ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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90日目。
最終章、最終話です。

ひと夏の冒険の果てに、ライザが過ごした一日は。

今回もよろしくお願いします。


116. 最後の日   ばいばいアトリエ

昨日ほど、「明日が来なかったら」って思った日はないんだろうなあ。

それでも朝日はしっかり昇って来る。

あたしたちの毎日を照らしてくれる光なんだから、来てもらわないと困るんだけどね。

 

さあ、今日も一日。

 

――笑って過ごすぞ。

 

 

 

 

 

 

旧市街。

2カ月前に比べるとちょっとにぎやかになった地区。

 

でもここも、元に戻る。

変わったのは噴水が機能してる事と……あたしがちょっぴり成長した事かな。

 

このひと夏のすべての始まり、実は少し大きくなった「エルリック工房」。

入口の扉にかかっている札は「CLOSE」。

 

ここの扉、「CLOSE」の時に開けると大変な事が多いんだよなあ……。

鍵は……お、開いてる。

 

 

ガランガラン

 

 

「おはようございます」

 

「やあライザ、おはよう」

 

「おはようライザ。今日からクラウディアのごはんが食べられないんだよなあ……」

 

「今朝から散々パンを食べておいてそれかい? 今朝だけであっちでの食糧をどれだけ消費したと思っているの?」

 

「知らないよ? 管理するのは私じゃないし、日によって食べる量は違うんだし。というか、持って運べるくらいの量なんて2日分もないよ?」

 

「……毒草を使った嵩増しレシピを考えないとね」

 

今日のキロさんは普通の格好――これが日常になってよかった。ある意味安心できる事だ。

一番最初にここに来た時は……ハーレム疑いだったっけ? 当時はまだ幾分か無感情気味。

それから同衾事件が2回。あたしが遭遇してないだけでもっと回数はあったんだろうなあ……。

 

いつしか完全にここの住人になって――下手すりゃこの一月はあたしよりもここにいる時間が長くないですか? 三食の大半はここで食べてますよね? 多分大体ここで寝てますよね?

 

アルさんにとっても最も敬意も丁寧さも遠慮もない扱いの人になっちゃってる気がする……。

――でも、これが本来のアルさんなのかもしれない。

 

クラウディアは……今頃最後の引き払いのアレコレでバタバタしてるかな。

アルさんとキロさんの見送りに合流出来そうなのは幸いだ。

 

お店側の商品や道具はそのままにしてもらってある。

あたしのアトリエって事にはなったけど……あたしの中ではアルさんの工房に変わりないしね。

 

商品に加えて置いてあるのは、あたしお手製の探索リュックが2つ。見た目よりかなり入る。

昨日作った物……これが、この夏最後のあたしの調合だ。

それとこれも。

 

「お話してた麦の種です。栽培方法はアルさんが知ってますよね。お2人とも、もう準備は?」

 

「ありがとう、生育については大丈夫だよ。準備も……もういいかな、皆を待たせるわけにはいかないからね」

 

「ありがとねライザ、頑張って育ててみるよ。クラウディアも……そろそろいいくらいかな?」

 

キロさんがそう言ったタイミングで。

 

 

ガランガラン

 

 

お菓子屋さんにした時に付けたベルが鳴る――クラウディアがここ(クーケン島)に来たからなんだよね。

 

「おはようございます! 遅くなってすみません!」

 

「御機嫌よう、御三方。出発には良い空になってよかったよ」

 

クラウディアと、ルベルトさんも来てくれた。

 

「おはようございます、ルベルトさん。ご丁寧にありがとうございます」

 

「貴方にも貴方の娘にも、とてもお世話になったよ」

 

「今日のクラウディアの予定、空けてもらってありがとうございました」

 

「なに、こちらとしても随分お世話になった2人の門出だ。出発地点が安全ならば私も同行したいところだよ。それに、クラウにとって最高の友と言えるライザ君との別れでもあるんだからね」

 

「お父さんは船着き場で待っていてね? 約束くらいの時間にはちゃんと戻るから」

 

「分かっている。クラウこそ気を付けておくれ、こういった節目節目が一番気を抜きやすい」

 

さすが世の中を歩き続けてるルベルトさんだ、言葉の重みが違うね。

 

「クラウディアの道具もそのままにしておくからさ。いつでも帰ってきて――またご馳走してよ」

 

「もちろんだよライザ!」

 

