ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

114 / 150
短い最終章開始です。お待たせいたしました。
いつの間にか80万文字突破……当初の予定から10万文字も増えたんですね。
皆様もお付き合いいただきありがとうございます。

冒険自体はほぼ終わって、後は最後の仕上げ。
これから見た目は大して変わらない、でも新しい島の生活が始まります。

本章はほぼ日常回です。最初の頃のようですね。

今回もよろしくお願いします。


最終章 今の『向こう』へ ~あたしはここにいる~
113. 88日目①  時代のバトンタッチ


「なんか……ギャラリー多くない?」

 

「ライザがヘマしないように見張ってねえとな」

 

「真面目な話、ライザが調合出来ないと分かった時は即座に避難を開始しなければならない。残り丸1日もないのだろう?」

 

「心配はしちゃいないけどさ? 関わった以上は見届けたいわけですよ」

 

今日は朝から――ついに島の命になる賢者の石の調合。

あたしのアトリエで支度してたところだ。

それはいいんだけど……さっすがに9人全員に見られながらの調合は緊張するって!

 

「錬金術の極致といえる物体の誕生の瞬間だ。立ち合わずにはいられないだろう?」

 

「昨晩からずっとこれだ……可愛らしいを通り越して呆れる。クラウディアもすまなかったな」

 

「いえ、大丈夫でしたよ! それに私もドキドキしていましたから!」

 

「何も出来ないって分かってても、やっぱりね」

 

昨晩クラウディアのお屋敷に泊まったらしいアンペルさんは興奮しっぱなしで眠ってないらしい。ちょっと目が充血してるね……大丈夫かな?

まあ錬金術を知らない人だとしても、どんなもんか見てみたいのはあるよね。

 

「昨日も聞いたけど……レシピはもう浮かんでいるの?」

 

「はい。キー素材がすごいのでいろいろ入れる必要はなさそうです」

 

「光の力は必要なさそうかい?」

 

「多分大丈夫です。やっぱりリンケージ調合って加護ありな事を前提にしてないみたいですから」

 

加護は本来の調合を曲げるレベルの場合だけに限る。これも変質ってやつかな。

賢者の石は――あたしは知らなかったけどリンケージ調合の極致としてこっちで伝わってる存在。

前に作った人が加護持ちだった可能性もゼロじゃないけど、今回はなくてよさそうだ。

 

――なんせレシピはしっかり見たしね。ずいぶんと独特なやり方になりそうだ。

 

さてと。

 

「じゃあ――始めるよ!」

 

 

 

素材は蝕みの女王を倒して手に入れた「戦士の証」。

それから大精霊さんたちの力を宿した「クリスタルエレメント」。

生物であるフィルフサの力の結晶体と、非生物である精霊の力の結晶体。

不完全と完全の両立。ある意味ではアルさんの世界の賢者の石と同じようなもの、なのかな?

 

なにせレシピは――昨日アルさんとキロさんが描いたものなんだもん。

 

常闇の特性を書き換えるための魔法錬成陣。アレに描かれていた「六角形の系図」。

まさにアレが「賢者の石」のレシピだ。偶然なのか必然なのか、ね。

今回はマニアックな素材が要るんじゃなくて手順が複雑。これはなかなか思いつかないよ。

リンケージ調合のはずなのに、やる事は畑で麦を育てる気分だなんて。

 

2個とも同時に釜の中へ入れて、一度分解したような感じに。

戦士の証はフィルフサの要素、クリスタルエレメントは4つのエレメントの要素が含まれてる。

素材はこれで十分だけど、過不足なく全部がバランスを取れるように組み上げなきゃいけない。

 

けど、今回はカンニングみたいなもんだ。

思い出して確認しながらするけど……自分でほとんど考えなくていいっていうね。

農家の娘である事を錬金術に活かす初回が賢者の石の調合だなんて想像もしなかった。

 

畑に例えるなら……戦士の証は種子、クリスタルエレメントは土と水と風と太陽。

土の上に種子を置くだけじゃ実らない。土壌を畑にするためには下準備がいる。

耕して、石を取り除いて、畝を作って、湿らせて、種子を撒いて、風で換気して、必要な時間だけ陽に当てる。そうやって一つの実を成す。

 

