ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
遂に100話まで来ました。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
続けてこれたのは読者の皆様のお陰です。下書きがあってもモチベの変動がすごかったもので……。
この章からは元々の下書きがなく、連載を開始してからの作文になります。
ストーリーとしてもオリジナル要素が多くなります。
ですので原作や続編と比べると、より乖離が大きくなりますがご了承ください。
二体の女王との決戦の翌朝、アルの身体と災厄に関する情報収集からスタートです。
今回もよろしくお願いします。
100. 85日目① 教えて大精霊さん!
「それじゃあ行ってくるね」
「気を付けて行くんだよ」
「昨日みたいに遅くなるんなら事前にちゃんと言いに来な」
「まあまあ母さん、僕としては予感が外れただけでも嬉しいんだ。もう無茶はないさ。だろう? ライザ」
「本当に貴方はライザに甘いねえ」
ははは……。
今度はオーレン族の御伽話の存在にケンカ売りますって言って、納得してくれるかな?
やっぱり親って分かるのかなあ。あたしがヤバい橋を渡ろうとしたって事。
昨日はあたしの表情が明るかったって事で、お父さんの仲裁の下にそこまで長いお説教じゃなかったけど……もう少しだけワガママさせてもらうよ。
あたしも含めて――みんなのために、ね。
今日は早め、6時の出発だ。
ガランガラン
「おはようございます」
今日はみんな売り場側にいた。
昨日の事はやっぱり現実だったらしい。うれしい事でもあるけどね。
工房に入ったら、まず目に入ったのが鎧の動く姿。これはヤバい。
アルさんやクラウディアのお客さんにとうとう魔物まで含まれたと思われかねない。
逆に言うと、このクーケン島でその程度っで済みそうなのがすごい。
『いらっしゃいライザ、おはよう』
「おはようライザ! ちゃんと眠れた? 朝はもう食べたよね?」
「おはよう……あさはひっかいたべなひゃだめだお」
『キミは食べながら喋るのをやめなさい』
そんな鎧から聞こえてくる声がまたカワイイんだから二重の意味でびっくりだ。
島の人たちには懐かしいって思い出す人がいるかもだね。
クラウディアはテキパキと準備中だ。お店があるから今日は留守番だね。
キロさんは……なんだか眠そう? まだなんか悩んでるのかな。泣き疲れてたのかも。
実際昨日はヤバかったんだもんね。特に多分、キロさんとあたしは。
今こうして、比較的昨日までみたいな朝を迎えられてるのは奇跡なのかもしんない。
いつものようにパンケーキをもっしゃもっしゃ食べてるから大丈夫だろうけど。
さて。
「もう向かいますか?」
「ん、長引かせる理由がないからね。リラも待っているし」
『大侵攻が止まったとはいえ、島の方はアンペルさんとタオに確認してもらわないとだし。封印の方も実際にどうなっているか分からないからね。急げる所は急ごう』
「みなさん、気を付けて行ってきてくださいね!」
聖塔で雷の大精霊に会うのはあたし、アルさん、キロさん、リラさんの4人。
昨日の仮予定の通りクラウディアはお店、アンペルさんとタオは戦士の証が使えそうかの確認。
ただあたしが持ってるヤツは危険すぎるって事で、キロさんの持ってた欠片で試す事になった。
幸い数秒でエレメントを吸い尽くされるって事はないらしい。相当気怠くなるらしいけど。
レントはフィルフサの残りがいないかの哨戒だ。
ボオスは事情を知る事になっちゃったロミィさんと作戦会議の予定らしいけど……。
あれだけ何かを諦めたようなボオスを見たのは初めてかもしれない。
いろいろロミィさんからダメ出しされたりする? 後で聞く事になるかな。
「待っていたぞ。やはり遠目にも目立つな、その姿」
『島で十分に思い知りましたよ……やっぱりあっちとは世界感が違うなあ』
「あせりましたね……姉さん目がマジだった」
「しっかり職務を果たしているだけとも言えるけどね。ボオスとロミィに感謝だよ」
リラさんと対岸で合流したけど、その前にひと悶着あった。
港に行くまではよかったんだけど、その港で警備中のアガーテ姉さんに見つかっちゃったのだ。
姉さんもオーガヘッドの存在はもちろん知ってる。
だから魔物化したと勘違いして「貴様ーー!!」って切りかかられる寸前まで行った。
姉さんはアルさんがオーガヘッドに思い入れがある事を一番長く知ってたからね。
で、ちょうど日課の見回りに出てたボオスと既に行動を共にしていたロミィさんが止めて、キロさんの魔法と説明。なんとかその場をしのいだのである。
『この姿で島を出歩くのは不味そうだなあ。夜に帰るしかないか』
「今はもうアガーテが知っているんだし、警邏の人には伝わっているんじゃない?」
「護り手の人たちがよくても、あそこは「クーケン島」なので多分ダメですね」
「面倒な事だ。しかしそんな理由でやる事を遅らせるわけにはいかない。荷台にでも載せて運ぶとしよう」
荷物扱いだけどしかたがないね。
聖塔までの道のりはもうハイキング状態だった。だって。
「失せろ!」
「Uri . なんで魔物って力の差が分からないんだろうね?」
『本能、なんじゃ、ない!? それっ!』
ドゴッ! ボウッ! バキャッ!!