「そういえば……王都に私の同族がいるかもなんだっけ? もし会ったら私は故郷にいると伝えてもらってもいいかな?」

 

「ああ、承ろう。会えた際には必ず伝えるよ」

 

「ありがとう。じゃあ――行くとしようか」

 

「はい!」

 

ここの鍵は、あたしが閉める。

本来の鍵はアルさんが持ったままだけど、合鍵二つはあたしが管理だ。

戸締りはしっかりと、ね。

 

 

 

港ではレント、タオ、ボオス、アガーテ姉さんが待っててくれていた。

他にも結構な数の人が見送りに来てくれてる――さっすがアルさんとキロさんの門出だ。

タオの両親も来てるね。モリッツさんとランバーはボオスに止められたかな?

ザムエルさんも……あんなとこにコソッと隠れてないで出てきたらいいのに。

 

島を出るみんなはそれなりに荷物があるんだと思ってたけど、タオとボオスは馬車で運ぶらしいからそこまでの手間じゃないらしい。レントなんかザック一つ……さすが野生化が進んでるわね。

 

「お待たせしてしまったかな?」

 

「この子達に外での心構えについて少し話をしていた程度だよ、待っていた内に入らないさ。ルベルトさんは此方の舟へどうぞ」

 

「ありがとう。宜しくお願いするよ」

 

「レントもタオたちも準備万端って感じ?」

 

「ああ。俺なんざこのザックと剣だけだしな」

 

「相変わらず適当ねえ……」

 

「私はあっちでカバンすらなかったよ?」

 

だからポケットの中が大変な事になってたんでしょうが!

 

「俺達の荷物の大体は既に送ってあるし、王都まで歩きっぱなしというわけでもないからな」

 

「船って事?」

 

「らしいよ。大きな船は初めて乗るからちょっと緊張するかな」

 

こういう言動は年相応なんだよね、タオも。

他の土地に行くより先に異世界やら精霊の世界に行った人ってなかなかいないんじゃない?

 

「他所の土地で周りにご迷惑をかけるんじゃないぞ? ここと違って、お前達が何かをやらかすと分かっている人はもういないんだ。巣立つというのはそういう事だからな」

 

「ライザがいないならそんな事そうそう起こんねえよ」

 

「そうだよね」

 

「間違いない。アガーテもコイツの首にカウベル(ヤギの鐘)でも付けておけ」

 

「あ・ん・た・ら・ねえ……」

 

「ライザ……そういうところだよ? そのうには置いて、ね?」

 

「一昨日も言ったでしょう? 自分を客観視出来ないとライザは「性別:ライザ」のままだよ」

 

この場にあたしの味方はいないらしい……。

 

 

 

あたしたちの舟はレントが、ルベルトさんたちの舟はアガーテ姉さんが船頭をして並走だ。

 

「アルの旅立ちの時とは……また違った感じだね」

 

「そうだね。僕の場合は兄さんと時期がずれたのもあるし、方向も真逆だったから」

 

「それって……あっちの国を救った後のお話ですか?」

 

そういえば聞いた事なかったね。

 

「うん。16の時だね。お世話になった人に挨拶して……元々敵だった人がボディーガードになってくれてシンに渡ったなあ」

 

「ザンパノさんとジェルソさんだっけ。あの2人は元に戻ったの?」

 

「ううん。でも2人とも一般の人より遥かに強いから、リンに取り立ててもらって治安維持に奮闘しているところだったよ」

 

敵だった人が味方ってすごい状況だね。そもそもアルさんに敵の人がいるってのがもう……。

アルさんも16歳で旅に――あれ?

 

「アルさんがあの鎧の体だったのってどのタイミングなんですか?」

 

「僕が10歳から14歳までだよ。その旅の終わりは――僕が元の身体に戻った時さ」

 

「――じゃあ、アルさんとエドさんの旅って」

 

「そう。僕と兄さんの身体を取り戻す旅だったんだ」

 

エドワード・エルリックさん。

本当の鋼の錬金術師……義手(機械鎧)――ああ、手足を失ったのはお兄さんだったんだ。

手足と全身を取り戻す旅。10歳で過酷すぎるとは思ってたけど――そうせざるを得なかった。

()()()から感じられた強い意志はそういう事だったんだ。

 

という事はアルさんたちは……そっか、生き返らせようとしたんだね。

アルさんの経験の重さと、命への価値観と、錬金術への達観さに少し納得がいったかな。

 