今回は――これを組み合わせて、ほどいて、向きを変えて、裏返して、空いた部分に嵌めていく。

どこから見ても穴が開かないように、デコボコにならないように、飛び出ないように。

魔力で素材の持つ要素をレシピに沿って整えていく。一つの実を育て上げていくように。

 

なんか……こういう初めての感覚は中和剤の調合を思い出すね。

錬金術のれの字しか知らなかった頃だけど、賢者の石だろうがイメージ自体は一緒。

完成形のイメージをしっかり持って、エレメントを感じて、必要な時間撹拌する。

 

そうすれば――ほら。

パチッとね。

 

 

 

「……先生。これって錬金術の極致、なんですよね?」

 

「ああ……たかが10分足らずで作れる物とは思いもしなかったがな」

 

「巨大な戦士の証……だが禍々しさはない。清らかで透き通ったような気配すら感じる」

 

全長は50センチくらい、かな?

形状は入り江の遺跡で見た聖石みたいな、上部が膨らんだ縦長。

そして……透き通っているけど、エドさんのコートみたいな赤。

単に赤いだけじゃなくて内側から光ってるね。大精霊さんたちの力かな?

 

「これで……いいのかな?」

 

「分かるのはライザだけじゃない? でも、とても安定した大きなエレメントの力を感じるよ」

 

「赤きティンクトゥラ、ね。あっちの石より綺麗だと感じるかな――おめでとうライザ」

 

「これが賢者の石……あれ? これを砕いてパイの素材に放り込んでたどっかのおバカさんが居なかった?」

 

「やったねライザ!」

 

あっさり出来ちゃったけど問題はないと思う。カンニングしなかったら思いつかないもん。

感じられる力は……強大だけどとっても静かだ。

 

「よっしゃ! じゃあ早速、だな」

 

「ああ。中枢へ向かうとしよう――タオ、頼むぞ」

 

「もちろんだよ」

 

 

 

 

 

 

中枢のコアは……以前より更に明滅が弱くなってる感じだった。

タオが言うには、あたしが賢者の石を調合する事を見越して制御関係をギリギリまで絞った結果らしい。その辺の事はあたしにはサッパリだね。

 

「じゃあタオ――お願いね」

 

「うん。預かるよ」

 

「私も手伝おう。タオはメインを頼む」

 

「頼んだぜタオ。俺たちの故郷を、さ」

 

あたしが持ってた賢者の石をタオに手渡す。

以前アルクァンシェルリングがあった所に設置して、アンペルさんもガチャガチャ調整してる。

その間にタオが……端末? こんそーる? とやらを操作して。

 

賢者の石が――ゆっくり回転し始めた。

コアも明滅が止まって、一定の輝きを放つようになった……成功かな?

 

「……タオ、どうなのかな? 残量の数値は回復した?」

 

「……大変な状態ですね」

 

「なに!? ダメだったのか!?」

 

ちょっ!? あんな素材使っといてダメだった!?

ヤバいなんてレベルの話じゃないんだけど!?

 

「回復したどころじゃないですね……エネルギー残量が表示上限を振り切っちゃって、逆にどのくらい持つか分かんない感じです。とりあえず全部自動制御に切り替えていいかな」

 

「そっちかい! ロミィさんもなかなか焦ったわよ……」

 

「ヒヤッとしたぜ……」

 

タオを除いた全員からため息が出る。アルさんすらしてるんだからホントに想定外の域よね。

 

「大精霊が言うには、貰った力が尽きるまでだけでも数万年だ。本来の賢者の石の寿命も考えればもう悩むのも馬鹿馬鹿しいだろう」

 

なんとなく暗い雰囲気だった中枢の遺跡にも明かりが灯って。

島全体に、力が行き渡っていくのが分かる――これで一安心だね。

 

「やったんだね! よかったよ!」

 

「そうだね――これでやっとオーリムに」

 

「ああ、キロ達に水を返せる。タオ、浄水装置はもう稼働出来るのか?」

 

「30分後に稼働し始めるようにしたよ。オーリムの水を貰ってると量が2倍になっちゃうからね。試運転はしてあるし大丈夫さ」

 

