ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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キロの新しい武器とアンペルのクリスタルエレメントの調合を終えた翌日。
昨日ライザはアレから爆睡しっぱなしでした。

誤字報告ありがとうございます。
やはり見直しの時間が不足してますね……全体的にこの章も多そうです。

今回もよろしくお願いします。


102. 86日目①  ケジメをつけて

んあ?

 

知らない天井に見た事ない景色。窓から見える空の色的に時間は……5時、いつもくらい?

ここはどこ? 昨日はたしかキロさんのカラーの調合を……。

 

「ちょうごう!?」

 

『あ、起きたかい?』

 

「あのまま寝っぱなしでも、ちゃんとこの時間に起きるのがすごいね。おはようライザ」

 

鎧のアルさんとキロさんがそばに座ってた。

って事はここって工房? でも見覚えのない景色――赤いコート?

 

 

 

……えっ。

 

 

 

「ああぁああアルさんのベッドォ!!??」

 

『最初に気付くのはソレなんだね? そんなに気にする事かな』

 

ライザ(乙女)には大事な事だよ? 昨日はお風呂に入っていないし着替えていないし歯も磨いて……」

 

「ぬわぁう!?」

 

うおおああおぉおお! いけない!

これは! これはあたしの女の尊厳が!! 大切なものが吹っ飛ぶ!! もう手遅れかもだけど!!!

 

「まあ大丈夫だよ――今のアルは鼻が利かないから」

 

「ならわざわざ口にしないでくださいっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「こんな朝からごめんね。助かったぁ……」

 

「大丈夫だよ。最近は私たちも早起きに慣れてきたし、昨日のライザの頑張りはよく知っているから。キロさんから……ライザにご褒美? って言われてあのままお任せしたんだけど。朝ご飯食べるよね?」

 

さすがに湯浴みまでアルさんの家を借りるわけにはいかない。着替えもないし。

とは言え、今の状態で家まで島の中を走る気になれない……なぜだかすっごいイヤ!

 

そう思って、時間的によろしくないと思いつつもクラウディアを頼ったんだけど……。

この状況を予想してくれてたみたいで、昨日お母さんたちにあたしの泊まりを話した際に預かってくれたらしい。おかげでよろしくない香りをこれ以上漂わせずに済んだ。

動いてもらってなかったら、今日帰った際にお母さんから説教のおまけ。クラウディア様様だ。

 

つうか、あたしは一晩中二人に寝顔を見られていたのか……。

字面だけならなんて事ないはずだけど――すっごい恥ずい!! なんでよりにもよって……。

キロさんのご褒美……アルさんのベッドで寝れたって事? 少し分かるけど変態っぽいよソレ!

 

「あたし昨日の事を全然覚えてないんだけど……どうだったかなぁ?」

 

「ふふ、行ってからのお楽しみって事にしておくよ。ライザはコーヒーでよかったかな?」

 

「うん大丈夫。何から何までありがとね」

 

「今の私に出来る事のはこういう事だと思うから。おまかせだよ」

 

最近はあたしもブラックに慣れたもんだなあ。

寝起きで調合の事は覚えてたのに、パニクってて確認しなかったね。それどころじゃなかった。

もうキロさんが身に着けてたかもしんなかったのに。

 

準備してもらったのはトーストとサラダにコーヒー。

もちろん普通の量だ。キロさんが居たら数十倍にふくれ上がってるからね。常識が壊れつつある。

 

「おや、ライザ君かい? おはよう」

 

「あっルベルトさん! おはようございます。こんな朝早くからすみません」

 

ルベルトさんが通りかかって声をかけてくれた。朝から外回りされてるんだもんね。

 

「クラウがいつもお世話になっているよ。最近はお礼も言えずに申し訳なかったね」

 

「いえそんな! あたしこそクラウディアには迷惑かけてばっかりで……」

 

まさに現在進行形でそんな状況なんです。

 

「ここでクラウも色んな経験をさせて貰ったのだろう、随分と変わったよ。君達にはとても感謝している。近く去らなければならないのが本当に残念だ」

 

「えっ? ……お父さん、もう日取りが決まったの?」

 

「厳格な日取りではないがね。予定していたブルネン家や島の方々との交渉は既に完了して、中央からの返信も明後日には来るだろう。一週間もないと考えてくれ。お借りしていた店舗の片付けやお客様方への御挨拶もあるだろうから、少しはクラウの都合も見るが――私達にも次にやらなければならない事がある」

 