頭の出来が違えば積んできてる経験も違う。おまけに16歳でまた旅に出てる。

加護なんてなくてもこっちに来てたら大活躍してた事に変わりなさそうだ。

 

「どう考えても無謀だと思ったけど……本当に取り戻したんだから大したものだよ」

 

「自慢の兄さんだからね」

 

「貴方もだよ。前にも話したけど、最後まで成功を信じ抜いた心の強さは称賛に値するよ」

 

「よっぽどやべえ状況だったんすか?」

 

「最後は……確か下半身が吹き飛んでいなかったっけ?」

 

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

「言い方! 間違っちゃいないけどさ!」

 

とうとうルベルトさんまでハモってしまった――そこだけ聞いたらびっくりだよね。

それにしても……とうとうアルさんたちの世界がどんなものかわかんなかったね。

あのリゼンブールの景色を見た感じじゃそんな雰囲気は全然なかったのに。

 

在る所にはそういう出来事があったりするんでしょうね。ロミィさんは経験済みっぽいし。

この先そんな出来事に遭わない事を祈って、そんな未来を作らないよう努力しよう。

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ」

 

「時間通りだ……私達も随分と時間を気にするようになったものだ」

 

「時計など有っても無くても一緒だったからな。またすぐズボラな時間感覚に戻るだろう」

 

対岸ではアンペルさんとリラさんが待っててくれた。

そして。

 

「ア゛ル゛く゛ぅ~~~~~~~~~ん゛!!」

 

ロミィさんもいた。一旦島を離れていろいろと仕入れてくるらしい。

ただ……リラさんがどこか疲れた感じだ。

 

「さっきからずっとこんな感じでな……アル、なんとかしてやってくれ」

 

「あ゛の゛し゛ま゛か゛ら゛ま゛と゛も゛な゛お゛と゛こ゛か゛い゛な゛く゛な゛る゛~~~~~~~!!」

 

「ロミィさん……そこまで言う?」

 

「ズズッ……だってさ! 私をちゃんと女扱いしてくれるのはアル君だけだったんだよ!? ロミィさんの心の清涼剤と活力剤が……クーケン島に行く頻度、減らすかな」

 

何気にこの発言はヤバイ……。

 

「おいロミィ、勘弁してくれ。島民に物資が行き届かないのは困る」

 

「たしかに俺らも」

 

「ロミィさんは「ロミィさん」としか見てなかったかも?」

 

「キミ達ガキんちょは良いのだよ! ロミィさんの魅力が伝わるなんて1ミリも思っていないから! 問題は他の野郎どもだよ、もっと丁重に扱えっての! アガーテちゃんもそう思わない!?」

 

「私は島の出身だし、騎士時代には女扱いなど欠片もされなかったからな。そこまで深く考えた事はなかったが……まあアル君が紳士的だったのは事実か」

 

たしかに島の男は外部の人に必要以上に関わろうとしないし、島の中で結婚するか外に出て行って結婚するかだ。島の中で外部の人とってのは比較的珍しいのかも。

 

「ロミィもライザなんか気にせず早いうちにアタックすればよかったものを。大人しく一歩引くんじゃなくってさ」

 

「アタック……攻撃?」

 

なんでアルさんはこう――時折ポンコツになるの?

 

「キロちゃんがそれを言う!? やっとライザが落ち着いたと思ったらクラウディアちゃんが出て来て、お店を開いたと思ったら貴女なんだよ!? 最初の頃は「興味ない~」みたいな感じだったのにライザ並みに入り浸って! この前はおんぶしてもらって! 終いには2人旅ってどうよ!!」

 

「……な、なんかゴメン」

 

「あたしも今までごめんなさい……」

 

「私もカウントされていたんですか?」

 

「そうだよまったく……えっ待って? ライザからその発言? ――今「まで」?」

 

そうだよロミィさん、あたしもそういう事ですので。

 

アルさんが道具屋を始めて割と早い段階で入り浸ってたもんね。

アルさんのそばは居心地がいい。人としても、面白い物に溢れてるって事でも。

 

ただ……今後はそれだけじゃないよ?

 

アルさんに一番年齢が近いのがロミィさんだ――23だっけ。

そういう意味でもバッチリだったのに、あたしが引っ付いてたからしなかったと。

……もう少しあたしも大人になろう、うん。でも若さは前面に押し出す。こっちは17なのだから。

 

「まあ2年で戻ってくる約束をしているんだからさ、その時にアルを捕まえて誘惑しちゃえばいいよ。アガーテも参戦しない?」

 

「まあ王都に行くのもありなのかな……闘技大会でもあるんですか?」

 

アルさんはもう黙ってましょう? 敵を増やすからあたしは説明しませんからね?