「その前に少し出力の調整をお願いするよ。まだ組み込んでいない部品があるからね、ちゃちゃっとやって来るよ」

 

タオが時計を見ながら答える。

この時計は以前の物じゃなくて、アルさんがプレゼントしてくれたものだ。

そして銀時計は本来の大きさにリサイズされて――あたしが受け継いだ。腰にぶら下がってる。

 

ちなみに天文時計はすでにジェム還元行きだ。強力過ぎるしね。あんなの在っちゃいけない。

 

あたしとレントが作った部品もダクトファンとかは組み込めてなかったらしいから、島に余裕が戻った今のうちに組み込んでもらわないと――ってもう戻ってきた? 早過ぎません?

手に持っているのは……部品がインゴットに加工された物かな? それでも結構な量だよ?

 

「アレって……軽々担げる重さじゃなかったよな?」

 

「あたしじゃ魔力有りでも浮かせんのがキツイくらい……だったはず。腰が逝くかと思ったもん」

 

「今のアルは、リラの精霊のバフの超強力版を常時受けているようなものだからね……前より更に人間離れしたかもしれない」

 

「一度手合わせ願うか……」

 

「もうエリキシル剤もジェムに還元したんだ。旅立つ前に怪我するような真似は止めてくれ」

 

やっぱりスーパーアルさんになってるらしい。元々ただの「ヒト」にしてもらうだけの話が、力を篭めてもらった上にサラッと光も足されてたもんね……。

 

「それでは渦巻く白と輝く青のところに向かうとしよう。あの離れもとっとと解体だな」

 

「ライザ、アレを取り扱えそう?」

 

「今なら大丈夫だと思います。アレも錬金術のアイテムには違いないので」

 

「ライザもしっかり一流の錬金術士だね」

 

「勘弁してくださいよ……」

 

アルさんはそう言ってくれるけど、あんなものを取り扱えるスキルったってうれしくないしね。

 

 

 

あの古式秘具の正体は「そこから水が湧く」っていう世界の認識を、本来の水源からあの球に移し替えたもの――無茶苦茶にもほどがある。天文時計クラスの影響力だよね。

水を出すか出さないかは錬金術士の魔力があれば切り替えられる。

 

当時は川底の光る砂を採取する間だけ止めて、終わったら戻すつもりだった……そうなんだと思いたい。でもフィルフサが侵攻してきて、水がキライな事が分かって、聖塔の貯水に利用されて。

そのままクリント王国は滅びの道をたどって……ついにオーリムに返す事は叶わなくなった。

 

大昔のボオスの先祖は水を求めて周辺を見て回り――多分だけど水浸しになってたリーゼ峡谷の水源を辿ったんでしょうね。聖塔でアレを見つけて、調べて錬金術の代物って事に気付いて、風の靴を作ったんだろう錬金術士さんが一旦止めて、島に運んでまた動かし始めた。

 

錬金術や地質に詳しい人なら水の出所がおかしい事に気付くだろうから、周辺の街にも緘口令みたいなのを敷いたんでしょうね――クーケン島に関わるな、みたいな。

それが元々の言い伝えと混じって、今の掟と島の知名度みたいになったんだと思ってるよ。

 

 

 

ずいぶん長い時間が経っちゃって、オーリムにもすっごい迷惑をかけたけど――やっと返せる。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ……いい?」

 

「うん。もう浄水装置は稼働してるから」

 

「これで島の人達の水も確保してもらったわけだね――じゃあライザ、お願い出来るかな?」

 

「はいキロさん……今まで、ありがとうございました!」

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

水生みの離れにて。

これまで数百年に渡ってクーケン島の生活を維持してくれていたオーリムの水にお礼。

 

あたしは17年、一番短いアルさんでも10年。実際には100年以上も。

ホントならあたしたちの先祖はとうの昔にクーケン島を離れていたんだもんね。

それが……今まであたしたちの命を繋いでくれて、次の世代まで繋げてくれた。

 

――ホントに感謝しかないよ。

 

手をかざして、水門を閉めるように魔力を流す。

球からとめどなく湧いていた水は……徐々にその量を減らして――ついに止まった。

 

「これでやっと、だね」

 

