問わず人気があった。

 

 と、今はそれどころじゃないんだ。僕も自分のクラスに急がなければ。

 未だ続くじゃれ合いを横目に見ながら、僕は早足で自分のクラスへと足を進めた。

 

 ☆

 

 教室に入ると、僕を出迎えたのは数多の視線だった。辺りを見渡せば、教室内には数多くの少女の中にまばらに男が混ざっている。比率にして8:2よりの7:3といったところだろうか。なるほど、確かに香菜の言う通り男女混合クラスのようだ。

 

 それにしても……なんだこの空気?すごく気まずいぞ。確かに少し遅刻したかもしれないけど、だからってこんなに見られるものだろうか。

 

「はやく座らないか不良少年」

 

 突然の事態に硬直している僕の耳にそんな声が届いた。それにしても開幕からなんて言い草だ。言うに事欠いて不良少年なんて。

 反骨の意志も込めて睨むように声の人物へ顔を向けると、そこにいたのは僕のよく知る人物だった。

 

「……空輝も同じクラスなの?」

「おう。お前もDとは偶然だな」

 

 瀧本空輝、一年からの僕の友人だ。

 

「先生は?」

「まだ来てない。ただ、生徒はお前が最後だぞ」

「ほへ〜……だからこんなに見られてたのか」

 

 確かに、一年間クラスをともにする最後の一人となれば注目をあびるのは仕方ないかもしれない。

 そうして適当な席に着くと、唐突に空輝が話を切り出した。

 

「……にしても」

 

 そう呟くと、空輝は辺りを見回す。釣られるように僕も周囲を見る。視界に入ってきたのは去年とは全く別の光景。仲睦まじく会話する少女たちの姿だ。

 

「眼福だと思わないか?」

 

 神妙な顔つきで何を言い出すのかと思えば、出てきたのは煩悩まみれの猿みたいな台詞。これには僕も落胆を隠すことができない。

 

「新学期早々何言ってんの?」

「バカだな。新学期だからだろ。去年は男女別だったからな」

「僕としては今年も同じでよかったんだけど……」

 

 僕の台詞に返答がないことを訝しみ顔をあげると、信じられないような顔をして僕を見つめる空輝の顔。そしてそのまましばらくして、彼は不意に何かに思い至ったような顔をしたかと思えば僕を睨みつけながら後ずさった。

 

「お、お前……俺にその趣味はないぞ」

「死にたいのか君は!?」

 

 何てこと言い出すんだろうコイツは。風評被害も甚だしい。

 

『え、あの二人ってそういう──』

『ば、薔薇文化……』

『有牧くん……女の子苦手ってそういう──』

 

 なんてことだ。聞こえてくるひそひそ話が致命傷である。どうなってるんだこのクラス。拡散力が尋常じゃないぞ?

 というか女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。昔の人物に称賛を送りたい気分だ。できたら対処法までしっかり伝えておいてほしかったところだ。

 

「な、なんてことしてくれたんだ空輝……!これじゃさっきメイデンに叱られながら考えた『Dクラス百合ぶち壊し大作戦』が台無しじゃないか!」

「お、俺のせいか──お前今なんて言った!?」

 

 くそぅ……!我ながらいい作戦が思いついたのに。これじゃ最初から練り直しだ。

 

「お、お前知らないのか!?『百合の間に挟まる男』は重罪だぞ!?」

 

 小声なのに捲し立てるという謎技術を僕の耳元で披露してくれた空輝。

 そうやって顔を近づけて周りに聞こえないようにするのはいいが、気持ち悪いから離れてほしい。空輝の顔を払いのけながら、言葉を続ける。

 

「僕、百合って嫌いなんだよね」

「だ、だからってお前なぁ……知ってるだろ?『百合保護協会』のこと」

「もちろん知ってるさ。反吐が出るよね」

「!?」

 

 百合保護協会、名前の通り百合文化保護のための過激集団。僕がガールズラブが嫌いな最たる理由だ。

 

「別に僕は百合が嫌いなわけじゃないんだ。好きではないけど妥協だってできる。ただ、あの集団は別だ」

 

 そう、僕が嫌いなのは百合じゃない。百合文化だ。

 女の子が何人か集まった空間があるとそれは百合認定、なんだそれ?僕にはただの友情にしか見えない。

 少女たちの熱い絆、繋がりが気がつけばレズに早変わり。親しい男の影は解釈違いで存在抹消。*1それが百合保護協会の恐るべき能力である。

 

「思ったんだ。社会はクソだって」

「お、おお……!」

「だから僕は、あの集団に地獄を見せてやりたい」

「おお……!」

「だから、この学園を普通のラブコメ学園に変える──!!」

「おお!!」

 

 平角有牧16歳。決意の春である。

*1
強めの偏見




平角有牧:ガールズラブは苦手。百合保護協会が嫌い。

瀧本空輝:友人。可愛い幼馴染がいる。一般転生者。

綾田香菜:かわいい。

百合保護協会:過激派。すごく強い。



世界観:全体的に女の子同士の距離感は近い。
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