ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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賢者の石を調合して、島が復活して。
水を返す為にオーリムまでやってきました。

これがひと夏の冒険の最後の仕事です。

今回もよろしくお願いします。


114. 88日目②  あたしが選んだ未来は

「へええ、これがキロちゃんとリラさんの故郷。独特の雰囲気を感じるわね……なんでここにもオーガヘッドがあんの? しかもすんごい色なんだけど」

 

オーリムの聖域。

ここに来たのは蝕みの女王と戦った時以来4日ぶりだね――まだたった4日なの?

 

ロミィさんが来たのはもちろん初めて。

ここだけは綺麗だけど、周りはまだ汚染されて……あれ?

 

 

 

なんか違和感。この違和感は……。

 

 

 

「――空が、明るい? しかも色が」

 

赤紫色で、暗い感じだったオーリムの空。

だけど……暗さは消えてるし赤くもない、よね?

 

「……まさか。あまりに懐かしすぎて一致しているか不安になる」

 

「同感だよ……アル」

 

「うん。ここならすぐにいけるかな? 全員僕の傍に。塔を錬成するよ」

 

なかなかやり方がぶっ飛んでるけど、空を飛べないあたしたちにはありがたいね。

アルさんを含めて10人、ひと固まりになる。

 

「それじゃあ――いくよ!」

 

 

パンッ!

 

バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!

 

 

「ちょおおおおおおおおお!?」

 

ロミィさんの叫び声がオーリムの空にこだまする。

 

足元の地面が一気に隆起して、あたしたちを空へ押し上げ……高い高い高い!

高すぎだって! あと速い!

 

「へええ、高え所から眺めるとこんな感じになってたんだな」

 

「エルリックさんは建築という物をバカにしているのですか?」

 

「そんな事よりレント、ボオス――反対側だよ」

 

タオが指さした先には。

 

「……まさか、本当に?」

 

「戻った、のか? あの……呪いの様な黒い太陽から」

 

オーリムの2人は特に目を見開いてる。ちょっとキロさんは泣いてるかな。

あたしたちの世界と同じような、真っ白な眩しい輝きを放つ太陽が地平線から昇っていた。

 

「ライザが常闇の侵蝕の特性を消したからな。これまでは常闇の特性を受け継いだようなフィルフサによって、太陽の光は空気中で真っ先に侵蝕されて黒くなっていたんだろう。常闇にとっては天敵以外の何物でもなかっただろうからな」

 

「ですけど……侵蝕の力の源だった常闇の特性をライザが消してくれたから」

 

「フィルフサ共に宿っていた侵蝕の特性とやらも消え……膨大な力を持つ陽の光はその在り方を真っ先に取り戻した、か。お前がやったというのが信じられないが」

 

「あんたに言われなくても、よ。あたしもこんなのは考えてなかったねえ」

 

「ここってずっと日蝕だったの? 大変だったのね……でも、これならもう大丈夫よ」

 

オーリムを照らす太陽は、大地を、植物を、動物を育む星の恵みが戻った証拠。

まだ森の色自体は戻っていないけど――これなら。

 

「思っていたより早く元のオーリムの姿を取り戻せるかもしれないね。フィルフサも侵蝕の特性を失っているならこれ以上汚染が進む事もないから。後は僕の仕事だ」

 

思ってもみなかったけど、あたしたちにとっていい方向に動いたみたい――本当によかった。

 

 

 

地上に戻ってキロさんの案内のもと、水源に向かう。

周辺には枯れてしまった泉と干からびた川。

今見た限り、目の前の水源も単なる岩に走った亀裂でしかない。

でも――ここからオーリムを潤す水が滾々と湧いていたんだよね。

 

 

 

それが、今から戻るんだ。

 

 

 

「ライザ、これをどうすればいいんだ?」

 

「ぶっ壊しちゃえばいいよ。そうすればあるべき姿に戻るはずだから」

 

ボオスが小箱から球を取り出して、水源の前に置く。

正直ここでやる必要もないんだろうけど、まあここでやるべきな気はするね。

 

「タオ、お前のハンマーを借りていいか?」

 

「うん。ちょっと重いだろうから気を付けてね」

 

「……こんなものをずっと振るっていたのか」

 

「魔力で身体強化しながらじゃないと、僕もすぐにへばっちゃうよ」

 

「いつの間にやらだぜ。一番怪力なのはタオだからな」

 

タオが名付けたらしい聖鎚・雨坤波更(ちゃんちゅんぼうがん)

