ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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全てのネタ晴らし。そんな大層な物ではありません。

キチンとした理由づけ? 出来ませんでした御免なさい!
でも物語の始まりってこんなもんじゃないでしょうか?(震え)

スーパー説明回になります。かなり読みにくくなってしまいました。
加えて文字数も久方の1万オーバーですが、
途中で切ってしまうと余計に分かりにくくなりそうだったので、
1話で纏めました。申し訳ないです。

今回もよろしくお願いします。


111. 87日目⑤  偶然と必然が繋いだ縁

≪あんびりばぼー≫

 

大蛇さんが何かを呟いて。

魔法錬成陣は常闇の中に押し込まれ、あたしの手元から消えていた。

 

 

 

――その直後。

 

 

 

 

 

 

パキィン!!

 

 

 

 

 

 

闇が割れた。

真っ暗な世界からいきなり光が入ってきたもんだから、目の前がホワイトアウトだ。

 

『何が起きた!? 内からの圧が消え失せおった!』

 

どっちか分かんないけど、大精霊さんの声だ。

という事は大蛇さんがとぐろを解いたのかな?

 

『――とめどなく近づいて来ておったヒトの負が散っていっておる。核として認識されなくなった……か?』

 

……やっと目が見えてきた。

 

間違いなく遺跡の長い階段の頂上。封印があった場所の景色だ。

でも……もうその封印はないし聖石もない。

 

そこにいるのはあたしたち8人と、光と闇の大精霊さん、アルさんが動かしてたオーガヘッド。

ついでにあたしが掴んでる常闇。

 

そして、一か所に寄ってくれたおかげでスケールが分かるようになった大蛇さん――でっか!!

デカいなんてもんじゃないよ! 夏のおっきな入道雲!! 大嵐を思わせる真っ黒な巨体だ。

 

「外に……出たのか?」

 

「恐らくはな。色々と状況が変わり過ぎていて理解が追い付かないが」

 

最初に聞こえたのはリラさんとアンペルさんの声。

眩しいしコイツの圧も感じないし、同感だね。

 

「本当に……成功したの?」

 

「うん。本当に成功したのさ」

 

次は今の状態が信じられないようなキロさんと、確信を持ってるアルさんの声。

この人の確信が得られたのは、あたしの中では1000パーセント成功と同じ意味である。

 

「うおっ!? なんだあのデッカいの!?」

 

「雲より大きいじゃないか! ムチャクチャ遠くに居るはずなのに!」

 

「何を食べているとあんなに大きくなるんだろうね!」

 

最後はレント、タオ、クラウディアの――大蛇さんを見た感想だろう声。

レントとタオはいいけど……クラウディアは目を付ける所がズレ過ぎてない?

 

ともかく――全員無事、だね!

 

『小娘、汝が掴んでおるのが災厄か?』

 

光の大精霊さんが近づいてきた。

ああっと、たしかにまだ掴みっぱなしだったわ。

 

手を放して……そのまま横に倒れてゴンッ! て音がした。

今ので起きないでしょうね?

 

「そうだよ」

 

『何をした?』

 

「みんなで弱らせて、あたしが調合して、侵蝕の特性を消した……でいいはず?」

 

「そこは自信を持とうよライザ……」

 

アルさんとキロさんがこっちに来た。みんなも集まってきたね。

 

『侵蝕の特性を消した……とな?』

 

「はい。錬金術士ライザが光のご加護で作ったアルフォンス・エルリックの錬成陣を常闇に調合し、侵蝕の特性を打ち消した、と」

 

『……アルフォンス? いやそれ以前に、この姿は……』

 

キロさんが闇の大精霊さんたちに説明する。そういや光の大精霊さんはアルさんの名前を聞くのは初めて……いや、自分で喚んでおいてそれはないか。

 

『特性を、消した……? 現象とすら言える存在の概念を書き換えるなぞ――いや、その前に光の力を使ったと言ったな? ……ああ、案の定じゃ』

 

闇の大精霊さんがアルさんの方を……ちょっ!!??

