ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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島を旅立つ皆の準備は既に殆ど終わっています。
ですが島に残るライザにはやる事が。

今回もよろしくお願いします。


115. 89日目   約束は笑顔で

アルさんとキロさんが出発するまで、あと1日。アンペルさんとリラさんもその時まで。

タオとボオスも明日には王都に向けて出発する……はず。

レントは知んないけど、クラウディアもすぐだよね。

 

何ができるかな。

 

「おはようライザ」

 

「おはよう、お父さん、お母さん」

 

「おはよう。湿気も抜けて本当にもうそろそろ収穫にいいくらいだねえ。ライザの……アトリエ? とやらの片付けはもう済んだのかい?」

 

「大体は。だから午前中なら手伝えるよ。午後……というか夜は時間が欲しいけど」

 

「何をするんだい?」

 

みんなが島を離れるっていうなら――やる事は一つだね。

 

「お別れパーティー、かな。アルさんとキロさんだけじゃなくて……レントもタオもボオスも、クラウディアとルベルトさんも、アンペルさんとリラさんも――みんな島を離れちゃうから」

 

「……そうか。皆旅立っていくんだね」

 

こういうお父さんの顔は珍しい。どうしたものかって感じだ。

 

「好きに泣いてきなって事だよ――ライザは案外なんでもない振りをしている事が多いからね。長年一緒にバカをやってきたレント達や、ここで仲良くなったクラウディアちゃん、長い事お世話になったアルフォンス君とか……皆去っちまって寂しくないわけがないんだよ」

 

「僕達はライザの親だからね。もしライザが旅立つような事があればそれはそれで悲しいけれど、友達を見送る側にさせてしまう事も悲しいんだ――せめて悔いを残さないようにしておいで」

 

そんな事を言われると、余計に泣きたくなるよ。

でも……もう決めてるんだ。

 

「……うん。でも泣かないよ、大丈夫。ありがと、お父さん、お母さん」

 

――みんなを、笑顔で見送るって。

 

「分かったよ。楽しんでおいて。僕達はずっとここにいる。ライザの帰りを待っているよ」

 

「ゴネて皆にご迷惑をかけるんじゃないよ? 今日の作業はいいから行っといで」

 

うわあ、まさかお母さんからこんな事を言われる日が来るなんて。

島を救った甲斐があったかもしれない――お言葉に甘えよう。

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

あたしのアトリエ――ついに工房じゃなくなっちゃった。看板はもちろんそのままだけど。

見た目は何一つ変わっちゃいないけど、店の状態を表す札は「CLOSE」。

これが……この夏の間は続く予定だ。再開したらアルさんみたいに道具修理関係でもしようかな。

 

「じゃあ……クラウディアも?」

 

「うん。中央に出していた販路の申請が通ったって知らせが昨晩来たから、私の準備が出来ていたら明日にもって……次の土地でのお仕事があるから」

 

クラウディアの旅立ちは前から聞いてた。

もともと忙しい身だし、あたしたちの島のためにも頑張ってもらわなきゃだしね。

 

「タオとボオスは?」

 

「俺達も明日中には出発したいところだ。タオには試験準備もあるからな」

 

「もう試験の申し込みはしてもらったんだけど……特別待遇ってのを受けられるようにするなら、詰め込みでも勉強した方がいいみたいだから」

 

「待遇を受けられればタオは学費と生活費に悩む必要がなくなるんでな。俺が知る限り、タオの頭の良さは島の外でも十分に通用する。心配ないとは思うが備えはしておくべきだろう」

 

あっちの学び舎――王都では学園って言うんだっけ?