なんでも雨を呼ぶって伝承が名前の由来らしい――フェンリル曰く、「弟を潰したブツ」。

なにげにヤバいシロモノだったのね……この状況にはわりと合うんだけど。

 

――ボオスが振りかぶって。

 

 

 

「ぅううおおおぉぉぉあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 

一直線に振り下ろす。

 

パキンなんていう軽い音……コップでも割ったかってくらいにあっけない。

このためだけに、オーレン族の人たちは今までどれだけの犠牲を払わされたんだろう。

 

「……どうだ?」

 

「……小さいけど、何か聞こえてくるよ」

 

レントの反応の後、クラウディアの声に耳を澄ましてみる――水音だ。

目の前の亀裂からも、それ以外の場所からも、どんどんと水が湧き出て来て。

あたしたちがショートカットしてた堀は、あっという間に川になった――やった。

 

「そう、これだよ……ああ懐かしい。昔と同じ、正真正銘、聖地の息吹」

 

「ああ、これで屯していた残りのフィルフサ共もこの地を去るだろう。後は時間と……アルが解決してくれるんだったか?」

 

「ええ。少しでも早く元の姿を取り戻してみせますよ」

 

「これで漸く一つデカい仕事を終えたな。これだけの達成感を得られる日が来るとは」

 

よっしゃぁぁああああああ!!

全部うまくいった! 言う事なしだ!

 

「長かったな」

 

「そうだね。レントと僕がライザに誘われてから……2カ月って長いのかな?」

 

「あたしですら3カ月だもんね……いろいろあり過ぎたぁ」

 

「私も行商先でこんな経験をするなんて、だよ」

 

「もっと世界中を回ってみなさいな、色々あるよん? でもこんなに綺麗なのは初めてかな」

 

「世の中知らん事だらけらしいな。これに関しては……ライザ、お前の言う通りらしい」

 

「フフン、見直した?」

 

「ああ。見直した」

 

素直に肯定すんなし! 恥ずかしいでしょうが!

ここは空気を変えよう。達成の雄たけびを……。

 

「やったー」

 

「すっごい棒読み!?」

 

キロさんからまさかの棒読み歓声があがった――空気はしっかり変わったけど。

 

「いや、本当にとても喜ばしい事なんだよ? 私達にとっては数百年ぶりの悲願だし。だけどライザにとってはたったの3カ月で解決……なんか今までの自分の頑張りがちょっと虚しくて」

 

遠い目をしてる……分かんなくはないよね。

あたしたちだけじゃこうはならなかった――全ては。

 

「スタートはこちらの道具屋さんからですけどね。アルさんが……あの日杖を魔改造してくれなかったら、訓練を付けてくれなかったら、そもそも島を出る事を応援してくれなかったら。一つでもズレてたら多分こんな日を迎えられてないですよ――アルさんのおかげです」

 

「リラさんやアンペルさんの気を最初に引いてくれたのも」

 

「アルさんの錬金術(音爆弾)だったんですよね。ライザがちょっと落ち着いたのだって」

 

「私のフルートも直してもらいましたし、大人に向けての経験を積む機会も頂いて」

 

「いやいや、僕は出来る事をやっただけだよ。実際に状況を動かしたのは君達だ。良いように動いたきっかけにはなったかもだけど、僕が居なくたって成し遂げられていたさ」

 

またまたそんな事を言う。これは説明が必要だ。

 

「アルさん。魔改造や訓練がなしだったら、あたしどうなってました?」

 

「青ぷにはともかく……オオイタチや小妖精には苦戦していたかもしれないね」

 

「アンペルさん、あたしがフラムを知らなかったらどうしてた?」

 

「ん? まあ当時のライザよりも関心は薄かっただろうな。錬金術を学びたいと言ってきても、子供の遊びと取り合わなかったかもしれん。タオの本には興味を持っただろうがな」

 

「ライザの戦いの様子を見ていなければ私も同じだろうな。鍛える価値無し、だ」

 

「ひっでえ言われようっすね……」

 

「私もフルートを壊したままだったら……多分みんなと一緒に行動していなかったですし」

 

「それは……そうかもしれないね。扱いには気をつけようね? 特に今のフルートって伝説級なんでしょう?」

 

「このタラシめ」

 

「「同感だ」わ」

 

「なんでそんな言われようなんだい!?」

 

だってその通りなんですよ?