 

「アルさん透けてる! 透けてきちゃってる!!」

 

「……へえ、ホントだね。加護を使い過ぎたかお役御免だから、かな?」

 

「落ち着いている場合じゃないよ! まだまだオーリムでやってもらう事もあるんだよ!?」

 

『おい、光の』

 

『分かっておるわい。取り敢えずでよいか――それ』

 

 

パチン

 

 

アルさん本人は平然としてて、あたしとキロさんを中心に他のみんなは大慌てして。

光の大精霊さんの指パッチンでアルさんの濃さが元に戻った。

 

「おぉ……戻ったね。あっさりだ」

 

「カンベンしてくださいよ……アルさんが消えちゃうかと思った」

 

「ごめんごめん。なんかやっぱり分析したくなっちゃって」

 

「研究者ってのはやっぱり何かズレているよ……」

 

「否定はしないが、アル君は特別だと思ってくれ」

 

『汝はわらわの力で構成しておるのに、使い切れば消えて当たり前だ。しかし此度は大儀であったな、()()()()()()()()()()()

 

……うん?

 

「あれっ? それってお兄さんの?」

 

「そうだね……光の大精霊様」

 

「彼は「鋼の錬金術師 エドワード・エルリック」ではありません。その弟の「アルフォンス・エルリック」です」

 

『………………は?』

 

アルさんの言葉を引き継ぐ形でキロさんが説明する。

だよね? 間違ってなかった。

だけど光の大精霊さんはポカン顔だ――凍り付いたとも言える。

 

『……ならば、あの鎧は? 鋼とはアレの事では?』

 

大精霊さんが動かなくなった鎧、オーガヘッドを指さす。

 

「アレはあちらで私が身体を失った際、兄が私の魂を錬成し定着させた際の鎧です」

 

ちょいまてまてまて!

じゃあなにか!? あっちで全身を失ったって――アルさん(本人)かい!

 

『おい光の……どうなっておる? 分岐させたのはアルフォンスではなかったのか?』

 

『……わらわのヘマは、もうそこから始まっておったのか……』

 

 

 

 

 

 

そこから長々と――常闇を放置してるけど、経緯を確認した結果。

 

「つまり私は……兄と間違えられてここにいる、と?」

 

そういう事らしい。

 

『現場現物は基本じゃ。何故確認しておらんかった?』

 

『ホーエンハイムをここに喚んだ時、結果的に問題無かったからな。検索式もそのままでよいと思っておったのだが』

 

 

 

遥か昔、どっからか分かんないけど忽然と現れて周りを侵蝕し始めた常闇。

これを当初は大精霊さんたちが集まって、直接力を抑えていたらしい。

 

でもそれだと精霊の力を広げる――世界を作る事が出来なくて。

その代わりをさせるために「封印」を構築しようとしたのが始まりだそうだ。

ただ大精霊さんたちにもそんな経験はなくって……そういうのに詳しい存在に協力してもらうことを考えた。

 

その第一号として喚んだのが、アルさんのお父さんであるホーエンハイムさんって人らしいんだけど――この時点で既におかしな事になってたらしい。

 

「私の父の名は「ヴァン・ホーエンハイム」で、「ホーエンハイム・エルリック」ではないのですが……」

 

『あやつも同じ事を言いおったわ。わらわの力への適性も想定より外れたし時間軸も狂った……まあ、それでも封印は構築出来たしな』

 

「余りに適当過ぎるのでは……?」

 

『巫女の言う通りじゃ。該当する一存在を直接探し出すのが相当に手間なのは理解するが、術式の意思に事の全てを委ねるのは危険と皆が言うたはずじゃが』

 

「実際にどうだったのか確かめようもないが、アル君の父君は並行世界の存在としては名が変わるほど異なる歴史を歩んだのかもしれんな」

 

『中々に面白いヤツじゃった。死にかけの様な顔しとる癖に興味がある事には目を輝かせおって』

 

という、アルさんのお父さんもひょっとすると間違って召喚されたのかもしれないのだった。

アルさんの気配を懐かしんでた雷の大精霊さんは、ホーエンハイムさんに会ってたんだね。

 

「光の適性を持つ、理論に詳しい知的生命体」で引っかかった一人らしい。

当時はこっちに「錬金術士」どころか人もほとんどいなかったとの事。

 

「れんきんじゅつし」って言葉は、ホーエンハイムさんから聞いたのが初めてだそうだ。

……ひょっとしてこの世界の()()()()って、そこから来てたりする?

