ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
最後の作戦会議です。
今回もよろしくお願いします。
『それじゃあ……今分かっている事を整理させてもらうよ』
中枢にいたタオ、拠点で瞑想中だったらしいレントとリラさん、ロミィさんから宿題をどっさり渡されていたらしいボオスも来て全員集合。
ボオスが少々げんなりしている気がしなくもない。
「今のボオスの思考回路とコミュ力で商会を立てるとか……はっ、商人なめんじゃないわよ」
「留学先の講義より過酷な気がするんだが……今やる必要が? ランバーが既に不味い」
「当たり前でしょうが。引っ越しした後の爺様達の生活費を誰が稼ぐのよ? ブルネン家の資産だけで何カ月も維持できるとでも? 此処と一緒の物価で考えてたらあっという間に破産よ」
だそうだ。ロミィさん超スパルタだね……ランバーのやつ生きてんのかしら?
話の進行はアルさんにしてもらう。他にまとめられる人が思い当たらないし。
『まず今日の成果だね。ライザが時間を制御できるアイテム「時空の天文時計」を作ってくれた。これで精霊の世界でも行動が可能になったよ』
「お疲れさまだったよ、ライザ!」
「どんどんライザが人間離れしていくぜ」
「同感だな。大人になる前に人間をやめるとは」
「僕の時計がそんなすごいものになるなんてね」
タオのはその通りだけど……レントとボオスめ。クラウディアの労いを見習いなさいよ。
「ただ一つ注意事項だ。何度か試して分かったが……今回の使い方の場合、一度に身体の時間の進みを止めていられるのは発動元の時空で針が回りきるまで、つまり12時間が限度のようだ。それを超えた瞬間、アル君とキロ嬢を除いた残りは私も含めて一瞬で塵になるだろう。まあ精霊の世界で活動可能な時間が、体感で半日なのだと思ってくれ」
「結構物騒なお話だね……まあどうせそんなに長い間戦えないか」
「私はともかくライザ達は体力の限度があるからね。短期決戦の判断で正解だよ」
どうやらおばあちゃんになるのが分かる前にこの世からオサラバらしい。
長期戦なんて考えてなかったし、短期で終わってなかったら五体満足かも怪しいしね。
「こういう確認はしたくないんだが……その半日の時間はこちらで流れているわけだな?」
「そうだ。つまりボオス少年の予想通り……発動から半日経っても我々が戻ってこなければ、という事になる」
「……分かった」
ボオスとロミィさんの行動開始までの制限時間って事ね。
その時は――後をお願いする事になる、か。
なあに考えてんだあたし! 失敗なんて前提にしないっての!
『まあ今回も一発勝負で無くていいかもだからね。ただ、調合の素材として島を維持していたエネルギーの一部「アルクァンシェルリング」を外したから島の寿命は……残り3日弱だね』
「クーケン島の皆に一時避難してもらったとして、そこから国内組は3日以内。遠方組は半月くらいが引っ越し期間の目途かな? 郵便じゃ時間かかるからボオスとランバーには世界中を走る覚悟をしてもらうわよ?」
「賢者の石の調合目途は立っているんだし、島民の避難が間に合わないなら流石に手を出すからね? これはライザもボオスも飲み込んで」
「走るのはいいがキロの傍には付かせてもらう。一人でそんな役割を担当させないからな」
「あたしがそれまでに調合すりゃいいだけの話よ! 大精霊さんの力ももらえるんだし」
仮であっても人柱役なんて絶対にさせない――あたしがやり遂げればいいだけだ。
『目下の目標は、災厄こと「常闇」の討伐か再封印だ。はっきり言って分からない事だらけだね。ただ……予想できる事もあるんだ』
「大精霊様の仰っていた事だな」
「なにも分からないのとは大違いですよね!」
「どう対処するかはあるが……アル君、糸口は掴めそうかね?」
災厄……もう常闇でいいか。大精霊さんの都合だったんだしその方がイメージしやすいや。
アルさんはあの話からどんな風に予想したんだろう。
『それなんですけど……常闇はフィルフサに近いモノなのではないかと思います』
なかなか思ってなかった話が出てきた。そんなところにもフィルフサ?