そっか……ついに決まったんだね。クラウディアが島を去っちゃう日。

大体二ヶ月かあ。人生で一番短い二ヶ月だったね。

 

「そうなんですね……残念です。クラウディアと一緒に居られてとっても楽しかったから」

 

「ライザ……」

 

「そう言ってもらえて親としても嬉しいよ、クラウがここに足跡を残す事が出来てね。それでは私は失礼するよ。ゆっくりしていっておくれ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

そう言ってルベルトさんは外回りに向かわれた。

島にはいない、歩き回る商会長さん。ロミィさんが目指す先ってルベルトさんみたいなのかな。

 

それよりも。

 

「あと……ちょっとなんだね。クラウディアが島に居られるのも」

 

「そうだね――こんな気持ちは初めて。私にはどうする事も出来ないから残念だけど……でも」

 

クラウディアがふっと顔を上げる――笑ってた。

 

「まだみんなと居られる時間はあるんだから、その時間を精いっぱい大切に使うよ! アルさんのお身体を取り戻して、災厄をやっつけて、島を元に戻そう!」

 

「もちろん! 頼りにしてるよ!」

 

うん。その通りだね。

時間が決まってるなら、その時までフルパワーで動くだけなんだから。

 

 

 

 

 

 

身だしなみを整えて、7時にクラウディアと工房に戻ってきた……ニオイよし!

 

「おはようございます」

 

『お帰りライザ。クラウディアもおはよう』

 

「おはようございます。お二人とも」

 

「おはよう……いい?」

 

「はい!」

 

なんかもう特に説明が要らないまでになったよね。常連ってやつ?

ホントならあたしも担当すべき事なんだけど、いつのまにやらこの形が定着しちゃった。

この人がいた数日でどれだけのヴァッサ麦が胃に消えたんだろう……うん?

 

「キロさん――首のソレって」

 

「ん。貴女の作品だよ。よく出来ているじゃない?」

 

『なんで品評する側なんだい? キミも製作者側だろう?』

 

割とすぐに目に入った。真っ黒なんだけどなぜか揺らぎが見える不思議な色の首輪。

調合してた時の事をほとんど覚えてないんだけど、うまくいったらしい……ほっとしたよ。

 

ただ……。

 

「よかったです! でもその……ちゃんと使えそうなんですか?」

 

そこなのですよ。こればっかりはキロさんにしか判断しようがない。

 

「心配無用だよ。今は彼を感じられるし声もかけられる。名前も聞けたからね。まあ完全に意味を理解出来ているわけじゃないんだけど」

 

『どんなものか昨晩一通り聞きはしたけど、そんなに変わるものなんだね』

 

「唯一無二じゃないかな? 召喚でもないのに人のように精霊と対話が可能になる道具なんて」

 

しっかり機能もしているみたい。正真正銘の一安心だね。キロさんの中の蛇はオスらしい。

これで今日の目標も達成できそうだ。でないとすっごく困るんだけど。

さすが精霊のプロと道具作りのプロが担当しただけあるよ。

 

「キロさん! まず3枚いきますよ~!」

 

「は~い」

 

この……パンケーキをもっしゃもっしゃ食べてる光景を見ると信じられなくなるけど。

 

さてと。

 

「アルさん」

 

『うん、昨日からの事だよね? ライザはカラーの調合に成功、アンペルさんもクリスタルエレメントの調合に成功したそうだよ。オマケ付きと聞いているけどね』

 

調合に成功したんだ。さっすがアンペルさん! なんかもう古式秘具すら作れる気がするね。

でも……おまけ付きって何?

 

『あっちへは9時には着くように。レントとタオは拠点に泊っているからこっちも後一人だね……そろそろ来るんじゃないかな?』

 

「えっ? ……アルさんキロさんクラウディアにあたし。アンペルさんリラさんレントタオ……」

 

8人。もう全員揃ってない? ロミィさんは来ないよね?

 

そんな事を思ってたら。

 

 

ガランガラン

 

 

「おはようございます」

 

「……ボオス? どうしたの、こんな時間にここに来るなんて」

 

意外なのが来た。

 

「昨日はご苦労だったらしいな……今日の闇の大精霊への謁見の件、俺も同行させて欲しいという話をしていた」

 

「そんな話……したっけ?」

 

「お前が寝言とイビキをかいていた時だからな。涎が垂れるから口は閉じて寝ろと言った筈だが」

 

「…………え゛っ?」

 

「やっぱり言っちゃうんだね? まあ、うん……」

 

えっ、ちょぉっそれマジかぁ!?