 

 

 

ホーエンハイムさんが封印を作ってくれて、大精霊さんたちの手が空いて。

色んな世界が作られ始めたけど――封印ってのもやっぱり劣化しちゃうものだったらしくって。

それで二回目の召喚となったわけだ。さっきの検索式とやらを使ってね。

 

光の大精霊さんが分岐――もう召喚でいいや。召喚の候補として選んだキーワードは二つ。

第一が「前回喚んだ存在の血が濃い事」、第二が「真理を見ている事」……要は手合わせ錬成出来るからしい。優秀の証みたいなもんだもんね。

この世界換算で数億年は経ってるから、ホーエンハイムさんは亡くなってると思われてたみたい。

 

「父が亡くなったのは私がここに来る6年前ですね」

 

『おかしな魂をしておるとは思ったが、まだ生きておったか』

 

「もしホーエンハイムさんがあのままだったら、後何年ご存命だったんだろうね?」

 

「さあ、想像もつかないなあ。53万6329人分の寿命となると……」

 

……もうなんか「頭打ちました?」って言いたくなるわね。

 

ちなみに名前を直接指定する事は出来ないらしい――世界が違うと名前の概念やら発音やらスペルやらいろいろ違って難しい上に、同姓同名を避けるためとかいう変な理由。

世界ってのはムチャクチャ数があるらしいから、あたしの同姓同名でも数万人はいるんだって。

 

元の封印を作ってくれたホーエンハイムさんと同じ世界の出身ならここに存在出来る事は分かってるし、血縁者なら「錬金術師」の才能を受け継いでる可能性も高いって事ね。現に正解だった。

「真理」ってのはホーエンハイムさんから聞いたそうだ。

 

これで選ばれたのが、アルさんのお兄さんである鋼の錬金術師「エドワード・エルリック」さん。

キロさんが言うには、アルさんよりエドさんの方がお父さん似らしいからそのせいかな?

 

だけど、ここで問題発生。

喚ぼうとした時間では……なんとエドさんは錬金術師を辞めていた。

アルさん曰くその才能を自ら捨てたらしい。世界で唯一絶対に錬金術が使えない人になったって。

何があったか分かんないけど――世界を救った力を捨てられるってすごいよね。

 

「なんでその……アルさんの兄さんってそうなったんすか?」

 

「早い話、錬金術より大切な物を見つけたんだよ。レントが塔を目指すより大事な事を心に決めたのと同じさ。まあ、それで終わりにしたわけじゃなかったけどね」

 

錬金術(自分の才能)より大切な物……」

 

「世界で最高峰の才能だったんですよね? 僕じゃそんな事出来そうにないなあ」

 

「なに、タオ達の人生はまだまだ長い。これからいくらでも大切な物を見つけられるさ」

 

「コイツのように、何時まで経っても過去の出来事に縛られるような人間にはならないでくれ」

 

「リラさんが脳筋思考を止めるって事ですか?」

 

「クラウディア、サラッと刺さないであげて? というより、真理をも破ったエドさんの信念(決意)ソレ(ただの脳筋)を同列にするのは流石にちょっと見過ごせないかな……」

 

 

 

でだ……ここからがややこしい。

その検索式に選ばれる事と実際に喚べるかは話が違うらしい――管理が別だから。

ここに招待できるのは光と闇の大精霊さんだけ。つまりこの二人が認めてないといけないわけだ。

 

あたしたちの場合は、闇の大精霊さんが直接OKを出してくれてるから問題なし。

だけど二回目の召喚の時は「錬金術師」である事が絶対条件。つまり当時のエドさんはNG。

そのせいでそもそも召喚出来なかったらしい。

 

人一人を探したり喚んだりってのは結構調整やらが大変らしく、この精霊の世界で数千年ほど準備が必要に――自業自得だね!

