ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
この辺の話を書いていた時はまだライザ2が発売する前でした。
まさかアニメ化するとは。
アニメ化万歳!
暫くはゲーム本編の前日譚になります。
第一章終了まではテンポが冗長気味ですのでご了承ください。
1. 1日目 島一番の道具屋さん
クーケン島っていう、なんてことない島の、ラーゼンボーデンっていう、なんてことない村。
そこで、なんてことないあたしは暮らしている。
……なんてことない日々を変えたいと、焦がれながら。
あたしは、ライザリン・シュタウト――通称はライザ。なんてことない、農家の娘。
そんなあたしは、今日も今日とて屋根裏にあるあたしの部屋で仲間たちと密かな計画を話し合っている。この退屈な、なんてことない日々を打ち破る痛快で素晴らしい計画を実現するために。
乾期も迫る、青くて深い夏の空は――絶好の冒険日和だ!
「うん。出だしとしてはこんな感じかな」
今日も今日とて計画を練りながら、思わず口に出た。
ずいぶん前から考えてた……退屈な日々を打ち破る計画。島の外への冒険。
まだレントやタオにも話していない。そもそも詳しい手順を練るつもりもないし。
「ただどうやって島の外へ出るか」という、それだけの話なんだけどねえ。
この島は掟だらけだ。わかりやすくは「島の外に出るな」って事。
行商に来る人たちやロミィさんのように、島を出入りする皆から島の外の話は何度も聞いてる。
島の外には「魔物」がいて襲われるかもって事、時には命を落とす人がいる事。
だけど行商のために島と街を行き来している人たちもいるんだ。
島の外に出た途端に魔物に出遭って大けが、とは思わないんだけどなあ。
「かもしれない」や何の由来か分からない掟を怖がって、閉じこもっているだけじゃ何も変わんないってのがあたしの自論だ。
今度来るっていう王都の商人さんを招いたのだって、モリッツさんが島ではありふれたクーケンフルーツを特産品として売り出そうと新しく考えたからだし。
やっぱりというか、古老は反対してるらしいけど。
島では貴重な水源を持ってるって事由来の権力で、かなり強引な話の進め方が多いモリッツさんだけど商人として優秀だ。
島の外を知らないあたしたちじゃ珍しくもなんともないクーケンフルーツが、王都では特産品に化けるなんて考えないよね。
「いつもの毎日」に変化を出すなら――自分から動かなきゃ。
そんなこんなで動いた結果、時には騒ぎになったりでいつしか島の護り手であるアガーテ姉さんたちから「悪ガキ3人組」とか呼ばれたりしてるけど、全部間違ってたなんて全然思ってない。
なんでもやってみなきゃ分かんないよ。まあ……やり過ぎたと思う事は何度かあったかな?
あたしももう17歳。
お父さんたちを否定するわけじゃないけど、農作業は飽き飽きなのだ。
「ヴァッサ麦の気持ちを考えてごらん」と言われてもあたしは麦じゃないし、根を張って動かない生き方じゃなくて動くための足があるんだから。
子ども扱いな歳も過ぎたでしょ? レントも18だし。タオはまだ15歳だけどね。
とにかく一人前として自分で動いて、何かおもしろ……自分の力で為すんだ。
そんなある種の野望のために、あたしは島の外に出る計画を立ててる。
とは言っても考えてるのは外に出る方法。つまり舟の入手と、どうやってバレずにいくか。
ただまあレントとタオの3人で舟を作るのは難しいだろうし、結局漁師さんたちが使ってる舟を一隻借りる、かな? みんなで共有している物だから一隻くらいなんとか……。
問題はアガーテ姉さんたちにバレない方法が……う~ん。
港から離れたタイミングを狙うしかないかぁ。
奥の手として家の裏手の浜にかなりボロっちい舟を見つけてあるけど、アレに乗るのは怖いし直すのも~と思うからあんまり使いたくないんだよね。
そしてもう一つ、大切なのが「自衛手段」。
周辺の魔物がどんななのか知らない(ロミィさんは「ぷに」とか言ってた)けど、武器はないとね。
幸いあたしは杖で魔法が使えるし、レントはザムエルさんが使っていたっていうおっきな剣、タオも元々農具用だったハンマーでいけるはず――あれ? そんなに問題なくない?
とは言え、あたしの杖はお母さんのお下がりでさすがにボロボロだったからちょっと補強した。
自分で言うのもなんだけど手先は器用なほうだ。結構うまく出来たんじゃないかな?