 

ウソかホントか分かんないけどこの場でウソをつく必要もないし、特に誰も反応してない。

……いや、クラウディアは若干苦笑気味――つまり真実。

調合からの記憶がないけど、多分アトリエでの話だから……。

 

「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

「随分情緒不安定なようだが……何かあったんですか?」

 

『気にしなくていいよ。個人的な問題だから』

 

「うん。ボオス君はこれ以上気にしないであげて?」

 

「あ、ああ……原因は俺なのか? 島の常識ではないのか?」

 

「んくっ、んくっ、ぷはぁ。ごちそうさまでした」

 

芳しい香りの事だけに飽き足らず、寝言にいびきにヨダレ……。

すごいもんは作れたみたいだけど、代わりにあたしは既に色々失っていた。これはもうアウト。

ここまで来ると自分でフォローのしようもない。なんかもう、どうでもよくなってきた……。

 

「ライザ、話を聞いていたか?」

 

「……えぇぇ? 今日付いてくるっつうんでしょ? はみ出すんじゃないわよ」

 

切り替えよう。平然と人前でゲップしてたキロさんみたいにそのうち塗り潰されるだろう。

 

責任感の強いコイツだ、出来るだけ現場に立つ考えがあるのはあたしにも分かる。

何かが起きてるのを知ってるのに人任せ、ってのは性に合わないからね。

ならまあ、こんな事すんのは不思議でも何でもない。いまさらだ。

 

「……小言くらいは言われるかと思ったが」

 

「別に? アンタはムカつくやつだけど基本短絡的な奴じゃないし、今もそれなりに悩んだ上でここに来たんでしょ? なら後は自己責任じゃない? アルさんたちの邪魔はしないでね」

 

「分かっている。必要なら何をしてでも止めろ」

 

「バカなの? そんな事態を引き起こさない努力を求めるわよ」

 

キロさんが関わるとコイツバカになるからなあ……。

 

「ライザの了承も出た事だし、行くとしようか。早過ぎる事はないからね」

 

「戸締りはこっちでしておきますね。火元の確認もあるので」

 

『ありがとうクラウディア。今のボクは鍵を持ってないしね……それじゃあ出発するとしよう』

 

「はい! 行きましょうか――闇の大精霊さんに会いに!」

 

 

 

 

 

 

「ボオス少年?」

 

「何でボオスが?」

 

「見送りにでも来たのかね?」

 

「そんな感じには見えねえっすけどね? ま、そのうち分かんじゃないですか」

 

対岸に到着。もうみんな待っててくれた。予定より1時間以上早いのに。

 

ちなみに舟を漕ぐのは、いつもやってくれてるんだけどアルさんが申し出てくれた。

この鎧の体、視覚と聴覚以外は感じないらしくって疲れ知らずらしい。

パッと聞いただけなら便利そうだけど……五感がないって事は「身体がない」って事だよね。

 

――いつか聞いた、手足や全身を失ったっていう錬金術師さんを思い出す。

 

「アンペルさん! 昨日は大丈夫だったの?」

 

「それはこちらのセリフだぞ? 心配するな、お前さんの師匠はそこまで無能じゃない」

 

そう言って、手に持っていた物を見せてくれた。

 

火、氷、雷、風。それぞれを赤、青、黄、緑で示した4つのハートが合わさったような宝石。

4つ全てのエレメントが全く同じ量で、同じ状態で、同じ品質じゃないとこうならない。

これがクリスタルエレメント。精霊の結晶体、不変の器……なんか分かる気がする。

 

「……コレすごいね。さすがアンペルさんだよ」

 

「それもブーメランだ。キロ嬢が首に付けている物、目に見えているのに常識を外されているような感覚を受ける。あんなものを一発で調合するとはな。ああそれと、決戦に備えてこんなものも調合してみたんだ」

 

今度はポッケからなにか……青が強めの黄緑色っぽい光を宿した液体。薬かな?

感じる揺らぎは癒しの力。でもコレ、アイテムが宿していいレベルじゃない気が?

 

「それがドンケルハイトの薬?」

 

「ああキロ嬢、その通りだ。昨日のライザの下処理からヒントを得た。宮廷の記録と同じものか確認のしようもないが、効果はこの身で確認済みだ。エリキシル剤と言っていいだろう。太陽の花の提供、感謝するぞ」

 

「いきなり自分の身体で試そうとするのはやめましょうよ……」

 

「ははは、まあそう言うなタオ。私も疲れていたからな、疲労回復は必要だろう」

 

「お前、それをただの栄養剤と勘違いしていないか?」

 

ええぇぇぇぇぇぇぇ!!??