「ああ。これでやっと――俺達は真っ当に生きていける」

 

台座に置かれた球を回収して。

 

「今でもビックリだよ。この球からあんなにたくさんのお水が出ていたなんて」

 

「ホントにね。これは……ボオスが持っとくべき、かな?」

 

「ああ、俺が預かる――そして俺の手で返そう。それこそブルネン家の男としてな」

 

「やっとお前の「ブルネン家の男として」がマトモに聞こえてきたぜ」

 

「茶化すなレント。ボオス少年の心意気は受け取る……任せていいんだな?」

 

「勿論だ。誰がどう言おうとクーケン島が貴方達の水を使い始めたきっかけは俺の家系だ。ならその一族が終わらせるのが筋というもの。任せてくれ」

 

「ありがとうボオス。それじゃあ私達の故郷へ水を届けてもらう役――お願いするよ」

 

ボオスに球を両手で手渡す。ボオスも球を両手で受け取って。

 

「エルリックさん、お願いしていた品は?」

 

「ここに。壊そうとしても壊れないくらいにしてあるよ」

 

小さな黒い小箱。ちょっとしたアクセサリーを入れておくくらいのもんだよね?

でも――その実体は異世界技術の結集らしい。

アルさんの籠手のなんたらダイヤを砕けるくらい……って。

 

「……それはちょっと、やり過ぎじゃないです?」

 

「そうかな? 数百年この島を潤してくれて、今度は分からないくらいずっと先までキロさんやリラさん達の世界の命を育む希望の塊だよ? これくらいはしていいと思ったんだけど」

 

「気持ちは嬉しいけれど……ラストやグリードの力の再現はどうかと思うかな?」

 

「中身も謹製だよ? これは道具屋の矜持さ」

 

小箱の中には球とピッタリサイズのくぼみ。そこにボオスが球を収めてパコッと箱を閉める。

その小箱をボオスが手渡された。

 

「じゃあ、浄水装置の稼働状況を確認しがてらオーリムに向かおうか。機構的には噴水から水が湧き出していればいいから」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「父さん達にはそう伝えておけ。俺は出かけてくる」

 

「分かりました!」

 

ボオスからランバーにブルネン家内への伝言を頼んで階段を下る。

アイツ……どうモリッツさんを説得する気なのかしらね? 肉体言語?

 

トレッペの高台から流れていた滝が完全になくなってる。

近くにいた人たちがびっくりしてるけど、ボオスがそれっぽい事を言って安心させてる。

こればっかりはあたしたち3人じゃムリ……アルさんなら「ああそうなのか」で済みそうな気がするって思ってるのはあたしだけじゃないはず。

 

ボーデン地区と旧市街の噴水はちゃんと水を出し続けている。

今まで使われていなかった水路もしっかり水で満たされ始めてるみたい。

これが……元々の島の光景だったんだね。

 

経過はちゃんと見とかないとだけど、ひとまずは成功みたいだ。

だけどアフターサービスは万全に――以前アルさんにお世話になった時の事だっけ。

今後はあたしがそれをやるんだよなあ。チェックする事を聞いとかないと。

 

「ボオス! ライザ! アル君! これは一体!?」

 

アガーテ姉さんが駆けてきた。まあそりゃそうだよねえ。

 

「心配無用だ。島を直してもらった。それだけの事だ」

 

「なに? 要領が掴めないが……」

 

「まあ、その通りなんだよ姉さん。昔の形に戻したってだけなの」

 

「……また君が関わっているのか?」

 

「僕は手伝い程度ですよ。ここにいる皆が関わっています」

 

さっき中枢飛び回ってましたよね? 設計図描いてましたよね? レシピヒントくれましたよね?