 

『錬金術師でなくなっていたのか。分かるまでに随分と時間がかかったものだ。そもそもこちらに分岐出来ていなかったとは』

 

『ああ……もう嫌な予感しかせん。こんな事を術式任せにするなぞ』

 

 

 

後の問題につながったのは……()()()()()()()()()()()()()きちんと確認しなかった事。

だから懲りずにもう一回エドさんを喚ぼうとしたわけだ。

 

 

 

時間が経って三回目の召喚。

 

光の大精霊さんもアルさんたちの世界についてすこ~し勉強したらしく、前回喚ぼうとした存在(エドワード・エルリック)の特徴を確認した――それが「鋼の錬金術師」の二つ名。

だから検索条件の第三に「鋼の錬金術師と呼ばれる」を追加したらしい。

もうピンポイントじゃん! そこまでするなら自分で招こうよ!

 

で、ここで想定外だったのは――予定通りのエドさんじゃなくてアルさんがヒットしちゃった事。

 

「なんでその条件で僕が該当したんだろうね?」

 

「多分だけど……アルが鎧で活動していた間、何度か「鋼の錬金術師」に間違えられているよね? セントラルとかリオールとかブリッグズとかで。初見じゃ私も勘違いしただろうし……ヨルムンガンドすらアルを「鋼の錬金術師の片割れ」と認識している。だから、あっちの世界では一定数アルを「鋼の錬金術師」として認識している人がいるんだよ。背丈的にもアルの方が目立ったし」

 

なんか……どこかで「誰が豆つぶドちびかーーーッ!!!」って声が聞こえた気がする。

 

更にもう一つ、光の大精霊さんが把握してなかったルール……ルールというか常識らしい。

 

『阿呆。二度も同じ存在を喚ぶなど世界が認める訳が無かろう。同じ存在を一つの世界に複数存在させる所業、過剰に因果と世界線を増やすなぞ……我らが消されるぞ。それでも成り立つ存在など、最早生物の域を超える』

 

一度は喚ぼうとしたエドさんはこのルールに引っかかって、代わりにアルさんが選ばれた。

そもそもエドさんが既に錬金術師じゃないのは変わんないんだしね。

そういう意味でも「当時の鋼の錬金術師」はアルさんだったわけだ。

 

 

 

けど、ここでも問題が起こった……んだろうね。この辺はもう予想の話だけど。

 

無駄に追加してしまった第三条件である「鋼の錬金術師と呼ばれる」が、アルさんの場合は検索上問題なくてもこの精霊の世界に喚ぶ上では曖昧と術式に判定されたくさいのだ。

さっきのキロさんの説明の通り――アルさんは元々は鋼の錬金術師じゃないけど、そうだと思っている人がいたから候補に挙がったに過ぎないんだしね。

実際に光の大精霊さんも鋼の錬金術師はエドさんだと思ってて、正式にここに招かれていたのはアルさんじゃなかった。

 

ここで喚ぼうとする前にエドさんなのかをちゃんと確認しておけばよかったものを……光の大精霊さんは「検索式で見つかった」事実だけ確認して召喚を強行。

 

その結果……アルさんを召喚しようにも術式は困ってしまい、苦肉の策として再構築の段階でアルさんが確実に「鋼の錬金術師と呼ばれていた」時期である14歳頃の身体に似せて構築した――見た目がそうであれば中身がどうでも他人にはわからないからね。間違ってはいない。

 

これによりアルさんは肉体が14歳、魂と精神が20歳の状態で光の加護によって形を成した。

キロさんは「エレメントがない身体が光を纏ってる」って言ってたけど、あたしたち的に正しくは「人の身体の形をした光のエレメントそのもの」だったんだね。

 

あたしたちみたいに見た目で判断する分には区別が付かないし、現にあたしたちが住んでる世界に喚ぶなら問題なかったみたい。

 

 

 

だけど……()()()()()()()はそうでもなかったらしい。

 

 

 

元より光と闇の大精霊さんが認めた存在しか来る事が出来ない世界。二人の想定から招かれてない存在は入ってこれない――じゃあホーエンハイムさんは一応同一人物だったのかな?