なんなのかな……この「どうあってもそっち方面に足を踏み込まない」思考回路は。

 

「いや私は……ああ、でも裸を見られた責任を取ってもらうというのはアリなのか?」

 

「昔の話でしょ? アル君の場合はその程度じゃ動じないよ、はぁ……。そういえばアル君って本当は何歳なの?」

 

「多分24です」

 

「――え゛、マジ? ドンピシャ……? そっちでもどストライク? 絶対に逃がせないじゃん……」

 

「そうなんだロミィ……弟みたいと思っていたら私より年上だったんだ。年上の男性に裸を……」

 

「その件は本当にすみません……」

 

これはアルさんが戻ってきた時が大変そうだ。

そしてロミィさんの火力が上がった。これだから昨日姉さんにはこっそり伝えたのに……。

 

「そろそろ落ち着いてくれたか? 我々はアル君とキロ嬢を送って来るのでな」

 

「……後で道すがらにでも愚痴聞いてもらえません? リラさん」

 

「私もこっちに戻ってこないぞ? ここで別れだ」

 

「うわあぁぁ~~ん!」

 

わりと仲良かったんだね、この2人。

 

 

 

 

 

 

という事でロミィさんはアガーテ姉さんにお願いして、ルベルトさんと一緒に待っててもらう事になった。ずいぶん時間かかっちゃったね。

ちなみに今回の門までのルートは水没坑道経由……ではなく。

 

「それじゃあ塞ぎますね」

 

「ああ。入り江の遺跡への道が減れば、それだけ門を知る人間も減るからな」

 

「ここは掟とは違いますが……危険な事に違いありません。封鎖でいいでしょう」

 

 

パンッ!

 

バチバチバチッ!

 

 

坑道の入口は封鎖――あたしたちの都合で魔物たちには申し訳ないけどね。

逆側の出口を使ってもらいましょ。

単に塞いだだけじゃなくて自然な感じに偽装……もうただの岩の塊にしか見えない。

 

で、この錬成のついでに坑道の上に続く細い道を作ってもらっている。

帰りにあたしが起点部分を破壊して、それでその道も封鎖だ。

 

入り江に行くまではスイスイと。

遺跡についてからも……うん、魔物がかわいそうだ。もう語るまでもない。

 

あたしはクラウディアと今までの事とか今後のお話をしたりして。

あっという間にオーリムに繋がる門の前に。

 

 

 

 

 

 

――ここまで来た。

 

ついに、来ちゃった。

 

 

 

 

 

 

「ではアル君――頼んでいいかね?」

 

「ええ。範囲が広いので一応錬成陣を描きますね」

 

門の封印には遺跡の修復が必要。それをアルさんが一手に引き受けてくれる。

誰も何もしゃべらない。ただただ静かに……その準備を見つめてる。

 

 

 

そして――これが、この夏最後の錬成だ。

 

 

 

「では……いきます!」

 

 

パンッ!

 

バチバチバチバチバチッ!!

 

 

地面から石材が生えて来て――あっという間に遺跡が神殿みたいな感じになる。

空がよく見えた天井も、キロさんが溶かした床も元通り。

元々あったもので変わらないのは門と浮遊天球くらいだね。

外から見た時から大きかったけど、しっかり荘厳な感じに建て替わった。

 

「……いかがですか?」

 

「ああ、問題なさそうだ。2人が旅立った後は私が責任をもって閉じよう」

 

「よろしくねアンペル。リラも、他の門をお願いするよ」

 

「それが今の私の使命だからな。キロもオーリムをよろしく頼む」

 

「うん」

 

もうこれで――2人を引き留める要素はなくなった。

と、思ったらボオスが前に進み出た。

 

「キロ」

 

「ん? なにかなボオス?」

 

「前にも言ったが……俺はこの先、キロに頼りにされる男に成長してみせる。次に会う時を楽しみにしていてくれ」

 

「傍にこんなのがいるから比較されて大変だよ? 高い目標だろうけど楽しみにさせてもらうね」

 

「目標がしっかりしている方が目指しがいがあるさ。エルリックさん、今までありがとうごz」

 

「おいボオス。なぁにお前だけで言おうとしてんだよ」

 

「そうだよ。ボオスだけ抜け駆けはナシじゃない? ――僕らもなんだからさ」

 

「……それもそうか」

 

「ふふ。みんな一緒に、だよ――ね? ライザ」

 

……うん。

 

「もちろん! さあ並んで並んで!」

 

アルさんとキロさんの前に横一列に整列。

笑顔で! せーのっ!!