 

「まあアル君も把握しているなら心配はなさそうだが……」

 

「早い話が先日の件だ」

 

「そうそう。これがそれよ、アガーテちゃん」

 

「先日の……これがそうだというのか? まあいい、問題ないというなら皆に伝えないとな」

 

こう言っちゃなんだけど、便利だなあ。アルさんの信用の大きさですよ。

そしてボオスとロミィさんが何やら仕込んだのか納得してもらったらしい。

あたしたちだけだったらさすがにもう少し説明が要りそうだ……多分バックレてるね。

 

港に向かうまでにいろんな人に声をかけられたけど、大きな騒ぎはないみたいだ。

「昔はこうだったんだろうね」ってバーバラさんみたいな人もちらほら居たし。

 

それじゃ。

 

「いこっか――オーリム(水の故郷)に」

 

「ああ。終わらせるぞ」

 

 

 

 

 

 

不思議な(えにし)だね。

 

まさかクリント王国の子孫であろう子達が、その命を懸けてまでオーリムに水を取り戻してくれるとは思ってもみなかった。何百年と戦い続け、いつかの日の為にって思い続けてはいたけど――やっぱりどこか諦めていた所はあった。これは今の私の感覚でも間違いないと思う。

 

それが、水が戻るどころか蝕みの女王を排除し、私の在り方を戻し、異世界の英雄の手によって浄化まで約束されている状況。理想の天井を更に突き破っているとしか思えない。

 

これ……夢じゃないよね? つねってみようか。

 

「むぎゅ……やっぱり痛い」

 

「何をしているんだい?」

 

「いやね? あんまりにも全てが上手く行き過ぎているから夢なんじゃないかって」

 

「あー、まあ分からなくはないかな。それは僕にとっても同じだしね」

 

隣を歩く異世界の英雄――アルフォンス・エルリック。

英雄には違いなかったけど、まさか光の大精霊様のヘマで連れて来られていたとは思わなかった。

 

仮に本来の英雄――エドさんが連れて来られた場合はどうなっていたか。

帰る手段が封印を再構築する事だけだと理解した場合は直してくれたかもしれない。

 

だけど……あの封印が父たるホーエンハイムさんの物だと知って、彼は直してくれただろうか?

――まあ彼の場合、その時は意地でも一から再構築しそうではあるね。

 

なんにせよエドさんの場合は召喚の失敗にはならないから、この世界に来る事もなかった。

常闇の再封印は成り……それだけだ。

 

 

 

アルやエドさんがこの世界に来なかったとして。

それでも私がライザ達に会う可能性自体は十分にあったと思う。

 

だけど――それ以降。

 

私はこちらに来たのかな? 来たとしてライザ達と行動を共にしていたのかな?

ヨルムンガンドの影響で、私は人間らしさを失っていた。

感情は薄く、皆と一喜一憂する事もなく、今ほどの関係性は……多分結べていないと思う。

恐らく森の拠点側でリラ達と生活をして、島には殆ど足を向けなかったんじゃないかな。

 

女王の討伐に関しても……蝕みの女王と影の女王の同時討伐なんて出来たのかな?

ボトルの世界の崩壊時、私達は脱出出来た? そんな状況にまで辿り着けた?

私は……私が「ナニカ」になる運命を回避出来たのかな。

 

そしてこれから始まるオーリムの浄化。

女王を打倒し、水が戻ったとして……元の自然に戻るのに何百年掛かったか想像できなかった。

それでもよかったのかもしれないけれど、今私に差し伸べられているのは早期の浄化の可能性。

 

――もう考えるまでもないね。

 

「来たのが……貴方でよかったんだろうね」

 

「兄さんじゃなくてって事かい? まあ、そもそもここに来ていないよね」

 

「それもあるけどさ。エドさんがライザ達に遭ったとして……どうなったと思う?」

 

「う~ん……前にも話したと思うけど何時の時期の兄さんが来たかによるかな? 本来喚ばれる予定だった「錬金術が使える」時期の兄さんは僕の身体を取り戻す為、約束の日の為、ホムンクルスを止める為に全力だった。だから兄さんは……アメストリスに戻る為の手段を探す事が第一だったんじゃないかな。クーケン島だと機械鎧(オートメイル)の問題も大きそうだし」

 

アルが14歳当時の姿で喚ばれた事も奇跡的に良い方向に作用している。

排他的と聞くクーケン島でも、あれだけやせ細っていた少年を即座に追放する事はなかった。

私には想像が付かないけどね――古老のおじいちゃんとか割といい人だよ?

