ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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雷の大精霊との対話を終えて。
現状の整理を含めつつ、未知の調合へ。

誤字報告ありがとうございます。先の話を直すのに時間を割き過ぎて、この辺りのチェックが疎か気味になっていそうです。

今回もよろしくお願いします。


101. 85日目②  天才と呼ばれる者達

『ごめんねクラウディア、お店の邪魔をしちゃって……』

 

「大丈夫ですよ! みなさん「おぉ~」って感じでしたし!」

 

「事前説明が無かったら少しは騒ぎになりそうだったからね。助かったよ」

 

「この島の中で魔物の出現は不味そうだからな。平和ボケにも程があるが」

 

「キロさんの考えもよかったんじゃないんですか?」

 

「自分をマスコットにする日が来るなんてね……」

 

島を出た時の事もあって、帰りをどうするか悩んだ。

最初はリラさんの案――アルさんを荷車で運ぶってのを採用するつもりだったよ。

 

けど、こんな提案がキロさんから出た。

 

「アルが私を、間違いなく敵意がないって感じで抱えていればいいんじゃない?」

 

今のアルさんは大きな鎧の体。だから両手の平にキロさんを乗せる事も出来るわけで。

 

キロさんは島の外の出身にも関わらず良い意味で知名度が高い――なんかくやしい。

ボオスの命の恩人として、お菓子屋の看板娘として、古老の孫みたいな扱い……あのジジイめ。

 

さらには不思議な魔法が使える事も知られてるから、多少何かあっても「ああ、あの娘か」で済むのである。このクーケン島で、である。

 

あたしと全然扱いが違うね! ブルネン家といい信じられない対応だよ!

 

という事で、ほぼノートラブルで帰ってこられたわけ。

 

「お店に出しているお菓子ならすぐにご準備出来ますけど、どうされますか?」

 

『オーレン族が二人いるからね……甘めと控えめのケーキをホールでそれぞれ二つ、ライザ向けにケーキとプリンを貰えるかな? お代は……あ~っと財布が封印の中だね、ちょっと待っていて』

 

「アルさんはオーナーなんですから気にされなくてもいいんですよ? でもかしこまりました! ちょっと待っていてくださいね!」

 

「夕飯まで持つかな? リラは足りそう?」

 

「菓子なら割と腹持ちするし、不足なら狩ってくるだけだ。この後レントの哨戒に合流するつもりだしな」

 

「おごりが当たり前になってる事をお二人とも分かってます?」

 

いまさらだけどさ。さぁて、あたしはコンテナコンテナ!

え~っと……。

 

「……相変わらずのパンドラの箱だね」

 

「前に掃除したのは10日ほど前だったか? ライザに整理整頓は酷らしいな」

 

『どうやったらここまでの惨状を10日で作れるんだろうね? 兄さんが見たら卒倒しそうだ』

 

あたしは物を捨てられない人間なんです。

 

採ってきた素材とか作ったアイテムに対してコンテナが圧倒的に小さいんだもん。

それでもあたしのアトリエスペースの結構な割合を占めてるけど。

だったら、採った先から上に積んでくしかなくないです?

 

おっ。

 

「あったあった! ありましたよ! コレですよね?」

 

「うん、それだね……何に包まれているの?」

 

『スカイバブルだね。シャボン草の泡だよ』

 

「一応混ざらないようにはしていたんだな」

 

えらいぞ、当時のあたし! きれいなままだね!

見れば見るほど真っ黒だ。それでいて何でできてんのか謎な物体。

エレメントを全属性感じると思ったら、全部消えたりする。改めてすごいわねコレ。

 

「どうかな、ライザ?」

 

キロさんがメイデンプレイヤー(乙女の祈り)を取り外してあたしに手渡してくれる。

素材はクリミネア製。だけどキロさんの魔力を帯びてるせいか、性質はコイツに近いみたい。

 

調合する事は出来そうだね。とは言ってもさすがに「良い詠唱!」のイメージじゃムリそう。

前までみたいにベースをあたしが作って、アルさんに錬成してもらわないと時間がないね。

クリミネアじゃエレメント量に耐えられそうにないなあ。ここはゴルドテリオンの出番だ。

 

後は繋ぎ。アンペルさんが調合に使える宝石類をいくつか作ってくれたって事だから、それを使わせてもらえれば――うん。

 