 

「「「「「今までありがとうございました!!」」」」」

 

大きな声で、しっかり腰を折って。

10年くらいお世話になりっぱなしだった人と、世界を救う鍵になってくれた人に挨拶を。

 

「うん。僕からも――ありがとう。今僕がここに居られるのは皆のお陰だから」

 

「私も……ありがとう。次に帰って来た時は新しいクーケン島名物を期待しておくよ」

 

相変わらずの微笑みと、ずいぶんと明るくなった表情で――2人からもお礼を貰う。

キロさんからの軽口を聞きながら。

 

門に、進んでいく。

 

 

 

これで……しばらくお別れ。

 

 

 

2人の姿は門の寸前。

 

……さっきボオスがこっぱずかしい事を言ってたわね――パクるわよ!

 

「アルさん!!」

 

叫ぶ。アルさんとキロさんがあたしに振り向く。

 

「次に帰ってくる時までに、あたしもアルさんを支えられる大人の女になってみせますから! 絶対に帰ってきてくださいね!!」

 

大人になるってんならあたしも参加出来るはず! はずも何もないか――参加する!

アルさんはちょっと驚いた風な顔、だけど。

 

「お? 戦争激化が確定だね」

 

「何を言っているんだい? ――ありがとうライザ! 楽しみにしているよ!」

 

いつもの笑顔に戻って。

そう言って2人は門の向こう側に消えた。

 

コレ、絶対意図が伝わってない。自業自得だけどあたしは子どものまんまだった。やれやれ。

 

「失恋以前の問題だったな」

 

「口にすんじゃないわよ!」

 

 

バキャッ!

 

 

「いってえ!?」

 

「今のはレント君が悪いよ」

 

「デリカシーゼロだからね」

 

「ライザの壁も随分と高そうだな……キロを超えるというのは」

 

「高けりゃ超えがいがある、なんでしょ?」

 

アンタにゃ負けない――いや、ボオスが勝った方があたし的には良かったりする?

 

「若いというのはいいな……それでは門を閉じる。離れていてくれ」

 

アンペルさんが門に近づいて、その一端に触れると。

 

 

フッ

 

 

オーリムに繋がっていた黒紫色の穴は一瞬で消えて、遺跡の壁を映した――ずいぶんあっさりだ。

たったこれだけの事にどれだけ苦労したやら。

 

「これで良しだ。アル君のお陰でここが風化する心配も早々ない。完全停止させたから、オーリムの聖地への行き来はほぼ永久に不可能になったと言えるだろう」

 

「お前達にも世話になったな。見つかれば御の字、封印が出来れば最良と思っていた程度だったのに――女王の討伐まで任せる事になった。改めて礼を言おう」

 

アンペルさんとリラさんからも軽く頭を下げられる。

なんとなく違和感だ――だって。

 

「あたしたちも2人に感謝してますよ!」

 

「そうですよ! 俺がやりたい道を見つけられたのは」

 

「島の外にある知識を教えてくれたのは」

 

「今のライザたちの知識や技の師匠はお2人なんですよ? もちろん私もです!」

 

「大変世話になった。貴方達がいなければ俺達は今ここに居ないだろう」

 

オーリムに去った2人だけじゃない。

この2人は、ずっとあたしたちの師匠なんだから。

 

「……感謝されるというのも悪くないものだな」

 

「なにを捻くれた事を言っている。特にライザはお前の根暗な頭と腕を治したも同然なんだぞ? 次に来る際の返礼品でも考えておくんだな」

 

「大層な物が必要になりそうだ……それでは、私達はこのまま西に行く」

 

あたしたちは対岸――東側。

ここでお別れだ。

 

「約束、忘れないでよ?」

 

「ああ。ライザに来られると色々バタバタしそうだからな?」

 

「心配するな。コイツは菓子で釣れるからな。甘い匂いを漂わせておけばいい」

 

実はリラさんもそのエサで釣れるんだよなあ……。

 

 

 

 

 

 

少しやり取りをして……2人も去っていった。

 

残ったのは、年少組の5人。

――ルベルトさんたちを待たせるわけにはいかないよね。

 