だけど、こういう補強や道具作りにとても長けた人をひとり知ってる。
だから計画を進めるために、いつもの様に農作業をサボってその人が住む旧市街に向かうとしましょう!
「アルさんなら深く理由とか聞く人じゃないし、大丈夫よね?」
「まあ、あの人は基本俺たちのやる事を笑ってみてくれてるしな」
「僕の解読作業にも興味を持ってくれてるし、島の大人たちより僕ら寄りだよね」
道中たまたまレントとタオと合流したあたしは、2人を連れてその人のもとへ向かっている。
計画は話してない。ただの昔の道具の修理、魔法の練習のためって形。なぜ杖を直す必要があるのか、というのを島の大人たちなら聞いてきそうって話を出したところだ。
「しっかし……あの人本当に器用だよな。作った道具はすげえ丈夫で切れ味も良いし、石から金属作れるんだろ? 一回話聞いて全っ然分からんかったけど」
「たしか「バケガク」って言ってたね。アルさんが言うには「植物に水をあげたら育つのと同じだよ」って。僕もあんまり分かってないけど、島の外ってそういう技術があるのかな? まあそうだったら、もう少し鍬とか鎌とかが手に入りやすいと思うんだよなあ」
「アルさんのおかげでいろんな道具が安く手に入るようになったし、効率のいい水の流し方とか良く効く肥料とかも知ってるってさ。ボオスどころかモリッツさんや古老も一目置いてるって話だし、アガーテ姉さんが言うには組手も強いって」
「……ボオスの野郎の評価なんざどうだっていいが、古老もか? おまけに格闘? ホントになんでもありだなあの人。俺たちとそう歳変わらなさそうだよな?」
こんな話をしてるけど――ホントに多才、というか万能の一言よね。
10年前にクーケン島に流れ着いたという異邦人。
汽水湖であるエリプス湖に浮かぶこの島だ。漂着者なんてアルさん以外にあたしはほぼ知らない。当時はとても痩せていて、文字通り「骨と皮のようだった」とアルさんをお世話していたアガーテ姉さんから聞いてる。
言葉は通じたけど自分の名前以外ほとんど覚えてなかったアルさんを、案の定というか、島の大人たち(特に古老)は最低限の世話だけ見て追い出そうとしてたって。信じらんない。
子どもだよ? だけど――とても珍しい漂着者、見た事ない金色の目、覚えてたっていう単語も大人たちの知らない事ばっかって事で、掟重視の古老たちはダメだった。
二回言うよ? あたしは信じらんない。
でも体力が戻って、「島にお返しを」っていうアルさんの働きぶりに大人たちの評価は一変。
すっごい便利な道具を作って、みんなの生活やお仕事を楽にしていったって。
行商人の人たちも商売あがったりと言いつつ……文句というかは苦笑だったわよね?
その後も新しい道具を考えたりアガーテ姉さんと一緒に護り手も経験済み。そんなこんなでついには古老すら認めさせちゃった。今のあたしたちよりずっと子どもだったのに「すごい」の一言よね。子ども扱いされたくないあたしだけど、アルさんとは比べられたくないなぁ。
そんな、今や島で知らない人はいない有名人は――『アルフォンス・エルリック』って人。
旧市街の一角。シンシアさんの学び舎のそばにあるお店、『エルリック工房』。
メインは道具の販売や修理なんだけど、さっきの話みたいにホントはもっといろいろやってる。
扉の札は『OPEN』、ご在宅だね。
バァン!
「ごめーんくーださ~い!」
気負うことなく店内に突入。「普通に入りなよ……」ってタオの声がするけど、自宅以外で一番入り浸ってるといえるここに遠慮も何も今更じゃない?
「ライザかい? レントとタオも、いらっしゃい」
奥の作業場から店主のアルさんが微笑みながらやってくる。
2人も「こんちは」「お邪魔します」と素直な返事。
背丈はレントよりも高いくらい。歳は……ホントにいくつなんだろう?