「いけそうです! ゴルドテリオンとアンペルさん製の宝石が必要かなって感じですけど」

 

「すぐに連れてこよう。中枢に居るんだったな?」

 

「私に御用だったかね?」

 

「お疲れさまです。みなさん」

 

ちょうどいいタイミングでアンペルさんとタオが帰ってきてくれた。

二人もお疲れさまだね。

 

「コイツの取り扱いは気怠い事この上ないな……キロ嬢、お返しするぞ。様子を見るに何かを調合する気かね?」

 

『ざっくりお話しすると、闇の大精霊と会う為にキロさんのカラーを闇のエレメントコアで強化する事になりまして』

 

「その調合素材にアンペルさんの宝石を使わせてほしいの」

 

なんだそんな事か、って感じでアンペルさんが工房の端の……あんな棚あった?

それを持ってきてくれて……うおお!?

 

「いくらでも好きに使ってくれ」

 

「私が想像していた錬金術士のアイテム管理ってこんな感じ」

 

「ただの潔癖な気もするがな」

 

『見事なものですね』

 

「ライザがこんな管理をしていたら病気を疑いますよ?」

 

「今度普通のカマキリを捕まえてくるわね? ……いつ、こんなに?」

 

「リハビリも兼ねて日々せっせと、だ。何もかもをライザに任せきりにするつもりはないからな。私の得意分野で出来る事はしておくべきと用意しておいたまでさ」

 

きれいにクッション材に並べられた宝石類と反物のコレクション。

アンバーライトやスピリナイト、セイントダイヤにエルドロコードまで……いつの間に自作を?

見た事ないのすらある。全部Sランク級の超高品質――さすがだなあ、超助かる。

 

「使えそうか?」

 

「え~っと……セイントダイヤは確定かな、一番調合を和らげてくれそう。それと――キロさん、妖精結晶(フェアリーピース)ってまだ持ってますか?」

 

「ん? 昔から持っているやつの方がいいよね? ちょっと待ってね、ん~と……」

 

そう言いながらキロさんがポッケをゴソゴソと……キロさんも変わんないじゃん!

 

あたしたちをリゼンブールみたいなところに連れて行った妖精結晶。

エレメントコアは精霊の力が強すぎるから、これはそっち方面の繋ぎだ。あるといいなあ。

 

 

コン ボチャッ カラン ポトッ オオォォォ……

 

 

『まぁた変なものを拾ってきて……一体何処で見つけているのかな?』

 

「キロは道草の拾い癖があるらしいな。まあ食糧確保の名残だろう」

 

「僕としては、どうやってこんなにポケットに入ってたかなんですけど――この花は?」

 

「……太陽の花、だな。自生しているのを見た事が無いのだが」

 

「なんか呻き声が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね?」

 

「お、あったあった。オーリムで入手した物だから結構奥だったね」

 

山とは言わずとも結構な数のナニカが床に散らばった時点で、目的のブツを発見してくれた。

見覚えある青い結晶――フェアリーピースだ。うん、使えそうだね!

 

「みなさんお待ちどお……どうしたんですか、これ!?」

 

『ごめんよクラウディア、ちょっと探し物をしていてね。ありがとうね』

 

クラウディアがアンペルさんたちの分も合わせてお昼兼おやつを持ってきてくれた。

今日は時短にしたんだっけ。

 

「……キロさんの持ち物ですよね? やっぱり一回きっちり洗わせて下さい」

 

「パンドラの箱ならぬパンドラの洗濯桶が出来ちゃうからやめた方がいいよ? 洗った後の水の処理が大変そう」

 

「キロさん、自分の服って分かってます? でもまあクラウディアもやめといた方がいいよ」

 

さっき絶対呻き声聞こえたし。

 

 

 

「成程……アル君の身体が関わっていそうなのは間違いないが、それでも災厄の封印は安定していない。詳細を知るのは光と闇の大精霊のみ、か」

 

お菓子を食べながら情報共有。アンペルさんが状況をまとめてくれた。

 

「そっちはどうだったんだ?」

 

リラさんから確認。二人も作業をしてくれてたんだもんね。

でもアンペルさんは複雑そうな顔だ。

 