 

アルさんは光の大精霊さんから()()()()()()()()()()()()し、肉体と精神・魂の年齢……キロさん風に言うなら活性かな? それがちぐはぐになってヒト扱いされなかった。要は異物だ。

 

つまり――アルさんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()に不完全な召喚になっちゃって、精霊の世界(ここ)から拒否られ、別の時空のすぐそばで重なってたあたしたちの世界のエリプス湖に落ち、漂流し、クーケン島で救助された。本末転倒もいい所だ。

 

 

 

 

 

 

これがアルさんが召喚された経緯の全て。長ったらしいけど原因はシンプルだ。

結論だけ言うなら光の大精霊さんと、検索式と、この世界との連携不足。

 

 

 

――つまりは。

 

 

 

「全部あんたが適当にやったせいじゃない!!!」

 

「気持ちは分かるけど落ち着こう!? ねっライザ! お願いだから!」

 

『いや、この童女の言い分が全面的に正しかろう。止めずともよい――いい薬じゃ』

 

「闇の大精霊様まで!?」

 

「誤って召喚された者であるはずなのに……しっかり目的を達成はしているな?」

 

「それだけエルリック兄弟が優秀なのだろう。アル君の兄上にも会ってみたいものだな」

 

「それに……俺たちはその失敗した召喚ってやらのおかげでアルさんに出会えてんだからな」

 

「そうだね。そのおかげでアルさんに会えて、いろんな体験をして、世界の危機に立ち会って……なんかおかしいね?」

 

「ずいぶんすごい経験をする事になったのは間違いないけど、絶対に出会えてよかったよ!」

 

「こんな理由で別の世界を歩む事になったなんてね。元々はどうなっていたんだろうなあ――あぁ、さっき聞いたんだっけ……僕は好き勝手に()()()()()?」

 

『……まさか、わらわがヒトカタに説教される時が来るとは』

 

『滑稽』

 

『光のやつはぬけておると常々言っておったものを、話を聞かぬからじゃ』

 

『後でわらわがしっかり焼きを入れてやろう』

 

『火のやつがやると本当に焼き(焦げ)が入る。控えめにな』

 

人型の存在が反省を表す時の姿勢――「正座」。

今これをやってるのは光の大精霊さん。背はタオより低いから子どもがいじめられてるみたいだ。

他の大精霊さんもこぞって普段の行いを責め気味だ――今に始まった事じゃないんかい!

 

 

 

「さて、それで……あの常闇はどうしようか?」

 

アルさんが、未だぶっ倒れたままの常闇を指差す。

 

もう侵蝕の特性はないはず。今はただの「光が大嫌いな強力な闇っぽいナニカ」でしかない。

強力な存在には違いないけど、もう世界を滅ぼすような事は出来ないし。

言葉を聞いた感じ、単に光が怖いだけであって、闇の中に居れば特性が消えた今は多分大人しいんじゃないかな。

 

『順当に考えれば……当初の予定通り封印じゃろうな。なんであれ強力な存在には違いない』

 

闇の大精霊さんがそんな事を言う――まあ分かんなくはない。どうにもなんないし。

そんな時に。

 

≪すとれーじ≫

 

大蛇さんから声が聞こえた。遠くからでもよく聞こえるね。

 

「うん? ……ヨルムンガンドが保護するの? まあ闇の眷族と言えなくもないだろうけど」

 

≪そーりー≫

 

「……? なんで謝るのかな?」

 

大蛇さんが保護するらしいけど……キロさんも完全には意図がつかめてないらしい。

 

「どうしたの? キロさん?」

 

「言葉のまま……常闇はヨルムンガンドが保護するって言いだしているんだけど、何故か謝られちゃった。私も全部正しく理解出来ているわけじゃないから……」

 

「理解……というよりそもそも言葉足らず、という事はないのかい?」

 

「あり得なくはないけど……なら一番理解していそうな存在を喚ぼうか。複数同時召喚なんて初めてだけど」

 

たしかに大蛇さんの言葉は、そもそも理解出来ないけどほぼ全部一言だもんね。

そういう喋り方なのかもしんない。

でもそれが分かる……要は翻訳できる? 存在って。そんな都合のいい精霊が?

 

『補助』

 

「ありがとうございます、氷の大精霊様。じゃあ――Summone Fenrir !