アルさん本人も知らないらしいけど、20を超えているようであたしと同じくらいかも。
レントより少し長いくらいの髪に、タオに近い髪の色。そして金色の瞳。
筋骨隆々じゃないけどわりとがっしりした身体。流れ着いたばかりの頃が信じられない。
見た目は間違いなく男の人なんだけど、どこか女の人にも聞こえる優しい声だ。
「3人一緒なのは珍しくないけど、ライザが荷物を持ってくるのは珍しいね。修理かい?」
「俺たちはいつも通りライザに振り回されているだけっすよ」
「ちょっと、どういう意味よ!」
「そのままの意味だと思うけど?」
「いつも通りだね」と笑うアルさんは荷物を持つあたしに確認。
「それでその、持っている物の修理でいいのかな?」
「あっはい! 修理というか……補強かな? 状態を見てもらいたくて」
持ってきてた、布を巻いていた杖をお披露目。そのままでも良かったけど一応巻いておいた。
アルさんは杖を一瞥して……「うん」とうなずき。
「ライザが補強したのかな? よく出来ていると思うよ」
パッと見で分かるんだなあ。補強してある事とやったのがあたしだって。
この人にほめられるのは結構、いやかなりうれしいのだ。
「ほんと!? けっこう自信はあったんだけど。いやぁ~照れるな」
レントとタオがなんだかあきれ顔なんだけど――なによその顔。
「それで……言った通りよく出来ていると思うけど、その具合を詳しく見ればいいのかな?」
「はい! それとまだ補強とかやり方があったらやってもらいたいのと教えてもらいたいのと……」
「ライザ、アルさんもお仕事があるんだからお願いしすぎだよ」
タオの指摘に「うっ」と返してしまう。たしかに舞い上がっていたノリで話しちゃった。
でもアルさんはにこやかだ。
「大丈夫だよ、今日は手が空いているから。きちんと見るなら少し時間を貰う事になるね。2人はどうするかい?」
「いえ。言った通り俺たちはライザに振り回されただけなんで」
「僕も家の作業に戻ります」
「あんたらねぇ……」
なんというか。武勲を立てて晴れた日に北の方に見える事がある謎の塔を目指す事と、古い文字の解読作業っていう自分の興味がある事ではあたしを振り回す側のこの2人に言われるのは、なんかイラッとするわね。
「そうかい? お茶菓子くらいは出せるよ?」
「いえ! ライザに加えて俺までアルさんに迷惑をかけるわけには!」
「ちょっと!」
言いたい放題のレントに大きな声が出ちゃう。
そんなやりとりをアルさんは笑顔で流し。
「分かったよ、次に来た時用に珍しいお菓子でも準備しておこう。甘くないやつをね」
「……やっぱ分かります?」
「分かりやすいよ。タオもまたおいで。新しい本が手に入るかは分からないけど」
「気持ちだけでもうれしいですよ。ありがとうございます」
そんなやり取りをして2人は工房を出ていった。店内はあたしとアルさんの2人きりだ。
「さあ、早速見ようか。作業場でやろう」
アルさんについて、道具がたくさん並ぶ店内を奥に進み作業場へ。
何回か入った事はあるけど島じゃ見ない道具――というか設備? でいっぱいだ。
ブルネン家の人たちも見た事がないんじゃないかな。
あとは端っこに置かれた、誰が着るの? っていうおっきな鎧。インパクトバツグンだ。
そこで口にしたアルさんの第一声は。
「島の外に行くのかい?」
だった。
なんというか――凍った。
アレ? そういった話は一切アルさんにはしていないはず……多分。レントやタオにも話してない計画を、訪問理由と杖を見ただけでわかるの? あたしってそんなに分かりやすいのかな。
「図星かな?」
「うっ……まあ、はい。そのつもりです。なんで分かったんですか?」
「3人の中でライザが一番日常を持て余していて、でも行動方針に一貫性がないとは思っていたからね。杖の補強というなら物理的かつ魔法の強化。それが必要な状況は、と考えれば魔物との戦いを予想するよ」
「まあちょっとはカマをかけたけどね」とアルさんは微笑みながらの説明だ。
「その……止めたりとかはしないんですか?」
特別それっぽい事を聞いたわけでもないのに、あっさり見抜いちゃったアルさんにどうしても
だけどアルさんの反応は。
「いや? 止めるつもりはないよ。まあカールさんやミオさんの心配事を増やす事と、島の掟を破る事を勧めるってわけじゃないけどね」
意外にもそう答えたアルさんは、さらにこう付け加えた。
「だけど早いうちに色々経験する事は大切だと思っているよ。後で役立つ事は多いだろうから」