そこでは勉強にお金がかかるらしい。物好きが多いわよね。

 

でも、試験でいい成績を取ればそのあたりのお金が免除されるとの事。

生活費も込みならバカにならないだろうし乗らない手はないよね。

 

「レントは……まあいつでもいいわよね」

 

「実際そうなんだが……なんか適当だなおい」

 

「実際適当だろうが。王都に妙な噂を流すんじゃないぞ?」

 

「大きな剣を持った赤髪の……狂戦士?」

 

「耳に入ったら誤魔化しておくね!」

 

「お前ら俺をなんだと思ってんだよ!?」

 

「いやあんた、実際にウォーシャウト使った時はヤバいわよ?」

 

レントがガクッとうなだれる――実際ヤバいし。

でもホントの話、ヤバいのはレント以外なんだよなあ……その筆頭があたしかもっていう。

 

「我々も門を封印次第そのまま去る予定だ。あちらの拠点の片付けは済んでいる……これまでの釜の勝手の悪さに苦労しそうだ。封印は今回のようなケースでは本来少し手間なんだが、アル君が協力してくれるなら一瞬だしな」

 

「何か手順があるの?」

 

「ライザも覚えているだろうが……あの遺跡自体が門の封印だ。それが風化した結果封印は解かれた――なら遺跡を元に戻せばいい。逆に言えば元に戻さなければならない」

 

「流石に全部を元に戻すとなれば時間と手間がかかるが、封印するだけならある程度あそこの資材を集めればいい――が、今回はアル君の手で完全に修復される。二度とあの門は使えんさ」

 

つまり、アルさんがいなかったら肉体労働だったらしい――あゝクラウディア現場監督。

でもそっか……じゃあみんな明日中には。

 

 

ガランガラン

 

 

「ただいま。遅くなっちゃったかな?」

 

「材料の量も種類も十分、なんでもいくらでも作れるよ。持つべきものはアル(お金)だね」

 

「キロさん……1コールでも出したんですか?」

 

「そもそもお財布を持っていないけど?」

 

「キロ……それは堂々と言う事ではないと理解しているな? オーレン族の品位が問われるから少しは自重してくれ」

 

ここの本来の店主と腹ペコ女王が帰ってきた。食材を買いに出てくれてたのだ。

ホントはあたしが買いに行くつもりだった――そのくらいは当然ですとも。

 

それを代わりに買って出てくれた……んだけど、当面のパートナーのセリフがゲスい……。

他にも用事があったらしいから……うん? 他にも誰かいる?

 

「やっほ。みんなおつかれ~」

 

「皆、お邪魔するぞ」

 

「ロミィさんと……アガーテ姉さん!?」

 

まさかのアガーテ姉さんの登場だ――姉さんを呼びに行ってたのか。

 

「お誘いを貰ってな、ついでに荷物持ちをしたところだ。今までのお前達の苦労に比べれば軽いなんて物ではないだろうがな」

 

……えっ?

いや、アガーテ姉さんは――知ってるのはせいぜい対岸に変わった白い魔物(フィルフサ)がいる、くらいの認識じゃあ?

 

「……俺達ほど詳細ではないが、アガーテも凡その事は知っている。エルリックさんの鎧姿が見つかった時があっただろう? その際に俺の首をへし折らん勢いで問い詰められてな」

 

「流石にあのままエリプス湖にどざえもんを出現させんのはマズそうでさ……」

 

「話を聞いた時は信じられなかったが……今までのお前達の行動や昨日島に起こった出来事などを全て繋げて、漸く飲み込めた所だ。ここにいる皆が島を離れるというなら、真実をライザ一人に託すのは酷だろう?」

 

あーあの後か。ボオスとロミィさんは思ってたより大変だったらしい。

気にしなくてよかったのに――でも、ありがとう姉さん。

 

「まあ弟分たるアル君の旅立ちでもあるんだ。私としても祝って送り出したいからな」

 

……あっ。いやこれは、コソッと伝えとこう――ほっとくと後に遺恨を残しそうだ。

 

「姉さん、ちょいちょい」

 

「うん? どうした、そんな小声で?」

 

「アルさん……24歳」

 

「…………な、に?」

 

「一応魂と精神は30歳だよ」

 

「……ア、タシより、2つ、年上? 心は、もっと上って、なん、です、か……?」

 

キロさんがトドメをさしちゃった――言わない手もあったけど隠すのもねえ。

姉さんの顔色が赤くなったり青くなったり忙しい。あたしはこの理由に察しがついている。

あと一人称が昔に戻ってるよ! お姉さんになったから「アタシ」はやめたんでしょ!