大人組が、一切加減してないから。あたしの存在意義はどこへやら。
風のごとく駆け抜けイタチを切り裂くリラさん。
火炎弾を雨のように降らせてワイバーンを火だるまにするキロさん。
そして……大型ゴーレムを殴り倒す鎧のアルさん。あれ、ゴーレムって物理耐性なかったっけ?
アルさんは鎧姿になっても戦闘力は全く落ちてない。動き自体は遅くなってるはずなのに。
むしろ『懐かしいね、この感じ!』ってテンション高めで戦ってたくらいだ。
ホントに、あっちの世界では鎧だったんだなあって分かるね。
アレかな? 身体がガリガリになっちゃったから鎧を動かして旅をしてたのかな。
それで殺されかけるってどんな世界だったんだか……。
『来たか、巫女』
「ご無沙汰しております。雷の大精霊様」
ピオニール聖塔の頂上、異端の研究室ってアンペルさんは言ってたかな。
前に来た時は大きな聖石に圧倒されてたけど、今は目の前にいる存在に圧倒されてる。
バカでかい椅子に座った黄色系統の配色の女の人。この人が雷の大精霊さんらしい。
別の世界の存在だから人型って言ってもそれなりに別物かなって思ってたけど、わりとあたしたちと変わんないね。
『今度は……随分と妙なモノを引き連れて来たな。しかも感じた事のある気配』
『アルフォンス・エルリックと申します。闇の大精霊様に伺った限りでは光の大精霊様に召喚された存在、との事ですが』
『我らが顔を合わせるのは頻繁ではないでな。以前は数千年前だったか。故に汝の話も届いていない……が。汝であったか、この懐かしい気配は』
『えっ?』
口をはさむ雰囲気じゃない。けど、大精霊さんはアルさんを何らかの形で知ってるっぽいね。
「以前仰っていた件ですか?」
『ふむ、巫女に付いた残り香はこのヒトカタの物のようだ。まあその辺りはよい。用件を言え』
「――災厄について、になります」
『……ほう?』
大精霊さんの気配が変わった。空気がピリピリする。
知ってるみたいだ。
『わらわに何を聞く?』
『今の災厄の状態です。昨日、この世界で闇の大精霊様が管理されていた災厄の「
アルさんの説明を聞いて、大精霊さんは思案顔……なのかな?
幸い悪い雰囲気じゃなさそうだね。心臓に悪いけど。ものすごい圧迫感だ。
『汝は形代という事か。わらわが把握しているのは災厄の存在が一時莫大に膨れ上がった事、わらわから封印に流れる力が増えた事だ。闇のやつからは何も聞いておらんが……汝の話が
「アルさんだけじゃ、抑えきれてない?」
『汝は? オーリムでなく此処で生まれた存在のようだが』
あっ、口に出ちゃった! まあいいや、どうせ挨拶はしなきゃだしね。
「ライザリン・シュタウトっていいます。この塔の南のクーケン島に住んでる錬金術士です」
「私はリラ・ディザイアス。シヴドルの白牙氏族の者です。この娘は此処とオーリムを繋ぐ門を閉じる為に尽力している協力者になります」
リラさんがフォローしてくれた。安心するね。
『錬金術士、か。オーリムの巫女と守護者と共に行動しておるという事は、以前の阿呆共とは違うらしい。問うが、形代の本体が封印に作用しておると?』
「そう思ってます。実はそれを確認するためにここを訪ねたんですけど……」
『ワタシの本体の意識は封印の場に召喚された直後に喪失しています。何らかの形で封印に関与していると考えているのですが』
やっぱりクリント王国の錬金術士の人たちは嫌いらしい。よっぽどだったんだろうなあ。
聞いた感じ、雷の大精霊さんは現場を把握してないっぽいね。
『仔細は分らぬが……汝の気配に覚えがある以上、災厄の封印と無関係とは思えぬな。加えてそこの錬金術士の言葉通り、我らの力を足しても平衡しているとは言えぬかもしれぬ。恐らく近々喚ばれるであろうな。が、分かるのはそこまでの事。正確には光か闇のやつに問わねばなるまい』
「雷の大精霊さんから闇の大精霊さんに聞いてもらうって事は出来ないですか?」
『何年先になってもよいならな? 次に此処に降り立てるのがこの時空で何時になるかは知らんでな。離れて伝わる内容は極めて簡易なものでしかない」
時間の流れが違うんだっけ。すぐなら助かるけど逆は大変困るね。
「我々が謁見させて頂く事は可能でしょうか?」
『さてな。わらわが汝らを封印に導く事は出来ん。招く事が出来るのは光と闇のみ――巫女であれば祭壇から祈れば、分霊を喚ぶ事は叶うやもしれぬな』
「光か闇の大精霊様を祀った祭壇……この辺りには残滓なんて」
『キロさんも知らない?』
「うん……急いで探さないと」
しっかり状況を知ってるのは光か闇の大精霊さんだけ。
会うにはここみたいに祭壇的な何かを見つけなきゃいけない。けど、キロさんすら知らない。
祭壇、祭壇なあ。地図を頭に浮かべて……どっかにソレっぽいものは。
……あ。
「では手分けして探すとしよう。大精霊様、ありg」
「ちょいちょいちょいありますありますありました!!」
『?』
「ちょっライザ!?」
『落ち着こうライザ! ねっ!』
つい思わずでっかい声を出しちゃった! 大精霊さんもポカン顔だよ!