 

 

 

なんか聞いた事のあるフレーズだった、よね? 氷属性の精霊召喚。

一瞬で召喚魔法陣が展開され……中から飛び出てきたのは。

 

 

 

「……おっきなワンちゃん!! 聞いていた通りだよ!!!」

 

『犬ではない。狼である』

 

『これもまあまた……よく精霊の枠に収まったな。災厄より格上ではないか』

 

ボトルの中のクセルクセスで召喚した――氷室の代わりをしてくれたフェンリルが出てきた!

前の時よりずっと大きいね。30メートル以上ある? 喋ったのも聞き間違いじゃなかった。

 

で、クラウディア! そんな前脚にモフモフしにいくような存在じゃないって!

フェンリルも「ワンちゃん」=「犬」ってちゃんと知ってんだね!?

 

「でっけえ犬がいたもんだな」

 

「竜より大きいなんてね。これが掟の正体じゃなくてよかったよ……」

 

「アンタらはなんでそんなに冷静なの?」

 

「来てくれてありがとう、フェンリル。彼の言葉を聞き取って欲しいんだけど……」

 

キロさんが、はるか遠くにいるけどデカすぎて近くにいるように見える大蛇さんを指さす。

 

「出来そうかな?」

 

『そんな事か』

 

≪ぶらざー≫

 

「は?」

 

『久方振りだ、弟よ』

 

「は?」

 

最初のはキロさん、後のはあたし。

……おとうと?

 

「以前聞いた「仲がいい」ってのはそういう事だったんだね。兄弟というなら納得だよ」

 

「初めて影のボトルに入った時の話だな。精霊にも兄弟関係があるとは」

 

「ヨルムンガンドは本来精霊ではなく神の一種ではなかったか? 関係性には驚いたが」

 

「フェンリルも元は神話の存在らしいからね――大精霊様のお話の限り、格が変わっているのかもだけど。でもまさかの兄弟……えっ、私の召喚できる精霊ってそういう縁?」

 

アルさんたちは大蛇さんとフェンリルの関係をおおよそ聞いてたらしい。

でも……蛇と狼だよ? この2体のお父さんとお母さんって何者?

 

『弟は言葉数が少なくてな。話は理解した……その前に』

 

うえっ? フェンリルがこっち向いた! 左前脚にクラウディア引っ付いてるけど!

 

『美味いジャーキーを所望する――そこの男は不味過ぎた。口直しだ』

 

「ふぁっはいっ! ええっとたしかどっかに……あ、あった!」

 

「僕は不味かったから助かったんだね……」

 

「失礼だよ。フェンリルは私の指示に従ってくれただけ」

 

「お前……それどっから出したんだ?」

 

以前そう言われたから、錬金術じゃないけど竜肉でジャーキーは作ってみてあった。

――アレってとりあえず言ったわけじゃなかったんだ。

どこから? どこからって……ねえ? 世界の不思議ってやつよ。

 

 

 

『……わりとイケるな。その男が格別に不味いだけか』

 

『真っ当なエレメントを含んでおらんからな。味がせんか異物だろう?』

 

『貴様の手製なら納得だ……光なぞ食えたものではない』

 

『そも食い物として構築しておらんしな……』

 

「えっと……フェンリル、そろそろいいかな?」

 

フェンリルと光の大精霊さん(正座継続中)がアルさんの味談義をする中、キロさんが本来の話に状況を戻してくれた――わりと精霊って全体的に人間味があんのね。価値観がズレてるだけで。

 

『弟の詫びは、汝の器の変質に対してだ』

 

「私の、変質?」

 

なかなか重そうな理由くさい。

 

『幾千万と時空を漂った弟の欠片は、偶然に適性のあった汝の器に入り込んだ。だが適性があっただけで、器が耐えられるかは別。弟が宿ったその日から、汝は徐々に本性を失っていったはずだ』

 

「……食事と睡眠がほぼ不要。毒耐性。感情希薄。精霊召喚特性。膨大な魔力量。大精霊様のお力を4柱分宿しても破裂しない身体の強度と再生力――私が異質だと思っていた点かな」

 

『自覚はあるか。それは汝が弟側に寄った結果だ。故に我らも引き寄せられた』

 