「一応な。粗方分かっていた事ではあったが……島の中枢のコアと戦士の証に類似性がある事は疑うべくもない。素材の一部である事は間違いないんだろう。ライザの持っている戦士の証ならばエネルギー量も出力も十分過ぎるはずだ」

 

「それじゃあ!」

 

「待ってライザ、僕からも説明するよ。エネルギーの素材としては同じなんだろうけど……波とでも言えばいいのかな? それがムチャクチャなんだ。このままコアに使っちゃうと島の維持どころか中枢が壊れると思う」

 

『ボクが錬成した賢者の石もどきと同じような感じ、かな』

 

「天然物と人工物の違いなんだろうね。制御にはやっぱり……

 

「そんな……タオ君、どうしたらいいとかあるかな?」

 

「早い話、その波を整えてくれるものがあればいいんだけど。全然思い付かなくて」

 

そっか。戦士の証を手に取った感じ、コアと同じとは思わなかった。

あっちは島に必要な分だけエネルギーを出してくれてるけど、戦士の証はフィルフサの要素の単なるカタマリ。そんな都合よく言う事を聞いちゃくれない。

 

「って事は」

 

「うむ……賢者の石の素材である事には間違いないが、やはり制御する為のキー素材が足りない。方向性だけでも分かればレシピも浮かびそうなものだが……」

 

最後のピースが足りない。繋がりそうな素材が浮かばない。

――ここまで来たのに。

 

『……戦士の証はフィルフサの要素の塊、つまりは魂、生体。完全なる物に必要なのは不変、世界……精霊。作れるか? キロさん、リラさん』

 

難しそうな言葉を並べていたアルさんがオーレン族の二人に話しかける。

リラさんは疑問顔、キロさんは……なんだか渋そうな顔?

 

『精霊の結晶体――光る砂に精霊の小瓶。クリント王国は精霊の力を何とか物にしようとしていた。当時、それに関わる何かを聞いた事はありませんか?』

 

「……ああ、何かほざいていたな。「これで結晶化できる」と。キロは聞いた事があるか?」

 

「案の定って所だよ……やっぱり繋がったか。聞いているし、知っている。丁度話そうとも思っていたよ。結果的にいい思い出がある物ではないんだけどね」

 

アルさんの質問は、エレメントコアみたいな精霊の結晶がアイテムとしてあったかって事かな。

オーレン族の二人にとっては全ての元凶と言えなくもないシロモノ。思い出してもらうのは申し訳ないけど……。

 

「すまないな。我々の業だ」

 

「いいよアンペル。正しく使ってくれればいい」

 

話してくれるみたい。ありがとう。

 

「――クリスタルエレメント。大精霊様から頂いたような天然の巨大な物じゃないけど、エレメントコアを4属性備えた宝石。錬金術で作られた精霊石と言えるんだろうね。管区長が話していたよ、これで多くの人を救えるって」

 

「やつらがそのアイテムを作る事に成功したかは知らん。が、成功したのだろうな」

 

錬金術で作った、人工の精霊結晶――クリスタルエレメント。

そんなものまで古代の人たちは作ったのか。

 

元は多くの人を助けるためだったんだろうけど……あり方が変わっちゃったんだね。

 

『気分が悪いかとは思いますけど、ボクの考えを話しますよ』

 

「察しは付いているし今更気にしない。大丈夫だから」

 

『ありがとう……ボクの世界の錬金術で賢者の石は、意味するところは完全なる物。これは不完全な物と不変な物の同居って考えられていたんだ』

 

ロミィさんも昨日それっぽい事を言ってた。フラメルの十字架ってやつがそうなんだっけ。

さっきのアルさんの呟きを拾うなら、つまりは。

 

『不完全な肉体として戦士の証。不変たる器としてクリスタルエレメント。この二つを同居させて一つの完全なる物を作り出す。つまり』

 

「その二つをリンケージ調合し、一つに出来れば」

 

「賢者の石になる、って事ですよね?」

 

アンペルさんもやっぱり同じ考えに行き着いてた。

クリスタルエレメントに関しては、アンペルさんならもうレシピが描けてるかもしれないね。

 

なるほど……作るのが難しいわけだ。というか、こんなものホイホイ作っちゃいけない。

自由自在にフィルフサの力と精霊の力を使えるアイテム。

素材こそ違うけど、あり方はアルさんの世界の賢者の石とある意味同じなのかもしれない。

 