 

「さて、これで一旦は終いだが……アル。最後にもう一度浄化を見せてもらえないか? 次に見られるのがいつか分からないからな、現実味が欲しいんだ」

 

「勿論構わないですよ。どの辺りでやりますか?」

 

「あっ、じゃあこの先の遺跡っぽい所にしましょうよ。あそこがキレイだとなんか復活したって感じがしますし」

 

「祭壇の塔があるところだね。すぐそばだし……じゃあそこの浄化をお願いしようか」

 

あたしたちが蝕みの女王と戦った場所――聖地の侵略の象徴。

やっぱりあそこを浄化してもらうのがいいと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

塔に続くまでの道のりに、もうほとんどフィルフサはいない。いるやつもこっちには来ない。

この辺りにもじきに水が流れ込んでくるから、全部どっかに行っちゃうよね?

本当にやっと、ここがオーレン族の人たちの手に戻るんだ。

 

ちなみに――あたしがバニッシジーゲルで吹っ飛ばしちゃった場所は、経緯を話してクラウディアとお詫び。「丁度よく開けたし畑にでもしようか」との事でお咎めなしだ。

 

「浄化って……前はフィルフサを配置していたよね? 今後は大丈夫そうなの?」

 

「触った感じは侵蝕の特性が抜けているから……単なる汚れの認識で済みそうかな。前回やった時は理解の仕方が非効率だったから呼び水の形で構築式にさせてもらったけど、今後は大丈夫だよ。大精霊達に貰ったエレメントがあるから、リバウンドも早々起こらないだろうしね」

 

「そっか、なら安心だね。貴方を禁忌に触れさせずに済むよ」

 

アルさんとキロさんは今後の相談みたいだ。今からこの世界全部を掃除していくんだもんね。

どのくらい掛かるものか分かんないけど、この2人なら時間もかからないんじゃないかな。

 

「地形の確認の為にも一回塔に上らせてもらいましょうか」

 

「そうだな。あそこからなら眺めもいいし、正しく太陽も拝める」

 

「では行くとしよう。私もオーリムの地を正しく高い所から眺めた事はなかったからな」

 

みんなで塔を上る。この頂上に蝕みの女王がいたんだよなあ。

……なんか忘れてる気がする。

 

 

 

あっヤッバ!!!

 

 

 

「……なぁにこれ? 彗星でも降ってきた?」

 

「これはまた……まるで私の隕石召喚の小規模版みたいな」

 

「確かに状況は似ているな。我々も見積もりが甘かったという事か」

 

「随分な死闘だったみたいだね……ライザ達、大丈夫だったのかい?」

 

「私達の戦った影の女王も凄まじいものだったが……蝕みの女王も想定より強力な存在だったのだな。やはり油断はする物ではない。レント達もよく無事に帰った」

 

「いや、これは、その……」

 

「ホントに大変だったっすよ。鎌で爆発させてくるわ針は飛ばしてくるわで」

 

大人組が心配してくれてる中、あたしは内心冷や汗を掻いていてレントがフォローしてくれる。

これの事情を知ってるのはあたしとレントだけだもんね――墓まで持っていこう。

 

塔の頂上には……あたしが作ったんだろう巨大なクレーターじみた穴。

クレーターって言ってもそんなきれいなもんじゃない。バッキバキに掘られた穴だ。

今後も暴走しない事は当然として、魔法制御の練習も真面目に考えなきゃいけないなあ。

 

潰れた女王の残りはもう消えちゃったっぽい。常闇が去ったからかな?

ここって祭壇だったんだっけ……忘れてました。

戦闘の被害って事で勘弁してもらいましょ。

 

まあ。

 

「アル、直せる?」

 

「30秒くれる? 無事な土壌を認識するから」

 

――なんの問題もないし。

 

 

 

「じゃあ皆さん、陣の中には入らないようにしてくださいね」

 

塔を修復した後、アルさんが周辺の地面に錬成陣を描いて戻ってきた。

手合わせ錬成でもできるけど、範囲の指定が曖昧らしくってちゃんと描いた方が安全らしい。

安全に越した事はないもんね。

 

「ん、大丈夫だね――アル、お願い」

 

「了解!」

 

 

パンッ!