つまり、初めて会った頃のキロさんの雰囲気は勘違いでも何でもなく本当に儚げで――人間味が薄かったって事。

 

でも……。

 

「キロさん――今朝パンケーキ何枚食べました?」

 

「え? えっと……今朝は比較的控えめだったっけ?」

 

「いえ! 24枚食べられましたよ! 金のハチの巣とバターたっぷりです!!」

 

脚に張り付いたままのクラウディアが答えを教えてくれた――焼いた本人だから間違いない。

クーケン島に来たこの20日間だけで、多分トン単位のヴァッサ麦がこの人の胃に消えている。

どこが「食事がほぼ不要」だ。

 

『少々異常な気もするが……それは弟の影響が外部からの干渉によって中和された結果だ』

 

「外部干渉……やっぱりひょっとして」

 

『その自覚もあるだろう。主にあの不味い男だ』

 

フェンリルにとって「アルさん」=「不味い男」の名称が付いたらしい。

食べられる心配はなさそうだけど……なんとなくうれしくない。

 

「僕の持っている光の加護がキロさんの在り方を乱した、でいいのかな?」

 

『加護などと呼んでいるが、単なる「光」の特性だ。弟の器と同じく凡そ完全に近い存在への変貌。闇への相反。照らす者としての理解強化と言える』

 

「ああ、僕の魔法やフィルフサへの理解はそういう特性だったんだ」

 

「アルが近くにいると妙に口数が増えるのもそういう事だったと。つまり今の私が「素」なんだね。一応予想通りかな……私もアルにタラシ込まれたと」

 

「それはタラシ込まれたとは言わないんじゃあ……でもアルさんは普通にご飯食べてますよね?」

 

「……実は食べなくても眠らなくても平気なんだ。アガーテさんの所を早めに出たのは、それがバレないようにするためだったんだよ。人の生活習慣として食べてはいたけどね」

 

うっそぉ……全然気づかなかった。じゃあ食事はともかくほとんど寝てない?

アルさんが眠そうだったのは……そっか、キロさんが来てからだ。同衾事件が初めて。

ガリガリの時はともかく、どうりで今まで体力が有り余ってたわけだね。

 

『何をされようが掠り傷すらほぼ負わなんだのは、わらわのおかげという事だ。感謝しろ』

 

『そも光のやつがヘマをしておらねば、このような事態にならなかったのでは?』

 

「アルの怪我らしい怪我は……街中錬成陣のために自分で指を切ったくらいか。ノコギリが掠っても平気だったものね」

 

「精神的にはかなりダメージが入ったけどね?」

 

「あの時のキロさんにはズダ袋を被った小説の犯人を幻視しましたね……」

 

闇の大精霊さんから速攻でツッコミが入る――ポンコツ気味なのも特性?

あとキロさんは何をやってるんです? クラウディアに聞くとしよう。

 

『まあそれはよい。抑制された状態を突き破るほどの感情を汝自身が発露した際のみ、弟は汝の要求を把握し力を渡していた。だが……最近光に乱され抑制が解かれていた上に、弟を直接感じられるようになったらしいな?』

 

「うん。そこの……ジャーキーの子が作ってくれたコレ(セラーフィムハウル)のおかげでね」

 

「あたし」=「ジャーキーの子」。

……うん、複雑だね。

 

『汝が弟を把握した時、弟も汝を把握した――不味い男以外と比べ、周囲の存在より我々寄りとなっている事もな。だが汝ら人はあくまで「ヒト」……「我々」ではない。弟が汝の器に宿り続け、汝が弟の力を使い続ければ汝は「ヒト」でも「我々」でもない「ナニカ」になる――そこに転がっている存在のようにな』

 

フェンリルが鼻で示したのは……常闇。

えっ? じゃあ常闇の正体って……。

 

「ライザの判断は正解だったという事、か」

 

「正解も何もない。選べる可能性が私とアンペルだけよりずっと多かった、それだけだ」

 

『汝の変質は既に進んでいる。これは本来不可逆。故に弟は汝の器に留まり、変質を抑制しつつも「ナニカ」になった時はこの世界から保護するつもりでいた。だが……そこのジャーキーの娘が「不可逆」を「可逆」にしたそうだな?』