「……じゃあ、いこっか」

 

「おう」

 

「うん」

 

「そうだね」

 

「ああ」

 

あたしたちも、門だった場所を後にする。

多分もう――ここに来る事も無いかな。

 

 

 

 

 

 

帰り道はみんな不思議と黙々と歩いた。あっという間だ。

最後にこの道をフラムロッドで爆破して――お片付けも完了。

 

「もう……彼らは旅立ったのかい?」

 

「はい。ちゃんとお別れも済ませてきました」

 

対岸ではルベルトさん、アガーテ姉さん、ロミィさんが待ってくれていた。

呼んでいたらしい馬車も到着してる。

 

 

 

――みんなも、ついに出発だ。

 

 

 

「この辺以外は土地勘ねえし、俺も同行させてもらうとするか……じゃあなライザ。元気でな」

 

レントがあたしから離れてった。

そっちも元気でやんなさいよ? 変なウワサ聞かせんじゃないわよ?

 

「次が何時になるかは分からないが、また行商で此方に来る事もあるだろう。その時はまた宜しくお願いするよ」

 

「ライザ! 私……絶対に約束を守るから! 待っていてね!」

 

ルベルトさんとクラウディアが馬車に乗った。

張り切りすぎちゃわないか心配だ――でも頼もしいかな。

 

「僕は……まずはちゃんと試験に合格してくるよ。手紙も送るからさ」

 

「長期休暇は丁度今くらいの時期だ。タオは見ていてやるから心配するな」

 

タオとボオスも馬車に乗る。

タオはしっかりやんなさい。ボオスは見ていてあげてよ? 3つも年上なんだから。

 

「私達も出るとしますか――またねライザ。それじゃアガーテちゃん」

 

「ああ……私は彼らを次の街まで護衛していくが、ライザはどうする?」

 

 

 

残ったのは――あたしひとり。

でもあたしはみんなが強いって知ってるし、島を守るって決めたから。

 

 

 

「ううん――あたしはここで、みんなを見送るよ」

 

 

 

ここで、一旦お別れだ。

 

 

 

 

 

 

旧市街、エルリック工房。掛かってる札は「CLOSE」。

 

つい先日までここを中心に全てが回っていたのに。

昨日なんて11人もこの部屋にいたっていうのに。

 

今ここにいるのはあたし1人だけ――静かなもんだ。

聞こえるのは柱時計と、腰から下がった銀時計が時間を刻む小さな音だけ。

 

精霊の世界から回収してきたオーガヘッドの隣に膝を抱えて座る。

もちろん、もう動いたりしない。

でも昔から見てきた物だし、ここにも残ってくれる――なんだか安心する。

 

作業場は綺麗に整理されて、調理場も片付いてる。

そしてあたしのアトリエの道具も、調合道具の作業ベルトも、シーカーと一緒に封印だ。

 

コンテナにもキチンと鍵をかけた……これがあたしなりの線引き。

これで、おしまい。

 

 

 

 

 

 

――あたしは、ちゃんと笑っていられたかな?

 

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

こんな事考えるから笑えなくなりそうになるんだ、まったく。

 

笑えていた――そう思おう。床がちょっと濡れてんのは片付けの時になにかこぼしたんでしょ。

 

これが最後の別れじゃないんだから。

どうしてもっていうなら、自分から会いに行けばいい。そう決めたじゃない。

 

 

 

その日まで……あたしはあたしが為すべきと思う事をやろう。

 

 

 

ついに雨季が完全に去り、この島に本格的な乾季が訪れる。

まずは家の仕事を手伝おう――今からは田舎の普通の農家の娘。

 

 

 

どれだけそこにいたか分かんないけど――立ち上がって、工房の入口へ。

 

扉を開けて、ガランガランって音がして。

 

扉を閉めて――カチリと鍵をかける。

あたしの合鍵とクラウディアの合鍵を首に掛け、さらには拠点の鍵の計3つ。

 

向かうのは……赤く染まり始めているラーゼン地区のあたしの家だ。

 

 

 

「……ばいばい、アトリエ」

 

 

 

たったひと夏の事だったけど。

 

 

 

――この冒険を、ずっと忘れない。




最終章、完結です。

今までご覧いただきありがとうございました。
何とかここまで来る事が出来ました。皆様に御礼申し上げます。

ですがこれは二次創作。前日譚があるんですから……。

という事でまた数日いただきまして、あとちょっとだけ続きます。宜しければお付き合いください。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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