ホントなら触れるべきじゃない世界。だけど今は――それに頼らせてほしい。

 

「決まりだな、私も四の五の言わん。アンペル、作れるか?」

 

「作ってみせる、だな。ライザにはライザの役目があるし、何もかも弟子に任せきりには出来ん。お前も私より精霊は分かるのだろう? 協力してくれ」

 

「分かっている」

 

「アンペルさん、お願いするね」

 

「なに、元々お前達の問題ではないのだぞ? これはクリント王国の錬金術の業――解決には私が率先して力を入れるべき事。宝石の調合に私の方が長けているというなら適材適所だ。ライザこそキロ嬢の道具の調合、任せるぞ」

 

「うん!」

 

「では精霊の小瓶をこちらで預からせてもらうぞ。タオ、お前も手伝ってくれるか?」

 

「もちろんですよ、先生! ……まずはその粘液を洗い落としてきます」

 

アンペルさんはあたしの師匠で、宝石調合のプロフェッショナル。

さらには精霊に詳しいオーレン族のリラさんも付いてる。できないわけがないや。

そしてタオサンゴメンナサイ。多分虫に関わる物じゃないから。

 

『よろしくお願いします。じゃあボク達は』

 

「はい! キロさんのカラーの調合、やってみます!」

 

「取り扱うのは闇属性なんだからしっかり光の加護で制御しないと、だね」

 

『うん、よろしく頼むよ。ボクも本当なら能動的に扱えないとなんだけど』

 

「私はアンペルさんたちのご飯を作りに行きますね! ボオス君にも今日のお話を伝えてくるよ」

 

「ありがとうクラウディア。走らせてばっかでごめん」

 

「ううん、それが私に出来る事だから。むしろみんなに任せきりでごめんなさいだよ」

 

やる事は決まったね――さあ、挑戦だ!

 

 

 

 

 

 

今、信じられないものを見ている――錬金術士が闇属性を取り扱う様。

世界を構成するエレメント。私も含めて、本来生物が取り扱うものじゃない。

 

それを、大精霊様の言葉を借りるなら「赤子」がやっている。

だけどその表情は――ただ助けよう、成し遂げようと必死なのが伝わってきて。

 

どことなくエドさんを感じさせる。

 

『このままで大丈夫かい?』

 

「は……い。その、まま……少しずつ、右回りの、方向性を……あぁ、四回巻きの……渦巻きで、中心が底に、着くくらい……」

 

「分かった。もっと正確に制御出来る様に……形状は代数螺旋より黄金螺旋を目指そうか。アルもイメージを送って」

 

『その方が世界に馴染むか、了解だよ。ライザの腕の回転速度に合わせる様にしてみる』

 

「汗を拭くね?」

 

身体がグラグラし、全身汗だくで、肩と口で呼吸をし始めて。

それでも釜から目を離さない。かき混ぜる杖から手を離さない。

 

調合を始めてから既に7時間はぶっ通し――とんでもない集中力。

応用と考察、工夫、発想、成し遂げようとする意思。

 

この子はアル達と同類なのが分かる。理論派じゃなくて感覚派の天才なんだろうけど。

一体この子には何が見えているんだろうね。

 

予定していた素材から更に様々なものが追加され、私もここまで緻密な力の操作は初めてで。

大釜の周囲にはアルの描いた錬成陣。

身動きが取れない私達をクラウディアが支えてくれる。お腹は空いたけど今は我慢だ。

 

『中の様子が分かるかい?』

 

「ん。大丈夫、混ざっている。方向性を持った均一な闇のエレメントの流れを感じられるよ」

 

形が在るようで無いようなものだったのに、今は私にも感じ取れる。多分もうすぐだ。

 

『そっか。すごいね』

 

「貴方もね」

 

アルは正確にエレメントを感じとる事が出来ない――私がしているのはただの呼びかけに近い。

だから極めて取り扱いの難しい義手を通して、指示だけで、目を使わず、精密な道具を組み立てているようなものだろうに。一手たりとも間違えない。

 

どっちかが少しでも欠けていたとしたら成立しない。でも、欠けていないんだから大丈夫。

 

もうライザにはあまり周囲の音が聞こえていないんだろうね、集中しすぎて。

いつもの帽子すら外して、ただひたすらに混ぜ続けて。

 