 

「そ、んな……アタシは、年上の、男の子と、一緒に……風呂に入ったのか?」

 

その通りです。大体の状況に察しが付いたらしいアルさんもこっちに来た。

 

「そう……なりますね。なんというか大変申し訳ない。あの頃は反応するのが精一杯で」

 

「あの時の君は……14歳だったと? 今までの話を聞いても信じられないが……もういい」

 

アガーテ姉さんがふっかいため息をついて……やっと元に戻ったみたい。

たしかに弟みたいな扱いの人が実は年上で、しかも湯浴みも一緒ってのはね。

アルさんの精神が既に大人だった事がせめてもの救いかな。

 

「あの時のアル君が大変な状況だったのは疑いようもないんだ、そのくらいは飲み込もう。次に再会するまで知らなかったよりはダメージが少なそうだ……感謝するぞライザ」

 

「よかったよ。話すべきかけっこう悩んだから」

 

「取り立てていいと思うよ? 乙女の柔肌を黙って見ていたんだから」

 

キロさんは黙ってましょうね?

 

「しかし……年齢を覚えているという事は記憶が戻ったのか?」

 

そうだった。姉さんにとってはアルさんって記憶喪失扱いなんだっけ。

どうしたものかな。大精霊に歴史を分岐されてました、なんて説明するのはなあ。

 

「全部じゃないんですけど……イシュヴァールという地域の内戦の孤児なんだと。戦争のショックで記憶が散りぢりになっているんだと思います」

 

「そう、だったのか。それであそこまで身体が……辛い経験をしたんだな」

 

初めて聞いた地名だね――多分本当にあっちにあるんだろうな。

だけど……キロさんの「息するように嘘吐きやがった」って表情を見る限り実際の体験談ではなさそうだ。

 

「これ以上思い出すのは辛いだろうからその辺りはいい。せっかく私も来たんだ、アル君にウチの味を思い出してもらうとしよう」

 

「本当に久々ですね。7、8年振りくらいですか」

 

「君はちっとも私達を頼ってこなかったからな。まあ……この島の有様では頼りにならなかったと思われても仕方がないが」

 

「勘弁してくださいよ。皆さんに助けていただいた事は本当に感謝しているんです。あのまま海か湖の藻屑になっていてもおかしくなかったんですから」

 

「ホントにそうだよね。アガーテ、ふぁいんぷれー」

 

「……? 褒めていただいている、という事でいいですか?」

 

なんか大蛇さんを思わせる言い方だ。多分合ってるよ。

たしかにそうだ――長い間島のために頑張ってきてくれたアルさんのためってのを中心に、これまでの経験を総動員してご馳走を作ろうじゃない!

 

「おーいそっちの若人たち、何を内緒話しているのかね? ロミィさんが全部暴いちゃうぞ~?」

 

「ちょっとした経緯の説明だよ……まあまあ姉さん、それくらいにしようよ。ロミィさんも呼んでるし食べ物も痛んじゃうし。アルさんたちに島の味ってやつをしっかり味わってもらおう?」

 

「……ライザ、お前料理が出来たか?」

 

「ここで花嫁修業中だよ」

 

「なに!? 結婚するのかライザ!? アタシより先に!?」

 

「まだしないよ! キロさんはいちいち話を引っ掻き回さないでください!!」

 

「あの大蛇とやらが関わらないこの性格が本来のキロか……手を焼きそうだ」

 

「ボオス君が大やけどしないか心配だよ……」

 

まずアルさんという凄まじく高い壁を乗り越えなきゃいけないかもだけどね。

それとクラウディア、ちょっと評価がヒドイ。

 

あーそうだ。忘れないうちにお願いしておこう。

 

「アルさん。後で描いてもらいたいものがあるんですけどいいですか?」

 

「うん? なにかな……ああそっか。結局話をする機会もなかったんだったね。了解だよ」

 

 

 

 

 

 