「奴らにか?」
「一先ず最後まで話を聞くとしよう。続きを頼む、アル君」
『理由は、まず侵蝕という性質がフィルフサに似ている事が一つです。フィルフサの「精霊を食べる」という性質は「世界の在り方を無に帰している」とも言える。汚染というのも侵蝕の在り方の一例かもしれません』
単にフィルフサの食べ物って思ってたけど、そういう特性って事かな。
あたしたち生き物はいつか大地に還って、また何かの命になる。
でもフィルフサは精霊――つまり世界を食べる上に汚染もするんだもんね。なにも生み出さない。
自然の法則から外れちゃってるって言えるのかもしんないのかな。
『二つ目は影の女王の元である女王の闇を取り込んだ事。女王の闇の根源はボク達人間の負の感情だったわけですけど、それがフィルフサの形を成した物を取り込めている。マイナス的なエネルギーならなんでも可能とも考えられますが……それなら人間の負に限らず、この世界における他のそういったエネルギーでも取り込めているはず。ですが話を聞いた限り、恐らくそんな事は起こっていないんだと思います』
「恐怖の感情なんて人に限らないもんねえ。でも、今回のやつ以外はその常闇さんには恐らく取り込まれてない、と。アンマッチかもしれないって事かな?」
「ある程度フィルフサっぽいから、女王の闇は取り込まれちゃったって事ですね?」
『そんなところだね。影の女王を放っておくと新しい災厄になるって話もあるから……まあこれに関してはちょっと理由付けには弱いかな』
こんな事がポンポン起きても困るけど、蝕みの女王以外にも強力な存在がいるかもしんない。
それが人の負の感情を生み出してるなら……影の女王以外にもそういうのが居るってのもあり得るのかな? それもある意味常闇のエサのはずだ。
常闇が封印されてた時間はムチャクチャ長い――だから吸える機会はいくらでもあったはず。
だけど今回突然動き出したんだから、女王の闇は特に食べやすいものだったってとこかな。
『そして三つ目。これが一番の理由なんですが……ボクにとってフィルフサがとても「理解」しやすい存在だった事です』
あん?
「口を挟ませてくれ。それはアル君の「錬成」における理解、という事か?」
『そうですね。本来生物を理解するというのは簡単な話ではなくって……個体差はほぼ関係ないんですけど、どの成分で出来ているかや構造を正確に把握している事が大前提。仕組みとかは後付けの話なんです』
「そうでなかったら、アルの世界は錬金術師で溢れかえっているからね」
そういう色んな事を全部頭に入れてて、それをちゃんと構築式に表せる人が錬金術師なんだね。
『ですが……約二カ月前にボクが初めてフィルフサに遭遇した際、ボクはフィルフサに軽く触れたその瞬間に「理解」が出来た――出来てしまった。恐らくこれは加護による影響なんでしょう。でも加護は本来常闇に対応する為の特性のはず。現に他の生物の理解には関与していません』
「アルが「分解」とやらを魔物に使ったのは……確かにフィルフサと影の女王相手だけか」
「つまりエルリックさんの加護とやらが勝手に反応するフィルフサは、正しく常闇に近い存在であるという証左。逆から追えるわけですか」
「加えてアルは私無しでも闇の理解が出来るからね。常闇を闇の存在と捉えても解釈が一致するわけだよ」
ぐぬぬ。ボオスめ、やっぱコイツ頭回るわね。
だけど――そうか。
「錬金術師」にとっての「理解」がどういった感覚か分かんないけど、普段はアルさんの意思だけじゃ使えない光の加護がフィルフサの「理解」については勝手に作用した。
オーリムの生き物って違いはあるけど、生き物には違いないもんね。
つまりフィルフサが特別対象なわけだ。