「……いけ、ますっ!」

 

『了解……キロさん、いいね?』

 

「死なば諸共だよ。クラウディア、お願い」

 

「はい! ……ライザ、失礼するね」

 

もうフラフラのライザをクラウディアが両脇から抱えて釜から遠ざける。

 

今から、釜の中身を錬成陣でカラーに形作る。ライザじゃ詠唱の詳細がまだ理解不足らしい。

アルの錬成は術者を構築式に含む。闇属性だから私も要る。つまり私も構築式って事だ。

 

ミスったらどこを持っていかれるやらだね。その際は責任を取ってもらうとしよう。

 

『いくよ!』

 

「ん!」

 

――まるで神への祈りのように、鎧の両手を合わせて。

 

 

パンッ!

 

バチバチバチバチバチバチッ!!!

 

 

 

作業場に錬成反応の光が弾けて音が鳴り響く。

釜全体に溶けていたエレメントが、構築式に沿って物体としての形を成していく。

 

視覚、聴覚よし。五体よし……五感よし。

 

『大丈夫かい?』

 

「……無事みたいだね。成功だよ」

 

「お二人ともご無事ですね!」

 

ひたすらライザが調合し続けた釜の中身は一つの形になって。

釜の底に円環の蛇をモチーフにした装飾が彫られた、真っ黒なカラーが転がっていた。

 

「随分とまあ真っ黒だね。パッと見じゃ彫ってあるのが分かんないレベル」

 

『でも、何となく色に揺らぎが? 自分で作った物が理解出来ないなんてね』

 

「エレメントの要素なんじゃない? まあお互いリバウンドはないんだし……ライザは?」

 

「それが……もう寝ちゃってます」

 

「…………Zzz」

 

ありがとうを言うつもりだったのだけど、女子らしからぬゴォーゴォーと音を立てながら眠る天才錬金術士を前に笑うだけにしたよ。

語られないだろうけど歴史的快挙じゃないかな? 本人は絶対に気付いていないけど。

 

 

ガチャン

 

 

「お邪魔しま……おお、よく寝てんな」

 

「失礼します……はあ。相変わらず寝相の悪い事だ」

 

レントとボオスが来てくれた。様子を見に来てくれたのかな?

 

『やあ二人とも。様子を見に来てくれたのかい?』

 

「それもありますけど、伝言が目的っすね。成功したっつう事と……コレを原料にした何かを作ってるって事だそうっすよ」

 

あっちも既に成功したのか、やるなあアンペルとリラ。流石だね。タオも奮闘してくれたと。

これで目標の達成が一気に現実味を増した。

 

で、レントの持っているドンケルハイトは何なのかな?

スカイバブル……だっけ? に包まれていて、どういうわけか花が萎れている感じがしない。

 

「そのお花ってたしか……アンペルさんの仰っていたお薬の?」

 

『エリキシル剤の原料って話だったね、万能の薬だっていう。つまりは調合の目途が立ったんだ』

 

クリスタルエレメントの調合に成功した事でアンペルが殻を破ったんだろうね。

まさかこんな方法で保管できたのか。やっぱりこの娘の直感はすごい。

本人も知らないうちにヤバい物の調合に関わっているよ。今は爆睡しているけれど。

 

「あっちも準備は万端だね。それでボオスはどうしたの?」

 

「俺はこいつの様子を見に来たのもあるが……お願いだな。だが、まずは現状報告といこう」

 

ボオスの現状報告というと……島民の今後の生活についてロミィと話をした結果、でいいのかな?

ただ、なんだかものすごく不満そうだね?

 

「腹立たしいがあの女は優秀だ――ウチとは伝手の規模が全く違う。距離があるからすぐに連絡を、とはいかないが、いくつかの町や国に別れれば島民全員の住まいの確保やおおよその就職の斡旋も掛け合えるらしい。「多分よゆ~」だそうだ。はぁ……本当に腹立たしい」

 

『それはまた……すごい人脈だね』

 

「ビビりますよね? 俺も聞いた時は信じらんねえって感じで」

 

「今からでもうちで働いてもらえないか掛け合ってみるべきかな? 以前それらしい事をロミィさんも仰っていたような」

 

「残念だけど、ロミィの就職希望先は確かこの工房だよ。それにしてもまあ」

 

行商人なんだから関わっている人の数は多いのだろうけど、一商人じゃ普通は不可能だよね?