それなりに料理ができるメンバーはみんな参加して……要は全員。

もう料理の方向性だのなんだのは欠片もないメニューが揃ったよ。

11人もいっぺんに料理可能な場所なんて、多分島ではここだけなんでしょうね。

 

あたしは魚介、レントは丸焼き、タオはサラダ系、クラウディアは万能、アンペルさんは謎に甘いの、リラさんは野外飯、アルさんはシン料理、キロさんはカレー、ボオスは男飯、ロミィさんは外国の料理、アガーテ姉さんは家庭料理だ。

 

つまり――なんでもあり。

とんでもない量に色んな香り、様々な味と、途中で何食べてんのか分かんなくなってきたよ。

アンペルさんの料理の後にアルさんの料理を食べると悲惨な事になる。

なおカレーは速攻でなくなった。姉さんにもウケたらしい。そのうち作ってもらおう。

 

 

 

料理を作って、それを食べ終わっていくって事は……パーティーも終わりに近づいてるって事で。

――うん、この辺で話を出そうかな。ちゃんと笑顔だな? よし!

 

 

 

「はい注目!!」

 

片手をあげて、みんなにアピールする。

みんなも話を止めて……何人かは怪訝そうね、「何やらかす気だ?」っていう。特にボオス。

 

「ここでみんなに、約束をしたいと思います!」

 

「「したい」って事は……ライザが俺たちにか?」

 

「そ。せっかくみんないるんだから宣言しておこうと思ってさ。それだけじゃないけど」

 

元々は女子旅の時にクラウディアと話したんだっけ――ここまで引っ張る事になるとは。

しかもその時よりやるべき立場がはっきりしてるしね。

 

「あたしはここで、みんなが帰ってくる場所を守ってる!!」

 

お腹からしっかり声を出せ、ライザリン・シュタウト。

 

「だから! みんなにお願い!」

 

みんなにお願いしたいのは。

 

「2年!」

 

また、会おうねって事。

 

「2年以内に、一回は帰って来る事! みんながどうなってるのか、一回は顔を見せに来て! そうじゃないと……あたしから会いに行くから!」

 

まさか狼に教えられるとは思わなかったけど。

会う機会を作ればいい。相手が難しいなら自分から会いに行けばいい。

それだけの事なんだ。

 

2年あれば、多分あたしも大人になってる。そうなれば……そういう覚悟も持てるよね。

ある意味キロさんの言う修行ってのも間違いないのかもしれない。

 

「……私達は相当に努力をしないとね」

 

「そうだね。そうしないとライザがオーリムにきちゃうんだからなんとかしないと」

 

この2人は難易度が高い。でもそれが出来ちゃう2人だし大丈夫だよね。

 

「学園の長期休暇で帰って来る事も出来るだろう。何か土産を持ってきてやる」

 

「あっちで勉強した事や街の様子をライザにも話してあげるよ」

 

留学する2人は現実的そうだ。まとまってお休みが取れるって分かってるならね。

 

「私は絶対にここの担当を任せてもらうように頑張るよ! 2年もかけないから!」

 

クラウディアは元々約束してくれてたもんね。ただ……張り切り過ぎな気がしなくもない。

 

「俺はまあ……適当に寄るとするさ。旅の話を聞かせてやんよ」

 

レントはまあ余裕でしょ。日付さえ忘れてなければ。

 

「弟子の様子を見に来る為だ。足を向けようじゃないか」

 

「少しはオーリムも覗ける事になっているからな。そちらの状況も教えてやろう」

 

門を封じてもらうお役目があるけど、いろいろ飛び回ってる2人だし来る機会もあるよね。

 

「ふふ。私もライザと共に此処を――島を守ろう。皆帰ってきてくれると嬉しい」

 

「島を存続させる為にロミィさんも頑張ろうじゃありませんか。でもモチベが下がるなあ……」

 

アガーテ姉さんもロミィさんも乗ってくれた。

これで全員だね――じゃあ一旦締めよう!

 

 

 

「じゃあ一日早いけど……いってらっしゃい!!」




この辺はあまり細かく書かず、あっという間感です。ランバー……。

次で最終章、最終回です。とうとうここまで来ました。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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