『そういう事だよ。これらの事から……物凄くざっくりした纏め方だけど「極めて強力な闇属性のフィルフサ」と言えるんじゃないかと。影の女王をすぐに理解出来なかったのは、人の要素が強かったからだと思います』
「ひょっとしたらフィルフサの祖先……起源とでも言える存在なのかもね」
「大昔のフィルフサ……カマキリの先祖って、やっぱりカマキリ?」
「じゃあまたカマキリ退治っつう事か?」
「カマキリとは限らないんじゃない? 近いモノ、なんだし……そう思いたいな」
「タオ君、女王でもダメだったもんね。まあアレはちょっと……」
知らんぷりしとこう。多分アレをやらかしたのあたしだし。
な~るほど。
常闇なんて大層な名前が付いてるけど、要は超強力なフィルフサっぽいナニカって事だ。
まあその超強力って物の中身が……大精霊さんたちですら倒せなかったシロモノって事だけど。
いや、待て待て。その前に絶対解決しなきゃいけない事がある。
「その前にとっても大事な話があるよ――アルさんの身体って封印に混ぜられちゃってるんですよね? 戦う以前にアルさんがこの世界から……」
「ホントそれ。アル君がどうにかなっちゃうなら、まずそれを考えるのが第一だよ」
常闇と戦う状態になるって事は――封印の解除。つまりアルさんの身体は……。
『ありがとうライザ、ロミィさん。まあ確かに、そのまま封印を解くなり破壊するなりしたら――ボクはこの世界から消滅するんだろうね』
「やめてくれ。ここまで導いてきた貴方の消滅を以て成立する平和なぞ……価値はありませんよ。犠牲を前提とした解決の是非を俺に問うたのは貴方ではないですか」
「そうだぜアルさん! ギリギリまで考えようぜ!」
「うん! そんな事絶対しちゃダメだ。僕らもなにか考えますから!」
「諦めないです! 絶対何かあるはずですよ!」
うん。絶対そんな事させない! そんな事で得た世界なんて望まない!
もし……もしそんな事になろうものなら。あたしの価値観が壊れていようが。
「もしアルさんが消えちゃうようなら。あたし、石――作らない」
自分からアルさんを失う選択を取るくらいなら、もうクーケン島は救わない。
アルさんが消えた日常は、もう島の日常じゃない。少なくともあたしにとっては。
賢者の石を作って島を救う事より、アルさんの身体を助け出すために時間を使う。
これを譲るつもりはない。
「おいおい……とんでもない人質を取るものだな、私の弟子は」
「それだけの気概と覚悟という事だ。茶化すな」
「ライザも言うようになったわねえ」
「私も闇の大精霊様に来ていただくのを止めようかな? さっさとその鉄くずの頭をぶん回して必死に考える事だよ」
『ヒドイ言われようだなあ……』
――なんか、あたしたちと違ってアンペルさんたちはわりと穏やか……?
「で? ――ちゃんと考えはあるんでしょ?」
『うん。幸い今の状態は都合がいいからね。いける筈さ』
「ライザ。アル君がお前達を不必要に不安にする事を考えるわけがないだろう?」
「今朝私達は叱られた立場ではあるがな。アルを……少しは大人を信用して欲しいものだ」
つまり大人組は、アルさんがその対策を考えてないわけがないって思ってるって事で。
――そりゃそうだ。
だって、アルさんなんだから。
『それにしてもまあ――またボクがやる日が来るとはね』
登場人物が増えたせいで誰が誰だかますます分かりにくいですね。
基本的に同じ人物が連続では発言しないようにしています。
さておおよそ常闇とやらの正体の見積もりが立ちました。
そしてアルの身体を取り戻す方法も……?
それでは87日目、最終決戦です。まずは精霊の世界へ。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。