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

「これはまあまた……これが界渡りの本来のスキルかぁ。そりゃあ力を失った皆は大変だわ」

 

「……こみ上げてくるものがあるな。本当に、元に戻せるのだと」

 

「後は我々が仕事をすれば、この地に踏み込む余所者もいなくなる。遅れるわけにはいかないな」

 

「当然だ。今までの3倍のペースで進めよう」

 

「私を過労死させる気か?」

 

「私とアルも、門を見つけたら簡単には入れないように蓋をしておくよ。高品質のフラムロッドで通れるくらいにしてもらえばいいでしょ?」

 

「うむ、了解した。その方が安心だな」

 

常闇谷の淵って呼ばれてたらしいその場所に、もうそんな感じは一切しない。

明るい太陽に照らされて――小妖精の森みたいな自然が戻った。

これでそのうち、本当に精霊たちも戻って来る。闇の大精霊さんも見てくれるって言ってたし。

 

自然と、輝きを――作ったんだね。

 

「世界に語られる存在というのは……ああいった人なんだと実感するな」

 

「俺の「武勇を示す」っつうのがどれだけガキ臭かったかよく分かんぜ」

 

「でも……いいんじゃないかな? いきなりアルさんみたいなのは絶対ムリなんだし。レントも世界を回ってる間に目指す形が見えてくるんじゃない?」

 

「タオ君も勉強している間になりたいものが見えてくるのかもね! 新技が楽しみだよ!」

 

「クラウディアにも頑張ってもらわないとね。島に戻って来てもらうんだし……あたしが目指す形は目の前に広がってるから、これを目標に頑張んないと」

 

錬金術を使って、みんなが笑える世界。それがあたしの目指す未来のカタチの一つだ。

 

どのくらいかかるかなんて分かんない。来週には早速アトリエが使えなくなるしね……。

けど、目指さなきゃ絶対なれないし!

 

「汚れは賢者の石もどきじゃなくて、あの鎧の結晶みたいになるわけだね。フェンリルあたりに食べてもらおうか」

 

「そんな理由で来てもらっていいのかい?」

 

「ワンちゃん……お腹壊しませんか?」

 

クラウディアの中で「フェンリル」=「ワンちゃん」は揺るがないらしい。

 

「大丈夫だと思うよ。ライザには話したけど元は世界を飲み込んだ氷狼――神の一種だからね。ヨルムンガンドと違って存在の格をものすごく落としてもらっているから精霊扱い出来ているけど」

 

「元々その世界にいた人たちも大変そうですね……」

 

「でもたしか……顎裂かれたっつってなかったか?」

 

「蛇の方も、僕のハンマーみたいなので潰されたって話だったよね……」

 

あたしたちの常識で測っちゃいけないね――ホントに世界って広い。

 

「それじゃあ戻ろうか――お昼を食べないと」

 

「ブレないですねキロさん……」

 

「昨日の食べっぷりを考えると……あの蛇の変質とやらが無かったら悲惨な食事情になりそうだな。ライザ達がウチの食糧庫を空にする勢いで運んだ時は何事かと思ったが」

 

「こっちでの食事をどうしようねえ。一応二人とも食べなくても平気ではあるんだけど」

 

「食べないなんてあり得ない。私を養うのは簡単じゃないよ?」

 

「それ自分で言う?」

 

 

 

 

 

 

クーケン島に戻って、お昼をクラウディアの家で頂いて。

島を出るみんなは各所に挨拶参りをやってるとこだ。

 

アルさんなんかは全島民に挨拶回りになってるから大変そうだ。

キロさんもお店のマスコット的な存在だったし、知名度は高いから全体的に会ってくるとの事。

 

クラウディアもお店の関係者になってくれた人たちやお客さんたち、ルベルトさんの取引先となった人たちを中心に回ってる。ウチもそうだね。

タオは今頃ブルネン家かな? しばらくはボオスにお世話になるらしいし。

レントは……ザムエルさんとのケンカも終わってるなら武者修行の話も付くでしょ。あとでウチにも顔を出すらしい。

 

アンペルさんとリラさんはサッパリしたもんだ。名前を知ってる相手だけ次の土地に旅立つ事を告げて終わりだって――まああの二人は今に始まった事じゃないもんね。今は拠点の片付けかな。

 

 

 

というわけで、今はあたしだけだ。

「今」をあたしのアトリエで噛みしめる。

 

 

 

 

 

 

やっとおわった――終わっちゃった。

 

 

 

 

 

 

なんて事ない日々を変えたくて動き出したあたしの冒険は。

いつのまにやら島を救って……世界を救う事になっちゃった。

 

もう世界を救うのは――しばらくはこりごりだ。あたしにゃ荷が重すぎる。

 