 

「その……ジャーキーの娘っていうの、やめてもらっていい?」

 

「ライザが名乗らないからじゃない?」

 

あっホントだ、タオの言う通りだ。会話で出ただけなんだよね、あたしの名前って。

 

『そこの金ピカの概念を塗り潰す事は出来た。ならば汝の器も書き換える事が出来るはず――故に弟は汝の器を出る事に決めた。宿らぬ方が、宿りつつ進行を止めるより確実だ』

 

「それで……今までの事を含めて」

 

≪そーりー≫

 

「……言葉足らず過ぎじゃない?」

 

フェンリル、相当丁寧に説明してくれたよ? かなり面倒見がいいらしい。

 

『ソイツは直接弟の影響を受けたわけではないが……在り方は弟に近い。似通った存在は汚染されている。管理するにも面倒な性質(タチ)を持っていたようだが、ジャーキーの……ライザか? その娘が塗り潰した故、管理しやすくなった。ソレも目的を達して今はただ「寝たい」そうだ』

 

「常闇の目的っていうのが全く分からないけど、随分と本来の性質(タチ)は怠惰なんだねぇ……」

 

アルさんがぼやく――まったくだ。

つい数十分前まで世界の崩壊だ! 危機だ! とか思ってたその原因の現在の望みは「寝たい」だもんね。常闇に汚染された何かってのが……フィルフサの先祖なのかな。

 

ずいぶんとはた迷惑なもんだ。しかも常闇は既に目的を達成したらしい……一体何なのやら。

侵蝕の特性を消したから光を怖がらずに済んでるとか? なんかあたし、いいように使われた?

 

『これで理解できたか?』

 

「うん、ありがとうフェンリル。貴方が居なきゃ絶対理解できなかった」

 

≪そーりー≫

 

「その言葉が「ごめんなさい」なのはあたしも覚えたよ」

 

「それで……どうするかい?」

 

大蛇さんに身体から抜けてもらうか、このまま残ってもらって「常闇」みたいなのになった時にこの世界から去っていくか。

アルさんからの問いかけにキロさんは。

 

「……ご厚意に甘えるとするよ。私自身はヨルムンガンドに何一つしてあげられてないけどね。このままで居て……将来自分が自分で無くなりそうなのは怖いし、その時にライザ達の子孫みたいな子達と戦うのも御免だから」

 

『弟が抜けたとて汝の器が大きく変貌するわけではない。既に今の形で「汝」は成っている。必要な概念の書き換えはジャー……ライザに願う事だ』

 

「言い換えの努力ありがとうね、フェンリル」

 

≪らーじゃ≫

 

フェンリル、人間味があるどころじゃないや――やさしいわ。

 

ずいぶんな役をする事になったなあ……。

あれはアルさんとキロさんの力であって、あたしはそれを押し込んだだけなんだけど。

 

 

 

常闇の身体が黒い球体に包まれる。大蛇さんが持っていくみたいだね。

その球体が大蛇さんの身体に吸い込まれる寸前。

 

 

――あとよろしく。ねるわ。

 

 

なんかすっごいムカつくセリフがあたしの声で再生された――アイツ狸寝入り!?

つうか、なんであたしには聞こえるわけ?

 

「ヨルムンガンド! 私は貴方に迷惑かけられたなんて思ってない! ――だから謝らなくていい! 私からは、「今までずっとありがとう」だよ!」

 

≪まいぷれじゃー≫

 

大蛇さんは最後にそう言って――あのデッカい身体が一瞬で消えた。

一部黒い壁みたいになってた景色が、一面夏の青空だ。




という経緯でした。
ハガレンはせっかく二つの世界観があるので、それを使いたかったというのが事の始まりでした。
後は闇に対してハガレン的な光の存在などなど、アイデアを突っ込んだ結果です。

この辺りに関しては、あとがきなどを載せる機会があればご紹介しようと思います。


島の事は別にして、これでフィルフサと常闇を巡る一連の冒険は大体終わりました。
冒険の後に待っているのは。

次が第十章の最終話です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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