なんだ? あれだ! 聖塔でレントが拾ってきてた花の薬!

他の調合に使おうとするのすら無理だったんだけど?

あたしの下処理ってなに!? またなんかやった!? 他にもなんかやらかしてた!?

 

これをオマケで作れる……こっちが本命でもいいのでは。

 

『あっちに有ったら大変な事になりそうだ』

 

「アレ一つの為に戦争になりそうだね」

 

「こちらの常識で考えても大変なモノだと思うんですけど……」

 

「クラウディア嬢はそこまでライザやキロに当てられていないのだな。常識的で助かる」

 

しかもこれ、自分の身体で試した? たしか死んだ人すら復活するってレベルの回復力を?

って事は。

 

「……右腕、完全に治ったの?」

 

「義手を外す気はないぞ? これはライザとリラの意思が籠ったもの、そして背負うべき錬金術士の業を忘れん為の証だ。この薬も戦いが終わったらジェムにしてやるさ」

 

「当然だ。外すなどと抜かしていたらその腕切り落としている所だ」

 

「恐ろしい事をさらっと口にせんでくれ。まだやる事はあるのだからな」

 

やっぱり治ったんだ。よかったよ。

それでもあたしが作った物を使い続けてくれるのは……うれしいね。

 

「すまない。いいだろうか」

 

ボオスが話に割り込んできた。何となく緊張してんのが分かるわね。

 

「まずこれまで……旅のお二人の行っている事を、その重要性を理解しようともせず乏しめた事、これまでの無礼を謝罪させて欲しい――申し訳なかった」

 

ボオスが頭を、アンペルさんとリラさんに下げる。

オーリムに初めて行ったのが20日くらい前だっけ? それ以前じゃ考えられなかったね。

 

「気にしちゃいないさ。そうされるだけの事をした自覚はあるし、我々も理解を求めていなかったからな。だが、謝罪は確かに受け取ったぞ」

 

「お前があの古式秘具を破壊する事、オーリムの聖地に水を返す事を宣言した時点で清算は出来ている。後はライザ達に協力してやれ」

 

「……感謝する。そして一つお願いしたい――今日の謁見、俺も同行させてもらえないか」

 

まあ、こっち側も筋通すのが当然か。

さあて。

 

「何故だ? 遊びではないと理解しているだろうし、事情を差し引いても足手纏いと分かっているはずだが?」

 

おおうリラさん厳しい。らしいっちゃらしいけど。

どう返すの? ボオス。

 

「……昨日も、ライザが疲れ切って倒れてしまっているのを見た。それ以前にも固い面持ちで島を出て、疲弊や絶望とでも言えるような表情をしている姿も見てきた。そんな……こいつらが何かをしていて、その理由を知っているにもかかわらず傍観者でいる事に、俺はもう耐えられない。伝えられるだけでなく直視しなければ、実感しなければならないんだ。理屈でないのは分かっている。これは俺のエゴだ。だが……それを認めてほしい」

 

……わりと最近、外に出回ってる事が多いのはそういう事、か。

何かしら顔には出ちゃってるよなあ。一昨日なんて最悪だったし。

お母さんたちはもっと分かってるか。

 

「成程。つまり――ライザ達が心配、という事でいいか?」

 

ちょっアンペルさん!? なんかニヤニヤしてない!?

 

「そう捉えてもらってもいい」

 

あんたも即答すんじゃないわよ!

うわぁなんか鳥肌が立ってきた! 今からでも拒否すべき!?

 

「見捨てられる覚悟はあるか?」

 

「ああ」

 

「ならいい。弁えて行動し大精霊様に失礼な口を利くな。保護者ならレント達の世話を見ておけ」

 

「リラさん!?」

 

今度はレントから抗議の声が上がった。そりゃそうだ。

 

「自己責任というなら私も構わない。理由も分かったしな」

 

「礼を言う……タオは、どうだ?」

 

「えっ……僕は……」

 

あたしたち3人の中で、タオはぶっちぎりでボオスを苦手にしてた。

ある程度わだかまりが消えたっていっても、面と向かって聞かれるとねえ。

 

「……ボオスは、なんで僕の事を追いかけまわしてたの?」

 

「俺にとってお前の為すべき事は家業を継ぐ事、その一点だった。だからその道から外れるような古代文字の解読を諦めさせようとした。加えてお前は気が小さかったからな……あの時以降も嫌々ライザに連れまわされている所があると思っていた」