なんて事ない日常のそばには、とんでもないものがごろごろ転がってた。

ボオスには外に目を向けろなんて言ったけど、あたしは内側が全然見えてなかったらしい。

 

あたしたちが住んでる島は古代の遺産で、すぐそばには異世界への入り口があって。

隠れ家代わりに通ってたお店の店主さんは、なんと異世界の英雄だった。

世界は広いって思うけど、狭い範囲でも色んなものに満ちてる。この周辺だけでもてんこ盛りだ。

 

でも、これで一旦区切り。

 

これからみんな、それぞれの目的に向かってそれぞれの道を歩いていく。

だから、あたしがやる事は――。

 

 

ガランガラン

 

 

「ふぅ~。やっと戻ってこれたよ、この島もそれなりに人数が居るものだね」

 

「キロさん。おかえりなさい」

 

完全にここの住人になった異世界の戦士。

身体の中に別次元の神を住まわせていた巫女。

そして今や少々子ども返りした腹ペコ女王だ――この人だけで属性過多だね。

 

「どうでしたか?」

 

「うん……古老のおじいちゃんにはちょっと泣かれちゃって」

 

――あのジジイ。外の人たちに散々な事言っといて、キロさんを孫扱いしてんじゃないわよ。

 

「後は……エルマーだね。シンシアへの弁明をどうしようか随分悩んだよ」

 

「そこまでだったんですか?」

 

「うん。私の顔を見ると赤くなって、ここを離れるって話をしたら白くなって、またいつか戻ってくるって言ったら普通に戻った。好意は嬉しいけれど、彼の歳でオーレン族と付き合おうとすると人生を潰しちゃいかねないから」

 

「多感な年頃ですからね……やっぱりこっちにはそんなにオーレン族の人は?」

 

「ん。具体的な人数は勿論分からないけれど……極少数だろうね。この島に2人居る事は奇跡と言っていいよ。まあ島にいる様じゃ会えないだろうから世界を回ってもらう事になるかな」

 

ああ……エルマーも島を出る事が決まったね。

ただ、エルマーにとって大事なのは「オーレン族」である事じゃないと思いますよ?

 

「アルもその場にいたけど、エルマーが私を守ってくれってアルに頼んでいたね」

 

「アルさんはなんて返したんですか?」

 

「「君が守れるようになるまではね」だって――私を置いていく気かな?」

 

「……実際のとこ、キロさんはアルさんとどうするつもりなんですか?」

 

アルさんとキロさん。

もう一緒にいるのが自然になってるけど、きっかけはキロさんがアルさんの記憶を見てしまった事による贖罪からだ。その為に一度はアルさんに文字通り人生を捧げる覚悟をした。

今は解除されたみたいだけど、それは結果論だもんね。

 

そこからお互いが必要な関係と分かって……大体行動を共にしてる感じ、ではある。

その辺を除くと、実際の所2人の関係って曖昧な部分が多いんだよね。

 

「ん? まあオーリムの浄化や私の特性の中和の事もあるし、暫くは一緒にいると思うよ」

 

「それはそうなんでしょうけど……お付き合いとかには?」

 

「それねえ……う~ん、どうだろう? ソレについては私も正確には分かっていないんだよ。まだ私の本来の精神状態を把握しきれていないところもあるから」

 

意外な事にキロさんは悩んでいるらしい。

サラッと「夫に貰うよ」とか言われたら、それはそれで今から戦闘開始も要考慮なんだけど。

 

「アルが良い男なのは間違いないよ? でも、今の私じゃロミィやメイほどは一途にアルの事を考えていない気がする。メイの件はある意味解決したと言えなくもないけど……」

 

「メイさん……アルさんに関わりのあった女の人ですよね?」

 

「そ。あっちでのアルの彼女――シン国の元皇女だね。私は彼女を尊敬している所があってね、中途半端にアルと付き合うなんて口が裂けても言えないんだよ」

 

例の皇女さん、まさかの彼女かい!