ほぼ大店といえる商会の商会長たるルベルトであっても難しい所業じゃないだろうか。

これは仕事というより個人的な人脈もあるんだろうね。ロミィなら友人は極めて多そうだし。

 

ボオスとしては不満というより、悔しいって所かな? 余りに優秀な義姉役だ。

多分「こんな事も出来ないのぉ? ボオスちゃぁん?」みたいな煽られ方をしたんだろうね……。

 

これで島民の生活基盤は最悪の場合であっても整ったと言えるかな。

一時的に古城か入り江で生活をしてもらって、その間にロミィに動いてもらえれば島民の希望通りとは言わずとも何とかなりそうだ。私がロミィを手伝えればもっと早く連絡可能だろうし。

 

「あっという間に島民避難の見通しが立ったね。それでボオスのお願いっていうのは……私に?」

 

「キロを含めた全員だ。クラウディア嬢から状況は聞いた。明日、闇の大精霊とやらに会う事もな。俺の願いは――その場に俺も同行させてほしい」

 

『大精霊との謁見の場にかい?』

 

「ええ」

 

ボオスは対岸の出来事の前線には立っていない。自分では戦えないと分かっているから。

でも……それを曲げて来ている。

 

「俺のエゴでもありますが……こいつみたいな小娘が背負っているだろう現実を、俺は大体でしか知りません。エルリックさんやキロ、旅の二人は特別な存在だと理解出来ていますが、俺の中でのこいつらは危なっかしくて世話の焼ける悪ガキのままなんですよ」

 

グーグーと口を開けて寝ているライザを見て、懐かしい物でも見てるように溜息をついて。

タオルケットをライザにかけてあげる。

 

「お前、ライザをよく寝かしつけてたもんな」

 

「ホントに面倒だったぞ。こいつは癇癪持ちだったからな、すぐにグズる」

 

「そんな関係だったんだね。見てみたかったなあ」

 

『懐かしいねえその話。ライザはボオス君とレントによく懐いていたんだっけ』

 

クラウディアに同意だね。微笑ましいっていうのかな。

 

「俺が一切役に立たないのは重々自覚しています。ですから明日向かう場所へも……皆であれば何の障害もなくとも、俺がいるだけで面倒が増えるという事も。その面倒を許してもらいたい。現実を直視して、俺にも背負う権利を頂きたいんです」

 

ボオスが頭を下げた。少なくとも、ボオスがライザ達に頭を下げているところは見た事が無い。

彼にとっては大きな意味合いがあるんだろうね。

 

『……今この場で決める事は出来ないけど、ボクはいいと思うよ』

 

口火を切ったのはアル。

 

『危険は承知の上だね? だけど明日対岸で集まった際、反対意見が一人でも出たら諦めてもらう――それでいいかい?』

 

つまり――全員了承ならボオスも立ち会える、ね。

分かりきっているくせに。

 

「私は勿論いいよ、貴方の覚悟の強さは知っているしね。まあ決は明日だけど」

 

「俺は元々いいんじゃねえかって言ってたからな。腰抜かすなよ?」

 

「大丈夫! ボオス君も頑張ろう?」

 

「……ありがとうございます」

 

ボオスがもう一度頭を下げる。

そしてボソッと。

 

「世話になるぞ、ライザ」

 

「Zzz……ぅん~~うぅ、あるさん……いただきます……」

 

『一体どんな夢なんだい……?』

 

空気をぶち壊す寝言が響いた――大物だね。何を頂いたのやら。

起こさないよう声には出さないけど全員笑う。アルも笑っているだろう。

 

ボオスの心配は杞憂だよ。

 

「まあ大丈夫だよ」

 

だって。

 

「コレがあるからね」

 

 

パチンッ

 

 

天才錬金術士の傑作がここにあるんだから。




遂に判明した賢者の石のレシピ。本作ではこんな感じにしてみました。
キロがクリスタルエレメントを最初に想起したのは61話でサメを焼く直前の事ですね。

やっとキロの装備も更新して、ボオスとロミィのキャラ付けが増える増える。
ロミィはスピンオフすら書けそうな本作屈指の人脈チートです。
パミラにクーケン島を紹介したのもロミィだったりします。

次は勿論、作った物を使って。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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