おかげでキロさんとアルさんはパニック気味、リラさんは……ひえっ!? 見ないふり!
「ごめんなさい! 祭壇って、ライムウィックの丘のやつじゃないですか!?」
「……あの遺跡の祭壇? 祭壇には違いないけど、一切の光か闇のエレメントの残滓が……」
『あやつらは此処に与える影響がわらわより大きい故、滅多な事では現れぬ。力を同じくする存在でも感じぬ限りは――故に残滓すら消え失せたやもしれぬな。しかしまあ……くっくっく』
可能性としてはアリっぽい! 幸い大精霊さんも怒ってなさそう……というか笑ってる?
「大精霊様、大変失礼を」
『いや、よい。永く存在してきたつもりだが、これほど腹にまで響く声なぞ聞いた事が無くてな? 大抵畏まっているものだが流石は赤子、面白いモノよ』
大精霊さんにおもしろ認定されちゃった。喜んでいいのかなコレ?
ある意味偉業かも。
『錬金術士も捨てたものではないらしい……やはりな、喚ばれるか』
「っ! では」
『封印が安定している、とは言えんのだろう。ああ、汝には力を与えると約したな?』
「必要であれば……と。よろしいのですか?」
『必要性が不明瞭ならば本来あり得ぬが、災厄の封印に関わっておるのだろう? 封印が安定せぬ限り、もう此処に召喚される事は無し。面白い物も見られれば懐かしい気配も感じた。駄賃だ』
ギリッギリだったわね。あと少しでも遅れてたらアウトだったよ。
それにしても……大精霊さんの力なんてお小遣い扱いでいいのかな?
キロさんに黄色い光がポウッって灯る。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました、大精霊様」
『使い方を誤るな。形代と錬金術士、協力してやれ』
「もちろんです!」
『お力添え感謝致します』
『ではな』の言葉を最後に、雷の大精霊さんはフッと消えた。
圧倒的な存在感が一瞬で消える感覚はすごいわね。
「はぁ~。最善ではないけど十分な収穫だったよ。力も道筋も得られた」
「ライザが叫んだ時は思わず拳を握ってしまったがな」
案の定ヤバかった!
「ごめんなさい! あんまりにもバッチリ思いついたから……」
『まあ大精霊も笑ってたし大丈夫だよ。でも、状況がいいとは言えないみたいだね』
「急いでよかった。でも、まだ足りないね」
「すぐに向かうか?」
「そうだね、なんにしても試してみないと。ライザの勘が当たっている事を祈ろうよ」
なんだか、背負わなくていいはずの責任と圧をひしひしと感じるよ……。
聖塔の南のライムウィックの丘――稀なる者の祭壇。
アルさんがそう呼んでたからそういう地名なんだろうけど、どういう意味なんだろうね?
まああたしたちの島の「クーケン」てのも知らないし、名前なんてそんなもんか。
キロさんも何度かここを通ってるから、大精霊さんの祭壇だったらなら普通は気づけてた。
けどキロさんは気づかず、アルさんもそれを知っていたからここを候補に挙げなかった。
つまり……あたしの物覚えが悪かったから候補になった、と。
「複雑だなぁ……」
『何か分かったのかい、ライザ?』
「あ、いえ、ごめんなさい。なんでもないです」
いけないいけない。大事なとこなんだからどうでもいい呟きで場を乱しちゃダメ。
「見晴らしがいい場所だから影のボトルの世界を思うと、こちらは光の大精霊様の祭壇か?」
「……いや、違うよ。これは闇の大精霊様の祭壇だね。もう残滓とも言えない、偶々残った埃と言ってもいいくらい薄いけど、私と共鳴している」
お、当たりだった! これは大きいね。すぐに話が聞けるかもしれない!