じゃあアレか、キロさんが必要以上に踏み込まなかったのはそれを知ってたからだったんだ。

 

「まさか彼女が居て、しかも皇女さんだったなんて……それで解決したっていうのは?」

 

「アルが人体錬成した際、あっちの……私達に関わらなかった方の歴史だね。そっちではメイとイチャコラしている事が分かったらしくって」

 

「うわあ……」

 

いくらもう一人の自分とはいえ、それは悲惨な気がする。

こっちでこれだけ色々やってもらってあっちじゃ順風満帆だなんて。

 

「アルは大丈夫なフリをしているけど――ウィンリィに振られて死ぬほどショックを受けるくらいには繊細みたいだし、そういうのは置いておいて暫くはメンタルケアかな……。こちらの世界の都合でメイと引き離す事になったのは事実だし、オーリムに来た場合は私が面倒を見る事も決めていたから……食事は別にして。とは言え、案の定私もタラシ込まれ始めている自覚はあるからね?」

 

あたしとしては、本人の知らないところで暴露話されてる事を慰めた方がいいと思います。

というか、アルさんはまぁた知らないうちに多分無自覚にキロさんを口説いたのか……。

そばに居たいと思う人が、どんどんあたしの敵を作っていってるんですが?

 

「それにボオスも私に誇れるような男になるって言ってくれているし……モテる女は困るね」

 

「ちょっとイラッとしたあたしは間違ってますか? 今まで大蛇さんが混じってたんですよね?」

 

「これまでの行いの差じゃない? アルはともかくボオス、レント、タオの3人に女扱いされていないのはライザの自業自得でしょ? もう少し恥じらいとかを知った方がいいと思うよ。取り敢えず男の前で胡坐は止めなさいな」

 

ぐはあ!

いやまあ、あたしもあの3人をそういった目で見てないから一緒ではあるけど。

ここまでストレートに指摘されると刺さるものがある。これから先は長い。

ただ……あたしも恥じらいがないわけじゃないんですよ? 対象者が1人しかいないだけで。

 

「まあ……旅の中でもしアルに襲われるような事があったなら、受け入れて責任を取ってもらうとするよ。と言ってもあのスーパー朴念仁が私達を正しく「女」と認識できる状況はかなり限定されるだろうけどね。そういったのは別にして……オーリムでも言ったけど私を養うにはアルくらいの事は出来ないと大変だろうから、パートナーとして傍に居てもらうのは大変ありがたいんだけど」

 

「……アルさんの加護やキロさんの変質ってそこまでのものだったんですか? つまりはそれだけの事をする必要が今までは無かったんですよね?」

 

「ヒトの欲求をほぼ全て失った状態――自ら消える事も狂う事も出来ない。私は人格にも影響が出た。アルも鎧としての経験が無かったら、以前の私みたいに人間味が無かったんじゃないかな」

 

人としての喜怒哀楽。コレがしたい、アレはいや、そういったものを考える権利を奪われた。

そんな状態で、この10年間あたしたちに接し続けてくれたんだ。

 

――なら、そのお返しも目標に含めてもいいかもしれない。どうするかはこれから考えよう。

 

 

ガランガラン

 

 

「ただいま。流石に今日一日じゃ回り切れないね。明日も午前中くらいは貰う事になるかな」

 

「おかえりなさいアルさん」

 

「おかえり。じゃあオーリムに行くのは」

 

「明後日にしてもらおうか。ここの片付けもあるし、けど引き延ばしても区切りがつかないし」

 

じゃあアルさんが旅立つまで実質あと1日、かぁ。

あたしもお母さんたちとの約束があるし、その日に錬金術士としてのあたしは一回休業かな。

 

「そうそうライザ――コレを渡しておくよ」

 

アルさんがあたしに差し出したのは……紙?

え~っと、契約書かなんか?

 

「この店舗の登記、所有権証明書だね。これでここは正真正銘ライザのアトリエになる。使えそうなものは置いていくから好きに使ってくれていいよ」

 

「こんなもの貰っておいて、早速店仕舞いですけどね……」

 

「ははっ、まあそれはカールさん達との約束だからね。でも……夏が過ぎればまた再開する事も出来る。どう使うかはライザに任せるよ」

 

アルさんから書類を受け取る。

署名人は……げっ。モリッツさんにアガーテ姉さんに古老……本名ひさびさに見た。

小さな島の中ではあるけど錚々たる面々になるのかな? 適当な事は出来なさそうだ。

 

「じゃあこれは預かっておきますね――貰ったんじゃないですからね?」

 

「分かったよ。じゃあそれまでよろしくね」

 

「はい!」

 

そう、これは預かるだけ。ここの家主が帰って来るその日まで。

 

だからあたしがやる事は――みんなが帰ってくる場所を守って、その機会を作る事かな。




これだけ形を変えてしまったので、オーリムも変えちゃえ! と思った結果がコレです。
これで冒険としてはほぼ全て終わりました。
後に待っているのは。

前にも書いたかもですが、こういう会話は作者には難しい……。

最終章、残り2話です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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