助かったぁ~。正直この人に反対されていたらあたしもそのままってのはムリだからね。
「ほっ、ありがとうアルさん。全力で反対されたらどうしようかと」
「あはは。僕自身色々と掟破りをしてしまっているからね。ただ……島の外に出るならキチンと準備をした方が良い事と、その行動は自己責任だって事は言わせてもらうよ? 僕も庇ってあげられない。ライザの選んだ行動にライザが責任を持つって事が大人への第一歩だからね」
「大人の責任ってやつですか?」
大人の義務か。自分の行動の結果、それに責任を持つ事。
いまいちパッとしない事なんだけど。
「例えば。ライザが誘って3人で島の外に出て、タオが魔物に襲われて大ケガをしたとしよう。命はあったけど……腕や足が不自由になったとして、その後のタオの生活やご両親へのお詫び、治療費、夢が絶たれたタオのフォロー。その全てを背負う覚悟がライザにあるかい?」
「そこにカールさんたちは頼れない。それが大人というものだよ」と、アルさんは諭すように語りかけてくれた。
雰囲気は厳しくない、けど内容は重いわよね。
あたしはなんて事ない日常に変化を求めて島の外に行こうとしてる。
でも思いつく「悪い」の結果を浮かべると……怖い、かな。
「まあ、だから行く事を否定しているわけじゃないんだ。行くならそれ相応の準備をして、島の外と魔物に対する知識を得ておく。しっかりとね」
アルさんがそう言うと雰囲気が和らいだ。
と同時に、あたしの中で一つの疑問が浮かんだ。
「外と魔物に対する知識を――って、アルさんは島の外に出た事があるんですか?」
その返答はあっけらかんとした物だった。「うん、あるよ。割としょっちゅう」と。
「ええぇ!? いやでも、アルさんは行商人じゃないし掟やアガーテ姉さんとかどうしてるんですか!?」
予想外の内容。
今まで通りの生活をってところで、新しい道具や考え方をしていく掟破りは分かるよ?
でも、自分でも危ないって言ってた場所にしょっちゅう出向いているなんて。
「僕の仕事は道具製作、となると材料にどうしても金属や木材が必要なんだ。クーケン島は魔石を除いて鉱石がないし、行商人から仕入れるのにも限界がある。だから自力で島の外から鉱石や木材とかを採取しているんだよ。これはアガーテさんや古老様もご存じの事さ」
ええぇ。
色々してるって、まさかここまで?
こういう件ですらあの古老すら認めてるって……頭に浮かばないよ。
「まあこの辺の話はそのくらいにして、と。自衛が目的なら甘い見積もりは出来ないね。取り敢えず今の段階で補強出来る事を考えようか。ライザ、杖に魔力を通してみてくれるかい?」
おっと、頭を戻さなきゃ。
魔力を通すって事はそれに関する調整も見てくれるのかな?
ただなぁ。
「えっと、その……どのくらい杖をみてくれる予定なんですか? 本格的なのを考えてなくて、やってもらうにしても持ち合わせが」
あたし自身の稼ぎは、悲しいながらもちろんゼロ。
アルさんやロミィさんのように商売しているわけでなし、貯めてきたなけなしの小遣いだけ。
うぅっ、無駄遣いしてなきゃ少しは……。
「いや? お代は大丈夫だよ。ただライザが島の外を出歩くようになったら……材料の採取とかをお願いする形でどうだい?」
島の外を出歩けるって決まった話じゃないのに、そんなお願いでサービスしてくれた。
――本当に、人が良すぎるよアルさん。
「ありがとうございます! 絶対依頼は受けますから!」
そう言うとアルさんは「よろしく頼むよ」と笑顔で返してくれた。
アルさんに言われた通りあたしが杖に魔力を通して、様子を見ていくアルさん。
光を放つあたしの杖に「やっぱりライザの魔力は強いんだね」と言いつつ、あとは腕の長さや背丈(161センチだった)を測って色々調整してもらえるって事に。
軽く見てもらえれば~くらいに思ってたけど、あたしの想像を超える大改造になりそうだ。
話が大きくなってきた感があるけど、今は乗っかろう!
2、3日預かるって事だったから、アルさんに杖を預けてその日は家に戻った。
帰ってからお母さんにガミガミ言われたのは語るまでもないね。
ただあたしは――アルさんの本格的な改良がもはや別物レベルな場合があるのを、すっかり忘れ去っていたのだった。
いかがでしたでしょうか?
登場人物などの説明は個別には記さず、話の中で出していこうと思います。
投稿に慣れずちょっと手間取りそうですが、よろしければ次話をお待ちください。