 

「ちょっと!?」

 

「いや、事実だろ」

 

「やっぱりそうだったんだね」

 

クラウディアにとどめ刺された……。

 

「だが今は……タオが身に着けていた知識が島を助ける為の力になっていると反省している。俺の視野が狭かったのだろう。すまなかった。付いてくるなというなら、それに従う」

 

「……卑怯じゃないかなあ、僕が悪者みたいじゃないか。今度何かを言ってくる時はこっちの事情も聞いておくれよ? ボオスの言い分も分かるには分かるんだから」

 

「ああ、分かった」

 

これで全員か。まあ予想通りではあるね。

ボオスの謝罪の場になるとは思ってなかったけど。

 

「ボオス、ちゃんと謝れてえらい」

 

「……キロ。いくら何でも子供扱いすぎやしないか? ロミィといい……」

 

「私達にとっては全員子供だ。では向かうとしよう」

 

『そうですね。今更心配ないと思いますが……前衛をライザ達、その後ろにボオス君、後衛をボクらで務めましょう』

 

「前と左右は固めるからはみ出すんじゃないわよ」

 

「分かった。よろしく頼む」

 

「……なんかよ、普通のはずなのに鳥肌が立つぜ」

 

それ、さっきあたしが体験したよ。

 

 

 

 

 

 

ライムウィックの丘。聖塔に続くリーゼ峡谷へ向かう途中にある遺跡。通称「悪魔の野」。

魔物はこの辺じゃけっこう強い部類。だけど、わりと遺跡はきれいなままなんだよね。

魔物たちもなんかを感じてるのかな?

 

そんな場所のはずなんだけど。

 

「……お前達にとっては、この辺りの魔物相手は最早戦闘とすら呼べんのだな」

 

「前にも言ったと思うけど、あたしらとキロさんを一緒にされちゃ困るわよ」

 

「攻撃したって分からないくらいだもんね……一演奏の間に何回詠唱出来るんだろう?」

 

あたしが調合した新しい――キロさん曰くセラーフィムハウル(天使の絶唱)の威力はおかしい事になってて、「気配を感じたと思ったら消えてる」。分かるのは魔物が消える際の魔力の残滓だけだ。

唯一視認できたのはシャイニングぷに。ただし、それすら瞬時にナニカに飲まれた。

なんでも発動時間が一瞬過ぎて、あたしたちの目が追えてないだけらしい。それ魔法なんですか?

 

おかげで魔物がいたかどうか分かんない散歩状態でここまで来れちゃった。

……キロさん、ボオスがいるからちょっとサービスしてない? ボオスには甘いなあ。

 

『……キロさん、どうだい?』

 

「大丈夫、だね。昨日よりずっと闇の残滓を感じられるようになっているし、力も借りられる。恐らく喚び掛けに応じて頂けると思うよ」

 

お! よかったよ。ここで使えなかったら意味ないもんね。

後は闇の大精霊さん次第か。出て来てもらえる事を祈るとしましょ。

 

「さて、それじゃあ……全員祭壇の内に入って私のそばから絶対離れないように。アル、錬成でこの祭壇の建物を完全に覆える?」

 

『出来るけど……真っ暗になるよ?』

 

「それが目的だからいいよ。予め世界を作っておけば周囲への影響も小さく出来るから」

 

……?

いまいちキロさんの言ってる事が分かんないわね――世界を作っておく?

闇だから真っ暗にってのは分かんなくもないけど。

 

「アルに錬成してもらった後、私の精霊を顕現させる。錬成直後は真っ暗で何も見えないだろうけど、じきに見えるようになると思うから落ち着いてね。「呼吸を忘れないように」」

 

なんか緊張する! でもここまで来たんだし、引くなんて選択肢はないよね!

 

『それじゃあ……いくよ!』

 

 

パンッ!

 

バチバチバチバチッ!

 

 

あたしたちの見ている世界が真っ暗闇に染まって。

 

――声が聞こえた。

 

 

 

Auxilium(力を貸してね)...Summone Jörmungandr




この作品のライザはよく奇声を発しますね……。

本作においてボオスとアンペル達の正式な和解が無かったのでここにしてみました。
多分ロミィからも色々言われてちょっと弱っています。ただボオスはボオスのままです。

キロの新装備、元々名づけようとしていたものが既に使われている事を知って変えたりました。
そして、やっとキロの精霊の登場です。

次は闇の大精霊との謁見、そしてキロの精霊とのご対面です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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