『喚べそうかい?』
「それが……ゴメン。今の私じゃ闇を扱えない。昨日話したみたいに私の身を潰す勢いで完全解放するしか思いつかないかな。昨日の戦闘中は1回いけたのに今は反応が来ない。感情不足かな?」
「本来人の身で取り扱うエレメントではないんだ。ましてや宿すなど奇跡に等しい。使えないのが普通なのだから気に病むな。都度あんな殺意を宿していたら精神に異常をきたす」
「キロさんってどういう風に精霊と対話してるんですか?」
初めて会った時にも聞いたけど、詠唱で精霊にも分かる言葉を使ってるって話だったよね。
でも今回はキロさんの身に宿してる蛇? との対話。一緒ではない気がする。
「ん~前にも話したと思うけど、精霊に本来言葉は要らないんだよ。必要なのは私達側の都合で、言葉無しでは理解が難しいからだね。発声して
必死だった。つまり会話なんて状態じゃなくて、感情をぶつけてる感じかな?
ただそれだとキロさんが暴走しちゃう感じなんだろうなあ。
「召喚も一緒みたいなもんなんですか?」
「召喚はちょっと違うね。彼らも精霊だけど確固たる存在と意識がある。人の言葉を理解してくれているから会話は簡単なんだけど、喚ぶには何らかの縁が必要になる……のかな?」
「一人で何種類もの精霊を召喚できるなど聞いた事がないからな。キロは余程なにかに因果があるという事か」
『各エレメントの頂点が――氷狼に太陽の雄鶏、風の馬に雷の戦車を
「絶対とまではいかないけど、無しだと効率は大幅に下がる。皆で言う所の武器だから。間違いなく火力が下がるでしょ? 今の私じゃ召喚は不可能だろうね」
あたしが見た事があるのはフェンリルと馬。どっちも凄い存在感だった。
こんなぶっ飛んだ存在にキロさんは縁がある……いや、縁があるのはひょっとして?
「自然への干渉力を上げる為の物だからな。とはいえ闇属性では弄りようも……ん?」
「リラ?」
「キロ。闇の大精霊様から頂いたものは?」
「「……あ」」
『ありましたね――明らかに闇属性の代物が。アレを使えば』
すっかり忘れてた! 闇の
アレをキロさんのカラーに使ったら闇のシロモノに話しかけやすくなる気しかしないね!
「多分コンテナに転がってます! 使えるかもです!」
「丁重に扱って欲しいって話をした気がするんだけど……そこはいいかな。でもライザ?」
キロさんの表情は真剣。心配してくれてる感じ?
「さっきリラも言っていた通り、闇は本来人の身で扱うものじゃない。錬金術でもそれは同じだと思う。下手をすればエレメントが暴走してライザもただじゃすまない。ましてや扱うのはエレメントコアだから最悪のケースも……」
うーん。たしかに預かった時はヤバそうな感じがした。
でも……それが一番可能性が高そうなら、かな。
『何を言っているんだい? キロさん。対策ならあるじゃないか』
「……そんなのあったかな?」
『加護』
なるほど。本来そういうものだった。
『ボクに宿っているのは光の加護なんでしょ? 闇と同じにして表裏一体の属性、しかも大精霊直々っぽい。加えてボクだけで初めてアレに触れた時も、少しは理解が出来たんだ。制御する事は可能なんじゃないかな』
最近いろんな事がありすぎて、普通なら簡単な事も思い浮かばなくなってるね。
そうだよ、アルさんの光の加護で中和してもらえば。
「加護の量って言っていいか分からないけど、今のアルの魂の量は本体からしたら極僅かだから……あ、いや、アルはおかしいんだった」
「たしか……馬鹿みたいに魂が多いんだったか?」
「そう、アホみたいに多い。今のままでも一般人の数百倍は優にあるよ」
『なんでそんな言い方をされているのかな……』
「た、単なる言葉遊びですって! まずは試してみましょうよ!」
アルさんの声が昔に戻ったせいで子どもが落ち込んでる感がすごい!
何がともあれ、可能性があるならやるだけ!
あぁ、やっとアルさんの力になれてる気がしてきた。
よしっ、まずは急いでアトリエに帰還だ!
という事で、登場したままコンテナでゴミに塗れていたエレメントコアに活躍してもらいます。
原作では畑から収穫できる代物ですが……。
次は調合に入ります。まともな描写は何気にひさびさ? アトリエの物語なのに……。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。