 

その僅かな時間がアルを島に留まるに足る理由を与えた。

ヘマから始まった一連の出来事は奇跡的に噛み合って、アンペル風に言うなら並行世界より良い結果に進んだんじゃないのかな。

 

まあ、もう考える事もないね。意味もないし。

暫くはアルと2人きりの生活だ。そっちについて考える方が建設的だね。

しかしまあ――どうしようね?

 

「オーリムに残る事……本当に後悔しない?」

 

「しないさ。僕にしか出来ない事はクーケン島では無くなった。オーリムでこそ活きる力じゃない? 一時皆と会えなくはなるけど、僕は錬金術師――作る事が本懐だよ。何かやり様はあるだろうし……キロさんもオーリムの他の土地の状況を把握しているわけじゃないんでしょう?」

 

「まあウィンドル辺りなら無事かも……いやそうじゃなくて。暫くは私と2人きりの生活になるし、あちらの様な娯楽もなければ目新しい物もない。アルの浄化が済んでも、ある程度は経たないと真っ当な物は食べられないよ。あの黒い太陽じゃそもそも植物が育つかも分からないし」

 

「なんというか……随分悲観的だね? キロさんと一緒に居る事に僕が不満を持っていると?」

 

「だって……」

 

私は私に面白みを見出していない。提供できる物がない。

 

今まではこちらの面々で唯一アルの記憶を知っていたアドバンテージがあったから会話になった。

けど、もうその頃の記憶を掘り返す必要もない。戻らないと決めたのなら寧ろ失礼かもしれない。

ヨルムンガンドが離れた今、私はごく一般的なオーレン族と大差がないはず。

これから私が必要とされる場面にどのくらい出会うか――相手は何でも出来てしまうのだ。

 

アルは錬金術師。彼は然程その考えには染まっていないけど、やってもらうからには対価を払うのは世の常。元々私がこちらに来る対価ではあったけど、天秤の傾きは考えるまでもない。

英雄級の存在を長期に渡って拘束する……私に何が支払えるっていうの?

 

 

 

「前にも言ったでしょ――キロさんがいるから行くんだよ? 僕がオーリムに行く理由なんてそれで十分さ。対価は既に支払われているよ」

 

 

 

私がいるから、来る。

 

 

 

――ああ、そうだった。この男は天然タラシだった。

字面そのままで捉えなきゃいけない事は……頭は理解しても顔面に流れる血が制御できない。

マズいかも。今の私は人間性が戻っちゃってるんだよ? これからの生活どうなるかなあ。

 

「さ、着いたよ」

 

いつの間にか門の前へ。随分と無警戒になっちゃったものだね。

 

「キロさん……大丈夫ですか? なんだか顔が?」

 

「う、うん、ごめんねライザ。ちょっと現実感がなくって」

 

「ちゃんと現実ですよ! あと少し頑張りましょう!」

 

少し小春日和な頭の中の考えを口にしていたら、またロミィにシュークリームを突っ込まれそう……そういえばクラウディアのパンケーキも食べられなくなるんだよなあ。

凡そ「ヒト」に戻った状態じゃ死活問題になりそうだね。

 

「あっちに戻る前にクラウディアのお菓子を沢山食べておかないと」

 

「もちろん! たくさん用意しますね!」

 

「今朝の分じゃ足りないんですか……?」

 

「だってさ? オーリムに戻ったら次に食べられるのが何時になるのか分かんないじゃん?」

 

「あっちに行く前に少し材料を分けてもらっておこうか。同じとはいかないけど錬金術でそれっぽいものは作れるだろうからね。まあちゃんと勉強する事を目指さないとだけど」

 

「栽培用に種を貰っておこうかな?」

 

「ヴァッサ麦で大丈夫ですかね? 今年の分が収穫寸前なんで、それでいいなら渡せますよ」

 

私としてもこっち側に戻ってくる為の手段を作る必要性が出てきた。

頑張るとしよう――あまり心配する必要はなさそうだけどね。

 

なにせ、世界最高峰の錬金術師が一緒に居てくれるんだから。




これでクーケン島は完全復活です。空も飛べそうですね。
賢者の石の調合は、リンケージ調合だけでなくハガレン側の錬金術の様な理論、
というか発想の転換が必要な感じをイメージしています。

水が来た経緯とかは作者の妄想です。

では水を戻す為にオーリムへ。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。